超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
零次元の様子は特に変わりなかった。ただ、超次元で起きている事件が少なからず影響を与えているのか、モンスター達は落ち着きがない。
うずめの姿を見たひよこ虫やスライヌ達が不安そうにしていた。怪我もそうだが、それ以上に自分たちの周りの環境の変化を感じ取っているのだろう。
宥めるうずめの隣、海男はヒレを組んで浮かない顔をしていた。
「うずめ」
「なんだ、海男?」
「あまり楽観的に構えてもいられないと思う。ねぷっち達の世界のこともある。いざとなったら、此処を離れるのも選択肢に入れておいた方がいい」
「……でも」
そうなったら、此処にいる大勢のモンスター達はどうするのか。
《それなら、うちで面倒を見るっすよ》
「ホントか!」
《元々プラネテューヌ国境防衛隊として活動してたので、皆が過ごせる場所くらいは用意できるっす。ふれあい牧場みたいな感じで》
「なるほど。それはいい提案だ。もしその時は、私も手を貸すよ」
《……海男さん。手、どれっすか》
万が一に備えて、超次元に繋がるポータル付近にモンスター達を避難させることにした。
なにせこれからうずめがやろうとしていることは次元を巻き込んだ決闘だ。その成否がどうあれ、零次元が無事であるはずがない。
そんな都合のいい話など。
先導していたレオルドが、街の中で不意に立ち止まった。どうかしたのかと、視線の先を追うとそこでは一体のロボットが横たわっている。
プラネテューヌ製のものではなく、リーンボックスの武装企業製の戦闘用ロボットだ。
その現場に落ちていた一挺の突撃銃を見つけてレオルドが拾い上げる。
ブラストの運用する自衛ライフルでも傑作と名高い「ヴォルペ・シリーズ」は、シャニが愛用していた。総合性能を高水準にまとめた癖のない名器は、実力がはっきりと表れる。レオルドも運用したことはあるが……ドベ太郎の戦果ここにありという結果だった。
弾薬を確認。残弾は心もとないが、自身の左腕に保持されているマガジンラックから共通規格の弾丸を装填する。とはいえ、強襲ユニットの懸架ラックはすでに埋まっていた。仕方なく手で持って歩く。
周囲に残る新しい戦闘の痕跡から、どれだけの激闘を繰り広げていたのかが窺えた。
しかしそこにシャニの姿はなく、代わりにダークメガミによって破壊された次元の裂け目がある。そこまで続く何かを引きずった痕と、周囲に散らばるブラストの破片から察するに──。
「レオルド……」
《俺は大丈夫です。先を急ぎましょう》
心次元へ通じるトンネルに向かう途中で、レオルドは猛争モンスターを発見する。数は多くないが、戦闘の騒ぎで他を引き寄せる可能性があった。
「……どうしよっか」
《俺が誘導します。その隙に大ネプさんはうずめさん達と一緒に先に行って下さい、すぐ後を追います》
「おぉ~。フラグみたい」
《勘弁してくださいよ……》
レオルドがヴォルペ突撃銃で猛争モンスターをおびき寄せると、そのままトンネルから離れていく。数匹、また数匹と集まり──結果、大所帯のモンスターに追われる羽目になった。
《ちょっと多くないっすか!?》
牽制射撃を繰り返しながら離れていくレオルドを見送り、周囲の安全を確認するとうずめ達はトンネルに駆け込む。
──遠ざかるレオルドを、傾いたビルの屋上から見下ろす三機の姿があった。
心次元に繋がるトンネルの内部を進むうずめ達だが、海男はヒレを組んで眉を寄せる。
「……おかしいと思わないかい?」
「なにが?」
「順調過ぎる、ということさ。このトンネルを守るように待機していた猛争モンスターにしても、妙に思える。本来はもっと獰猛なはずだ」
「罠ってこと?」
「可能性はあるだろうね」
しかし、此処で引き返して時間をかけてしまえば相手の思うツボだ。
「……行こう」
うずめの重い言葉に、真っ直ぐな足取りに海男もついていく。
大ネプテューヌは後ろ髪を引かれる思いをしながらも、レオルドの言葉を信じて先に進むことにした。
心次元が見えてくる。
決意を固く、踏み出したうずめ達の背後。戦闘音が風にのって聞こえてきた。
レオルドは戦っている。相手はシロトラか、それとも新手か。
どちらにしても今は信じて進むしかない。
──猛争モンスターを引きつけ、確実に数を減らして離れたレオルドは反転攻勢。敵陣のド真ん中をグレートソードで突破する。すれ違う形で交差した後、振り向いてヴォルペ突撃銃で一匹、また一匹と仕留めた。
なにも全滅させるつもりはない。ほどほどに蹴散らしたらアクセルチャージャーで撒くつもりだった。
《よっし、これなら》
片手で数えられるほどに減らした猛争モンスターに、その場から撤退しようとした矢先──正体不明の熱源が凄まじい速度で接近してくるのをレーダーユニットが捕捉した。
このままでは直撃コースだ、咄嗟に隣のビルに身体をぶつける勢いで回避行動を取る。
左右と背後から挟み込む形での奇襲に、猛争モンスターの群れは瞬く間に消滅した。
《な、なんすか今の!?》
等身大の戦闘機が三機。明らかな敵意を含ませて上昇すると、速度を緩めて落下してくる。
それは、可変機構を持つ人型の機体だった。そんなものが存在したとは聞いていない。
倒壊したビルに降り立った三機は、鋭角的なシルエットに細身のフォルムが女性を彷彿とさせる。その左肩には薔薇をあしらったエンブレムを貼りつけていた。
《あら、今のを避けるなんて中々いい反応速度ね》
ブラストランナーではない。機体の拡張性と機能性、整備性から共通規格を多く持つレオルドとは異なり、完全な戦闘型として構成された機体──
《アタシらをゴッドフリートの紅一点、ひと呼んで「黒薔薇三姉妹」と知らねぇとはな!》
《……三人なのに紅一点なんすか?》
《こまっけぇこと気にすんな男だろうが!!! ……あん? 男か? 男だよな?》
《性自認は男ッス。ごめんなさい……それでその三姉妹さんが、俺になにか用ですか?》
勝ち気な二番機はレオルドの態度が気に食わないのか細い脚部で必死にビルを踏みつけている。だが機動力を重視した結果の装甲の薄さからか、軽い音しか聞こえてこない。
《ごめんなさいね、うちの妹が。私はデルタ。こっちがイータ、そっちがガンマよ》
《よろしく~》
《これはどうもご丁寧に。守護女神近衛騎兵団団長のレオルドっす、よろしくお願いします》
会釈するレオルドの態度にますます腹を立てたのかイータ──二番機が右手に持つ双門ライフルを撃つ。弾速が速く、視認性の悪い鋭い弾丸は光学兵器の釘のように割れたアスファルトに突き刺さった。
《だぁっ! 避けんなテメェ!》
《じゃあなんで撃つんすか!?》
《シロトラの仲間じゃねぇのかテメェ!》
《こっちの台詞っすよ!》
《あん?》
《え? 違うんすか?》
物腰柔らかい三番機──ガンマがひらひらと手を振ってから、会釈する。
《う~ん。レオルドさん、所属国家はどちらですか?》
《プラネテューヌっすけど……》
《まぁ。奇遇ですね、わたし達もです~。ですが敵同士ですね》
《その、御三方はシロトラ教官の仲間なんすか?》
《……教官? あの子が?》
一番機、長女らしき立ち位置のデルタが笑う仕草を見せた。
《女神艦隊の中で、一番弱かったあの子が教官だなんておもしろいわね》
《──》
《まぁそれでも。あの子は最後まで生き残ったもの、一番強くなったのも事実みたいね》
シロトラが最弱だったという言葉に衝撃を受けたレオルドは、目の前の三機に対する警戒を強める。それに気づいたのか、デルタは手を振った。
《そして恐らく貴方はこう考えている。私たちが一体何者なのか。どこから現れたのか、と。教えてあげるわ──私達は、シロトラの“記憶”から作り出された存在》
《っていうかなんだ、テメェなんも知らねぇのか。シロトラの教え子だってのに!? どういう教育してんだあの
《……俺が聞きたいことはひとつです。貴方達は、シロトラ教官よりも強いですか》
《どうかしら。──試してみる? 言葉を交わしながらでも、戦えるでしょう。無線の周波数を教えておいてあげるわ》
数の不利に、しかし、レオルドは引かなかった。逃げなかった。
機動力で勝てる見込みはない。そして戦闘力で負けるのならば、この程度で遅れを取るようならばシロトラに勝つなど夢のまた夢の話。
《イータ、ガンマ──ブレイク!》
三機が同時に変形すると、三方に散開した。そして瞬く間にレーダーの範囲外まで飛び去っていく。レオルドは限界までカメラを絞り込み、デルタの遠ざかる方角を見つめた。残る二人が消えた方角から逆算し、その場を離れた。
《……シロトラ教官の記憶から造られた存在、というのはどういう意味なんすか》
《言葉通りよ。理屈がわからないなら教えてあげるわ──私たちはね、女神艦隊。つまり守護女神を護衛する目的で造られた戦闘ロボット》
空気を切り裂く金切り声が近づいてくる。
レーダーに熱源を感知したと思った次の瞬間にはイータが変形しながら双門ライフルを向けていた。その射撃を避けて、ヴォルペ突撃銃を向けると飛び去っていく。
速攻戦を極めた一撃離脱戦法。イータが居なくなったと思えば、背後からガンマがレーザー砲を放ってくる。
《私たちが護衛していた女神様の名前は──オレンジハート。プラネテューヌの守護女神》
レーザー砲を避けたレオルドに直上から急襲したデルタが双門ライフルから大型ビームブレイドを振り下ろす。それを背負ったままのグレートソードで弾いた。
奇襲を凌がれた二人が同時に別方向へ飛び去っていく。
《彼女の持つ特殊なエネルギーの暴走によって生み出される猛争モンスターを討伐するためのチーム、それが女神艦隊ゴットフリートの役割》
《一言で言やぁクソみてぇな仕事だよ! 日に日に女神はモンスターを増やして討伐速度が追いつかなくなったら国民が手のひら返しやがった! ふっざけんじゃねぇ!》
《そんな戦いの中でゴッドフリートも壊滅してしまったんです》
《猛争エネルギーは、私たちの中に静かに蓄積されていった。やがて侵蝕に耐えきれなくなった仲間達は国民に刃を向けるようになってしまった》
反逆者の烙印を押されて彼らは処分されていった。そんな結末、誰も望んでいなかったにも関わらず。
《シロトラはね。そんな私たちの最後の生き残り》
《へっ。生き残りたくて生き残ったんじゃねぇだろうけどよッ!》
イータの砲撃から逃れ、デルタの急襲とガンマの挟撃。いずれも装甲を貫くほどの威力はない。しかし、確実に損傷は蓄積していく。
《わかるでしょ? 彼の中には途方もない猛争エネルギーが蓄積されている》
《そしてシロトラにはアタシ達の記憶がある》
《っ……だけど! それなら教官から猛争エネルギーの波形が確認されるはずっ!》
《それが認識できねぇほど強くなっちまったんだよ、アイツは! こうして私達を作り出せるくらいにシロトラから猛争エネルギーが漏れ出してるってことはよぉ! わかるかレオルド!
──今のアイツは、女神の敵だ! いいや世界の敵だ! このまま生かしておけばいずれ世界を猛争で埋め尽くしちまう! テメェにアイツが止められんのか! えぇ!?》
仲間たちが決死の覚悟で足を止めた結果、与えた損傷は無視できないものなのだろう。シロトラは確実にダメージを負っている。その内部から溢れ出す猛争エネルギーがこれほどの再現性を持つということは──。
シロトラにとって、かつての仲間たちがどれだけ大きかったかの証拠だ。