超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
《猛争エネルギーの浄化システムを搭載している私たちが侵蝕されるのは当然の結末だと諦めていたのよ。当然意見はゴッドフリートの中で別れたわ》
《言っとくがアタシらは女神擁護派だったかんな!》
《シロトラもですよー》
淡々と語りながらも、連携と攻め手を決して緩めることなくレオルドに幾度となく奇襲を仕掛ける黒薔薇三姉妹。その反撃の手口を掴めずにいるのか、防戦一方のまま廃墟に逃げ込んでいた。
《建物に逃げ込んだところで袋のネズミだっつーの! オラァ!!》
三機が同時にレーザー砲を撃ち込む。青白い爆発の中から飛び出してきた影に向けてすかさずイータは双門ライフルを突きつけた。
しかし粉塵から飛び出した影はレオルドではなく、ゴミ袋。腐乱した中身をぶち撒け、それに甲高い悲鳴をあげるイータをヴォルペ突撃銃の弾丸が掠めた。
《キャァアアアアッ!!! 汚ねぇぇええええっ!!! テッメェマジ許さねーからな!》
《──デルタさんの話からすると、つまりシロトラ教官は猛争エネルギーを制御する手段があるってことっすか》
《アタシ無視して姉さんに声掛けてんじゃねぇええっ!!!》
激怒する声とは裏腹に連携に一切の妥協を見せない辺りは流石女神艦隊と言うべきか
《ここからは仮説。あの子はもう、まともじゃないわ。猛争エネルギーは現実を歪める能力。今の私たちはシロトラの記憶から造られている。女神オレンジハート様ですら持て余した力を制御してるのだとしたら、考えられるのはひとつ──猛争エネルギーで自分自身を歪めている》
エネルギーの無効化──破格の性能。女神の脅威となる能力を、どのように手にしたのか。
それは、自分自身を猛争の力によって「最強の存在」と創造したからだ。その夢想に亀裂をいれたのは他でもない守護女神近衛機兵団の総力。
《だから試してあげる。貴方が本当に今のシロトラを相手するのに相応しいかどうかを》
《……わかりました。俺も出し惜しみはしません。十秒ちょっと、本気出します!》
《たぁかが十秒ちょっとでアタシら黒薔薇三姉妹を出し抜くつもりだぁ!? 女だからって甘く見てると風穴ぶち開けるぞテメェ!!!》
《だって──貴方達、速いだけでキモくないんですもん》
乙女(中身は)にとって、キモいと言い放つとは何事か。火にガソリンをぶちまけるがごとき爆弾発言に、しかしガンマだけは《あらまぁ》とわかっていなさそうに答えた。
《レオルドさんは速くてキモいのを相手にしてらしたんですねー》
《ゴキブリみてーな知り合いがいたので。それに比べたら三姉妹さんの機動はとても素直で、なんていうか……綺麗っす》
《うふふ。ありがとうございますー》
物腰柔らかな態度だが、攻撃の苛烈さは増す一方。
レオルドは腹をくくった。
《システム起動──》
ロックを解除する。駆動炉心が抑えていたエネルギーの奔流が全身を駆け巡った。
黒薔薇三姉妹の戦法は変わらず一撃離脱の電撃戦。レーダー範囲外から強襲してくる。しかしレオルドは、今度は逃げなかった。
副兵装ラックから時限式手榴弾を取り出すと、投てきする。それはあらぬ方向へ飛んでいき、ビルの窓ガラスを割った。
再びの急襲に、今度は反応する。
人型に可変したと同時に自分へ向けられる銃口にイータが《んなッ!?》と驚きの声を挙げた。ヴォルペ突撃銃の弾丸が今度こそ直撃する。
自分の背後に向けてレオルドが折りたたみ式グレートソードである「ティアダウナー」を展開すると、地面に突き立てて上昇した。
背後から突貫していたデルタは衝突を回避しようと急転換するが、その背中にヴォルペ突撃銃を浴びて墜落する。
しかし、最後のひとり。ガンマが上空から双門ライフルを向けていた。
《バッ、そこは駄目だ! 離れろガンマ!》
《えっ──》
直後、ガンマの真横から爆風と衝撃波が襲う。レオルドが投てきした火力強化型手榴弾が時限信管式を採用されているのは誤爆を回避するためだ。時間にしておよそ三秒。
元々一撃離脱の速攻型モデルの黒薔薇三姉妹は敵の攻撃を回避することを前提に設計されていた。そのため極限まで装甲を薄く、軽量化が図られている。
ビル壁に全身を強く叩きつけたことで背面ブースターが潰れたガンマが倒れた。
直撃を受けたイータが振り返れば、デルタは再起不能のダメージを受けている。その全身が結晶に覆われたかと思えば、次の瞬間には砕け散っていた。
《──ああ、チクショウ。また姉さんに先を越されちまった》
変形と同時に離脱することも叶わず、レオルドに撃ち抜かれる。
身体を起こしたガンマは壁に背中を預けて自分を睨む銃口を見上げていた。
レオルドの全身から放たれていた緑色のエネルギー粒子の放出が止まる。
《…………レオルドくん》
《はい》
《──がんばってね》
一瞬、銃口が揺れた。その隙を逃さず双門ライフルをかざそうとするガンマを、撃ち抜く。
静寂が訪れた。それからすぐに、目の前で全身が結晶に覆われて砕け散る姿を見届ける。
《……頑張ります。俺に任せてください、黒薔薇の三姉妹さん》
今の自分が。
仲間を撃墜したシロトラと何が違うのだろう。
レオルドは考えた。だが、すぐに思考プログラムを中断した。
答えは自分の中にない。こうなる未来なんて、誰にもわからなかったことなのだから。
心次元へ急ぐレオルドは戦闘音に再び身構える。先に向かわせていたうずめ達が待ち伏せをされていたのかと突撃加速装置を点火させた。
そこで見たのは、新手の機体と火花を散らす大ネプテューヌの姿。しかし、剣呑さはない。それどころか爽やかさすら感じられる。
「あ、レオルドー! やっと来たんだ」
《大ネプさん! 怪我はありませんか?》
「全然! 最強、強靭、無敵に元気なネプテューヌだよ!」
《ならいいんです》
「わたしの渾身のボケをスルーしないで!?」
いい汗を流す大ネプテューヌから視線を逸らし、相手にあらためて向き直った。
黒薔薇三姉妹とは異なる系統の機体のようだ。テンガロンハットを指で押し上げる仕草は様になっている。
《ジェントルマンのご登場か。オレは──そうだな。“軍曹”とでも名乗らせてもらおうか》
《その軍曹さんは、どうしてここで足止めを?》
《いい質問だ。答えは「立入禁止」だからさ》
パチン、と指を鳴らしながら軍曹はレオルドを指さした。
《次はこっちからの質問だ。黒薔薇三姉妹はどうした》
《倒しました》
《~♪ やるじゃないか。こちらのレディから聞いていたレオルドってのは、お前だな。アイツらだって決して弱いわけじゃなかったんだが、ジェネレーションギャップってやつか》
やれやれ、と大きな肩をすくめて首を振る。そこには仲間のかたきを討つ様子など微塵も感じられなかった。
《おっ、と勘違いするなよ? 弔い合戦なんてガラじゃない。なんせ一度は女神のために戦って散ったんだ。オレ達はそれでお役御免、務めを全うした》
「それなら今は?」
《今は……そうだな。“夢の続き”ってところか》
「誰の夢なの? って、わたし聞いてばっかだね」
《HAHAHA! 気にするな。誰の夢、か……そんなのは決まっている、シロトラさ。アイツは諦めきれなかったんだろう。レディと面白い話をしていたところだ》
異なる次元のプラネテューヌ出身の三人が集まっていることに、軍曹は笑った。
《これもまた女神様の思し召しってことでサンキューゴッデス!》
《シロトラ教官はどこにいるんですか》
《アイツならこの先の心次元に向かっていった》
《それは、いつのことですか?》
《つい数時間前さ》
シロトラは心次元にいる──。その事実に足を踏み出そうとするレオルドの足元に弾丸が撃ち込まれた。見れば軍曹の両手には短機関銃が握られている。前腕部と一体化したトンファーを回しながら。
《言ったはずだ。「立入禁止」だってな》
《軍曹さん。“もうひとりのうずめ”さんの存在を知っていますか?》
《もちろんさ》
《あの人は──》
《危険だ、と? わかってるさ、そんなこと。だが、どんな姿になっても。何をしようとも。自分が信じた女神に疑問を抱くなんてナンセンスだろう?》
それが例え、暴走した能力でプラネテューヌを滅ぼしたとしても。
《それで、いいんですか?》
《それを彼女が望むなら、だ。それじゃあ教えてくれ──女神様はどうして自分でプラネテューヌを滅ぼした?》
軍曹は懐かしむようにテンガロンハットを目深に直す。レオルドは何も言えなかった。
《オレは覚えてる。彼女が国民のためにどんなに尽力していたのか。そんな優しい彼女が自分の意思で。自分の手でプラネテューヌを滅ぼすとは考えられないんだ。おっと既に終わったことだ、滅ぼしたって訂正しておこう》
《……通してはくれないんですね?》
《男なら、未来くらいこじあけて通りな》
「わたしは女だけど、どうしたらいいのかな?」
しばし考える。
《レディを傷つける真似はしたくない、できれば手を引いてくれないか》
「それは出来ない相談だよ」
《やれやれ。仕方ない。不本意だがまとめてかかってきな!
女神艦隊ゴッドフリート、突撃部隊隊長“ハッター”軍曹がお相手しようじゃないか!》