超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――エヌラスとネプギアが入浴する少し前。
ネプテューヌが思い出したように取り出したのはアーウィルから譲り受けた黄金の蜂蜜酒。受け取ったはいいものの、濃度の高い小瓶は全部エヌラスが持って行ってしまった。揺らして見れば、透き通るような黄金色の液体が中で跳ねる。それがただの輝きだけではなく魔術的な発光も見せていることにネプテューヌはノワールに渡した。
「そういえばコレ、飲んでも大丈夫なのかしら……」
「んー、大丈夫なんじゃない? 栄養ドリンクみたいなものだろうし」
「でもぉ~、あたしも気になってたんだぁ。どんな味なのかな~って」
「じゃあ飲んでみよっか。鬼のいぬ間に何とやらって言うし」
その鬼がエヌラスであるとは敢えて言うまい。
「じゃあ一口だけ……」
「そう言わずにさー、グイッといこうよノワール! 元気一発ぐらいの勢いで!」
「そんな無謀な真似――」
「ぐび~」
「プルルート!?」
何の躊躇もなく開けた中身を飲み干すプルルートだが、すぐに空になってしまった。サイズにしておよそ100mlに及ばない少量ながら、その効果はすぐに表れる。
「わ~……コレすごいよぉ~? なんかもう色々見えちゃって~」
常用者ではない限り、低濃度の市販用でも酷似した効能は得られる。プルルートの頭は今までにないほど冴えており、その目に映る景色もまた霊的物質すら捉えられるほど鮮明に変わっていた。脳がクリアになって眠気も吹っ飛ぶ、がしかし。それは副作用として効果が切れると一時的な倦怠感と脱力感に襲われるというリスクも背負う。
“視界を切り替える”という事すら今のプルルートには容易なことだったし、意識すれば透視も出来た。
「……コレ、持って帰れないかなぁ~」
「駄目よ。一応合法ってことにはなってるけども、本来は違法ドラッグなんだから」
「違うよぉ~? 最重要特級魔術的違法薬物だってエヌラス言ってたよ~?」
「ぶほっ――!?」
飲みかけていたノワールがむせている。だが、それでも残りを飲もうとして――。
「でもこれ、オシッコみたいな色してるよね」
「ゴフッ、ゲホッゲホッ! ゲッホゲホゲホ!?」
「まぁいいや、いただきまーす! グイッと!」
「ネプテューヌわざと!? 絶対わざとでしょ!」
「んー、飲みくちとしてはスッキリ爽やかなんだけどちょっと物足りないかな……」
「話聞いてないでしょ……」
とはいえ、それでもなんとか飲み干した。二人もその効果には驚いていたが、それも一時間と待たずにすぐに切れてしまう。軽い倦怠感と脱力感に襲われてグッタリとソファーに身体を沈めていると、スピカが「失礼します」と一言断ってから入ってきた。その手には黄金の蜂蜜酒を服用後の効果を鎮める軽い栄養剤を持っている。
「ありがとー、スピカ」
「礼には及びません。従者たるもの、客人のケアも怠るわけにもいきませんからね」
「ゼリー飲料……?」
「はい。精神活力剤として常備しております。特に黄金の蜂蜜酒を服用した後の倦怠感、脱力感は霊的物質によって半ば無理矢理活性化された魂の縮退効果によるものですから」
「じゃあ、実際は身体に何の不調もないってこと?」
「はい。ですが、その効果に取り憑かれて常用している人ですと副作用も効果が大きくなり」
「人じゃなくなってしまう――」
「その通りでございます。ああ、ご安心を。こちらはミードと違って完全に合法化されているものですから、ユノスダスでも輸入と販売の許可が出ている、といえば信頼していただけますか?」
あのユウコが認めた精神活力剤、と言うのなら疑う余地はない。受け取り、三人がそれを飲んでいると湯上がりのエヌラスとネプギアが戻ってきた。
「あ、エヌラス。いないと思ったら何処行ってたのさー!」
「風呂だよ。魔術回路の調整するのに。ていうかお前ら何飲んでんだ……」
「精神活力剤、てーの? スピカから貰ったんだけど」
「ああ、それか。俺にも一つくれるか? 全身だるい」
「もちろん、特別製の物をご用意してあります。こちらですわ」
「ふむ。呪術薬物の類は?」
「ニグラスの粉薬を少々。それとショゴスの体液を適量。加えて野生のハナアルキが調合した供物からエキスを多少ながら」
「分けてもらったのか?」
「まさかそのような。勿論、ええ“奪って”きましたわ」
「パーフェクトだ、スピカ」
「感謝の極み」
スポーツドリンクのように一気に喉に流し込み、エヌラスは空の容器をスピカに渡す。
ネプギアは黄金の蜂蜜酒を見て、顔を赤らめていた。それは決して湯船に浸かってきたという理由だけではない。然しながら、二人が風呂に入っていたという事実は火を見るより明らかである。
「ネプギアー」
「な、なにかな? お姉ちゃん」
「お風呂、どうだった?」
「そ、それはもう凄かったよ」
「うんうんそっかー。昨日私達、寝室に備え付けのシャワーで済ませちゃったもんねー」
「つ、疲れてたから……」
「…………ネプギア」
「な、なぁに。お姉ちゃん?」
「エヌラスと、お風呂、どうだった?」
「えと…………」
「ああ、まさかネプギアが私に隠し事だなんて……」
「え、えっとあの……そのぉ……」
横目で盗み見たエヌラスが顔を背けて冷や汗ダラッダラ流しながらネプギアの次の一言を待っていた。
“こ、ここは悪く言っちゃダメだよね……”
「えっと、それは、もちろん」
「うんうん、もろちん?」
「……凄かった、かな……」
「エ~ヌ~ラ~ス~? まだお仕置きされ足りなかったかなぁ?」
「もうむしろお腹いっぱいで満足でございましたぁぁぁぁ!!」
「あ、逃げた」
「――あたしから逃げられると思ってんのかしら!?」
「あ、変身した……」
変身したプルルート=アイリスハートとエヌラスの逃走劇は、深夜まで続いた。その後どのようなお仕置きが繰り広げられたかは、翌朝のエヌラスが死んだ顔をしながら黄金の蜂蜜酒と活力剤をかっ食らっていたということから相当酷いものであるとネプテューヌ達は想像に易かった。
予定通り、アヅール洞窟へと向かっている道中で九龍アマルガムの珍騒動は今日も止むことを知らない。交通事故など日常茶飯事、強盗ひったくり恐喝の三拍子まとめて警察のお世話になっている。
「機動隊とか、自治体とか何してんのかしら」
「書類に追われてるか、刑務所の手配で忙しいんだろ」
くたびれたスーツに、くわえタバコのタクシー運転手にエヌラスが手を挙げると、それはすぐに止まった。
「よ、
「なんだお前さんか、美少女連れて観光か? 感心しないね」
「アヅール洞窟まで宝探しでね」
「またあんな辺鄙な所に、物好きだねアンタも」
銀のウルフカット、野性的な鈍い輝きを見せる金の瞳はどこか神秘性すら感じさせる。何より身体から放たれているオーラが年齢の衰えを感じさせないどころか、生気に満ちていた。タクシーの運転手にあるまじき態度で「ふん」と鼻を鳴らすと、助手席に投げていた新聞紙をエヌラスに渡す。それに目を通すと、『九龍アマルガム自治体自慢の二輪駆動装甲兵器奪取される。犯人は不明』と見出しが大きく載っていた。
「……なぁ、これの型番は?」
「下に載ってる。『X-AT 聖騎士』だそうだ」
「冗談じゃねぇ……“悪魔憑き”専門対策の機体じゃねぇか……」
「それでウチにもお声が掛かったってわけさ。まったく冗談じゃねぇぜ……」
「アサイラムに救援は?」
「声掛けるわけにはいかねぇだろ、あんなトンデモ集団。向こうは向こうの領分、俺達は俺達の領分で仕事するだけだ。そうでもなけりゃ混沌としたこの街で仕事なんてやってらんねぇよ、んじゃあな。事故に気をつけて」
「そっくりそのまま返す。またな」
ネプテューヌ達も新聞に目を通すと、参考画像を見て首を傾げている。
二輪の装甲車、とでも言えばいいだろうか。そんな画像が掲載されており、その周囲に二脚のロボットが集まっている。
「これ、どっち?」
「両方だよ」
「言われてみれば、似通ってるっていうか共通点ありますね……」
「だから、二輪駆動の装甲兵器。他にもいくらかあるんだが、量産型のソイツかー。手間取るだろうなー足つけるのに」
ゴミ箱に突き刺した新聞紙をホームレスと思わしき男性がすぐさま拾い上げて目を通しながら持ち去っていく。置き去りにされた新聞紙がこうして持ち主を転々と変えるのは珍しくもない。
ちょうど話をしていると、まったく同タイプの車両が通過していった。エンブレムに“絆”と書かれていたような気がするが多分見間違いだろう。
「……今の?」
「ああ、今の車両だ。まぁ街のゴタゴタは無視して行くぞ」
「破壊ロボが出たら~?」
「消し飛ばす」
即答だった。
――街のトラブルには巻き込まれそうになりながらも無視して、アヅール洞窟に到着したものの、その洞窟から流れ出てくる瘴気と悪臭と周辺に転がる白骨死体や採掘道具を見て早速第六感が危険信号を発している。引きつった笑みで固まるノワール達をよそに、エヌラスが白骨死体を足で転がしながら死因を探っていた。
「骨は綺麗に残ってる。衣類も……ボロ雑巾なのは、こりゃ相当経ってるな。とはいえそれ以外の損傷は無し、と……」
「ど、どうなの?」
「うむ。察するに――魔導生命体に全身の体液吸い取られて死んだってとこだろうな。骨はともかくとして他の部分は湧いた虫にでも食われたかなんかだ」
「アナタさらっと言っているけどそれって結構残酷な死に方だからね!? 私そんな死に方絶対嫌だからね!?」
「アホ言うな、死なせるわけねぇだろ。ほれいくぞー」
洞窟の中に一歩踏み入れば、まさに魔窟と呼ぶに相応しい雰囲気で迎えてくれる。
結晶に、屍体に、魔導生命体の昆虫達。踏み慣らされた道を歩きながら、足元を照らしてくれる魔術結晶の灯りを目印に進む。
人間の頭ほどのクワガタを捕まえてネプテューヌが振り回していた。
「見て見てエヌラスー、デッカクないこれ!」
「それ、ヒトクイクワガタなんだけどな」
「じゃーねーばいばーい! 元気に暮らしてねー!」
「投げたらかわいそうだよ、お姉ちゃん」
投げ飛ばされたヒトクイクワガタは結晶にぶつかると何事もなかったかのように緩慢な動きで地面を這いながら同族と縄張り争いで顎のハサミを振り上げて、キシャー、と震えている。そして始まる凄惨な生存競争の顛末から目を背けてネプテューヌ達は先に進む。