超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
陰鬱とした雰囲気に鬱蒼とした空気。湿気が肌に張り付いて不快感しかない。エヌラスは勝手知ったる自分の庭のように時折足を止めては突然道を逸れたり、かと思えば立ち止まって考えたりしていた。
「……お前ら」
「なに?」
「なによ」
「なんですか?」
「どうかした~?」
「くっつき過ぎて歩きにくい」
ピッタリとエヌラスにくっつく四人。右腕はプルルート、左腕はノワール、コートの裾をネプギアが掴み、ネプテューヌは首にしがみついていた。何の筋トレメニューだと思いながら引き剥がして首を慣らす。
「んもー、ここまで歩いてきたんだからもうちょっと先までいいじゃーん!」
「折れるわ! アホか! 何かあったらどうすんだよ、咄嗟に動けないだろ」
「その時は守ってくれるんでしょ?」
「だからそうするために少し離れろって言ってんだよ」
「ふーん」
「……なんだよニコニコ笑いやがって」
「フフン」
ドヤァ、と言わんばかりに見せる左手薬指のシェアリング。エヌラスがそれを見て思い出したように手を伸ばすとネプテューヌは小柄な身体を生かして簡単に避けた。
「テメ、この……! 返せソレ! 作るのスゲェ苦労したんだからな!」
「やーだよー! 旅の駄賃だと思って“諦めたら”!」
「――ゼッテェ取り返す!」
「え、ウソ!? 本気でやる気!? あーれー!」
「……はたから聞いてたらただのノロケよね」
「いいなぁ~、ねぷちゃん……ねー、エヌラスー。あたしも欲しい~」
「ちょっと待ってろプルルート! 今こいつしばくから!」
「ひゃあぁぁ~!? お尻ペンペンはやだー!」
「ガキかテメェは! いいから返しやがれ!」
暴れるネプテューヌを捕まえてシェアリングを取り返そうとしたが、手を強く握って身体を丸められては取り戻せない。それにエヌラスが一寸、考えこみ――無防備な脇を見た。
何を思ったかネプテューヌの上着、パーカーの下に手を潜り込ませる。
「ひゃン! エヌラス、どこ触っ」
「脇」
「ひゃ、アッハハハハハハ! ダメ、そこダメ! 私弱いから、脇弱いからぁアッハハハハ! アヒ、ダメ、エヌラスやめ、てぇ……! アハハハハッ! ごめん悪かった! 私が悪かったから」
「反省してるのはいいが、ちゃんと返さないと止めないからなー。ほーれ」
「アハハハ、ダ、ダメ、笑い死ぬ……返すから、ちゃんと返す、からぁ……はぁー……アハハハハッハッハ! なんかイケない気分になっちゃうからこれ以上はダメェー!」
「大人しく返せばいいものを」
笑いすぎて呼吸を乱すネプテューヌの手からシェアリングを取り返し、右手の薬指にはめ直す。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
衣服も乱れ、胸を上下させて頬を赤らめて横たわるネプテューヌの白い太ももにノワールとエヌラスが顔を背けた。
「うぅ、もうー、イジワルするとやり返しちゃうんだからね!」
「はん、やってみやがれ」
「なにをー! そこまで言うと今からでも――やり返してやろうかしら!?」
「なんでそんな気軽に変身しちゃうんだよ!?」
「こっちの方がアナタに仕返ししやすいもの。さぁ、覚悟はいい?」
ジリジリと詰め寄るネプテューヌ=パープルハートだが、足を滑らせて転ぶ。それにノワールがすぐに手を貸して立たせると、今度はノワールが転びそうになる。
「なにこれ……?」
「も、もしや……これはエロを題材としたRPGとかで定番、お約束の! 服だけを溶かす都合の良い液体!?」
「いや、服以外を溶かす溶解液だ。水で洗っとけよ」
バシャバシャバシャバシャ! ――二人は即座に手と足を丁寧に洗って溶解液を落とした。若干涙目になっている。その後、ぴったりとまたエヌラスにしがみつく。
「しかし、どっから流れてんだ? こんなん使うモンスターこの辺に生息してたっけな」
「ヒトクイクワガタとかいますもんね……」
「さっき馬鹿でかいカミキリムシもいたわよね。なんかやけに甲鉄っぽい」
「そうだよねぇ~」
「襲われなくてよかったぜまったく……アレ相手すんの面倒なんだ」
魔導結晶からにじみ出る天然の溶媒に加え、瘴気とその他なんかもうよくわからない超常現象が混ざり合って出来上がる服以外を溶かす溶解液の運搬方法はタオルで浸して持って帰るという方法らしいがどうでもいい。エヌラスは先を急ぐと、道が二手に別れていた。どちらを選ぶのか悩んでいると、ネプテューヌ=パープルハートが右側を選ぶ。
「迷路は右手法則。ダンジョンはしらみ潰しよ! さ、行きましょ」
「まぁいいけどよ……」
「立ち入り禁止って看板なかった?」
「何言ってんだ。入り口近くの茂みで朽ち果ててたぞ」
荒れた道はまだ整備されていなかったのか、足元を照らしていた魔導結晶の存在もなくなっていた。エヌラスはそれに、短く詠唱を唱えると偃月刀を召喚。剣全体を炎に包んで松明代わりにする。前方に浮かべてコンパス代わりにしながら更に奥へと進む。
「ねぇ、エヌラス。アナタ結構ズンズン進んじゃってるけれど、道分かるの?」
「……昔、修行の一環で一ヶ月くらい閉じ込められた。一日三回は死ぬかと思ったな」
「ホント良く生きてたわね……」
まず、洞窟全体に漂う瘴気に対する耐性。その次に生息するモンスター達の活動範囲と生態系、食料の確保。それからはひたすらに第六感だけが頼りだった。
「エヌラスさん、ちゃんと修行してたんですね……それも国王候補生で」
「いや、俺の師匠の面白半分冗談半分で殺されかけた」
「えぇ!?」
「エヌラスって案外ちゃんとした修行積んでたんだ」
「そうでもなけりゃここまで魔術使いこなせねぇよ。どんだけ術式組んでると思ってんだ」
ふと、偃月刀の炎が揺らめいてエヌラスが足を止める。甲鉄の擦れる音に警戒心が一気に高まった。鎧武者が歩み寄ってくる――。
「な、なにコイツら……」
「知るか」
「知るかって! アナタの庭みたいなものでしょ?」
「いや、そうなんだが……何年前だと思ってる。俺がいない間に環境変化してておかしくねぇんだよ! 来るぞ!」
太刀を引き抜き、中段に構える鎧武者の攻撃を偃月刀で受け止めてエヌラスは蹴り返した。そこにノワールとネプテューヌがすかさず追撃で首と胴体を切り払う。ガラガラと無数の破片となって崩れた鎧武者の中身は空洞だった。
「中身がカラッポ? エヌラス、これって……」
「
だが、更に奥から何体もの鎧武者達が押し寄せてくる。緩慢な動きながらもその物量は通路を埋め尽くしており、進路を塞がれていた。エヌラスの感覚がその最奥部に潜む馴染みある感触を捉える。どうやら地獄で鍛えげられた第六感に間違いはなかったようだ。
「この奥に間違いないみたいだな。さっさと突破するぞ」
「ええそうね。行くわよ!」
「アクセス!」
変身して一気に蹴散らしていくネプテューヌ達に続いてエヌラスは駆け出す。顔に掛かる感触を拭い、天井を見上げると――銀糸が幾つも編まれていた。
「?」
眉を寄せた直後、目の前でネプテューヌ=パープルハート達が蜘蛛の糸に絡め取られてあられもない姿を晒す。突然動きが止まり、エヌラスはノワール=ブラックハートの臀部に顔を思い切りぶつけた。ハリのある弾力にぶつかり、ちょっと気持ちいいとか思いながら尻もちを着く。
「いたっ、ちょっと何すんのよ!」
「こっちのセリフだ!」
背後から迫る鎧武者を再び蹴り飛ばし、ノワール達を捕らえた蜘蛛の糸を焼き切ると更に奥から溢れ出てくる邪悪な気配にエヌラスは変神した。左手に回転式拳銃を召喚すると、手の甲に凍てつく風を纏う翼竜の紋章が浮かび上がる。
「イタカ、神銃形態!」
それは“螺旋砲塔”神銃形態の片割れとでも言うべきか、杖とも砲とも区別の付かない形をしていた。極冷温の波動が進路上の鎧武者達を一気に凍りつかせて粉砕していく。
蜘蛛の糸から抜けだしたネプテューヌ=パープルハートが再び前進しようとした矢先に、横道で一人の少女を見つけた。
黒い髪に、白いワンピース姿の少女――それを見て、激しい頭痛に襲われる。
「こんなところに、少女?」
「あん? 寝ぼけたこと――」
「本当よ! あそこに」
「……ネプテューヌ。お前……“あれ”が少女に見えてるのか?」
顔をしかめるエヌラスやノワール達の目に映るのは、醜悪な蠢く肉塊――エヌラスは自動式拳銃を呼び出すと通路ごと焼き払った。
「俺が修行に使った頃より、環境汚染が酷いらしい。近いうちにでも封鎖しとかねぇと……大丈夫か、ネプテューヌ」
「ええ……でも、一体なんだったのかしら」
「幻覚を見せて人間に取り憑く悪魔みてぇな生物だよ。先を急ぐぞ、退路が塞がれつつある」
エヌラスの言う通り、先に進むしか道はなくなっている。だが、徐々に増えつつある蜘蛛の糸にネプテューヌ=パープルハート達が鬱陶しそうにしていると、今度は蜘蛛の巣に掴まった。瞬く間に身動きを封じられて、エヌラスが助けようとして――悪寒が走る。
白銀の女王蟻。それも人間大サイズのそれが蜂のように突進してきてエヌラスが吹き飛ばされた。すかさず着地して、反撃する。しかし、銃弾は見えない壁に阻まれて地面に落ちた。エヌラスはその空間に走る波紋に見覚えがあった。
「――コイツ、まさか」
ネプテューヌ達が見ている前で、白銀の女王蟻が無数の破片となって崩れ落ちたかと思った瞬間、それは白い鎧武者となって再構築される。無手で構える姿に偃月刀を向けて、もう一匹の気配を辿った。
「――やっぱりテメェらか。忘れもしねぇぞ修行時代。散々人のこと追いかけ回してくれたっけなぁ」
甲鉄鋼殻虫と呼ばれる魔導生命体が二匹。エヌラスの前に立つ白銀の鎧武者。そして、もう一匹。ネプテューヌ達を捕らえた深紅の蜘蛛は巣に掛かった獲物を見て、何もしなかった。ただジッと待っている。
「俺の能力持ってんのは、そっちの赤い方か! だったらテメェに用はねぇんだよ女王蟻! 鋳潰して、仏像にしてやる!」