超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――甲鉄鋼殻虫。名の如く、甲鉄の肌を持つ昆虫である。その生態は凶暴にして凶悪ながら、天然の甲鉄を持つことから鉄鋼業者にとって貴重な資源とされていた。だが捕獲の際には文字通り命懸け。“喰う”か“喰われる”かの生存競争に投じることとなる。
『いいかエヌラス。所詮は虫だ、その生態は多種多様。だが確かに文明の利器の一つ。ともすれば――この通りだ』
『いや、掌に作ったブラックホールに消えた奴がいる時点で常識の範疇外』
『何言ってんだ。要は“ぶっ壊せる”って事が大事なんだぞ?』
『俺の理解の外で話すのやめてくれねぇかな師匠……』
その頂点に立つ甲鉄鋼殻虫――白銀と深紅の昆虫がいるとは聞いていたが、まさかこんな形で死合う形になるとは思わなかった。二本角を持つ漆黒の大甲虫も存在したらしいが、大魔導師はそれを鋳潰して野太刀と日本刀として新たに鍛え上げ、それは今、エヌラスの手元に残っている。
偃月刀と白銀の手刀が甲高い金属音を奏で、その感覚に舌打ちした。甲鉄表面にビッシリと並ぶ術式は大魔導師の重力結界に及ぶ。術式が脈動して掴み取れず、解除するには力づくということになる。
自動式拳銃と回転式拳銃の二挺を召喚して乱射すると、表面装甲を流れるように軌道を逸らされて一気に距離を詰めてくる。重力を無視した動きにエヌラスはゾッとした。
“確か、師匠の話じゃ重力結界を平然と凌いだってことだが……なんつう天然危険物だよ”
偃月刀を投げ放つと、人差し指と中指で挟み込んで受け止められる。それをまじまじと観察すると、溶けた飴のように“グニャリ”と折り曲げられて捨てられた。エヌラスの頬が引きつった笑みを浮かべる。
「俺の師匠みてぇなことしやがって……」
――もっとも、大魔導師は触れてすらいない状態でアルミ缶のように潰してゴミ箱に捨てたが。
捕まっていたパープルハート達がどうにか抜け出そうともがけばもがくほど蜘蛛の糸は絡み、身動きが封じられていく。
「んっ……! もう、これ、どうにか……!」
腕に力を入れて引き離そうとするが、高い粘着力に再び引き戻される。力でどうにかなるような素材ではないようだ。
「ちょっと危険ですけど……ノワールさん、そこからどうにか身を離せませんか?」
「ハァ、無理に決まってるでしょ!? これで――精一杯よ!」
「ネプギア、貴方どうするつもり?」
徐々に桜色の光が充填されていくM.P.B.Lを見てパープルハートがギョッとする。出力は抑えてあるのか、ブラックハートの肩を掠めるかどうかのラインに綻びが生じた。緩んだ隙に一気呵成に力を加えて引き剥がし、どうにか蜘蛛の巣から脱出する。天井に張り付いてジッと動かない深紅の蜘蛛に向けてパープルハートが斬りかかるとすぐに無数の破片となって散らばり、赤い鎧武者となって四人の前に立ちはだかる。その手には打刀が握られていた。
「へぇ、四人相手にやるつもり? いい度胸、ねッ!」
ノワールが大剣を振り下ろすと、切っ先を横から打ち付けられて躱される。続けざまにパープルハートが剣を振ると、大きく身体を沈めてすり抜けた背中を蹴り飛ばす。
「へぇ、剣の腕は上々みたいね。それじゃ、こういうのはどうかしら」
蛇腹剣で打刀と衝突する直前に鞭へ変形させると、アイリスハートが手元を巧みに操って足元を掬いあげた。だが、その手首から飛ばされた鋼糸で逆に手繰り寄せられて体勢を崩す。それをカバーするようにネプギアが攻撃を防ぐと、返し刃で胸部を逆袈裟に斬り上げる。胸を逸らして避けようとしたのだろうが、切っ先が薄く表面を削り取った。
背後からパープルハートとブラックハートが迫る。
「もらっ――」
た、と言葉は続かなかった。かざした掌に紫電が奔り、二人の身体が受け止められた。そこから弾き飛ばされて壁に激突する。
「……今のは」
「エヌラスの“
周囲に生える鉱石が電流の余波を浴びて綺羅綺羅と輝き、赤い鎧武者が妖しく照らされた。
その顔は、笑っている――装甲の表面がそう見えるからかもしれないが、悪鬼のような笑みを浮かべていた。
「思ったより手こずりそうね……」
「ええ。エヌラスの能力を持っているからには、気を引き締めていくわよ」
剣筋を見切ってから手堅く反撃に移ろうとして背後から接近する鎧武者に妨害される。そちらに気を取られた隙に、ブラックハートが鋼糸に捕まった。
「しまった!?」
「まったくもう――世話が焼けるわね、ノワールちゃんは」
アイリスハートが素早く糸を断ち切り、パープルシスターがビームセイバーで赤い鎧武者の打刀と火花を散らす。だが、すぐに弾き飛ばされた。まるで磁力の壁にでも阻まれたように。
「普通に攻めるだけじゃ突破できそうにないですね……それなら!」
M.P.B.Lを射撃モードに切り替えて連射する。だがしかし、やはりこれも打刀で難なく捌かれてしまった。背負った大きな蜘蛛の腹から熱気が噴射されて赤い鎧武者が突進してくる。狭い通路の中では躱すことも出来ず、パープルシスターがアイリスハートに受け止められた。
「みんなのフォローばかりであたし活躍できないじゃない。ねぇエヌラス?」
そのエヌラスも右、左、右の正拳突きをまともに食らって吹き飛んで鎧武者の群れに叩き戻されている。かと思えば偃月刀を多重召喚して蹴散らし、それを白銀の鎧武者に投げつけた。その全てが徒手空拳で砕かれ、逸らされ、一刀も届くことはなく不発に終わる。
「なんだようっせぇな! 今それどころじゃねぇんだよプルルート!」
「なによ。人がせっかく声をかけてるのにそんなに怒鳴らなくてもいいじゃない。それに聞こえてるわよ、大声出さなくても」
「そりゃ悪かったな! 邪魔だテメェ!」
日本刀を振り上げた鎧武者が鉱石に頭を突っ込まれて破片を撒き散らした。白銀の鎧武者は指を揃えて手招きする。「かかって来い」と言っているらしい。
「こーのー野郎! そこまで言うなら素手で相手してやろうじゃねぇか、ぶっ潰してやる!」
「うわー、三下みたいなセリフ吐いてる……」
「変神前の方がまだ愛嬌あっていいわ」
「それには同意するわね」
「お前ら揃いも揃って酷くねぇか!?」
はて、とエヌラスは目の前の白銀の鎧武者と無手で対峙する。――修行時代の記憶を引っ張り出せば、明かりもなく暗闇の中で突然現れたコレに本気でビビりながら無我夢中で逃げまわった情けない記憶が出てきて顔が熱くなった。その時はどこに逃げこんだか……その場所を思い出そうとした眼と鼻の先に、眼球を狙った手刀が目一杯広がって間一髪のところで躱す。髪の毛が数本切り落とされて、肘を打ち上げて無防備な脇に一撃を叩きこむ。中は空洞だが、その装甲を抜くのは容易いことではない。殴りつけた拳がヒリヒリと痛む。
“……場所が悪いな”
包囲されている上に、狭い通路の中では変身したネプテューヌ達の飛行能力も意味が無い。地の利も状況も完全にこちら側が不利だ。エヌラスはわざと相手のヒザ蹴りを受けて大きく飛び退くと赤い鎧武者を横から蹴り飛ばし、パープルハート達から引き離す。
「場所を変える。ついて来い!」
「どこに行くのよ! 外にでも出るつもり!?」
「こいつら連れて外になんか出れるか!」
鎧武者達の頭を踏み付けて足場にしながらエヌラスは群れを突破する。パープルハート達は飛んで追撃の手を躱し、唯一追ってきたのは白銀と深紅の鎧武者の二体だけだった。
迷路のような洞窟をエヌラスは迷いなく突き進み、やがて行き止まりに当たるとその壁を蹴り壊して奥へと向かう。なんという滅茶苦茶な……そんなパープルハート達の考えを置き去りにして辿り着いたのは広大な鍾乳洞。ドーム状に広がる空間へ飛び降りたエヌラスが周囲を見渡して、修行時代と何一つ変わりない事に安堵するのも束の間、白銀の鎧武者の踵落としを避けた。
「こんな場所があったのね」
「……なに、ここ」
人骨やら屍体やら魔導結晶やら虫やらが朽ち果てている。よく見れば、焚き火の跡や寄せ集められている素材の数々が生活の痕跡を残していた。
修行時代、足を踏み外して偶然見つけた場所である。運良くまだ誰にも発見されていなかったようだ。
「ここなら思う存分やり合えるだろ。仕切り直しだ、かかってきやがれ」
同じように挑発のサインをしてみせると、白銀の鎧武者が構える。完全に標的にされたらしい。パープルハート達を盗み見れば、赤い鎧武者と空中戦を繰り広げていた。
ここならば早々邪魔が入ることもあるまい――白銀の鎧武者と拳を交わしながらエヌラスはその重力障壁とでも言うべきバリアを突破するべく術式を練り始める。