超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
白銀の鎧武者は防御にも攻撃にも重力を使用しているのか、中身が空洞とは思えぬほどの重い一撃でエヌラスの身体を打つ。軽々と吹き飛び、口端から血が垂れる。それを拭いながら構え直し、接近してくる鎧武者の腕を掴むなり背中から地面に叩きつけた。損害なし。
振り上げた足を防ぐと両腕が衝撃で痺れる。
「ったく、どういう装甲してやがんだ……」
毒づきながら血痰を吐き捨て、ブラッドソウルはアクセル・ストライクで踵落としを相殺した。周囲に紫電が弾け飛び、閃光に包まれる。その“返し”の足を振り上げて二連撃――奇しくも相手と同じ行動に再び二人は大きく距離を離した。
跳躍しながら日本刀と撃鉄の付いた鞘を召喚して納刀しながら着地する。
「“
迅雷を放つ、が既にそこに白銀の姿は無かった。先を読まれた――そう気づいた頃には既に遅く、肩に全身を使った重力を纏わせた踵落としが叩きつけられて地面を跳ねる。骨という骨が砕かれたような衝撃だったが、それに既視感を覚えていた。
“こいつの、攻撃は――そう、か……!”
どうして気づかなかったのだろう。大魔導師の重力結界と同じだ。
赤い鎧武者とパープルハート達の戦闘は激化の一途を辿っている。予想以上の剣術にブラックハートが歯噛みした。
「もう! ただの昆虫のくせに生意気な!」
基本に忠実。というよりは勝ち気に早らない落ち着いた剣筋はブシドーのそれに近い。右肩に担いだ打刀を下方に向けて打ち下ろす。重力と加速によって増した一撃はパープルハートの長剣を弾き、そのまま斬り抜けた。
「くっ――!」
「お姉ちゃん、大丈夫!?」
「ええ。とはいっても、そう何度も受けていいような攻撃じゃないわね……みんな、アレに上を取られると厄介よ!」
プロセッサユニットの損傷は決して軽いものではない。受けれたとしても、精々が二発。だが、負けるわけにはいかない。エヌラスの能力を持っているのならば、取り返さなくては。
上昇しようとする赤い鎧武者の前にアイリスハートが立ち、剣を振り下ろす。それは上手く受け流されたが、振り返り様に足に蛇腹剣を絡み付かせて引き寄せると大きく足が止まった。
そこに、横合いからブラックハートが両手で大剣を振り上げて薙ぎ払う。磁力の壁で防がれる――だがその背後。パープルシスターが背中の噴射装置を破壊した。
「これでもう飛行能力は失ったはず……!」
「じゃあ後は、叩きつけるだけね!」
アイリスハートの手に引き寄せられながら墜落していく赤い鎧武者を更にパープルハートが追い打ちと言わんばかりに長剣を担いで全身を使って振り下ろすと、地面に土煙が上がるほど勢い良く叩きつけられる。だが、まだ動けるのかぎこちないながらも立ち上がった。
打刀を右肩に担ぐと紫電が奔る――その構えに既視感を覚え、次の瞬間には直線上のアイリスハートとブラックハートが電流の剣戟によって壁に激突し、墜落していく。その一撃はまさしく、エヌラスの超電磁砲抜刀術・零式“
「ノワール! ぷるるん! 大丈夫!?」
「なん、とかね……!」
「あたし、痛めつける方が好きなのよね……」
寸でのところで回避に成功して直撃は免れたものの、電撃による麻痺状態で身動きが取れなくなっている。なんとか戦線に復帰しようと身体を起こそうとしても腕に力が入らない。二人が回復するまでの間、パープルハートとパープルシスターは赤い鎧武者に休みなく攻撃を加えた。だが、剣の腕は二人とほぼ互角かそれ以上。その剣閃には僅かながら電撃の尾を引いている。
「ネプギア、気をつけて! 下手に受けるとビリビリよ!」
「うん、分かってる! 今は私達で時間を稼がないと……」
ブラッドソウルは白銀の鎧武者と交互に拳を交わし、今度は押し負けた。純粋な技量の差に歯噛みするも、その顔は笑っている。位置取りは完璧だ。立ち回りも、多少ながら犠牲を払うことにはなったが完璧に近い。
白銀の鎧武者が踵落としを放つ――それを待っていた。
両足に紫電を纏わせてアクセル・インパクトを叩きつけ、その場から大きく吹き飛ぶ先にいるのは赤い鎧武者。
“紫電”鬼哭掌をまともに受けて、哀れにも一瞬だけ機能が停止する。その胸部装甲の亀裂に向けて貫手を突き刺し、空洞の腹から紫電を封じ込めた宝玉を抜き取って蹴り飛ばした。
「ハン、最初っから俺はコイツが狙いだったんだ! 返してもらったらもうテメェらに用はねぇんだよ! 覚悟はいいかぁ!?」
「うわぁ……言っていることがまんま悪役だわ」
「うぅ……やっぱりちょっと怖い……」
白銀の鎧武者が赤い鎧武者を受け止め、その隙に両手で宝玉を握り潰す。
パリッ――今までとは毛色の違う紫電が走る。そこには明らかな魔力、呪力が込められている。
「ふむ……良し!」
手応えに納得して、ブラッドソウルが頷く。
「……ん? なんかオマケ付いてきた」
「オマケ?」
「ああ、多分長いことアイツの身体にあったからかもしれん」
言うなり、カマイタチを防いだ白銀の鎧武者の顔に浴びせたのは赤い鎧武者が放っていた鋼糸の束、蜘蛛の糸だった。そのまま力任せに地面に叩きつける。
「便利だなこれ……」
ポツリとブラッドソウルが呟いた。
「やったわねエヌラス。これで怪人、蜘蛛男よ!」
「何一つとしてやってねぇ! お前変身しても中身はそのままなんだな!」
「当たり前でしょ」
「クソが!」
八つ当たり気味に赤い鎧武者と刀を打ち鳴らす。剣の腕は残念ながら相手の方が一枚上手だ――がしかし。生憎と剣の腕を競いたいわけではない。欺瞞の振り下ろし、それに見事に引っかかってくれた。弾かれる日本刀、空いた左手に握られる深紅の
焼け付いた全身が崩れ落ちて、白銀の鎧武者が重力を無視した自在な動きで上空から襲い掛かる――それに、エヌラスは手をかざすだけだった。
五指から広げられるのは蜘蛛の巣。網に掛けられて白銀の鎧武者の全身に電撃が流される。それでも重力バリアは抜けない。一寸、動きを止められればそれで良かった。
“銀鍵守護器官”の“
極限まで高めた紫電を掌に集中させて放つ“紫電”鬼哭掌は、先ほど赤い鎧武者に放ったものとは違う。五指を広げず、拳を握りしめていた。
「“電磁特攻”雪風!」
光速で放つ居合が
その全身から放たれる威圧感が消失して、ブラックハートとアイリスハートが同時に斬りかかった。装甲はそもそも薄かったのか、呆気なく両腕が断ち切られる。
「手間取らせるんじゃ、ないわよォッ!」
胴体が薙がれて白銀の鎧武者は地面に墜落すると無数の破片となって砕け散った。
ようやく一段落して、アイリスハートが感覚を確かめるようにブラッドソウルの頬をつまむ。そのまま引っ張る。
「……なんだよ」
「痛いかしら?」
「いや、あんまり」
「まだちょっと痺れてるのよね……」
「感覚確かめるのに俺の頬を引っ張るのはどうかと思うぞ?」
フン、と鼻を鳴らしてアイリスハートが背を向ける。
「痛がってくれないと面白くないわ」
「んじゃ、さっさと治せよ」
「治せたら苦労しないわよ」
「なんにせよ、今は無理すんな」
わしゃりと髪を撫でてエヌラスが変神を解除した。それにネプテューヌ達も変身を解き、アヅール洞窟を後にする。
その出入口。ようやく外に出て――アルシュベイトが立っていた。それに身構えるノワールだったが、何か様子がおかしい。長刀を地面に突き刺して、柄頭に手を置いたまま動かない。
エヌラスは両腕に組み付いて言い争っていたネプテューヌとプルルートを引き離してアルシュベイトの前に歩み出た。
「……アルシュベイト」
《……エヌラス。すまん》
開口一番、アルシュベイトは謝罪する。
《すまんな……。俺にはもう、時間がないのだ――》
そこで、ふと。背後から迫る甲冑の音にネプテューヌ達が振り返る。そこには仕留めたはずの鎧武者がいた。脇に下げた鞘に打刀を納めようとして――アルシュベイトが動く。
武者上段から叩きつけられる長刀は重力と力任せに打刀を呆気なくへし折り、そのまま左肩から右脇腹へ抜けて装甲を砕いた。返し刃の逆袈裟で、赤い鎧武者は首を跳ね飛ばされて膝から崩れ落ちる。歯牙にも掛けぬ手並みに、その場にいた全員が悪寒に背を震わせた。
《決着をつけよう》
「……」
――いつかはこうなると、分かっていたことだ。
《……アゴウで待っている。来ると信じているぞ、エヌラス》
長刀を背負い、アルシュベイトは振り返ることもなく跳躍ユニットを吹かしてエヌラス達の下から飛び去っていく。
それは、死刑宣告に等しい宣戦布告だった。
鋼の軍神。護国の鬼神。最強の守護神。アルシュベイト――その決闘が、目前に突きつけられる。