超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
半ば――というよりは九割方八つ当たりに等しく、残り一割は掛け値なしでネプテューヌに対する殺意によるものでエヌラスが人型機械を粉砕していく。その横目で三人の動きを見るが、多少ぎこちないところはあったものの、徐々に慣れた体捌きで攻撃を防ぎ、避けながら人型機械を身軽さを武器に翻弄していった。
“中々どうして、見込みあるな”
しかし、あれだけの腕がありながら組み伏せられていた事実に首を傾げながらレイジング・ブルの撃鉄を起こしてまた一体を物言わぬ鉄屑に変える。恐らくは不意を突かれたのだろう。どんな理由にせよ、自分が手を貸すまでもなさそうだ。目の前の敵に意識を集中させる。
ネプギアの持つ武器はビームサーベルと呼べばいいか、刀身が光輝いている。その前には量産機の装甲など紙切れ同然に裂けていく。本人も基本に忠実な、お手本を実演しているようだ。だが如何せん、その所為か相手に動きを読まれて苦戦している。
背負っていた長刀を咄嗟に防いだネプギアが後退り、その背中をエヌラスが支えた。
「あ、ありがとうございます」
「耳塞いでろ」
言うが早いか、バイポッド代わりにネプギアの右肩からエヌラスの左手が伸びる。敵を前にして耳と目を塞ぐのが極めつけの自殺行為なのは分かっているが“それ”を直視すれば戦闘行為に支障をきたすのは明白だ。レイジング・ブルがマズルフラッシュを焚く度に一機、また一機と沈んでいく。そうして弾倉が空になると接近していた一機を倭刀で斬り裂いて邪魔だと言わんばかりに蹴り飛ばす。
スイングアウトして、直後にイジェクターロッドを押し込み空弾倉を吐き捨てる。再装填までの時間が隙だらけだが、元々片腕一つで相手取るには可能な相手だ。
「次から、次へと、鬱陶しい奴らだ」
唯一の遠距離攻撃手段を再装填する間、倭刀を口にくわえて可能な限りの速度で新しい弾丸を押し込んでいく。
ネプテューヌは刀を使い、たまにだが体術も織り交ぜている――とはいえ簡単なキックだが――ようで、接近戦であれば結構な手練だろう。それでいて、マガジンを装填しようとする敵を瞬時に見抜いて懐に潜り込む豪胆な踏み込み。
「その隙、もらったー!」
戦闘技術そのもので言えば、ネプギアよりも上だ。経験の差、とでも言えばいいだろうか。脳天気でお気楽そうな割に、戦闘能力そのものは高い。相手を手玉に取っていた。
ノワールも両刃のショートソードを振るって分厚い装甲を正面から破砕している。だがしかし、その手がどこか不安そうにしていたのは先程の人間を斬った感触を思い出してしまっていた。
「しまっ!?」
向けられる銃口が突然暴発して保持していた両手ごと爆発する。その隙に振り上げた両手剣が頭部を破壊して沈黙させた。それが単なる動作不良ではなく、エヌラスからの援護射撃によるものなのはすぐに分かる。
“素直じゃないんだから、まったく”
ここは一つ、期待に応えるとしよう。ノワールは気合を入れ直して人型機械を沈黙させていった。
人型機械の群れをひと通り撃破し終えると、増援の気配を感じ取ったエヌラスが舌打ちを隠そうともせず毒づく。
「これじゃキリがねぇな。一旦引くぞ」
「なんて物量なのよ」
「それぐらいしか取り柄ねぇんだから言ってやるな」
「結構辛辣ですね!?」
とはいえ、相手の包囲網を脱することが先決だ。一点突破に乗り出したエヌラスにネプテューヌ達が続く。
森の中を走り続け、周辺から機械の駆動音が徐々に減っていくのを感じながらネプギアが胸を撫で下ろす。どうや追跡の手を逃れたようだ。
「ここまで来ればもう大丈夫でしょうか……」
しかし。エヌラスだけがまだ臨戦態勢のまま周囲を警戒している。
「もう、大丈夫なんじゃない? 大丈夫、ネプテューヌ」
「無理ぃ~もう無理ぃ~走れないよ~……」
「アナタね……しっかりしなさいよ、お姉ちゃんでしょ」
「私がどんなにぐぅたらでもネプギアだけは私の味方だもんね!」
「う、うん」
和気あいあいと和やかな雰囲気に包まれつつある三人を銃声一つで黙らせて、エヌラスが上空を見上げた。
「ひぃ! その銃撃つのやめてよ!? 騒がしかったなら普通に言えばいいじゃない!?」
「次からそうする。ちょっと静かにしてくれ」
「……?」
口に指を当てて耳を澄ませる。
――ィィィィ……。
大気の金切り声じみた、引き裂かれるような耳障りな音。まるで鉄の塊を無理やり飛ばしている奇怪な音にネプテューヌ達が眉を寄せる。
「何の音……?」
「ジェット機みたいな……戦闘機のような……」
「チッ」
「いや、その舌打ちをこっち見てやるのやめてくれないかしら……すごく不愉快よ」
「これ以上文句言ってもいいってのか」
どんな罵詈雑言が投げつけられるかわかったものではないのでノワールは妥協して今後舌打ちに関しては不機嫌のサインとして受け取ることにした。
――ィィィイイイイイ――!
爆音が上空を通過する。巨大な翼を広げた鋼鉄の鳥。背部に過剰に取り付けた推進剤の詰め込まれたジェットエンジンが鳥の尾を彷彿とさせる。不意に音が止んだ。
そして、ネプテューヌ達が空を見上げると太陽の光を反射して“何か”が落ちてくるのが見えてくる。それはつい先刻まで戦ってきた人型機械によく似たフォルムの量産機。だが、そのカラーリングだけはメタルグレーに変更されていた。
「おぉ、見るからにボスというかリーダー機って感じ!」
「間違いじゃねぇが、洒落にならねぇんだよネプチューン」
「あれ!? 私の名前さっきちゃんと言えてたのに!?」
「うっせぇぞネプラトゥーン」
「私イカみたいにされた!?」
輪郭が露わになってくると、それがマイナーチェンジされた改修機であることが見て取れる。西洋鎧の甲冑を彷彿とさせる装甲が最低限の急所を守るように配置されていた。着地の衝撃を逃がすように腰部ブーストを吹かしてエヌラス達の前で止まる。
《見つけたぞ、エヌラス!》
「バルド・ギア!」
人型機械――その軍用制式モデル。拡張性能を極限まで突き詰め、固定概念による武装積載量を無限に等しく搭載した特化型も特化型。演算処理性能も重視した肩部のレドーム、瞬間的な武装の転送速度はエヌラスが武器を呼び出す前にフル装備が完成していた。
背面に背負うコンテナミサイル二挺。ライフル二挺、脚部ミサイル二基。明らかな砲撃スタイル。追加装甲でむき出しのフレーム部分を補填して、頭部のセンサーユニットにバイザーを下ろす。
「えっ。えっ、知り合いなんですか?」
《よもや貴様が――よりによって女の手を借りるとはな。ついぞ、なりふり構っていられなくなったか》
その口ぶりが明らかに挑発の色合いを見せている。こめかみに青筋を浮かべてはいるが笑顔で対応しているエヌラスの煽り耐性が決して低いわけではない。彼はクールを装っているが、その実は沸点が低い――言うなれば、中身は単純にキレる若者なのだ。
「うるせぇ。四六時中人のこと集中狙いしやがって。こっちだって疲れてんだよ」
《どうかな。貴様のそのしぶとさはもはや我らにとって周知の事実。いい加減、仕留めさせてもらうぞ!》
「ハッ、こっちの台詞だ! いい加減
中指を立てて挑発に挑発のサインで返答しながら、両者は闘気を漲らせて相対する。
「ポカーン……」
「完っ全に私達、置いてけぼりね……」
「ど、どうしようお姉ちゃん……?」
「とにかく今は、エヌラスに加勢!」
「う、うん。そうだよね!」
とはいえ、加勢するほどの相手なのだろうか。最初のボスはアイテムなどを駆使すれば倒せるのが定石だ。きっと四人がかりなら多少苦戦するかもしれないけれど倒せるに違いない。
そう思っていた時期がネプテューヌ達にもあったが、首を突っ込んで後悔することになる。