超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
エヌラス達はユノスダスへ一度足を向けた。そこではユウコが相変わらず忙しそうにバインダー片手に東西奔走、だがネプテューヌ達の姿を見るなり屋根の上から飛び降りてくる。
「やっほう!」
「やっほー、ユウコ!」
「なんで飛び降りてくるのよ。ていうか歩道走りなさいよ、車とか」
「うーん、私が走った方が早いんだよね。信号機とかに捕まっちゃうとイライラするし。だから私は基本的に徒歩! 屋根から屋根を飛び移るのさ!」
「スカート、大丈夫なんですか?」
「大丈夫。今日は下に短パン穿いてるし」
それを見た男達の大半が壁を殴りつけているとはユウコの知らなくていいユノスダスの一面。なお、一部では天を仰ぐレベルで感謝されていた。サンキューゴッド。
「それで、今日はどうしたの? あ、そこのバカは今すぐ働いて未払金返済よろしく」
「言われなくてもそのつもりだっつうの。仕事持ってきてんのか」
「生まれ持った二本の足で走り回れー!」
「ハンティングホラー」
「あんにゃろうバイクで逃げやがった! しかも堂々信号無視してる! こらー!」
怒って見せるユウコだが、その頬が明らかに緩んでいた。咳払いを一つ挟んでネプテューヌ達に向き直る。その浮かない顔に、何か気づいた。
「……なにか、あったの?」
「アルシュベイトに、決闘を挑まれたのよ」
「そっか。んじゃ、アイツからは目を離さないでね。絶対。ユノスダスにいる間は私も目を光らせておくけど、逃げるの上手いから。この際手段は問わないよ」
じゃ、と言うなりエヌラスが走り去った方角に向けてユウコが跳んでいく。残されたネプテューヌ達も旅の支度でもしようかと思って商店街まで来て、自分たちの手持ちの金銭に不安を覚えた。
「うーん……」
「ちょっと、足りないかもしれませんね」
「この先が不安になるわね……」
「そうだよねぇ~……」
そうなれば、取るべき手段は一つ。郷に入りては郷に従え。
「こんにちわー」
「いらっしゃい――おや、ノワールちゃん」
「すいません、マスター。またちょっと、お仕事させていただいてもいいですか?」
「もちろん。うちは年中人手不足だからね。年寄りには厳しいんだ。制服なら前と同じロッカーに入れてあるよ」
「はい、ありがとうございます」
ノワールは以前、短い間だが働いた喫茶店へ。
「こんにちわー」
「いらっしゃいませー。ネプギアちゃんじゃないか。どうしたんだい」
「あの、またバイトさせてもらえないかな、なんて……」
「全然オッケー! じゃあ早速着替えて入ってもらえるかな。実は一人、風邪で休んじゃってて」
「はい! よろしくお願いします!」
「お給料は日払いでいいかな」
「えと、それでお願いします……」
ネプギアもまた、同じように電気屋へ足を運ぶと快く受け入れてもらえた。
ネプテューヌとプルルートが歩いていると、メガネを掛けた青年に声を掛けられる。プルルートが首を傾げている横で、ネプテューヌが「誰だっけ?」みたいな顔をすると青年は目頭を押さえて唸っていた。
「ほら、ボクです。琴霧ソラですよ」
「あー、バルド・ギア! やーゴメンゴメン。ロボットの方が特徴的だから」
「無個性なのはもういいです……」
「でもホント、モブみたいだよね。人間体の時」
「なんで、こう……グサグサと人が気にしてることを……」
「それで何か用かな?」
「えーと、今時間あります?」
「もしかしてぇ、ナンパかな~? だったらぁ、お断りなんだけどぉ~」
「違 い ま す。ボクはステラ一筋なので」
「いいけど、どうしたの」
ネプギアもエヌラスも不在で、ノワールもいないとなるとネプテューヌともう一人。果たして話してしまっていいものなのか……そう思案にふけるソラの横に、スーツを着込んだ中年男性が転がってきた。鼻血を流す男性を容赦なく靴底で踏みつけるのは――。
「ん? ソラじゃねぇか。何してんだ」
「いや、こっちのセリフなんだけど……何してんの」
「未払金の返済の為に悪徳ブローカーとっちめてる。おらさっさと留置所行くぞオッサン。市中引きずり回しの刑にされたくなけりゃおとなしくしやがれ」
コクコクと頷いた中年男性を引き渡し、エヌラスはギルドから渡された書類にチェックを入れて次の書類を捲った。
「それ、全部ここでの仕事?」
「そうだよ。しかも未払に当てられてほぼタダ働き」
「……お茶くらい奢るよ」
「ホント? ヤッター! 私プリン食べたい!」
「あたしも~」
「いや悪いな。三人も」
「なんでこうなるの!?」
近場のカフェテリアに席を取るなり、ソラの財布が悲鳴を上げる。しかも一番遠慮なしに頼んでいるのがネプテューヌというのが尚更だった。
「はぁ……ゲイムギョウ界でも散々な目に遭ったのに、こっちでもコレか……」
「なんかあったの?」
「……ネプテューヌ達の世界か」
「ああ、そうだよ。現地調査に赴いてた。幸いにも移動自体は楽だったよ」
「どうだった。被害状況は」
「順調に拡大中かな。一応手は打っておいたけど」
とはいえ、それが次元の位相を“ズラす”という離れ業であることはネプテューヌ達を驚かせるのに十分なインパクトだったが、エヌラスは涼しい顔でコーヒーを追加で注文している。
「それで、どんな世界だった。向こうのゲイムギョウ界は」
「良い世界だったよ。とても穏やかで、平和な世界だった」
「……災害がなければか」
「ああ、そうだね。そうなる」
「……なぁ、ソラ。一つ頼みがある」
「奇遇だね。ボクもだ」
「ちょっと死んでくれ」
「同じこと考えてるなんて酷い偶然だと思わない?」
完全非戦闘区域で剣呑な会話をする二人の頭にトレイが叩きつけられた。ポペン、とマヌケな音を立てて載せられるコーヒーとチーズケーキ。なんて無礼な店員だ、と睨めばそこにはいつものエプロン姿のユウコが腰に手を当ててふんぞり返っていた。
「ユウコ、何するんだ」
「なにしやがんだ。コーヒー持ってきたならテーブルに置けよ」
「ちょっとは動じたらどうなのキミたち!? え~いこの野郎はブラックで飲もうとしやがって! ミルクと砂糖マシマシにしてやる、だばぁ~!」
「だー、テメェ何しやがる!? 人がせっかくそのまま飲もうと思ってたのに!」
「はーいこちら伝票でーす。受け取れやぁー!」
「ほぐぁ!? なんで、ボクが……」
キョンシーよろしく、顔面に伝票を叩きつけられてソラがダウンする。和気藹々と和やかな空気が広がるが、ネプテューヌの顔はプリンの美味しさでも浮かばなかった。
「……エヌラス。アルシュベイトとの決闘、本当に受けるつもり?」
取っ組み合いを始めたソラとエヌラスの動きが止まる。
「あるふへいととけっほう? ほんひなのひゃい?」
「うるへぇ、分かる言葉でしゃへれ」
「キミたち仲いいのか悪いのか分かんない……」
「ふぅ……――それで、アルシュベイトと決闘。当然、受けて立つんだろう?」
「当たり前だ」
「はーい突然多数決。反対の人、挙手」
ユウコ、ネプテューヌ、プルルートの三人が手を挙げる。
「はい、賛成の人」
手を挙げたのはエヌラスとソラの二人――。
「はい決まり。決闘は無しの方向で」
「ふざけんな」
「多数決だし」
「従う気はないよ、ユウコ」
「此処は私の国なの! 旅行者だろうが浮浪者だろうが郷に入りては郷に従えー!」
「二度と来ねぇから心配すんな」
「二度目はあるのかい?」
「知るか」
「――――……」
それに、三人からの冷ややかな視線が突き刺さる。だが、エヌラスは退く気はないのかコーヒーをかき混ぜて渋い顔で飲み始めた。
「……ボクとしては、エヌラスかアルシュベイト。どちらがリタイアしても美味しい展開だからね。引き止める理由はないよ」
「それを堂々と俺の前で言うか、テメェは」
「陰でコソコソ言わないだけボクの人の良さを理解してくれよ」
「お人好しなのは知ってる。だからステラと「いい人」止まりなんだよ」
「か、彼女とボクの間柄は別に君には関係ない話だろう!? なんでそこでステラが出てくるんだ!?」
「ステラは、お前が死んだら一番悲しむだろ」
「…………それなら、彼女達だって同じだ。キミが死んだら悲しむ」
「だろうな。だからその時は――頼むぜ、ソラ。どうにかしてくれ」
「……ボクは君が嫌いだ、エヌラス。肝心な時はいつもボクを頼る。他を当たればいいのに、どうしてだい?」
「肝心な時に頼れるお人好しがお前だけだからだよ、バルド・ギア」
それでも、納得がいかないのかソラは眉を寄せる。甘ったるくなったコーヒーにエヌラスが「うげぇ……」と呻いていた。
「ボクは君を執拗に狙ったんだぞ」
「だからどうした。それがテメェの作戦だろう? だったら術中にハマった俺が悪い。はい終了」
「だけど――」
「弁解の余地なし! チーズケーキ貰ったぁ!」
「あぁ、それボクのだぞ!?」
「うるへぇ、口直しによこせ! 大体テメェの金だ、俺が食っても同じだろ!」
「ホンットウに君は最低だな! 最低野郎だな! もー! 店員さーん、追加いいですかー!」
半分涙目になりながらソラは追加でチーズケーキとコーヒーを注文する。
「エヌラス。冗談言ってる場合じゃないって理解してる?」
「今ぐらい許せよ、ネプテューヌ。どうせ死ぬ目に遭うんだ」
「だから、決闘すんなって言ってんだろうがバカ!」
「決闘罪でとっ捕まえたかったら警察でも呼ぶこったな、ユウコ。犯罪王をとっ捕まえられる警察を、ユノスダスが持ってんなら話は別だがね」
「ッ……最、低! クズ! バカ! アホ! 鬼畜! 変態! ロリコン!」
「ロリコンじゃねぇってんだろうが殴るぞ」
「否定するの、そこだけなんだ……」
「俺は最低でクズでバカでアホで間抜けでトンチンカンで鬼畜で変態だって言いたいのか、ソラ」
「……ん? なんかそこまで罵倒したのがボクみたいにされてないか!?」
「よーし、次のケーキも美味しく頂いてやろう」
「やめろよ! ほんとやめろよそういうの!」
今だけは。そう、今だけは――アルシュベイトと真っ向から対峙する前の、穏やかな時間。これが最後になるかもしれない。そうと分かっているからこそ、エヌラスは本来ならば敵対するべきバルド・ギアと
何を言ってもネプテューヌ達は自分を引き止めるだろう。何を言われてもエヌラスも止まるつもりはなかった。なぜなら、アルシュベイトとの決着は世界の命運より以前に決めていたことだ。
時間がないと、そう言っていた。ならば退く道理はない。ならば、挑む他にない。受けて立つより他に道はないのだ。どんな手段を使われても――どんな結末が待っていようとも。
最強の軍神に、戦禍の破壊神は挑まなければならない。それが
アルシュベイトの双肩にアゴウの明日がかかっているならば。
エヌラスの足を奮わせ、歩ませるのはネプテューヌ達だ。たった四人の女神を護り抜く。それだけの為だ。