超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
散々喫茶店で腹八分目と言わんばかりに飲み食いして、ソラが店員から手渡された伝票の金額に目を丸くしてテーブルに突っ伏す。少なくともその数字は喫茶店という軽食がメインの店で出していい数字ではなかった。店員もコレには苦笑いしている。
それでも全額、キッチリと支払うソラが恨めしくエヌラス達を見ていた。ネプテューヌは口の端についたプリンの食べかすを残して腰に手を当てる。
「ごちになったよー、ソラ! 美味しかった!」
「その前に、お前はプリンついてるぞ。ほれ」
指で掬うとエヌラスの手にネプテューヌがしゃぶりついた。ぬるりとした熱い唾液に包まれて、すぐに離れる。
「ぷはー、ゴメンね」
「……おう」
不覚にも心臓の鼓動が跳ね上がった。プルルートからの視線が痛い。
「むー……」
それを見て、何故かユウコは自分の豊満なバストを持ち上げて唸っていた。
「ねぇエヌラス。私、もう少し身長小さいほうが良かった?」
「そのままで頼む」
「よし」
ガッツポーズ。その肩を、ポンポンと叩いたのはプルルートだった。
「大丈夫だよぉ~ゆうちゃん。エヌラスはぁ、おっきくてもちいさくても大好きだからぁ~」
「そ、そうなんだぁ、へぇ~! あ、でもそういえば……あぁいや待て待て何思い出そうとしてんだ私。無し、今のナシ! 絶対なし! 何でもなし!」
「何赤くなってんだユウコ」
「何でもないなっしー!」
「どこぞのマスコットかテメェは」
喫茶店を後にしてからもソラは付いてきた。ネプテューヌとプルルートに拘束されて連れ回される姿はまるで親戚の子供に振り回されるお兄さんのようで、どこか微笑ましくもソラは笑っていない。
「……ユウコ」
「なに?」
「インタースカイから送られるデータに、こっちの崩壊状況があったんだ」
「そうなんだ……それで?」
「……アルシュベイトだけじゃなくて、残り時間が少ないのはボクも同じさ。ステラから教えてもらえなかったら多分、向こうのゲイムギョウ界に置き去りだったろうね」
「そっか――どれぐらいなの」
「今の調子で行くなら、七日持つかどうか」
既にインタースカイは崩壊に巻き込まれつつある。メインサーバー、バルド・ギアの武装データは全てバックアップとしてユノスダスのサーバーに移動中だ。一部の機能が制限されて、今は全力の半分も実力が出せない状態にある。それがユノスダスにいる理由だった。
機械の身体であっても尚、少女一人救うことすら叶わない。ソラは目頭を押さえる。
「……ステラは、インタースカイから離れられない。分かっていることなんだけれどね……それでも、やっぱり辛いな」
「……彼女の側にいてあげないの?」
「そうしたいけれど、ステラに怒られてね」
「滅ぶのはアゴウとインタースカイ、かぁ……一気に傾くだろうなぁ……」
「ああ。だろうね……シェアの優位性が仇となったのは、まぁしょうがないかな」
そうなると、残るのはドラグレイス。ムルフェスト。クロックサイコの三人。エヌラスは九龍アマルガムが滅んだところでネプテューヌ達がいる。
キンジ塔の決戦に臨めるのは、この四人。ユウコもソラも、それは理解した。
「それで? どうするつもり?」
「ボクはアルシュベイトとエヌラスの決闘を止めるつもりはないからね。むしろ、ユウコ達が足を引っ張っているくらいだ」
それに口を閉ざし、押し黙るユウコにソラは続ける。
「彼が無茶でも無理でも何でも、止めるべきじゃないと思うよ。そうすればそうするだけ、エヌラスは君達のことを遠ざけるから」
「じゃあ、どうしろって? 黙って見送れって言うの?」
「それが正解かな」
ソラは足を止めて、ユウコに手を振った。
「どこ行くつもり?」
「ちょっと探し物。それじゃ」
そう言って曲がり角に消えて、首を傾げる。探し物?
「何してんだ、ユウコ。置いてくぞ」
「え?」
「あのな、「え?」じゃねぇよ。お前がそこで突っ立ってるからこっちが待ちくたびれてんだ」
「そうだよー、ユウコ! ほら早く!」
「ゆうちゃんも一緒じゃないと~、エヌラスが嫌だってぇ~」
「そうまで言ってねぇ!」
「も、もー……しょうがないにゃあ……」
ユウコは雑念を振り払って、エヌラスに駆け寄った。滅びに向かう世界の中で、この祈りを聞き届けてくれるのは神様じゃない。
“――お願い”
祈りの空に、ユウコは切に願った。
“……必ず帰ってきて、エヌラス”
きっと、今回みたいに奇跡の連続は起きないから。
「よっしゃー、そこまで言うならユノスダス国王お墨付きの娯楽施設巡りだ! 今夜は寝かさないぞ!」
「おお、何かユウコが燃えてる!」
「ふっふーん。私はなんかもう、こう、吹っ切れた! ここで遊び倒してエヌラスを疲労困憊にして明日の朝は筋肉痛で苦しめてやるのだぁーフハハハ!」
「じゃあ~、夜はあたし達の出番だねぇ~、ねぷちゃん」
「ぷるるんとタッグマッチ。これはエヌラスも鼻血モノだね!」
「今すぐハンティングホラーで逃げるぞテメェら……」
「はい、逃がさない!」
ガッチリとネプテューヌを押しのけてユウコがエヌラスと腕を組む。その細腕のどこにこんな腕力が隠れているのか、折れそうなほどしっかりと抱きしめられた。
「ていうか、お前仕事いいのかよ?」
「息抜きも大事」
「うん、うん! これも仕事だよね!」
「息抜きもぉ、お仕事だよぉ~」
「お前らが言っても説得力皆無」
「よーっし、それならまずユノスダス第一の試練。行ってみよー!」
「試練!? っていうかユウコちょっと待て、腕! 腕いてぇ! 頼むからちょっと力緩めろ!」
「ダメ! 逃げるから!」
「逃げねぇよ!」
それからたっぷり十二時間連続で遊び倒されることになるとはエヌラスもネプテューヌもプルルートも予想していなかった――。
以前と同じ宿に五人で集まり、ユウコはそれを見届けてから両手に持ったお土産が入った紙袋を軽々と担ぐ。
「んじゃ! そいつのことよろしくね!」
玄関でぶっ倒れるエヌラスを見てノワールとネプギアが驚いていたが、疲労困憊のネプテューヌとプルルートを見て更に驚く。
「む、無理ィ。もう歩けない……」
「あたしもぉ~……だめぇ~……」
「何があったの?」
「遊んできた、みたいですけれど……お姉ちゃん、大丈夫?」
「ううん、ダメ」
「ダメってはっきり言っちゃう!?」
「指一本動かせないからエヌラス~私をお風呂に連れてって~」
「服着たまま湯船で沈んでろテメェ……!」
エヌラスは男の意地なのかどうにか立ち上がり、フラフラとリビングに入るなりソファーへ倒れこんだ。その背中にネプテューヌとプルルートが座り込む。
「ぐえっ! ぐえぇ……!」
「……ねぇ~エヌラス~? なんでぇあたしの時だけ「ぐえっ!」なのかなぁ~?」
「飛び乗ってきたらそんな声も出るわ……!」
「もぉ~、えいっ。え~いっ!」
「ぐぉあああ……!」
ぐりごりとエヌラスの身体が悲鳴を上げていた。その背中で二人が同時に変身して、一際大きい悲鳴があがる。
「おっぐぉ!? 重――」
『重……? なんですって?』
二人の手に長剣と蛇腹剣が召喚されてエヌラスの身体に当てられた。背筋が凍りつく。
「――重、さが、気持ちいいです……!」
「あら、そう?」
「ロリコンでマゾって、とうとう手が付けられないわね、エヌラス」
「ロリコンじゃねぇってのは死んでも主張するからなぁぁぁ……!」
心底残念そうに言うネプテューヌ=パープルハートに呪詛にも似た抗議の声をあげるが、相手は聞く耳持たずにガッツポーズをしながら、いい笑顔でプルルート=アイリスハートに向き合う。
「じゃあマゾ? マゾなのね! マゾヒストだったのね! やったわね、ぷるるん。これで思う存分イジメることが出来るわよ!」
「ねぷちゃんでも、イジメていいのはあたしだけよぉ?」
「ちょっとくらい」
「そうね……じゃんけんで決めましょうか」
「俺の命運決めるのがジャンケンってのはどうなんだ……」
『じゃんけん、ポン!』
「無 視 か よ!」
『あいこで――』
「続くんかい!」
だが、二人とも中々決着がつかず。
「もう面倒ね。右半分と左半分で分けましょう」
「それなら公平ね」
「なんか恐ろしい会話が成立してないかお前ら……」
言うなり、右手をパープルハート。左手をアイリスハートに捕まえられてエヌラスが引きずられていく。
「じゃあノワール、ネプギア。ちょっとエヌラス借りるわね」
「借りるも何も、ほとんどネプテューヌ達で独占してるじゃない」
「交ざる?」
「交ざらないわよ。私だって疲れてるんだし、お風呂入って寝るわよ」
「ぎあちゃんは?」
「わ、私も今日は遠慮しておきます……」