超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――軍事国家アゴウ。
その城壁はもはや要塞と呼ぶべき威容を放っており、大小様々な火器を搭載している。それらが全て国外ではなく“国内”へ向けられているのは、もはやそこに居住空間が存在していないからだ。彼らの生活出来る空間はこの城壁とも言える砦だけ。アゴウを覆う分厚い城壁の中は格納庫であり生活スペースであり最前線であり、同時に彼らが唯一帰ってくる為の家でもあった。
そして今。
その城門より背を向けて一人、好敵手を待つ国王の姿があった。
《三六部隊、通信途絶!》
《八七分隊、現在交戦中! 残り弾薬僅か!》
《持ちこたえろ! 今補給部隊が向かってる!》
《こちら“
機械の鼓膜を打つ国民達の一騎当千の武勇も、もはやこれまで――。
アゴウは崩壊の兆しを見せていた。然しながら、それでも無尽蔵の絶望は押し寄せる。
《アルシュベイト隊長! 指示を!》
《もはや持ちません! 最前線は――》
《持ち堪えろ》
《――――ですが》
《出来なくば、アゴウの土となるだけだ》
《……了解。白兵戦用意! 弾薬の消費を抑えろ! 救助が来るまで持ち堪えるぞ!》
胸中でただひたすら焦りと葛藤に苛まれて、アルシュベイトは長刀の柄を握りしめていた。
“まだか、エヌラス……まだなのか――”
怒りに震える肩を抑えこみ、勇猛果敢に最前線で絶望を押し留める者達に謝罪する。だがそれは無駄な犠牲ではない。
《アルシュベイト様。戦禍の破壊神は来るでしょうか》
《来るとも》
《……ヌルズと交戦中の国民が既に数百名、消滅しております。いつまで待たれるつもりですか》
《…………》
《貴方の力が我々には必要なのです、アルシュベイト国王》
ランス01――トライデントの長たる男の言葉に、アルシュベイトは逡巡する。
《……夜明けまで待て》
《了解しました》
《それまでにアイツが来なければ、俺は無尽蔵の絶望と共に滅ぼう》
《ご冗談を。貴方は我らアゴウにとって、無限の希望です》
跳躍ユニットを吹かして、ランス01は城壁の上で待っていたランス02とランス03に視線を投げかけた。
《おい、大将。俺達の国王様はなんだって?》
《明朝まで持ち堪えろ、だそうだ。出撃するぞ、トライデント。前線指揮は各自采配に委ねる。右翼はランス03。左翼はランス02。中央は私が最前線で指揮を執る。奴らの波状攻撃は第何波まで確認出来た》
《既に13フェイズを突破。残り17フェイズ。今が折り返しです、隊長》
《ならば、我らで10カウント稼ぐぞ》
《それは命令かい?》
腕を組み、呆れているランス03にトライデント隊長は《ああ》と首を縦に振る。しかし、すぐに否定した。
《……いや、違うな。これは“神命”だ。我らが天に仰ぎ見るべき王の勅命だ。期待に背くわけにはいかん》
《ハッ、そう言われちゃ仕方ねぇ! ランス03了解!》
《ランス02、了解。10カウント、死力で突破させてもらいます》
《行くぞ、トライデント!》
長刀を構え、突撃砲を携えて、指揮を執って最前線へ赴くトライデントがバーニアの尾を引いて出撃する。
眼下の光景では既に出撃準備を済ませていた大隊が行進していた。大型支援砲を発射してヌルズの大群に穴を開けている。
《トライデント部隊!? 親衛隊が救援に来たぞ!》
《こちらランス01、中央の部隊指揮は私が引き受ける! 分隊長、現状を報告せよ!》
《絶望的だ! どいつがどこの部隊か把握している暇がない! 残り十四名だ!》
《ならば再編成の暇を与えてやる!》
ランス01が降下体勢に入り、地表を歩くヌルズの一体に着地した。ミッド型ヌルズが重量で潰され、腰部ブースターを吹かしたランス01によって摩り下ろされていく。敵陣のど真ん中に穴を開けながら単機で突入していくが、やがてキャノン型ヌルズの前で止まるなり突撃砲を横薙ぎに斉射。一発残らず足に風穴を開けてバランスを崩したまま発射された結晶が暴発して自爆していく。宙返りしながらブースターを吹かし、姿勢制御と同時に離脱しつつ長刀をヘヴィ型ヌルズの背中に叩きつける。足が止まった頭を踏み付けて、跳躍と同時にお礼と言わんばかりの弾丸が頭部を破壊していった。
空の弾倉を交換して、バレル下部のグレネードを投射すると、前列と後列で統制が崩れて進軍が一気に遅れる。
《こちらランス01! 所属は!》
《あちこち混ざって分かるか!》
《じゃあ今から貴様らはキメラ部隊だ!
最前列のミニオン型ヌルズが弾幕を浴びて血飛沫の中に倒れていく。赤黒い液体を撒き散らしながら腐臭にも似た死臭を放って後続のヌルズに踏み潰されていった。ランス01の眼前で世界が崩壊していく。その穴に落ちていく大群を無視して後続の者達はひたすらに進軍する。
《ワールド・エンドに巻き込まれるぞ!》
《世界の終わりにロックンロールを響かせろ!》
《いつからダンスホールになっちまったんだ、ここはよォ!》
《音楽は心を奮わせる。鳴り止ませるな! 撃ちまくれ!》
鋼と硝煙の戦場に血の雨が降り注ぐ。撃鉄の音が止まない――。
アルシュベイトは、ただ待っていた。
思い出すのは、人であった頃の記憶……かつて先代アゴウ国王と共に生き、戦い、エヌラスと酒を酌み交わし、バルド・ギアと肩を並べて笑っていた時の記憶。なんと生の華やかなことか。鋼鉄の身体を得た今となっては全て遠き理想郷。だが、新たに辿り着いた境地は最強の孤独だった。此処はとても寂しい所だ。――断じて、否。心がこんなにも奮えている。最強で在り続けるということがアゴウの輝望であるのならば、己は孤独の王座で高らかに叫ぼう。
己こそはアダルトゲイムギョウ界最強の国王、アルシュベイトだと。
《……先代よ。俺が愛した唯一人の王よ。俺は今でも貴様を愛しているぞ。貴様の愛したものを愛している》
それを証明できるのは誰もいない。己を除いては。
《貴様が愛したアゴウを愛し、貴様が愛したアゴウの民を愛しているよ……だがそれはもはや貴様が愛したからではない。貴様がアゴウに愛され、愛していたからこそ俺はお前を愛したのだ》
無名の鬼神として君臨したその時、自分が行った蛮行はアゴウを守ること。守護鬼神として戦った記憶はもはやログに存在していない。だがそれでもハッキリと覚えていることがある。
エヌラスに敗北したということ。
《人の愛の、なんと業の深い事よ。なんて理不尽なのだ、この愛は――世界の全てを秤に懸けてもまだ足らぬ。俺にはアゴウが全てだ。ならば、俺の愛は蹂躙され続けてきた。俺の愛は犯され続けてきたのだ。世界の終わりに、無尽蔵の絶望に》
ならば、救済の道はないのか……否! 断じて否! アルシュベイトは顔を上げた。
《ならば俺は、愛と共に滅びゆこう! 健やかなる時も病める時も、愛し続けると誓ったのだ! その誓約に嘘偽りのないことを証明しよう! 神の慈悲など皆目いらぬ! 俺の愛は、全能の神であっても不可侵領域! エヌラス!》
ヘッドライトで照らされる鬼神の姿を見て、戦禍の破壊神は鋼鉄の魔獣から降りる。その手に倭刀を召喚して、同じように地面に突き立てて剣の礼節を交わした。
既に夜は明け始めている。トライデント部隊が作戦参加より三時間が経過していた。
《俺は、貴様を待っていたぞ! この瞬間を、この時を待ち侘びていた! 過去永劫、幾度と無く繰り返した光景でありながら、俺は貴様に敗北を続けてきたのだ!》
「……アルシュベイト」
《お前は覚えていないだろうが、俺は記憶している。――この世界は、繰り返されている。繁栄と滅亡が繰り返されているのだ。そしてその度にお前は死に、俺は死に、戦い続けてきた。だが、構わん! 俺は一向に構わんのだ! アゴウの王として俺は君臨し、戦禍の破壊神として貴様は君臨する! それに! なんの、不満もない! 俺は運命を受け入れる》
だが――それでも一つ。また今回の
それも失敗に終わったが、しかし。異次元からの来訪者に可能性を見出した。
あの者達ならば、或いは――世界の希望に成り得る存在ではないかと。
《エヌラス。彼女達はどうした》
「置いてきたよ。テメェと俺との決闘には邪魔だからな」
《俺は構わんぞ。絆もお前の力の一つだ》
「流石、最強。言うことがちげぇな……でもな、いいんだよ。いいんだ、これで――もう十分過ぎるほど俺はあいつらに支えてもらって助けてもらったからな」
《……そうか。ならば、決闘の前に教えておこう》
アルシュベイトが胸部装甲を開く。胸のハッチを開けて取り出したのは、光熱を封じ込めた宝玉だった。エヌラスの失った能力のひとつであり、最強にして必殺の魔術。
《お前の力は、俺が預かっている。気付かなかったようだがな》
「気づくわけねぇだろ。使いでもすりゃ一発で気づくが」
《使わんよ。お前の力に頼る理由がない。取り戻したくば、勝ってみせろ。この俺に》
無理を言ってくれる。エヌラスは笑った。アルシュベイトが再び胸部装甲に宝玉をしまい込み、体内に収納する。
夜が明けていく――陽が後光のようにアルシュベイトを照らしていく。アゴウを背負う鬼神の姿は神々しく、何人たりとて触れることの敵わない威容を放っていた。
《日が昇るな》
「ああ。日が昇ると、どうなるんだ?」
《夜が明ける》
「……それで。どうなるんだ」
《人々が希望に照らされる。始めるか、エヌラス》
改めて対峙するだけで絶望的な状況であると認識する。――その只中で、何故かネプテューヌ達の笑う顔が脳裏を掠めてエヌラスは笑った。
《何がおかしい》
「いや、なに――太陽より眩しい笑顔ってのを思い出しちまっただけだ」