超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
夜明けと共に決闘は始まる。いつ終わるとも知れぬ戦いの幕開けから、二人は全力で刃を振り下ろす。金属音と共に弾かれるように距離を離して、エヌラスは構えた。アルシュベイトは駆ける。
丁々発止。今までにないほど氣の張り巡らされた倭刀は長刀の一撃をいとも簡単に受け流していた。だが、それ以上にアルシュベイトの豪剣は気迫が込められている。もはや“鬼迫”と呼ぶべき一撃は大木の幹を横薙ぎに両断した。宙を舞う大木を掴んだ直後、アルシュベイトはそれを叩きつける。
《ぬぅんっ!》
片腕で振り下ろされた大木がまるで枯れ枝の如く、へし折れる。瑞々しい木の張りは見た目以上に頑強さを誇るものの、それすら鋼の鬼神にしてみれば竹刀のようなものだ。
エヌラスは鋼糸を飛ばして引き寄せ、自らの身体を滑らせながら避ける。その姿を目視したアルシュベイトが左肩のラックから突撃砲を展開した。片腕で照星を合わせて撃つ。ブレることなく放たれていく12.7mmの弾丸は仕留め損ねた代わりに木々を削りとっていった。
自動式拳銃と回転式拳銃を召喚するなり連射する。弾丸の隙間を縫う白銀の弾頭を視認して、アルシュベイトはフルオートからセミオートへ変更。あろうことか弾丸を“相殺”させた。だが深紅の弾丸までは防げまい――そう睨んでいたが、真正面から長刀で叩き割られる。背後で爆炎が舞い上がった。
《どうしたエヌラス。よく狙え。俺はここだ》
「狙ったっつうの……」
神性の炎を込めた弾丸と神性の氷を込めた弾丸を物理攻撃で相殺する。そんな話を聞いたら大魔導師でも間の抜けた顔をするだろう。
お返しと言わんばかりに突撃砲の銃身下部に取り付けられているグレネードランチャーから榴弾が放たれるも、エヌラスはそれを倭刀で両断する。背後で爆炎が舞い上がる――それにアルシュベイトは突撃砲を担ぎ直した。
《見事だ。そうでなくてはな》
その言葉には、明らかな歓喜の色を含ませている。この程度で終わってしまっては困るとでも。
二人の決闘は激化の一途を辿る。だが、それでも終始エヌラスの劣勢のまま変わりはなかった。
アゴウ城壁、格納庫ブロックが衝撃で揺れる。整備兵と補給兵達が咄嗟に戦闘態勢へ移行した。もしやヌルズ……? そう思っていたが、開いていたハッチから一人の人間が吹き飛んで資材をメチャクチャに散らかしながら格納庫内を転がっていく。その後から続くアルシュベイトを見た瞬間、格納庫内が沸いた。
《アルシュベイト隊長!》
《ならば、相手は……》
エヌラスが跳ね起きて木箱を蹴り飛ばす。無機質な床を滑り、それを足で受け止めたアルシュベイトは横に跳ね除けた。コートの汚れをはたき落としながら、エヌラスは首を慣らす。
《やかましいわッ!》
沸き立つ格納庫でアルシュベイトが一喝した。それだけで冷水を打たれたようにピシャリと歓声が残響を残して静まり返る。
《この俺への万来の賞賛、痛み入る! だが貴様らが戦いに沸いているその一秒、何人の仲間が待ち詫びていると思っている! 補給作業に戻れ!》
《り、了解!》
《――しかしながら、此処は戦場にすべき場所ではない。場所を変えるぞエヌラス》
その背後。カタパルトが展開していく。隔壁をそのまま倒し、レールの敷かれた基部に足を乗せて何人かの機人達が出撃していった。アルシュベイトはエヌラスの攻撃を凌ぎ、頭を掴んだかと思えばカタパルトに向けて投げつける。
「は?」
《射出!》
「――ああああああぁぁぁぁ!?」
《続くぞ!》
無茶な体勢から上空高くに放り出されたエヌラスを追ってアルシュベイトがカタパルトで射出された。
空中で姿勢を直し、跳躍ユニットである腰部ブースターを吹かしながら迫る鋼の鬼神と切り結ぶ。その眼下では地獄のような光景が繰り広げられていた。
鋼鉄の魔獣を召喚する。そして、即座に黙示録の獣へと変異させた。その背中に着地して戦斧を取り出す。
「どぉりゃああああぁぁぁっ!」
戦斧と長刀が火花を散らして幾度も衝突していく。だが、飛行能力では“黙示録の獣”が上回るのか徐々に高度が落ちていくアルシュベイトにエヌラスは戦斧を叩き付けた。だが、その衝撃の瞬間にブースターの出力をカットしているのを見て舌打ちする。
推進剤の残量を確認して、アルシュベイトは眼下で拳を振り上げるファイター型ヌルズを自重で頭から踏み砕きながら着地した。もはやこれまでと諦めていた軍人が涙と鼻水と血飛沫で顔を歪ませている。
「アル、シュベイト様……!?」
《窮地を救う形となったが、手を差し伸べる暇がない。助かりたくば己の足で走れ!》
「は、はい!」
その男の腕はあらぬ方向に折れ曲がり、足はろくに動かなかったがすぐさま機人の部隊に救助されて城壁へと撤退していく。振り返れば無尽蔵の絶望が遠慮なしに迫り来る。それを見て、アルシュベイトが長刀を振り上げた。
《己の戦場に無頼者はいらぬ。疾くと去ねぇいッ!》
怒りがあった。純粋な敵意しか残っていない。片腕で薙がれた大地が土煙を巻き上げながら衝撃でヌルズの先陣を壊滅させた。返し刃の一刀が続く第二陣を木の葉のように吹き飛ばす。そこに上空から“螺旋砲塔”神銃形態が放たれて、地面を穿つ。そこへエヌラスが着地した。
《いらぬ助けをしてくれる》
「バカ言え。着地する場所に雑魚がいただけだ」
――その気になれば上空から奇襲を仕掛けることも出来たはずだ。
アルシュベイトとエヌラスの決闘は最前線を転々としながら繰り広げられる。ヌルズを巻き込み、アゴウ国民を奮わせ、時には互いに背を向けて闘いながら。二人の決闘は続く。
《アルシュベイト様! 第19フェイズ突破! 最終フェイズです!》
《後にしろ! 貴様らの力で切り抜けられるはずだ!》
《十分に可能です、がしかし――多少の犠牲はご容赦を》
《ならぬ! 俺が引き受ける! 貴様らは下がれ!》
トライデントが下がり、最前線に残されるのは二人の国王。そして、最終フェイズ――これまでの量が斥候にさえ思えるほどの蠢く暗闇が怒涛に押し寄せてくる。地の果てからアゴウの地を蹂躙しながら迫り来る無尽蔵の物量にアルシュベイトは吼えた。
乾坤一擲。両腕で握りしめた豪剣が大気を引き裂きながら振るわれる。一瞬の静寂。そして――突風が吹いた。そこにエヌラスもまた多重召喚した偃月刀を幾重にも投げ放ち、それを基点とした灼熱と極寒の結界でヌルズ達を焼滅させていく。
《……いらぬ邪魔が入ったな》
「なぁに、肩慣らしがいいとこだ」
《仕切り直しだ。ゆくぞ》
「応よ」
そして、二人は再び休む間もなく剣戟を鳴らし始めた。死屍累々の戦場。地獄のような最前線に一時、訪れる静寂の中で国王が鎬を削る。
共に語り合った夜を覚えていた。
共に酌み交わした日を覚えている。
共に誓った。戦友に。好敵手に。
鋼の鬼神。戦禍の破壊神。
共に願ったのは、明日の平和――。
《俺には、いらぬッ! 世界を背負うだけの価値もないッ! 俺はアゴウがあればただそれだけでいいのだ! 世界の滅びも、大いなる“C”への挑戦権もいらぬッ! 今、この瞬間。この時のためだけに、俺はッ!》
アルシュベイトは獅子吼の如く、吠える。
《俺は俺の“愛”の証明の為にこの生命を燃やそう! 魂の叫びに刃を振るおう! 貴様は、どうだぁっ! エヌラスッ! 貴様は、何故だっ! 何のために刃を交わす!》
「俺は――!」
世界をやり直せるのなら――、世界をやり直す為に。……だが、果たして今。本当にその為だと胸を張って言えるだろうか?
《震え、惑い、迷う心の刃が、この俺に届くとでも思っているのかぁぁぁっ!》
長刀を受け流し、その切っ先がヌルズの屍体に埋まる。屍体が振り上げられ、エヌラスの身体を打つ。バランスを崩したそこにアルシュベイトは前蹴りを放った。胸骨が悲鳴をあげて大きく吹っ飛ぶ。
《この世界の為か、エヌラス! 俺が愛するアゴウの在る、アダルトゲイムギョウ界の為か! 貴様が愛した妹か! それともその手で命を奪った恋人か! 恩師か! 大義か! 責務か! そのどれでもないはずだッ!》
「テ、メェに……何が分かる!」
《分からぬとも! だが貴様が己を偽っていることぐらい知っている! この俺を誰だと心得る。アダルトゲイムギョウ界最強の国王にして、貴様の
「――――」
それでも、それでもだ――自分は誰かを愛することが出来ない。守れないかもしれない。奪われるかもしれない。妹のように。恋人のように。一番大事な人が、一番身近な誰かに。
「俺は、テメェみてぇに強くねぇんだよ、アルシュベイトォォオオオッ!」
《ならば! “最弱無敵”の英雄となれ、エヌラスッ! 俺は最強で在り続ける、このアゴウの為に! 無尽蔵の絶望を前に挑み続ける英霊達の為に! お前は、お前の愛するものを守る為に! 俺は最早、人ではない! バルド・ギアも、我が鋼鉄の友も人ではなくなってしまった。だが! お前は違うだろう、エヌラス! “最も弱い人間”で在り続けるお前だからこそ、守れるものがあるだろう。愛せるものがあるだろう。その肉の喜びは、鋼鉄の俺達には得難いものだ! ならば! それ、ならば――!》
アルシュベイトの長刀がエヌラスの倭刀を叩き、身体を吹き飛ばす。転がり、受け身を取る。だが眼前には既に距離を詰めた鋼鉄の膝が頬っ面を蹴り飛ばしていた。腰部ブースターを巧みに噴射して空中で反転、回し蹴りがエヌラスの身体を打つ。
《俺は“戦い続ける歓び”を謳歌しよう! それは貴様ら人間では成し得ない領分だ! 機械の身体である、俺達の歓びだ! 鋼の血潮に魂の熱量を込めて、俺は無限に戦い続けよう! この無尽蔵の絶望に抗い続ける無限の輝望であり続けよう! 俺の愛するアゴウの為に! 俺の愛の為に! エヌラス、貴様の愛は何処に在る!》
――大地を転がり、泥に塗れ、乾いた風が鉄の臭いを胸糞悪くなるほどかき上げる。屍体に抱えられて、血に濡れて、それでもまだ手に入れた心の剣は折れていない。
倭刀を再錬成してエヌラスは構える。むせる度に胃の奥からせり上がる嫌な感触に、喉がつっかえていた。吐き捨てれば、それは赤い血潮。痛くて、辛くて、立つのをやめてしまえばいいとさえ思う。それなのに――。
“……なんで、だろうなぁ”
それなのに身体はこんなにも奮えている。心は沸き立っている。
“こんな戦場に彼女達を立たせたくない”と、叫んでいる。
「俺は諦めねぇぞ……アルシュベイト。テメェに勝つまで何度でも立ち上がって、何度でもへし折れて、何度でも足掻いてやる」
《……だろうな。お前は、そういう男だ。だが、それが“何のため”か認めぬお前に、勝機はないぞ》
「“勝つ”んだよ、俺は。――折るぜ、最強。覚悟しやがれ」
《やってみろ。俺はそれが楽しみで仕方ない》
戦鬼が二人、刃を鳴らす。火花を散らす。