※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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episode93 女も待ってるだけじゃ始まらない

 

 

 

「……ん、んぅ」

 いつの間にか眠ってしまっていた――そう気づいたネプテューヌがベッドから跳ね起きる。いるはずの人がいない。そこにあったはずの人の温もりがいなくなっていた。

 

「ぷるるん、起きて!」

「ん~……? もうちょっとだけぇ、寝かせてぇ~……」

「起きてってば! エヌラスがいないんだよ!?」

 寝ぼけていたとは思えない速度で跳ね起きてプルルートが部屋を見渡す。

 

「きっと一人でアゴウに行ったんだよ! 早く追いかけないと」

「でもぉ、その前にぃ~……」

 ぐぅ。腹の音が鳴る。

 

「朝ごはん。食べよぉ~?」

「も~、そんな暇ないのにー!」

 ぐぅ~……。一際大きな腹の音にネプテューヌが顔を赤くした。

 

「……お腹は空くよね」

「そうだよぉ~」

 

 リビングからは既に空腹に厳しい美味しそうな朝食の香りが漂っている。ノワールとネプギアが用意していたのだと思っていたが、意外にもそこにいたのはユウコだった。いつものエプロン姿に三角巾を付けて、台所狭しと並べた食材を刻んでいる。

 

「や、おはよう!」

「おはよう、ユウコ……なにしてるの?」

「朝ごはん作ってるんだけど? ねぷちゃんもぷるちゃんも座って待ってて」

 既にノワールとネプギアは前菜と言わんばかりのサラダに手を付けていた。

 

「もう、ノワール! なんでエヌラス止めてくれなかったの!?」

「それを言ったらアナタ達だってそうでしょ!」

「だって気づいたら私達寝ちゃってだんだもん! 寝ちゃったっていうか気絶してたに近いけど……」

「私はてっきり説得されたのかと思ってたけど……」

「そんなはずないでしょ! モグモグ」

「お姉ちゃん。食べるか喋るかにした方がいいと思うんだけど」

「モグモグモグ、ハフッ、ハムッ、モグモグッ!」

「ごめん、何言ってるか全然分からない……」

 カカカカカッ――!

 痴話喧嘩のやかましいテーブルの上に無数に突き刺さる――爪楊枝。いつの間にかユウコの指の間に挟まれていたそれは、あくまで、ごく一般的な調理道具の一つ。ニッコリと笑う顔はいつもと変わらないように思えるが、不思議なことにそれが恐ろしかった。

 

「食べるか喋るか静かに黙って飯喰うかにしてねぇー?」

「……もぐ」

 ネプテューヌがサラダを頬張りながら頷く。

 

 出来上がるのは御膳料理の如くテーブル狭しと並べられた料理の山。作った本人は作るだけ作って満足した笑みを浮かべて額の汗を三角巾で拭う。

 

「いやー、作った作った。冷蔵庫が空っぽだぜ!」

「だぜ! じゃなくて! 作り過ぎじゃないの?」

「うっさい。食え」

「あ、うん……美味しいのが腹立つわ……」

「なにこれ美味ひい! いくらでもいけそう!」

 止まらない箸が次々と小皿の漬物や味噌汁を空にしていく。量もさることながら、空にされた食器を手早く回収して洗い始めるユウコの手際は家政婦を雇うまでもない手早さだった。

 そして、朝食を終えて綺麗に拭かれたテーブルの上で満足そうにネプテューヌ達がくつろぐのも束の間、すぐに身体を起こす。

 

「ってそうだ! ゆっくりしてる場合じゃない! 早くエヌラス追っかけないと!」

「食後のデザートいかがっすかー」

「もー、食べてる暇ないのにー! あんなに食べてお腹に入らないってば!」

「プリン」

「食べりゅうううう!」

「手のひら返し早すぎない?」

 差し出されるプリンに飛びつくネプテューヌを見て、ノワールが呆れていた。

 

「それで? ユウコ、アナタがわざわざ私達に朝食作ってくれたのは理由があるんでしょ? ただのお節介ってわけでもなさそうだし」

「うん、そりゃあね。みんなにお願いがあって」

「言っておくけど。エヌラスを助けに行くな、とかならお断りよ」

「ううん。その逆だよ。あのバカ、何が何でも連れ戻してきて。この際死んでてもいいから」

 縁起でもないことを平然と言ってのけるユウコに腰を浮かせそうになったが、それが冗談ではない状態であるということも事実だ。

 エヌラスがユノスダスを後にして、既に六時間余りが経過している。

 

「決闘の邪魔をするな、とは言わないから。せめて連れて帰ってきてくれないかな。ユノスダス国王としてじゃなくて、一個人のお願い」

「……そんなの、言われなくても連れてくるよ」

「そうだよぉ~。エヌラスにはキッッッッツイお仕置き、してあげなくちゃねぇ~……」

 

 ――生きて帰ってこれるだろうか、エヌラス。そんな思いがその場に居た全員が抱える。プルルートの笑いがいつにも増して怖い。

 

「ま、まぁお仕置きはともかく……よろしくね。あ、宿の掃除とかバイト先への連絡とかは私がやっておくよ」

「ごめんね、ユウコ。私達、迷惑ばかりで」

「いいっていいって。気にしないで。それじゃ、行ってらっしゃい」

 ユウコに見送られて、ネプテューヌ達はアゴウを目指す。

 

 

 

 ――巨大な怪鳥と、一人の機人が鎬を削っていた。魔力を纏った突風とカマイタチを変則的な機動で回避して放たれる銃弾が四枚羽の怪鳥を傷つける。だが、傷口に魔術紋様が浮かび上がるとすぐさま治癒されていった。回復能力が上回るのであれば、それを越えた速度で損傷させればいい。

 機人は光速を超えた速度で怪鳥の羽を穿ち、胴を撃ち抜き、頭を叩き潰し。首を刎ねた。鮮血を撒きながらその体躯が徐々に矮小化していくと、それは一匹の鴉となって地面に落ちる。

 着地したバルド・ギアが展開した装甲を閉じて宝玉を手にした。その中では無機質な銀に輝く鴉の羽が舞い上げられている。エヌラスの失った飛行能力を入手した野生動物でさえ神格者の一人、バルド・ギアの手を煩わせる程の変異を遂げた。これを他の神格者が手にしたと考えると――。

 

《……急がないとな》

 各部の損傷をチェックする。全体的な損傷は軽微、戦闘に支障はない。飛行ユニットを展開したバルド・ギアに通信が入った。それはステラから。

 

《どうかしたのかい? ……そうか、彼女達が》

 それは、Nギアにインストールしたサーバーデータを逆探知した報告。ネプテューヌ達がアゴウを目指しているという。

 どうするの? ――そう聞きたげに怪訝な表情を見せる少女に、バルド・ギアは手にした宝玉を見つめる。

 今、ユノスダスから離れた北方の山々に来ていた。ここから飛行ユニットの推力を全開にしても追いつけるかどうか。記憶が正しければ、もう一つはアルシュベイトが保有している。

 頭上を見上げれば怪鳥の群れ。テリトリーを荒らされてけたたましい鳴き声をあげていた。

 Nギアにインタースカイのサーバーを登録した時からステラが逐一報告してくれていたが、その後の足取りからすれば恐らくは失った能力を集めているのだろう。

 世界の崩壊が早まっていた。今までにない決着の遅れを急かすように。

 

《すまない、エヌラス。少しだけ借りるぞ、君の力!》

 バルド・ギアが飛翔する。その背部に背負った飛行ユニットが生物的な変貌を遂げていった。

 爆音を置き去りにして怪鳥の群れを突破して、アゴウを一直線に目指す。

 

 

 

 変身して上空を飛んでいたネプテューヌ達がアゴウと思わしき要塞を視認した。その全容はまるで隔離施設のようだ。国内から誰一人として逃さないように、国外から誰一人侵入を許さない鋼鉄の牢獄。その右の防壁だけが真新しくなっていた。だが補修作業自体はまだ終わっていないのか、黄色と黒のツートンカラーで彩られた軍事工事用フォートクラブがクランチワイヤーを引っ掛けて壁面を歩きながら作業を続けている。

 

「かわいい……」

 ポツリとネプギア=パープルシスターが呟いた。

 

「ネプギア。言っておくけれど、絶対にプラネテューヌでは造らないからね」

「あ、はい……」

 言われて、ガックリと項垂れる。

 アゴウの奥。国内に巨大な穴が開いていた。まるで上空から隕石でも落ちてきたようなクレーター、その中心部だけが大きく削れている。よくよく見ると、その周囲で動く影があった。

 

「……もしかして、あれ全部……」

「ヌルズだって言うの……」

 その物量たるや尋常ではない、相手にしようなどと正気の沙汰ではない。

 軍事国家アゴウは、無尽蔵の絶望に食い荒らされていた。それを押し留めるための要塞城壁が彼らの全て。帰るべき家も、住む場所も、全てその分厚い城壁一枚で賄っている。

 世界の崩壊が進んでいるのか、国土のあらゆる場所で虫食い穴が開いていた。そこには暗闇だけがある。何もなかった。虚無の果てに何も残らない。押し寄せる絶望と迫り来る滅亡を前にして尚も戦い続ける二人の戦鬼がいた。

 爆炎が舞い上がり、戦風が吹き荒れ、剣戟が打ち鳴らされ、鮮血が、咆哮が、決闘が。血闘が続いていた。世界の終わりを前に、剣舞を続けるバカが二人――楽しそうにしている。

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