超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
パープルハート達がエヌラスの下へ行こうとして、等身大の凶鳥が通過した。反転し、空中で静止している。
「……アナタ、バルド・ギア?」
鋼の凶鳥――そんな言葉が似合う。冷却性能と処理速度に特化した装甲の脆い部分をカバーするように生物的な鋼殻が覆っていた。その左手には宝玉が握られており、それで合点がいった。
飛行ユニットもまた、無機質な羽が幾重にも折り込まれて羽ばたいている。
《なんとか間に合ったか……》
「何のつもり? いまさら邪魔をしに来たの?」
《いいや、これを彼に届けてほしい》
言うなり、バルド・ギアは宝玉の力を手放す。それをパープルシスターが受け取り、バルド・ギアはやんわりと離れた。そして、もう一つ。
「あの、これは……?」
それはNギアの規格に合わせたメモリーカードだった。
《インタースカイで遊んだだろう? その時のゲームのデータが残ってたから、コピーして持ってきた》
「あ、ありがとうございます」
「貴方はどうするの、バルド・ギア」
《……インタースカイはもう、世界の崩壊に巻き込まれて水没しつつある。メインサーバーもマザーコンピューターも全部、海中に沈んでしまった》
「そんな……! それじゃあ、ステラちゃんは……」
バルド・ギアは首を横に振る。
《……彼女は、最後までボクを気にかけてくれた。これからどうするかは、彼女の為ではなく、ボク自身が決めることだ。だから、悔いは残したくない。――決着をつけよう。君達と初めて出会ったあの日の不覚はまだ覚えている》
トントン、と胸部装甲を叩いた。
「結局は、邪魔をしに来たってことでいいのね?」
アイリスハートが蛇腹剣を構えて、パープルハートに手で制された。その代わりに渡されるのは宝玉。
「行って、ぷるるん」
「いいの?」
「ええ。アナタが居なくても私達でケチョンケチョンにしちゃうから、先に行ってエヌラスを引っ叩いておいて」
「そういうことなら遠慮無く叩かせてもらおうかしら」
宝玉を受け取り、アゴウへと先行するアイリスハートをバルド・ギアは追わなかった。もとより用があったのはこの三人。
ネプテューヌ=パープルハート。
ノワール=ブラックハート。
ネプギア=パープルシスター。
あの日。エヌラスを追い詰めたあの日、決着がつけられると思っていた。戦禍の破壊神が誰よりも先に脱落するのだと誰もが信じて止まなかった。アゴウからも追撃部隊が派遣され、目的が同じことから電子保管前線基地を提供していたが、全て無駄に終わって今日を迎えている。
胸の中には奇妙な思いが同居していた。改めて対峙して分かる。
彼女達は女神なのだと。
――勝利の女神だ。
「遠慮無く、初っ端からクライマックスで行くわよ」
《構わないよ。こっちも全武装を使い切るつもりでいかせてもらう》
両腕に召喚される武装は、二挺の突撃銃。その銃身下部を覆うようにビーム・サーベルが閃いた。パープルシスターの武装によく似た形状ではあるが、こちらはより無骨だ。性能を突き詰めた結果として、無個性な形状となって人気は出なかったものの性能はお墨付きである。バルド・ギアはこの銃が一番手に馴染んでいた。
そして、空でも決闘が始まった。
宝玉を手にしてアイリスハートはアゴウの要塞城壁に飛行する。その姿を視認したトライデントが弾薬の補充と推進剤の補給及び追加武装を装着し終えると城壁上に昇降機から現れた。一斉に銃器を構えて警告する。
《
「うるっさいわね。こっちは急いでるのよ! 邪魔をするって言うなら貴方達から痛い目に遭わせるわよ!」
《我らの王が決闘の最中、何人足りとも――》
――馬鹿者がァッ!!
それは、アルシュベイトの咆哮だった。怒号一つで迎撃体制のアゴウ国民が竦み上がり、反射的に直立不動の姿勢を取る。城壁の奥、最前線の決闘場でエヌラスが長刀を防ぎきれずに吹き飛ばされていく。そこに腰部ブースターを吹かして飛び蹴りで追撃すると城壁に叩きつけられた。
《貴様らの銃は誰に向けるものだ! 無尽蔵の絶望に、ヌルズに突きつけるものだ! その一発、高くつくぞ! 邪魔立てするでないっ!》
《しかし――》
《口説いッ!! この男が呼んだわけでもなく招かれた客、ならば受け入れよ! よく来た、守護女神よ! 歓迎しよう! 一国を預かる王として、要件を聞こう!》
「用があるのはそこのバカよ!」
《ならば良し! 入国を許可する! 銃を下げよ、我が愛するアゴウ国民よ! あれは客人だ! 粗相を働くことは罷りならぬ!》
アルシュベイトの言葉に、一糸乱れぬ統制で銃を下げて道を開ける。それに面食らいながらも城壁を越えてアイリスハートは緩やかに降下していった。
地表に近づけば近づくほど鼻を覆いたくなるほどの死臭に塗れている。それを塗りつぶすほどの血と硝煙と鉄の香り。機人の骸がいくつも朽ち果てている、それは無惨に踏み砕かれ、戦場の土となっていた。赤い荒野――そんな言葉が脳裏をよぎる。
エヌラスは、やはりボロボロだった。血を流し、血を吐き出し、血に濡れていた。その身体でまだ立ち上がる。諦めていない。知っていたことだ。この人が諦めるということを知らないのは。
「……なん、で来た――」
「――――」
ああもう、本当にこの男は救いようがないバカだ。アイリスハートは宝玉を宙に放り投げて、それから――鉄拳をエヌラスの頬に殴りつける。落ちてきた宝玉をキャッチして、間の抜けた顔をするエヌラスに額を打ち付ける。
「あなた、本当に……ホンットウにバカなのね。救いようがないバカだったのね。どうしようもないバカでしょ。実はとんでもなくバカでアホで間抜けで変態でロリコンでしょ」
「なん――」
「あたしが。あたしやねぷちゃんやノワールちゃんやぎあちゃんが、どれだけ裏切られた気持ちかも知らないで、よく言えるわね! なんで一人で決闘なんか!」
「俺と、アイツの間に口を挟める間柄か!」
「ベッドと貴方の間に身体を挟む関係でしょう! 今更一つや二つ命投げ出す覚悟もないの!?」
「テメェさりげなく人のこと死刑宣告してねぇか!?」
額を当てて、お互いの目に自分の姿が映っているのが見えるほど近い。それなのに――こんなにも心だけが遠く感じる。
「なによ!? 文句あるわけ!?」
「なんだよ! 文句あんのか!」
「文句しかないわよ! バカじゃないの!」
「どんだけバカって言いたいんだよバーカ!」
「あ、バカって言ったわね! バカしか言えないほど貧相なボキャブラリしか持ちあわせてない万年発情期の癖に」
「人類は万年発情期だ文句あっか! あんだけアンアン言ってたくせにいざこういう時だけ態度デケェんだよプルルート!」
「そういう貴方だって同じじゃない! あれだけ気持ちよさそうに腰振ってた癖にこういう時だけなに格好つけてんのよ! 度し難いクズで緊縛プレイが好きで放置プレイまでして、そのうえで置いていったくせに! このクズ! 変態! バカ! 鬼畜外道! 装甲悪鬼!」
「最後のは何かおかしいような気がするがこの際二の次だ! テメェにそっくりそのまま同じ言葉返してやるよ! どんだけ人をイジメるのが好きなんだよ! 縛って焦らして散々いたぶって悦んでたのはテメェの方じゃねぇか!」
「ああ、もう、本ッ気で頭に来た! エヌラス! あなたはあたしのモノなの! だから勝手に死なれちゃ困るのよ!」
「だったらこっちだって同じだ! テメェに死なれちゃ困るんだよ!」
「どうして!?」
「なんでだよ!?」
「あなたが好きなのが、そんなにも迷惑!?」
エヌラスが何かを言い返そうとして……言葉が続かなかった。ただ、歯を食い縛る。
「愛しちゃ悪いの!? なにが悪いのよ! ハッキリ言いなさいよ女々しいわね!」
「誰も悪いなんて言ってねぇだろ!」
「じゃあッ! どうしてあたし達を置いて行ったのよ! 愛してもいないのにちょっと人には言えないプレイとかしたのはどうして!?」
「お前さっき包み隠さず全部言わなかったっけ!?」
「どうしてよ!?」
「あ、この野郎、話聞くつもりねぇな!?」
二人の痴話喧嘩は城壁で待機していたアゴウ国民にも筒抜けだったし、アルシュベイトは蚊帳の外。完全にエヌラスとアイリスハートの周囲を無視した喧嘩を前にして失笑が漏れた。