超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
《フフッ……ハッハッハッハ!》
不意に、アルシュベイトが堪え切れずに笑い出す。長刀を地面に突き立てて、それに身構える姿を手で制した。
《気にするな、存分に続けよ!》
「テメェも見てねぇでちょっとは擁護してくれ」
《生憎と肉の悦びはとうに捨てた身。肉欲に身を任せることもままならぬ身体でな、すまぬ》
「ドチクショウ! ていうか退けよプルルート! あの野郎との決闘の邪魔すんな!」
「い・や・よ!」
エヌラスの伸ばした手をするりと避けて、アイリスハートは足を引っ掛けるなり転んだ背中に座り込む。疲弊していたエヌラスは為す術もなく押し潰された。
「ぐぉあっ……!?」
「貴方が、愛しています、と言うまで退かないわ」
「今は、それどころじゃねぇんだよ……!」
「じゃあ好きにしたら?」
眼と鼻の先に蛇腹剣が突き立てられる。アイリスハートはそっぽを向いていた。エヌラスが起き上がろうとすると、その手がハイヒールで踏み付けられる。頭を上げようとすれば押さえつけられて完全に身動きを封じられていた。肉体を制しても、心だけが屈服していない。それが、なぜかアイリスハートを苛立たせる。惨めに足掻いて、情けなくもがいて、苦しみ喘いで。それでもまだ諦めない。
「ぬ、ぅ、ぉぉぉりゃあああ……!」
「……ふん」
「ッデェ!?」
また土に顔を埋めて、倒れこんだ。アルシュベイトは腕を組んでただそれを見ている。水を差されても気にした様子はない。アゴウが崩壊に向かう最中、その二人の行く末をただ眺めていた。
「……なんでよ」
自分に屈しない者はいないと思っていた。自分が調教できない相手はいないと思っていた。それなのに、エヌラスはまだ立ち上がろうとする。
「なんで、あなたはあたしの思い通りにならないのよ」
それが酷く苛立たしい。腹が立って仕方ない。首筋に掛かる違和感を掴み取り、手で払いのけて睨めば案の定、エヌラスの指先から鋼糸が伸びていた。
「二度も同じ手を食うと思ってるわけ?」
指を絡め、関節を逆に曲げる。ミシリと嫌な音を立てて骨が悲鳴をあげた。アイリスハートが徐々に力を強めていくと、エヌラスが苦悶の表情を見せている。
「……折るわよ。本気で折るけど、いいわけ?」
「――い・い・わ・け、あるかァッ!」
指一本犠牲にして、形勢逆転が狙えるなら安いもの。注意が指先に向いている隙に“ぷち”アクセル・ストライクが地面を蹴った。土煙が上がり、土埃が目に入ったアイリスハートが咄嗟に目を瞑った隙にエヌラスは身体を跳ね上げる。
「こ、の! 足癖の悪い!」
蛇腹剣を引き抜いて振るう。しかし、それを倭刀で打ち払い、掌打がアイリスハートの胴を打った。バランスを崩して首筋に倭刀を押し当てて城壁に押さえ込む。僅かに揺らめいた蛇腹剣をエヌラスは拳で殴りつけて封じた。
「……こんな過激な壁ドン、見たことないわ」
「俺も今までやったことねぇよ」
「――エヌラス、あなたはあたしを愛してないの?」
「…………」
押し黙り、俯く。声を張り上げて叫びたい。お前を愛している、と。だが、一人じゃ足りない。まだ足りない。彼女達の優しさに甘えて、みんなを愛していると叫びたい。それが――できない。
脳裏に蘇る鮮烈な記憶。鮮明に思い出される凄惨な酸鼻極める惨殺の光景。愛した人の胸に刃を突き立てた記憶が蘇る――。また繰り返してしまうのでは。そんな思いが、喉の奥まで出かかった言葉を押し留めていた。
「なんとか言いなさいよ! これじゃあたしがバカみたいでしょ」
「……ごめんな……すまない……プルルート。俺は、お前達を――こんなにも愛したいのに、それが、怖くて出来ないんだ」
最後の勇気が踏み出せない。愛すれば愛するほどに、心が壊れそうなほど苦しくて悲鳴をあげている。
《……ならば、エヌラス。己の愛を証明してみせろ》
「アルシュベイト……?」
長刀を引き抜き、切っ先を二人に突きつける。
《お前が言葉よりも多く語るには、これしかあるまい。口で語れぬ愛ならば! 拳で語るが我らの流儀! 我らの間に言葉は不要! 然らば、刃を交わすのみだ! 貴様の愛が、この俺の愛国心を勝るに足るか、否か! その証明の決闘としよう、雌雄を決しようではないかッ!》
エヌラスは目尻を伝う涙を拭う。その手がアイリスハートに掴まれ、口づけを交わすと蛇腹剣を構えた。
「……勝ちなさいよ。負けたら呪うから」
「ああ、そりゃおっかねぇ。泣きそうだ」
伴侶のように寄り添う二人を見て、アルシュベイトは鋼の顔に笑みを浮かべる。それに気づいたのは本人だけだったが、しかし。そんな二人の姿を見て、思い出していた。先代のアゴウ国王と共に肩を並べて戦場を駆けたあの日々に思いを馳せる。
何も感じない肌でも、鋼鉄の身体でも、こんなにも心が熱い。胸の奥で叫んでいる。
愛を。三千世界に轟かせる己を己たらしめるたった一つの愛が燃えていた。
アルシュベイトが一歩踏み出す。それだけで大地が揺れるほどの震動が起こり、戦場が崩壊していく。時間が迫っている。だが鬼神の歩みに恐れはない。世界が崩壊しようともこの胸に愛がある限り敗北はない。
もし負ける、その時は――世界の滅びすら超越した愛だけだ。
《征くぞッ!》
「応ッ!」
剣戟が打ち鳴らされる。一人の女神が加勢して。
それを見ていたアゴウ国民達は、なおも退かぬ最強の国王に絶対の安心感を抱いていた。
《観測班! ヌルズの動向は!》
「連中も世界の崩壊に巻き込まれて、思うように進軍できてない!」
《そのまま続けろ!》
ランス01が、ふと空を見上げる。青空に走る亀裂と裂け目の先には星も輝かない暗闇だけが残されている。希望が光り輝く人の願いなら、絶望は全てを覆う暗闇なのだろう。そんな月並な言葉が思い浮かび、頭を振った。絶望は許されない。悲観も、諦観も。なぜならアゴウ国王こそが無限の希望であると信じているからだ。
その空でもまた決闘が起こっている。そこから一人の機人が弾き出されて城壁上をスライディングしながら飛行ユニットのスラスターを逆噴射して止まった。
《バルド・ギア!》
《――ああ、すまない! 邪魔をした!》
すぐさま立ち上がり、空を見上げる。その先には三人の守護女神。
《手伝ってやろうか?》
《いや、いいよ。一人で戦える》
ランス03のからかうような言葉に、すぐさまバルド・ギアは飛翔した。
手強い――そう思う。両腕のブレイドライフル『ブリューナク』でパープルハートと火花を散らし、即座に離れてブラックハートの薙ぎ払いをロールして回避。カウンターキックが二人のバランスを崩すが、そこにパープルシスターがM.P.B.Lを振り下ろしてくる。片腕で防御しながらもう一方の腕でトリガーを引いた。
空気圧縮されたスラグ弾で大きく吹き飛ばされてパープルハート達に受け止められる。
「流石に、強いわね……」
「そうね。でも負けるわけないでしょ?」
「当然。ネプギアもまだいけるわね」
「あ、はい! まだいけます!」
数の不利もある。だがしかし、それでも力の限りは尽くしたい。バルド・ギアの装甲が展開していく。
電界突破を――二十六次元拘束解除による超光速並列処理による武装召喚。それを使えば勝機はあるだろう。だが、果たしてそれで本当にいいのか。全力を尽くす、そのはずだ。しかしインタースカイのメインサーバーが落ちた今、稼働時間が限られる。恐らく限界稼働時間にして三十秒。それ以上は持たない。
《やるしかないか》
どちらにせよ、このまま勝負を長引かせても仕方がなかった。
《二十六次元拘束解除開始――》
装甲を展開し、より冷却性に特化させる。防御が犠牲となるが背に腹は変えられない。
《電界突破!》
――光を超えて、その先にあると信じた彼女の笑顔の為に開発したプログラムだった。
光速で射出される射撃武装の数々を切り抜けながらパープルハート達はバルド・ギアの猛攻を凌ぐ。しかし、それもマイクロミサイルとコンテナミサイルの群れによって敢えなく撃墜された。空中で姿勢を整えて追撃に向かってくるバルド・ギアの攻撃と紙一重で交錯し、パープルシスターのプロセッサユニットの翼が大きく損傷する。だが、相手も飛行ユニットの主翼が半壊していた。
ブラックハートの大剣とブリューナクが衝突して互いに刀身半ばから砕け散る。パープルハートを寄せ付けない弾幕に、既視感を覚えてパープルシスターが先導した。
「ネプギア!? 無理よ!」
「大丈夫! 任せて!」
射撃の弾道が、今ならよく分かる。インタースカイで遊んだ弾幕ゲーム。あれで嫌というほどコンティニューさせられたボスの攻撃――バルド・ギアの高速弾、誘導弾を織り交ぜた射撃は似ていた。