クマ吉君の野望【2次創作短編集】 作:堀 吉之助
上下で分けて投稿します。下は少し待ってください。
以上が大丈夫な方はどうぞおたのしみください
雪ノ下雪乃はギュッと手を握った。
爪が皮膚に食い込んで、じわりと手が汗で湿る。雪乃はそれで力を入れることをやめなかった。
制服のスカートが風で揺れる。夕日のオレンジ色が世界を照らして、だんだんとその鮮やかさが黒く染まっていく空。雪乃はそんな美しい情景には全く心を動かさない。なぜならば彼女は今、それよりも重大なものを目にしているからだった。
雪ノ下雪乃の数歩先をクマ吉が歩いていた。
クマ吉は例の「ミミック」を手押し車に乗せて、どこかに向かって歩いている。がらがらとタイヤの音が鳴り、クマ吉の青いシャツがはためく。
「…………」
雪乃はそんな彼の姿を電柱の陰から伺っていた。尾行である。
数日前にそれはもう凄まじい目にあった彼女は、持ち前の精神力で多少持ち直していた。そんな折に街中でクマ吉の姿を見つけたのである。それもあの「ミミック」を持っている姿であった。
雪乃とクマ吉には全く面識がない。というか合ったらおかしい。そもそも彼女はクマ吉があの「ミミック」の主だとは知っていたが、名前だけである。まさか本当にクマとは思っていなかったのだ。
クマ吉も同様にあの日に、警官に言われるままに開けた宝箱の中で「すごいこと」していた女の子の名前など知らなかった。当分拘置所にいたから、最近の外のことは良く知らない。
余談だがクマ吉にとっては娑婆の世界を「外」と書けば、拘置所が「内」になる。なんで数日前に捕まった彼がここに居るかというと、脱獄したからに決まっていた。あのスプーンで壁を掘る有名な手法で。
「あーざーやかーに、いくう」
変な歌を歌いながらクマ吉は歩いている。後ろから雪乃に追われていることなど知らないし、知ったとしても狂喜するだろう。可愛い女の子ストーカーなどは彼にとって、ご褒美かデザートである。殺されても本望。
そんなクマ吉とは裏腹に雪乃は焦っていた。クマ吉とあの忌わしい宝箱を見た瞬間、全身が沸き立つ感覚に襲われた負けず嫌いの彼女は、なんとなく彼を追っては来たものの、なんの算段もしていなかった。
つまり追ってきたはいいが、それ以上やることがないのだ。
「…………はあ」
雪乃はため息をつく。正直このまま帰ってしまった方がいい気もする。あの宝箱の中で「宝物」になった時の記憶は、中盤辺りからよく覚えていない。気が付いた時にはクマ吉が逮捕された後だった。正確に覚えていたら、近づこうとはしないだろう。
クマ吉はずんずん歩いていく。
実は雪乃にはある欠点があった。それは絶望的に体力がないことである。クマ吉を付けはじめてからもうかれこれ一時間近く。足の感覚も重さを増してきた。
だがぴたりとクマ吉の足が止まった。彼の目の前には、とある雑居ビルが合った。クマ吉のはその大して高くはないビルを見上げる。
「ついたよっ。これで僕はあたらしい世界に行けるんだっ」
別に誰に言うでもなく、クマ吉は言った。説明しているわけではないので、振り返ることもなく彼はビルの中に入っていく。雪乃はさっきの独り言を聞いていたので、ここがクマ吉の目的地だということが分かった。
雪乃はやっと尾行が終わった安堵感と、疲労から解放でほっとした。だが、すぐにはっとしてクマ吉の後を追い、ビルの中を伺った。彼女の「知り合い」ならば、入っていくこともあるかもしれないが、そんなことをできるほど雪ノ下雪乃は常識から離れられない。
それでも、ビルのエントランスでの光景は彼女を動かした。
クマ吉がビルのボディービルダーだろうか、二人の屈強な半裸の男に囲まれていた。男は目にサングラスをつけ、ブーメランパンツの身を着用している。それでいながら盛り上がった胸筋に、丸太のような腕はビーチではモテモテだろう。ただしここは雑居ビルの中である。
雪乃はぽかーんと口を開けていた。今目にした光景が全く理解できそうにない。彼女の聡明かつ豊富な知識を有している頭脳もこれにはお手上げだった。
「はっ、えっ、えっと。ガードマンかしら……」
違う。ボディービルダーだ。どこからどう見てもボディービルダーにしか見えないのに、雪乃はそれをそうだとは思わなかった。こんなところにボディービルダーがいるとは思わないからといっていないとは限らない。それが思考の罠である。
「ぐふう」
そんな雪乃疑問は氷解することもなく、クマ吉の悲鳴で彼女の思考が打ち切られた。驚いてクマ吉を見ると、彼の腹部にあの太くて大きいのが突き刺さっていた。正拳突きである。
「なっ」
雪乃は驚いた。さっきまで談笑していたように見えたのに、いきなり男の一人がクマ吉へ攻撃したのである。しかもクマ吉は地面に膝をついてから、ばったりと倒れた。それからピクリとも動かない。
クマ吉の体を男の一人が持ち上げて連れて行こうとした。その光景に雪乃は、
「ま、まちなさい!」
思わず飛び出してしまった。彼女は少女らしく足を震わせながらも、目の前の理不尽なことが許せなかったのだ。これは恩讐とは関係がない。雪ノ下雪乃としての生き方だった。
「その人?が……なにをしたのかはわからないのだけれど、いきなり殴打して連れて行くのは」
「えっ。も、もしかして学生さんですか?」
クマ吉を担いでいない方の男が、存外丁寧な口調で雪乃に返してきた。雪乃はそのことでいったん言葉を切る。男の柔和な声音が彼女を混乱させた。だからか、雪乃はただ男の質問に答える。
「……見ての通りだと思うのだけれど……」
見ての通り雪乃は学生である。ブレザーに胸元のリボン。それにチェックのスカートにニーソックス。質問するまでもないと彼女の目は言っていた。しかし、男は後ろのクマ吉を担いでいる男と目を合わせると多少困惑したような顔をした。ただし、目元はサングラスなので分からない。
男は再度雪乃に向き直る。
「もしかしてですが……クマ吉さんとしての御用ですか?」
「……少し言い方が引っ掛かるわね。でもその……えっと、クマに用があるの」
雪乃は後ろのクマに目をやると、流れるように視線を横の宝箱に向ける。それでばっと体が熱くなり、頬を染める。羞恥と怒りといろいろなものが綯交ぜになったことで、彼女は恥ずかしげに眼を伏せた。それで男は確信する。
「申し訳ありませんでした。クマ吉様」
「えっ?」
「私どもと致しましても、まさか送られてきた申込用紙にペンネームを使っておられたとは……長年筋肉を鍛えておりますが、一生の不覚でした」
「はあ……?」
心底男の言葉が分からないと言った風情で雪乃は呆然とした。彼女は腕を組んで首を傾げる、さっきからどうも話がかみ合わない。男はそんな雪乃の様子を不満と取ったのかあわてて取り繕う。
「い、いやあ。申し訳ありません」
「何度も謝らなくてもいいわ……」
なんとなく冷たい声で雪乃は言ってしまった。それで男の態度が変わった。
「おい」
ドスの聞いた声に雪乃は身を震わせた。真っ向から男の「暴力的な態度」に接したことのない雪乃の背筋が冷たくなった。だが男は雪乃から目線をそらして、後ろの男に言う。
「片づけておけよ、そのゴミくずを」
「おう。人の名前を騙るなんてふてえ野郎だ。太いの突っ込んでやる」
気絶しているクマ吉は担がれたまま連れていかれる。その様子に雪乃は慌てて言った。
「ま、待ちなさい」
「あっそろそろ時間ですよ。クマ吉様」
「はっ。わ、私は、そんな名前」
「最初はお恥ずかしいからペンネームをお使いになられたのでしょうが、大丈夫くせになりますから。とりあえずは少し眠っていてくださいね」
男はそういうとブーメランパンツからスプレーを取りだして、雪乃にかけた。それで雪乃視界が揺らいで、膝から崩れ落ちていく。だが地面に倒れる前にあたたかな筋肉に抱き留められた。
柔らかなベッドの上で雪乃は目が覚めた。彼女が最初に目にしたのは、ベールのかかった天蓋である。
ぼんやりしつつもゆっくりと体を起こす。雪乃が手をベッドにつくと、ぐっと沈む。それだけで自分が寝ているベッドの品質が分かった。
「ここは、どこなのかしら」
雪乃はこめかみに指を当てて、軽く頭を振った。それでぼやけていた視界が明瞭になり、あたりの様子が分かるようになった。
スカート穿いていないこととか。下着が丸見えなこととか。
ばっと雪乃は膝立ちになった。いつの間にかブレザーも脱がされていて、白いブラウスだけになっている。彼女はブラウスの裾を掴んで下に引き下げた。何とか白いパンツを覆い隠すことができた。前を引っ張った分後ろが露出してはいるが、気にしない気にしない。
雪乃は白い太ももを内側に寄せて、もじもじする。いきなりの衝撃に顔が赤く紅潮していている。
「……やっと起きたようだね!」
「だ、誰」
雪乃は声の方向を見た。
そこには女王がいた。ラバースーツに身を包み、ハイヒールに長い金髪。目には蝶メガネに頭につばの大きい帽子。女王は赤い口紅で染めた唇を、ぺろりと舐めて、手に持った鞭をびしいと鳴らす。
「だ、だれなのかしら」
びくびくしながら雪乃はもう一度聞いた。明らかに堅気の人間ではなさそうだ。人はそれぞれだと言うのだけれど、そこに関係しているとそんなことも言えなくなる。それが今の雪乃だった。
「……こほん」
女王は一つ咳払いをした。
「えー。クマ吉様このたびは弊社『株式会社SMプレイ高等学校』にご依頼いただきましてありがとうございます。私が今日担当させていただく女王です」
「…………」
雪乃には何にも理解できなかった。それどころか頭に今の情報が入ってこない。登記できるのだろうか、その会社。しばらく呆けたあと雪乃はやっと口を開いて言う。
「なんの冗だ」
「口答えするんじゃないよー!」
ぱしーんと鞭で床を鳴らす女王。雪乃は「ひっ」と身を縮こまらせた。口応えと言うか、単なる質問なのだがとんだ女王である。ちなみにバイト。
「全く生きのいい豚だねえ。クマ吉なんて素っ頓狂な名前を使うから、どんなじゃじゃ豚が来るかと思えば……」
「だからわ、私は」
「ふふふ、この期に及んで言い訳かい。そんな可愛い面しながらもSMに興味を持っているなんてねえ。あんたはクマ吉というよりも、豚吉だよっ」
そこで雪乃は気が付いた。この女王は自分とクマ吉を勘違いしている。しかも自分が偽名を使っているという設定になっているらしい。ペンネームなどという柔らかい表現にとどめているのは会社なりの配慮なのだろう。
雪乃はあわてて誤解を解こうとした、このままでは変なことをされるのは必定である。だが彼女が口を開く前に女王が言った。
「そうそう、豚には会わせたい奴がいるんだよ。連れてきなっ」
女王が言うと、頭に白い布をかぶった屈強な男が手押し車を引いてきた。それをみて雪乃は息をのむ。
クマ吉がはりつけにされていた。目には目隠し、口にはボールギャグを食まされていて、そこから涎が出ている。体はラバースーツに身を包まれている。その姿のまま手押し車の真ん中にある木の棒に固定されて、その上での亀甲縛りである。
「ふむう、ふうむう」
頬を紅く染めてクマ吉は言う。言うっていうか唸る。耳には耳栓がされているので何も聞こえてはいない。だが女王はその体を鞭でぶっ叩いた。
「むう!」
「なにがむうだよっこの豚がっ。クマ吉なんて偽名を使ってまでSMプレイしようなんて言い料簡だよっ! 反省しなっ!」
「あっ……あ」
雪乃の口から息が漏れる。目の前の光景が信じられない。
「さて」
女王が雪乃の方向を向いた。いつの間にかクマ吉を連れてきた男は言なくなっている。雪乃は体中を冷たい汗でびっしょりと濡らす。それでも女王様は言う。
「クマ吉様。このたびはこの豚と間違えてしまい申し訳ありませんでした。私どもと致しましても相応の罰をこの豚には受けさせましたのでどうかお許しください。……弊社の掟としまして、冷やかしの方にはハードプレイを楽しんでいただくことになっておりますので……」
「……そ、そのくらいでいいじゃないかしら」
雪乃は思った。逆に自分がクマ吉ではないとばれた場合、どうなるのだろうか。あそこにはりつけにされてしまうのだろうか。一瞬その映像が頭の中をよぎり、雪乃は青ざめた。だからそっと、はりつけにされたクマ吉に助け船を出したのだ。
「彼も反省しているみたいだし」
「なんてやさしい豚なんでしょうか、でもあと六時間ほど放置プレイが残っているので、ここに置いておきますね、このうそつき豚は」
クマ吉も雪乃も等しく豚である。それが女王様から見た視点であった。雪乃はあと六時間と聞いて息をのんだ。今名乗り出れば、六時間ほど未知の体験ができるだろう。
女王は手に持った鞭を捨てて、ベッドに上がる。雪乃は膝立ちのまま後ろに下がった。
「では今からご依頼の『ゆるふわ系SMプレイコース』を始めさせていただきます」
「ゆ、ゆるふわ?……そ、それはキャンセルもできるのかしら」
「ハードモードがお好みですか……多少料金も下がりますが、いかがなさいますか」
ハードモードになると料金が下がるらしい。雪乃はちらりとクマ吉を見た。ああはなりたくない。
「いえ、そうではなくてキャンセルをしてほしいのだけれど」
「……もしかして冷やかしの方ですか?」
どばっと汗が雪乃の背を流れる。目の前に冷やかしの末路が示されているのだから、ここで頷いたらまずい。まさに前門の狼、後門の虎である。雪乃のブラウスの皺が大きくなった。掴んだ手に力が入ったのだ。
「冷やかしをするつもりは、ないのだけれど」
「じゃあ、定刻通り始めさせていただきます」
「ちょっとまちなさい」
「もう始まってんだよ! 口答えするんじゃないよ!」
女王様は雪乃へ近づいて、組み倒した。あまりの速さに雪乃も反応できない。柔らかいベッドの上で組み敷かれる。
「ま、まちなさい!」
「さっきから聞いてたら、あんた甘えたことばっかり吐いて恥ずかしくないのかい。それだから豚だっていうだよっ、全く! ほれ、こんな人間様の着るものなんて着ているんじゃないよっ。豚の分際で」
女王は雪乃を組み敷いたまま、ブラウスの中に手を入れてきた。そのまま、彼女の胸部に手を伸ばす。その上でブラジャーの中に手を入れる。
「くっ。この」
雪乃は恥ずかしがりも反撃しようとする。だが女王にその両胸を掴まれた。強く、二つの乳首が摘ままれる。
「い、痛」
雪乃の行動はキャンセルされてしまった。女王はその間にも彼女の胸を鷲掴みにして揉みしだく。その上で器用にブラジャーのホックをはずした。雪乃もそれに気が付いたのか、奪われまいと力を入れる。
「生意気な子豚だねえ、そんな悪い子はお尻を出しなっ」
「あっやめ」
女王は雪乃を組み敷いたまま、簡単に体位を替えさせた。その熟練の技に雪乃はベッドにうつぶせにされた。顔が柔らかいベッドに埋まる。だがすぐに女王は彼女のブラウスをかきあげて、そのパンツに包まれた下半身を露わにする。
雪乃のお腹まわり、その細い腰が少しだけ肌を見えた。
「やめな、さい」
「まだ、わからないようだねえ。さあ、脱ぐんだよっ」
女王の手がパンツの中に入る。そして少ずつずり下げていく。雪乃はそのお尻をむき出しにされていく。ゆっくりと雪乃の人間的な自尊心を剝きとるようにである。
「ほらっこれはあんたが穿いていいようなもんじゃないんだよ。これは人間様が穿くものさ、とっとと脱ぐんだよ」
「ふざけないでくれる、かしら。こ、こんなことをして」
「ははは、あたいはこんなことを何度もやってきた女だよっ。今まで何度も豚を豚だと自覚させてやったのさ」
女王様は雪乃の耳元に口を近づけた。
「ぶひいと鳴いたら許してやる」
「はっ?」
雪乃の疑問の声を合図に、彼女のパンツが一気に下りた。とはいっても太ももの付け根前でしか下がっていないから、局部は見えそうにない。ただ、その丸いお尻だけが空気に触れてむき出しになっている。女王はそのお尻を爪でかるくなぞりながら、雪乃に言う。
「あんだけでかいくちを叩いていたにしては、可愛いお尻だねえ。なんだい、少し青いじゃないか」
「…………」
ねっとりとした女王様の声を聞きながら、雪乃は唇を噛んだ。泣いたりわめいたりすれば、それこそ思うつぼである。だが、ただ剝くだけならばクマ吉にだって剝けるのだ。それでは株式会社として上場できまい。
「さあ、いい声で鳴きなっ」
女王は雪乃の腰を捕まえて、からもう片方の手を振り上げてから一気に振り下ろした。
「ひい!」
ばちいんという小気味のいい音がして、雪乃のお尻に赤い手形が付く。じんわりとした痛みが、雪乃には感じられた。女王は「んー」と唸らってから、雪乃に言う。
「今、悲鳴をあげなかったかい?」
「……あげてないわ」
「違うんだよっ。ぶひいだろうがっ、このあばずれがあ」
もう一度ばしんとお尻が叩かれる。雪乃は目をつぶって耐えた。だが屈辱はどうやっても耐えられない。彼女の目元には涙が溜まっていた。
「おやおや、あれだけ強がっていたのに、こんなに簡単になくような豚は初めてだよ。あの熊みたいな豚を見な。叩くたびにお礼を言う殊勝な奴だよっ」
「……な、ないてなんて」
ばちいん、と叩かれる。
「……きゃ」
「泣いてなんてなんだい? 良く聞こえなかったねえ。もう一度言ってごらん」
「泣いてなんかいないわ!」
「ほうほう、最近の豚は鳴くし泣くんだねえ。でもこれじゃあ埒があきそうないね」
そういうと女王はきているスーツのポケットから手袋を取りだした。それがゴムでできているのか表面が光っている、しかし片手分しかなかった。女王はそれを器用に右手へはめる。
「お尻の中を教育するしかないようだね」
「! やめなさい、そ、そんなことをしてもいみなんてないでしょう」
「よくしゃべる豚だねえ。豚の鳴き声はそうじゃないだろう」
「っ、そんなことは絶対い、いわないわ」
「じゃあしかたなねえ」
「まっ、まって」
雪乃の声は弱くなった。女王はゴム手袋をはめた手をゆっくりと雪乃の肌を伝わらせる。楽しんでいるようでもあり、雪乃の言うとおり待ってくれているようでもある。雪乃はその感触を感じながらも、はあはあと荒い息を吐く。今自分が豚のように鳴けば、もしかしたらやめてくれるのかもしれない。
「……や、やりなさい」
だが雪乃には言えなかった。どうしてもそれは言うことはできないのだ。女王はにやりと笑ってから、雪乃の耳元に口を持って行く。ゆっくりと赤い唇を開いて、雪乃に近づく。
耳を噛む。
「……あっ」
びくっと雪乃は体を動かした。目を閉じてしまう。その間にも、女王は彼女の耳をはむはむと噛む。舌を絡ませながら。
「なんのつもり、なのかしら」
ぞくぞくした感覚を覚えながら雪乃は言う。だが女王は耳から糸を伸ばして口を話すと。うつ伏せになっている雪乃の上からのしかかるようにして、身を合わせる。雪乃は自分の上に載ってきた、人ひとり分の重さを感じてからベッドに押し付けれた。
「なかなか、強情じゃないか。それとももっと気持ち良くしてもらえるかと、期待しているのかい」
「……冗談にしては悪質に過ぎるようね。私は、あっあ」
「ふふふ、空気が変わったから助かったと思ったのかい? あんたの可愛いお尻がねえ」
のしかかったまま女王は雪乃に指を「挿れた」。狭い入口を人差し指で広げながら、くにくにと中で動かす。そのたびに雪乃は声を漏らした。
「やめっ、ひ」
「おや、声が変わってるようだよ? 今しがたの威勢はどうしたのさ」
「…………」
雪乃は唇を噛んでから、口を閉じる。これ以上の屈辱は耐えられるのかどうか、それすらもわからない。だが、その程度の抵抗で逃れられるほど女王は甘くはなかった。
雪乃のうなじを舌でなめる女王。先に言っておくが、彼女はレズビアンでは断じてない。仕事である。
「あう。っ」
ぴくぴくと雪乃が動く、せっかく閉じた口から声が漏れる。その隙に雪乃の「中」で女王の指先が彼女を刺激する。それで、また雪乃は望まぬ嬌声を上げることになった。
「さあ、そろそろ鳴いてもいいじゃないかい。ぶひいとね」
「だ、だれが、あう、は、はなれなさい」
「そろそろやめてあげようかねえ、鳴いたら」
雪乃の唇が震えた。それからぐっと口を閉じる。
(わ、私は、今)
何を言おうとしたのだろうか、自分で自分の行動が信じられなかった。雪乃はそれでもきっと女王を睨みつけた。だが女王はそんな様子をいなすかのように、雪乃から指を引き抜く。
「あっ」
「名残おいしいのかい?」
「……少しは、国語の勉強をした方がいいのじゃないしら。こんなところでその言葉を使うのはおかしいと思うけれど」
女王は答えない、そして手袋を脱いでベッドの下に投げた。それから雪乃を仰向けにする。そしてそのまま女王の手が雪乃の両足首を掴んだ。ぐっと引かれる。雪乃はいきなりのことに抵抗できない。
女王が雪乃の両足首をつかんだまま、ベッドの上で立ち上がる。雪乃はお尻が見える無様な格好に気が付いて、あわてて穿きなおした。ブラウスがはだけて、お腹とホックのとれたブラジャーが見えるが、両足首を掴まれたままではどうしようもない。
「なにを、する気かしら。女王様?」
雪乃が見上げると女王の顔がそこに合った。見下されて悔しいが、足をじたばたさせても逃れられないだろう。だから雪乃は嘲笑うような声音で女王へ手向かう。しかし女王その強がりを面白がるように笑った後、足を上げた。とがったハイヒールの先が雪乃の下半身に近づく。
「なにをする気?!」
雪乃の叫びは先ほどと同じことを聞いているようだが、違う。純粋に不安が勝っている。
股の間にハイヒールが入った。そして、雪乃の股の中央を踏む。ハイヒールのかかとが彼女のパンツの中央部分を踏んだまま、ぐりぐりと動く。
電気あんまである。
「あぐ」
「どうしたんだい。こんなことじゃ豚以下の存在だよ」
雪乃は両足を開かれる。そのまま、かかとでぐりぐりと動かされているのだからたまらない。じんわりと雪乃パンツが湿ってきた。先ほどから緩い刺激を受け続けて、彼女も反応してしまったのだろう。
「へえ、あんなに強がっていたくせに、おもらしするような豚だったんだねえ」
「ち、違う。そんなことを私は、しない」
「おやおや、困った豚だよ、まったく。じゃあもっと強く踏んでもいいんだね?」
「す、好きにしなさい」
ぐんとハイヒールのかかとが雪乃の局部を刺激する。彼女は両手が自由ではあるのだが、いかんせん啖呵を切った手前、その両手を使えない。ただただ耐えしのぶしかない。これ以上の恥辱を受けたことはないだろう。
「痛いのが好きなんて、とんだ変態だね」
「私は変態じゃないわ、ぐ」
「そうやって両手を可愛く胸元で組みながら、よがっているその姿が変態なんだよお!」
ぐりぐりと女王が足を動かす。雪乃は太ももを動かして、ほんとうに小さな抵抗をする。
「仕方ないねえ。特別には直に踏んであげようじゃないか」
「はあ、はあ」
女王は足を振ってハイヒールを脱ぎ捨てると、素足になった。雪乃はそれを涙目で見る。声はださない。女王の足が雪乃に近づいてから、踏む。それどころか振動するように小刻みに刺激される。
「ほら、ここがいいんだろう? 変態豚のあばずれにはさあ」
「ちがう」
「ほう、ここは違うのかい、注文の多い色魔だよっ。じゃあここかい!」
「そ、そういう意味ではないわ、きゃ」
足の裏をまんべんなく使い女王様は雪ノ下雪乃を可愛がるのだ。それは痛みを与えると言うよりも、ゆっくりとしごいているようにも見えた。実際に雪乃の息は少しずつ、荒くなっていく。
「あっ、あう。やめ」
ぐにぐにと雪乃の秘部が足の裏で侵される。雪乃には抵抗するすべもない上に、さっき自分で言った言葉で行動を制限されているものだから、どうしようもない。
ある時から雪乃は真っ赤な顔を手で覆って、いやいやと身をよじるようになった。だが両足を掴まれた無様そのものな格好からは逃げることはできそうにない。踏まれるたびに、ぴりとした快感がぞわぞわと全身を駆けめぐるのが、とても嫌だった。
「踏まれて感じるなんて、やっぱりあんたは変態豚なんだねえ」
「ちがう、わ。私は、ちがう」
もう口調を維持する余裕もないのか、雪乃は否定だけしかできなかった。それでも女王様は容赦する気はない。一度彼女は雪乃の股から足をどけた。そしてぱっと雪乃の両足を解放する。彼女の足は力なく、ベッドの上に落ちた。
女王はその姿をみて嫣然と微笑んだ。なんだか知らないけど、自分からSMプレイを申し込んできたくせにえらく、強情である。さっきのクマと言ったら、そこでふごふごと生きているだけですぐにありがとうございましたと言ってくるから駄目だった。本当に空気と変わらない。
「いろいろと使ってみてもいいかもしれないねえ」
くくくと女王様は笑う。バイトを始めて2年半、ここまでの上玉はそうそういない。
雪乃はぐったりと倒れたまま、身を小さくする。