※この作品はR-18です。

クマ吉君の野望【2次創作短編集】   作:堀 吉之助

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注意 凌辱、SAOの設定改変(文中で説明) 


SAO編 序章

「来たか……」

 男は小さく呟いた。厚いメガネが鈍い光を放っている。

 男に話しかけられたクマ吉は頷いて、自分の手に握っていた紐を引いた。

「んー」

 その紐は裸の女の子の首にかかっていた。口をふさがれ唸ることしかできないその女の子は、クマ吉が紐を引いたことに引っ張られて男の前に倒れる。

「ほう」

 男は上機嫌に言う。

「上玉じゃないか……」 

 端正な顔立ち、白い肌。かつては「旅人」をしていた少女の顎を男は掴む。そしてまじまじと女の子の顔を見る。彼女の首についた紐とは別にフリルのついた首輪があり、それについた鈴がチリンと揺れる。少女はわずかに目線をそらす。

「いいだろう。代金はこれで」

 男の目線がクマ吉に戻る。鋭い視線。修羅場をいくつもくぐった男の顔。

「あれが……ほしい」

 クマ吉が暗い部屋の一点を指さした。そこにはピンク色の板の上にモニターとアンテナがついた「もの」が置いてある。大きさはそれほどではない、板の大きさはタタミ1畳程度だろうか。

「……クマ吉よ。あれは、危険だ。何が起こるかわからない。それにもしもあれを使用したことがばれれば、命は、ない」

 男が指で首を切る真似をする。

 事実、男はクマ吉の言う「もの」に乗って幾度となく死線をさまよってきた。時には機械の部隊と戦ったこともある。むろん撃退したが。

「覚悟の上さ」

 クマ吉は男を見る。丸い目の中に黒く深い闇がある。男は薄く笑った。

「クマ吉。何があろうが僕は知らんぞ」

 クマ吉が頷く。男はそれを見てからやれやれと肩をすくめた。

「よし、ではせいぜいタイムパトロールのくずどもには気を付けろ」

 男は続ける。

「商談成立だ。持って行け『タイムマシン』を」

 

 

「あひん、だ、だめ」

 窓に手を突きながら彼は言った。口からは涎をだしてだらしなく顔を崩す。

「ほら早く。だしてよ!!僕だってこんなことしたくはないんだ」

 なぜこうなったのかはわからないがクマ吉は「彼」――茅場晶彦――のケツを掘りながら叫んだ。そして腰を動かす、やりたくはないが意外に「彼」の中は柔らかい。

「わっわかった、てってつだう、てつだうから、やめてくれっ」

 茅場が哀れな声を出した。世に聞こえた科学者の彼もクマ吉にかかればいちころである。主にケツが。茅場は「未来」にSAOというゲームを作り出す男だ。そして惨劇を引き起こすことになっている。もうおこらないけど。

 

 彼こそがクマ吉の目的。もっといえば、SAO。それが目的。

 

 

 ソードアート・オンラインと言われるVRMMOはSAOと略称される。ALOより2年早く製品されて、10000人もの人々を幽閉したいわくつきのゲームになる、予定だった。

「ほらほら、はやくしないとお尻にだすよ」

「やっやめろ!!」

 クマ吉が茅場を脅す。茅場は半分涙目になって、コンピューターにプログラムを組んでいく。まさに天才だと言っていいだろう、全く逡巡もなくキーボードを打ちこんでいく姿は茅場の鬼気せまるものもあった。

「ぐふふふ」

 クマ吉がその後ろで笑う。完成した暁には、多くのプレイヤーを招待しよう。そう考えている。もちろん茅場が考えている世界とは少しだけ違うが。

 

 数年後、SAOが完成した。

 

 ナーヴギアといわれるヘルメットを通して、疑似的な世界を作り出したそれは大きな反響を巻き起こした。茅場の金で作った会社と、利益無視で流したCMをクマ吉は大いに駆使したことも大きかった。

「やっやっと終わった……」

 SAO開発者の茅場は完成と同時にそう言ったという。ご褒美にクマ吉から掘られたが。

 

 クマ吉が書類を机の上にぶちまけた。これから10000人の先行発売をされるSAOを「手にいれる」人々の載った書類である。といっても全員ではない上にこの中には実名なものはなく、「未来」で実際にSAOプレイした女の子たちのハンドルネームが書いてあった。

 シリカ、サチ、アルゴ、リズベット、「スグハ」、アスナ……。写真入りの書類をパラパラとめくり――

 

 クマ吉は笑った。

 

 

 

 

 

 

「作戦の説明を始める」

 暗い部屋で男、茅場晶彦は言った。

 彼の前にある円卓の反対側にはクマ吉が何故か涎を垂らしつつ見ている。その両側には黒いフードをかぶった3人がいた。

「いらんやろ」

 黒フードの一人がしゃべる。そして手に持った資料を円卓に置いた。

「あんたが作ったこの紙(資料)におる女。なんやえっと、シリカ、サチ、それにアルゴ、直葉。なんでこいつだけ漢字やねん。あとリズベット、アスナ。こいつらをクマ吉はんに献上して、残りはすきにしてええっちゅうことやろ?」

 茅場が頷く。

「そうだ。あとは全員の持ち場の確認だけだな。その5名同時にログインした時を狙う。ベータ版を送ったのだが、サチが何故かログインしなかった」

 くすくすと笑い声が起こった。二人の黒フードが揺れながら資料を見ている。

「このアルゴって子すごくかわいくない? ねえリリ」

「そうだね、ララ。この子はかわいがってあげたいね」

 話し声からは想像できないほど野太い声。黒フードの中にはなにがいるのだろう。先に発言した関西弁をしゃべるフードの男が「けっ、きしょくわる……」と漏らした。

「……私は早く帰りたいんだ。今日は水着回なんだ、いい加減にしろっ」

 茅場が怒声を放った。彼の言う水着回とはアニメの話だ。この男はいろいろクマ吉に犯されている。

「まあまあ、ええやないですか。茅場はん。あんたの『持ち場』はなかなか実入りが多そうですし」

「当たり前だっ。誰がSAOを作ったと思っている」

 ケツの恨み。それをSAOのプレイヤーで返してやろうと茅場は哂う。彼も変態の領域へ足を踏み入れてしまった。

 このクマ吉を除いた4人は、クマ吉が集めた変態達である。一名変態に「された」人もいるがどこにだしてもはずかしい連中である。

「ところで、クマ吉。先ほどから全くしゃべらないがなにをして……!!」

「す、すげぇクマ吉はん! こんなところで」

「うー」

「わー」

 クマ吉の変態度は飛びぬけていた。

 

 

草原の風が彼女の髪をなびかせる。

 腰までかかった金色の髪に赤を基調としたローブが彼女のキリとした顔を引き立てる。彼女は少しだけ赤い唇で薄く笑い、先ほど出会った女の子を見ていた。

「せやっ」

 サチが短剣を振る。剣の重量に引っ張られるようによろめく。

「うわわ」

 あわててサチが体勢を建て直し、なんとか倒れないように踏ん張る。そして少し恥ずかしそうにそばで見ていた女に笑いかけた。

「えへへ、やっぱり難しいですね……シリカさん」

「最初はそんなも、ものよ。大丈夫慣れてくれば楽しいから」

 シリカは気取った口調でサチに返す。わずかに声が上ずっているのをサチは気が付かない。サチはふうと息を吐いてシリカに近づいた。頭一つほどシリカが大きい。

 

 彼女たちがいる世界。それはソードアート・オンライン、通称SAOと言われるVRMMORPGの疑似世界である。現実では絶対に使えない「剣」と日本では見られない「草原」が彼女たち。シリカとサチの目の前にあるのはそういう理由がある。

 

 

 

「シリカさんってきれいですよね。……少しあこがれちゃうな」

「えっ!?え、ああ。ありがとう……さ、サチもすごくかわいいと、お、思うよ」

 草原を歩きながらサチがシリカに言う 。シリカは何故かうろたえてサチへ言う。ほめられるのに慣れてないのか別の理由があるのか。

「シリカさんっておいくつなんですか」

「あ、ああ歳?……21かな」

 何かを反転させてシリカは答える。サチは笑みを深くして。

「じゃあ、大学生ですね。あっ、もしかしたら御就職されているんですか」

「だ、大学生だよっ」

 へえとサチが言う。全く無邪気な笑み。尊敬と憧れの混じったシリカとっては「痛い」もの。

「そうだっサチ。今日SAOは初めてなんでしょ。少しお金が余ってるから武器屋で買ってあげるよ」

「そんな……悪いですよ」

「いいって、いいって。それに悪いのは……」

「?」

 怪訝な顔をするサチにシリカはあわてて笑いかけた。

「とにかく、行こう!」

 

 

 

「に、似合いますか」

 サチは防具屋で買った服、ゲーム的言えば防具を着てはにかんだ。

 青い丈の短い上着に裾の短いスカート。その上に胸当て。

 サチは恥ずかしそうにちらちらとあたりを見回した。白い太ももが見えてしまうことが恥ずかしい。

「き、れい」

 シリカが小声でつぶやく。服を選んだのは彼女だがここまで似合うとは思わなかった。

「?シリカさん」

「い、いやなんでもないよ。あはは」

 シリカは薄い憧憬を心に張り付けて笑う。彼女の容姿ならサチに引けを取らないのだが、シリカはサチに憧れのような嫉妬のような不思議な感覚を抱いた。

「とっても似合うよ、サチ」

 花のようにサチの顔がほころぶ。笑顔につられて目元の泣きぼくろが動く。

「ありがとうございます」

 

「……」

 シリカはなんとなくいたたまれなくなった。サチの笑顔に申し訳なさを感じる。

「サチ。今日はちょっと私、用事があるからここで落ちようと思うんだけどいいかな?」

「あっ、そうなんですか。じゃあ今日は私も落ちようかな」

 シリカが手を宙で回すとウインドが現れた。スクロールして「ログアウト」の項目を探す。

「う?」

 ない。前につかった筈のログアウトのボタンがない。

「どうしました?シリカさん」

「なんか、ログアウトの項目がない……」

「ええっ。バグかな、私にはちゃんと」

 サチもウインドを出してスクロールしてみる。ない。

「あれ、ない……」

 サチが言うとシリカはわずかに顔をゆがませた。

「ど、どうしよう。これじゃ落ちれないよ」

「だいじょうぶですよシリカさん。きっと運営の人にかけ合わせれば。どこに言えばいいんですか」

 シリカはサチの言葉を受けて考えてみた。そして気が付く。

「運営のアバターに会ったことない……」

「い、いやきっと。どこかに連絡する場所とか、ウインドに項目とか」

 シリカが首をふる。そんなこと聞いたことがない。サチはウインドを確認してみたが「ヘルプ」すら基本的な行動しか書いていない。

「ど、どうしよう」

 シリカが先ほどと同じことを言い、泣きそうな顔をする。まるでサチに救いを求めるような、あるいは縋るような顔。

サチは自分があこがれた「大人の」女性の弱い部分を見てあわてる。

「大丈夫ですってシリカさん」

 サチも先ほどと同じことを言う。二人とも同じことしか言えない、つまり何も進展していない。

 

 Move(移動)

 

 シリカとサチの前にいきなりそんなウインドが現れる。

「なにこれ……きゃ」

「し、シリカさんっ」

 二人が足元から出得てきた青い光の渦に取り込まれた。

 

 気が付くと街の中央、広場に二人はいた。

 いや、二人だけではない広場は見渡す限りの人である。彼らはシリカたち同様にいきなり移動させられたらしく、少しずつうろたえた声が広場に広がっていく。

 なんだ、何かのイベントか?とざわざわと疑問の声を発する人々。

 

「……大丈夫クライン?」

「あっああ。スグちゃんも大丈夫か?」

 

 周りの変化にきょろきょろと不安な顔であたりをみまわすシリカにサチが話しかけた。

「シリカさん?これ……全員参加のクエストでしょうか」

 サチがなにか話しかけなければと考えたのはそれだった。シリカは不安な顔を崩さずにサチの顔を見て

「そ、そうだよね」

 とそうあってほしいように言う。

 ふっと空が暗くなった。

 二人が驚いて空を見ると。大きな影が空に浮かんでいた。

 影。それが人の姿に変わっていく、それは両手を広げて茶色が表面を彩っていった。

 

 ぐふふふふふふ

 

 クマ吉である。空に巨大なクマ吉が浮かんでいた。

「うおおお?」

 群衆から悲鳴が上がった。シリカたちが驚いて振り返ると、男だろうかプレイヤーの一人が「燃えていた」。男は自分の体から火を消そうと手を振り回す。

 また火が上がった。

「きゃああ」

 女性の容姿をしたプレイヤーが紅い炎に焼き尽くされている。疑似世界の炎は熱くはない。だがパニックを起こしたそのプレイヤーは

「あちいいよおおお」

 男言葉で走り回っていく。それを見てさらに悲鳴が上がり狂騒が群衆に広がっていく。

さらにあちらこちらで火の手が上がった。燃えているプレイヤーが走り回るたびにそれから逃げようとする人の群がもみ合い押し合い阿鼻叫喚の様相を呈した。

「えっ?え」

 めまぐるしく変わっていく目の前の状況がシリカにはわけがわからなかった。ただ手を口に当ててうろたえることしかできない。

 人の群れがシリカに近づいてくる。

「シリカさん!危ない」

 サチがシリカの手を引いて駆け出した。パニックを起こしている群衆は追い立てられているわけではなく散り散りに逃げている。つまりそこには穴がある。

「こっちです」

 サチはシリカの手を引いて人ゴミを縫うように走る。彼女の中には恐怖よりもパートナーへの保護欲が勝っていた。

 

 ところで燃えているのは、むろん男のプレイヤー。そしてネカマである。

 ネカマとは現実では男なのにゲーム中で女キャラクターを選んでしまう業の深い人々の総称である。クマ吉的には邪魔。

 

「だから言っただろう。クマ吉。説明から始めなければこうなると」

 空飛ぶクマ吉の近くに一匹の鳥が飛んできた。その鳥の口からはクマ吉へ声が出る。茅場の声だった。

「うるさいよっ。オスには興味ないよっ」

「私には全く信じられない言葉だな」

 ムキになって言い返すクマ吉にやれやれと茅場は返す。二人はSAO開発からの数年来の協力相手である。お互い不本意ではあるが幾度か夜もともにした、奇妙な関係ではある。

「まあいい。これで男どもはログアウトできた。あとは残った女どもだな。アバターのカスタマイズを解く設定をしておく。可愛くないのは元の世界に返してやろう」

 茅場はかなりクマ吉に毒されている。魚の稚魚を放流するように言った。

「……しかし、クマ吉。出てきた意味がなかったな」

 クマ吉は逃げ惑う女性たちをただ見つめていた。これだけ大規模なイベント設定をしたのにクマ吉が一言も話す前に終わってしまった。それをクマ吉が悲しんでいる、そう茅場は思っていた。

 クマ吉は涎を垂らしながら逃げ惑う女性たちを見ていた。品定め、である。

 へんた……紳士はへこたれないのだ。

 

 

「はあ、はあ、はあ」

 疑似世界の太陽が沈んでいく。赤い夕陽が街道を照らしている。

 そこをサチとシリカは手をつないで走っていく。サチは振り返らない、シリカは従う。わずかに残った二人の「少女」の中にある恐怖が足をとめさせなかった。現実よりもはるかに身体能力があることも原因だった。

「あぐ」

 サチが足をもつらせた。そのまま前のめりに倒れてしまう。

「ぐえ」

 サチが変な声を出した。倒れたところにシリカが倒れてきたのだ。一瞬背中を強打してノックバックを起こしてしまった。サチが恥ずかしそうにシリカに言い訳しながら振り返る。

「ご、ごめんなさいシリカさん。足が引っ掛かってしまっ……て?」

 そこには「女の子」がいた。痛たたと頭をさすりながら起きようしているその女の子は、少し赤みがかった茶髪をツインテールでまとめ。くりとした大きな目に涙を溜めている。唯一サチが「手を引いてきたはずの女性」と同じ格好をしている。

「シリカ……さん?」

「さ、サチ。な、なに……ん?」

 女の子、シリカはサチが目を丸くしてこちらを見ているので怪訝な顔をした。

「どうしたの?」

「ど、どうしたのって。シリカさん顔を……」

「か、お?」

 ぺたぺたとシリカが顔を触る。そして頭を触るとツインテールの片方を引っ張って。

 

 気が付いた。

 

「まままままあまままままままあまあまっま」

 言葉にならない声を出してシリカはうろたえた。自分のアバターを「大人の女性」にカスタマイズしてサチに大人面しつつ、あろうことか「大学生」などとのたまった記憶がシリカにはある。まるで中二病である。

 実際にはシリカは12歳。大学生どころではない。

 シリカの顔が見る見るうちに真っ赤になり、口をパクパクさせる。

 サチはどういっていいかわからず、呆然とシリカを見ている。それがシリカには責めているように見えた。

「ご、ごめんなさいいいいいい」

「あっ」

 シリカは立ち上がって逃げ出した。サチが止めようと手を伸ばしたが、間に合わなかった。

 

 

 シリカが逃げ込んだのは森である。

 ゲーム時間は夜になっていたが森に柔らかな光をはなつ球体が置いてあり。まっくら、というわけではない。

 シリカは巨木に身を預けて座り込んだ。そのまま膝を抱え込み顔を埋める。

「…………」

 いきがって年上の女性に大人面していたのが頭の中をぐるぐるとしている。恥ずかしくて、恥ずかしくてたまらない。シリカは頭を振って記憶を振りほどこうとするが無駄だった、サチの顔が頭に浮かんでは、消える。

 

Mail(メール)

 

 シリカの前にウインドが現れる。シリカは一瞬サチからかと思い、ゴクリと唾を飲んでからウインドをタッチする。

「運営、から?」

 はっと気が付いたシリカはメールを開く。さっきまでの説明が書いてあるかそれとも「ログアウト」の方法が表示されるかと思った。

「な、にこれ」

 シリカはそのメールを読んで愕然とした。

 

 内容は今回のゲームの説明である。

 

1 男のプレイヤーは全てログアウトした。

2 女性は一部を除き、ログアウトはできない。

3 無理に現実世界でナーヴギアを外すとエロいことしか考えれないようにする。

4 この世界でHPがなくなったものは監獄に送られる。

5 奴隷制の採用。一対一の決闘――ディエル――に負けたものは勝ったものに絶対の服従。

6 5に合わせ。奴隷は町で換金可能。

7 勝利条件について。ラストダンジョンを用意した。その中で我々の最強の戦士を倒すこと。

 

注意 モンスターは全てプレイヤーとの生殖を望んでいる。負けた場合「巣」に持ち帰られることもあるため気をつけること。

 

開発者  茅場 晶彦

                        

 

 絶句。シリカには言うべき言葉がない。

 ところどころ意味の分からない言葉もあるが、自分にとって好意的なものではないことは分かる。

 ぐるるるるるるるる

「ひっ」

 モンスターの声がした。普通ならどれほど強かろうが恐れることはないが今は茅場のメールの文面があった。

 

注意 モンスターは全てプレイヤーとの生殖を望んでいる。負けた場合「巣」に持ち帰られることもあるため気をつけること。

 

 シリカは震える手で自らの短剣を掴んだ。

 

 

短剣を構えながらシリカは立ち上がった。ほかのプレイヤーならばいいのだが、今モンスターとエンカウントすればどうなるかわからない。

 シリカは木に背中を預け、あたりに目を光らせる。手に持った短剣がかたかたと震える。多少なりともシリカが戦闘態勢をとれるのは、彼女が心のどこかでこれはゲームだと思っているのかもしれない。

 がさ

 頭上で音。シリカが驚いて見上げると、

 きしゃあああああああああああああああ

 赤い目をした猿型のモンスターが木の上からとびかかってきた。

「きゃああ」

 奇襲。その猿はシリカにとびかかると彼女の手を掴んで短剣を振り落とす。そのままシリカの両手を抑えた。うっと小さな悲鳴をシリカが上げる。

 生暖かい息がシリカにかかる。不気味に光る双眸が彼女を見つめ、その開けた口から大きな牙が見える。

「ひっ」

 シリカは叫ぶことすらできず、目から涙を流す。この少女には目の前の光景が恐ろしすぎてがたがたと震えるしかできない。

 怖い時は歯が鳴る。シリカには経験を持って良くわかった。

「はなしてぇ……」

 かすれた声でシリカが懇願する。猿に。

 猿は舌を伸ばして、シリカの顔を舐める。ねっとりとした唾液を残して彼女の頬を舌が伝う。シリカは目をつむってわずかに顔を背けた。

 猿はさらに顔を近づけてシリカの唇に、キスをした。

「??!」

 目を見開いてシリカがもがく。だが猿の手はびくともしなかった。猿の舌がシリカの中に入って彼女の舌を絡める。ディープキス、それがシリカの初めて。

 シリカはさらに強く暴れた。猿は彼女の腰に乗り手を離す。そして顔をシリカから離した。猿がシリカを馬鹿にしたように顔を綻ばす

「うそだ……うそだあ。ぅああああ」

悔しくて、恥ずかしくてシリカは顔を手で覆って泣き始めた。目の前現実が彼女の童心にはあまりに残酷だった。それでも猿は容赦しない。猿はシリカの両手を手ではじくと、シリカに抱き着いた。そしてまたその顔を舐めて。手を尻にまわす。

「やだ、はなれて、だれか! だれか助けて」

 猿がシリカのお尻を撫でる。いや揉むと言った方がいいかもしれない。シリカが抵抗するたびに猿の舌が顔を舐める。そしてお尻を強く掴まれる。

 猿の手がシリカの脇腹。服の裾をひっつかむ。ぐぐぐと猿が服を引っ張ると、びりと服の端が破れた。少しだけシリカの脇腹が見えた。そこから猿の手がシリカの服の中へ入る。

「やだああ。やだあああ」

 泣きわめきながらシリカがぬけだそうと体をひねった。猿の手が彼女のキャミソールの中にもぐりこむ、そしてその胸を――

 がんと音が鳴って猿の頭が跳ねた。

「ふぇ?」

「キィ!!」

 涙目でシリカが見る。猿の肩に手が乗ってシリカから押しのける。猿が悲鳴を上げて横に倒れた。猿はいきなりのことに受け身が取れず体を打って飛びのいた、そしてよろけながら乱入者に身構える。

「大丈夫っ!?」

 サチの顔がシリカの目の前にあった。彼女の手には短剣が握られている。彼女は威嚇する猿に構えながら、シリカの手を掴む。

「よかった。声が聞こえて……探したんだよ」

 サチが眉を寄せた心配そうな顔をシリカに向ける。ピンチからの反転。一瞬何が起こったのかわからなかったシリカだが、顔をヒクつかせてサチに抱き着く。

「うわあああああん」

 サチは目をシリカに向けてそっと抱いてやると、また猿を睨んだ。

 

 あの後サチはシリカを懸命に探し回っていた。もともとシリカの方が「すばやさ」のパラメーターが高く、見失ってしまったこともすぐに見つけられなかったこともある。

「シリカ『ちゃん』だったんだね」

 片手でシリカの頭をなでながらサチは優しく言った。

「ごめなさい、ごめんなさい。うぞづいてごめんなざい」

 シリカはサチに抱き着いたまま謝った。鳴き声に濡れた声にサチはいたたまれなくなってしまう。

「いいよ、大丈夫だから。……シリカちゃん、前!!」

 猿が飛びついてきた。サチはシリカを抱えて横に跳ぶ。

「あぐ」

 シリカの口から呼吸が漏れた。実際には仮想世界での呼吸は必要ないが、現実の感覚に体が従ってしまう。

「けがはない、シリカちゃん!」

「は、はい」

 サチはすぐに起き上って構えなおした。シリカが無意識にサチの服を掴む。ぎゅっと手に力を入れて体が恐怖をサチにすがることで緩和しようとしているのだろう。シリカはサチに身を寄せた。

 

 シリカは気が付かない。というより頭が回らない。

 サチの手も震えている。そもそもシリカよりもサチの方がSAOの経験が薄い。サチを支えているのはシリカと言う少女に対する責任にすぎない。落ち着いて見えるのは単なるかりそめでしかない。

 サチが唇をかむ。体の底から這いあがってくる寒気を消そうと、虚勢を張る。

 実はこの猿はそう強いものではない。サチかシリカが冷静なら気が付いただろう。この化け物の右上にはゲージが浮かんでいた。すでに半分がない。サチの攻撃で減っていた。

 サチがシリカの腰に手を回して引き寄せる。胸に押し付けるようにかばった。

 シリカも少しでもサチと引っ付こうと顔を押し付ける。目だけは猿を見ている。

 あることに気が付き二人の目が、同時に見開かれた。

 

 対峙した猿の向こう。その茂みに光る数十の目が、こちらをみている。

 

「ぐるうるる」

「がゆう」

 のそのそと茂みの中から何匹もの猿の援軍が姿を現した。目的は二つ、サチとシリカ。

 サチの顔から血の気が引いていく。無理だと心が叫び。守らなくちゃとシリカを強く抱く。手に持った短剣がぶるぶると震え、サチは手に力を込めてとめようとしたが止まらない。

サチはシリカを安心させようと必死に作った笑顔でシリカを見る。その精一杯の笑顔は

「あぁぁ」

 シリカの顔が絶望に染めるには十分すぎた。言葉よりもサチの表情が分からせてくれた。サチの笑顔は「笑顔」になっていない、土気色の肌に引きつった頬が上がっているだけである。

 

 サチとシリカを囲むように猿たちが囲みだした。サチは尚もシリカを守ろうときつく彼女を抱く。自分が怖くてもシリカをかばう姿は感動的ですらあるだろう。

 猿に一匹がとびかかった。

「し、シリカぢゃん」

 サチがうろたえた声を出してシリカに覆いかぶさり地面に押し倒す。猿がサチに体当たりをした。

「ぐっ」

 サチにノックバックが起こる。痛覚はかなり制限されているため致命傷でも痛いということはない。サチのHPゲージが下がる。

「サチさんっ」

 シリカがサチをかばう声を出すが、サチはシリカが自分の体の影から出ないように抱く。

「ぐらあああ」

 猿たちが一斉にとびかかった。サチのを思い思いに痛めつける。叩き、押し、とびかかり、引く。そのたびにサチのHPが減っていく。

「シリカちゃん。頭出しちゃダメ……」

 サチの声がシリカに届く。彼女の手がしっかりと少女の肩を包む。

「サチさん、ごめんなさい。ごめんなさい」

「あっ謝らないで。わ、たしこそ頼りないお姉ちゃんでごめんね……」

 猿の拳がサチを叩く。

「シリカちゃん……」

 サチの目の前にあるHPゲージがなくなった。

「本当に、ごめんね……」

 青い光がサチを包み、消えていく。

「サチ、お姉ちゃん!!」

 シリカが手を伸ばす。その手はがっちりと猿に掴まれた。

 掴んだ猿がにかっと笑う。目的の物を手の入れたのだから。

 

ヒースクリフという男がいる。別の未来では黒の剣士と激戦を繰り広げ雌雄を決した剣の達人。その正体はSAO開発者の分身、つまり茅場晶彦のアバターである。

 彼は森の中に一人たたずみ猿と少女の戯れを見ていた。その目は冷ややかだが、たまに舌なめずりして嫌な表情をする。

「一人譲ってやったのは貸だな。後で返してもらうぞ」

 ヒースクリフは呟くように言う。独り言ではない、彼のそばに「Call(通話)」と書かれたウインドが開かれている。

『けちねーリリ』

『開発者のくせにねーララ』

 ウインドの先から甘い少女の声が響く。だがヒースクリフは煩わしそうに言い返す。

「やかましいな。私はこれから暇つぶしをするのだ。くそっなんでこんな奴らと」

 現実の茅場には愛人がいたような気がしたがこの世界線にはいない。本当にいない。

「……切るぞ。サチの方は勝手にしろ」

 ウインドが閉じて通話を切る。

 茅場は自分の「持ち場」を忠実に守っていた。彼の持ち場はモンスターの管理である。わざわざサチのHPをゼロにしたのは彼の指示である。猿たちも彼の意思で動く。

「シリカ、しり、尻……ええい、いまいましい名前をしおって。思い知らせてやる!」

 彼はいろいろ複雑である。

 

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