クマ吉君の野望【2次創作短編集】 作:堀 吉之助
なぜ、この話を私は完全に忘れていたのだろう。ちなみにリクエストで前に作った、エヴァと茶々丸のプロトタイプの話です。前に作った話なので、文体とかはちょっと違うかもしれません。
注 この話にでてきくる神はギャグマンガ日和のキャラです。
ケツがもみたい。
彼はそう願った。しかしもうその願いは遠い昔に成してから数百年行っていない。あれはいつだっただろうか。少なくとも日本人の腰には刀があった時代だ。彼は昔に思いをはせてむらむらしてくる。純粋にケツを触りたい。いや、揉みほぐしたい。
この際、女じゃなくてもいい。だけどできる限りは女性がいい。
何故彼はここまでセクハラに思いをはせるのだろうか。それは彼のアイデンティティが其処にあるからだった。セクハラがアイデンティティとは人間としてあり得るだろうかという疑問は的を外している。
彼は人間ではない。
その寂しくさびれた頭。貧相な体。まさにくたびれた親父の顔。ただ体が少し透けている。
彼の名を紹介する前にあなたは「一休宗純」の名を知っているだろうか。一休はおなじみ「一休さん」のモデルになった、室町時代の禅僧だ。彼の有名なエピソードに室町幕府の将軍に呼び出され、屏風から「そこに描かれたトラを退治せよ」と言われた時に彼の特技である「とんち」で乗り切ったことなどがある。
だが歴史とは都合の悪いことは残らないという原則がある。たとえば古代から中国では歴史は勝者が書くもので、敗者はひどく書かれるのが当たり前だった。だからこの場合でも真実は他にあった。
実は一休が得意としたのは「とんち」ではなかった。彼の得意としたのはなんと「降霊術」それも神を自らの肉体に顕現させてその英知を借りるというまさに言葉どおりの神技を使っていた。ゆえにあの一休さんにもでてくる「とんち」の奇怪なポーズは考えているのではなく、「とんちの神」を体に降ろしているのだ。
では冒頭の「彼」は「とんちの神」だろうか。否、彼はそうではない。前述の将軍のエピソードの歴史書に「書かれなかった部分」に彼は登場する。
物語のとおりに一休が将軍に呼ばれたことまではいい。一休がいつも通りにとんちのポーズで降霊術を始めたのも問題なかった。しかしその時「とんちの神」は腰を痛めていた。そしてあろうことか代役を頼んだのだ。
それが彼、セクハラの神だ。
彼は一休に乗り移るとすかさず将軍のケツをすさまじい形相で撫でまわし。屏風などと言うものは忘却の彼方に追いやった。つまり彼は室町幕府最強の将軍、足利義満のケツを撫でまわしたほどの荒神である。こんなこと歴史書に残せるわけがない。
冒頭のとおりセクハラの神は最近悩んでいた。一休亡き後は彼を安定的に受け入れるほどの力を持ったものがいないのだ。適正の問題もあるし。そもそも他人が体に入り込むのは人間にとってすさまじい負担になる。あの一休ですらひょんなことで3人の神に体に入られた時「三人はきつい」と言いながら吐血した。
セクハラの神は最近の若い者はと思いながら、日々下界のものたちを物色していた。ここ数百年で研究したセクハラを思う存分に使いたいと思いながらだ。一度、織田右大臣とかいうのに乗り移ろうとして殺されかけたこともあるので、人選については慎重でもある。
「ん……?」
セクハラの神がいつものように下界へののぞき穴を見ているとある男が目に映った。その男、ていうかオスは毛むくじゃらの外見につぶらな瞳で街中を歩いていた。
言うまでもなくクマ吉である。彼は道行く人々を観察しながら言う。
『おしりさわりたいなア……』
セクハラの神は立った。こいつならばと思ったのだ。
クマ吉はアーケード街を抜けて大通りにでた。近くには大きな学校があるらしいからそこにいくのもいいかもと思っている。もちろん侵入してスクール水着や体操服を回収しようと考えていた。別にいやらしい気持ちからの行動ではない、研究に必要なのだ。
「ぐふふうふ」
頭の中で彼はまだ見ぬ水着にほおずりをする。ゴムの匂いがする。明らかに幻想なのだが彼はとても幸せそうだった。
だが今日の彼は幸せとは言い切れない。それは「彼」に目をつけられたからだ。
――おしりを触りたいか?
力がほしいか。みたいな感じで変な声がクマ吉の頭に響いた。だがクマ吉はすかさずに返答する。
「そんなこと考えたこともないよっ。金髪ロリのお尻なんてさわりたいなんてかんがえたこともないよっ」
――よっしゃ。まかせとき
てきとうな返事が頭の中でこだまする。その瞬間クマ吉は体が重くなったことを感じた。
「ぐううう」
それだけではない。体中がみちみちと音をたてる。なにも修行したことない彼の体に「セクハラの神」が入ろうとしていた。その上、セクハラの神はおっさんである。クマ吉の体がすさまじい拒絶反応を示した。
クマ吉の目から血涙があふれ出した。顔と穴から赤黒い血がとめどなくあふれていく。そして彼のつぶらな瞳、その黒目が大きく浮き上がり。血走った眼光が現れた。
実はクマ吉の前に一人の少女が居た。彼女はこの話には全く関係がないが、いきなり目の前のクマが苦しみだしたところから、上記のグロテスクな場面を脳裏に焼き付けることになった。
「おかああさあああああああああん」
大声で叫びながら少女が駆けていく。一生忘れることができないだろう。そしてクマ吉はその少女を虚ろな目で見つつ、歩きだした。彼の意思ではない。その体はセクハラの神の意志によって動かされている。
もちろん彼は願いをかなえるために来たのだ。クマ吉は近くの学園、麻帆良学園都市でその野望を果たす。そしてある意味、主人公になる哀れな「少女」はそこにいた。
麻帆良学園都市。初等部から大学部。果てはあらゆる研究機関が軒をつらねるマンモス校だ。だから学校と言うよりも学園都市と言われる。多くの校舎があり、それに伴って多くの学生が勉学に励んでいる。
だが今は午後になろうという時間。昼休みにも届かない時間帯で遠くに聞こえる体育の掛け声以外はなにも聞こえない。ましてやその校舎の間にある連絡道にはなにもないはずだった。
そこを長い金髪の少女が奔る。彼女は軽く息を乱しつつ、足を動かした。そのたびにこの学園の制服であろう赤のスカートが揺れる。ローファーがかつかつと音をたてる。この時間ならば遅刻者だろう。
「なんで起こさないんだ……」
少女の後ろを長身の女性が走る。耳に何か機械のようなものをつけて、顔は無表情ともいうべきだろうか無機質に少女を見ている。金髪の少女は彼女に恨みがましい目を向けて、もう一度呪詛のように呟く。
「……こせ」
呟いたつもりが疲れて言葉にならない。少女はあまり体力がないらしい。
「すいません、マスター」
にこりともせずに女性は返した。彼女も同じ制服を着ている。それなのに「マスター」などというのは彼女達が普通の関係ではないことを表している。金髪の少女はその無愛想な言葉が気に入らないのか何か言おうと走りながら首だけうごかして後ろを向いた。
そんなことをするから、足がわずかにでた石段にひっかかった。
「う、うああああ??」
ごろごろと転がる金髪。長身の女性はつっと走るスピードを上げた。驚くべき速さで金髪の少女を追い抜き、彼女を押しとどめる。金髪の少女が長身の女性の胸元に突っ込んで、動きを止めた。
「大丈夫ですかマスター」
「う……ふん」
少女は顔をそらす。助けてくれたことを褒めてやりたい気持ちと、自分が無様にこけた恥ずかしさに加えてそもそもこんなことになったのはお前のせいだ、という気持ちが合わさって、中途半端な対応しかできなかった。少女は立ち上がってぱんぱんとスカートについた砂を払う。そしてそっぽを向きながらだが。
「……よくやった、茶々丸」
「はい、マスター」
もやもやしながら言った言葉をそっけなく茶々丸に返されて、少女――エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル(以下エヴァ) はむっと彼女を見る。だがしかたないとため息をはいて、歩き出した。
「いくぞ、茶々丸」
「はい、マスター」
茶々丸の声は変わらない。だがどこか、そう誰にも気が付かれない程度に口元が緩んでいた。
二人が歩き出したことを見計らって、流れる水のごとくクマ吉が二人の背後を取る、武術でいう「めくり」の技術。己が其処にいることをいながらにして隠す絶技である。
クマ吉がエヴァと茶々丸のお尻を撫でた。
「ひっ?」
「……?」
背筋を伸ばしてエヴァは飛び上り、茶々丸はいぶかしげに後ろを見る。そこには口から吐血しながら危険な目をしたクマがいた。つねにはあはあと荒い息をついている。まるでパニックホラーから飛び出てきたようだ。
「ぐふふふっげぼっ」
クマ吉が血を吐く。しかしお尻を触ることができて、顔はどこか嬉しそうだ。そのすさまじい形相からでは他人にはわからないだろう。
「な、なんだ貴様!」
エヴァは身を下げながら誰何する。茶々丸もエヴァをかばうようにして下がった。クマ吉はそれをみて、二人の行動を頭に入れる。エヴァはまた何かを言おうとした。喉が動く、唇が開く。瞬間的な隙。「目の前にいるものを警戒する」よりも「話す」ことに気が取られたた刹那の一瞬。
クマ吉の体がぶれた。エヴァと茶々丸の二人に気が付かれるよりも早く彼女たちの後ろを取る。そうしてその二つの尻を触った。
「なっ」
「……!?」
今クマ吉が使ったのはかの柳生新陰流の奥義「転(まろばし)」。彼の体に憑いているセクハラの神が数百年の研鑽の末会得したものだ。それは相手の動作に合わせつつ、相手よりも先に行動を終えるというまさに奥義の名にふさわしいものだ。こんなこと覚える時間があるなら、もっと他のことをすればいいのに。
「くっ、くう」
エヴァは羞恥に顔を歪めつつ、クマ吉を睨んだ。クマ吉は喜んでいるのか、苦しいのか笑いながら血涙を流す。一種のホラーと言ってよい。
エヴァはクマ吉のとんちきな姿に驚いた。どう考えても先ほどのような動きをできるとは思えない。まさか体に神が憑いていてその肉体の力を100%発揮しているとは思うまい。ちなみに人間は30%以上の力を使うと筋肉を傷める。クマならどうだろう。死んでも本望のような気はするが。
「……」
茶々丸が前にでた。彼女もクマ吉を睨む。
「マスター」
警戒を解かずに茶々丸はエヴァに「許可」を求めた。エヴァは頷く。
「死なない程度にやれ」
裏を返せば死ぬ寸前までやれとも取れる言い方をエヴァはした。茶々丸は「はい」と小さく答えた。ピリッしたわずかな怒りを無機質な顔に表す。クマ吉は彼女の空気を感じ取ったのか即座に土下座の体勢に入った。
迷いのない土下座である。角度も美しい。両手を地面につけて額をゴリゴリと地面に押しつける。
「…………」
「…………」
エヴァと茶々丸はそろって無言になった。目の前で土下座をみると意外に引く。ある意味では謝罪の究極系なのかもしれない。クマ吉に近づき、エヴァは聞いた。腕を組んで、見下しながらだ。
「なんなんだ、お前?」
クマ吉はその声に反応して顔を上げる。その頭がエヴァのスカートに引っかかってめくり上げる。黒いレースのパンツが見えた。
「ぁあああああ? ちょっめひっぱるな!」
「わ、ごふ、わざとじゃないよ」
いつものセリフを苦しそうに言いながらクマ吉はさらにスカートの中に顔を突っ込む。エヴァはスカートを抑えようとするが、クマ吉はパンツにすれすれに顔を近づける。エヴァの太ももに息がかかる。
クマ吉の肩を茶々丸が掴んだ。そのまま、すさまじい力で投げ飛ばす。長身とはいえ女性の出せる力ではない。クマ吉は赤い線を残しつつ、彼方へ飛んでいく。
「大丈夫ですか、マスター」
茶々丸はエヴァに向き直り聞く。エヴァはフルフルと肩を震わせて唇を噛んだ。顔が赤い。
「……お、追うぞ! 茶々丸! この私にあ、あんな仕打ちをしたことをおもいしらせてやるっ」
エヴァの体がわずかに浮いた。そして茶々丸に顎で促すと茶々丸の体も浮き上がる。
空を飛ぶ。それがいともたやすくできる彼女たちは人間ではない。そしてエヴァは少女でもない。
その正体は吸血鬼。それも数百年の時を生き、人々から「『闇の福音』としておそれられたほどの力を誇る。今はとある事情でその力を弱めているが、それでもただのクマに相手できるものではない。その上、茶々丸は彼女とある人々が協力して作ったアンドロイドだった。それからわかるように茶々丸も尋常の女性ではない。
二つの超常がクマ吉を追う。だがそれを見ている者はいない。だからこそ彼女たちがこれからどうなるのかを知っている者もいない。相手はクマ吉ではない。たしかに彼女たちは強大な力を持っているだろう。だが、今度の相手は年季が違った。
セクハラの、神。まさかそんなものがいるとは彼女たちは知らない。
クマ吉が芝生の上に落ちた。
「ごぶう」
背中を強打しつつ、血を吐く。今朝から何リットル流したかよくわからない。しかし痛みはなかった。考えるにいろいろやばいのじゃないだろうか、そう彼も思ってしまう。
「空が、綺麗だ」
仰向けに寝ているクマ吉の上には蒼穹が広がっていた。白い鳥が小さな影を軽やかに動かす。遠くに学生の声が聞こえる。まさにのどかと言ってよかった。それを見ていれば地を吐くとか吐かないとかは些細なことだ。だが今の彼は「吸血鬼」に狙われている。
黒い霧が鼻にかかる。クマ吉が起き上ると、そこにはエヴァがいた。いつのまに近づいたのかわからないが、その顔には怒気が含まれていて、抑えられているのだろうが黒い瘴気がその小さな体躯からあふれている。
茶々丸は何も言わずに、後ろに侍る。もしもクマ吉がエヴァに不用意に近付けばすばやく反応するだろう。
「覚悟はできているだろうな」
エヴァの声が響く。子供のような、それでいてゆっくりとした声。それでも何故か人を圧倒する威圧感がある。クマ吉はごくりと息をのんだ。胸が小さくてかわいらしいと、全然関係ないところを見ている。
「……数百年生きてきたが、おまえみたいなの初めて見たぞ……。ある意味ナギ以来だ」
隠すことなく自分のことをエヴァはしゃべる。なにをしゃべっても後で記憶を消すつもりなのか。ということは「記憶を消さなければ」ならないほどのことをするつもりなのだろう。彼女は片手を上げた。唇が動く。魔法の発動キーを口にする。
「リク・ラク……」
遅い。すでにクマ吉は、いや中の神は準備を終えていた。エヴァが吸血鬼になった時代は約700年前。そのころはもう室町幕府の将軍のケツを揉みおわっている。だから言う。
「ええけつしとるやないの」
クマ吉が変なことを言った。だがこれが魔法の発動キー。
「!?なっ」
エヴァの視界が歪んだ。いや世界が歪んでいく。芝生の緑が、空の青が黒に塗り替えられていく。エヴァは後ろを振り返る。茶々丸の顔が見えて――。
「はっ」
エヴァは気が付くと人ごみの中にいた。彼女よりも背丈の高い人々に囲まれている。だが彼らは彼女を気にかけている様子はなく、手にもった新聞を読んだりゲームをしたりと思い思いに行動している。
「ここは?……まさか転移魔法か? あのクマがそんな高度な……いや待て」
エヴァは自問自答する。彼女は数百年も生きている百戦錬磨の吸血鬼でありながら「高校生」として過ごしていることには理由がある。それはある封印。あの学園から「出ることができない」という制約が彼女にはあるのだ。
ならばここはどこだろう。さっきからごとごとと音がして地面が揺れている。それに見上げれば「つり革」が天井に規則正しく並んでいる。エヴァは人ごみをかき分けながら前へ進んだ。そのたびに人に体を押し付けている。
「これは……」
彼女が少し開けた場所に出た。そこには大きなドアがあり、左右に長椅子の端が見える。そして外の景色が動いていた。外は暗いが、電燈が時折見えては消えていく。
「電車の中?……だと」
エヴァが自分の言葉に疑問を覚える。少なくともここ何年も電車など乗った覚えがない。だから本当に電車の中かもよくわからない。だけれどそうとしか考えられなかった。それでも外の様子から、地下の鉄道らしい。
そっとエヴァのお尻が触られる。ばっと彼女は後ろを見るが、さっきとかわらずに人ごみはわれ関せずとそっぽを向いている。それに電車の車両の中には大量の人がいる。エヴァは気のせいかとドアに向き直った。ここがどこでもいいが出なければいけない。
それに近くに茶々丸の姿もない。多分平気だろうが、速く合流もしたい。そんなことをエヴァは思いながら、顎に手をやる。
「ひっ」
エヴァにお尻がまた触られた。彼女は今度こそと後ろを向いたが乗客たちの様子はかわらない。エヴァは「こいつら……」と怒気を孕んだ声でいう。それでいながら悲鳴を上げてしまったことも恥ずかしい。
「おいっ!」
手前の男に話しかけるエヴァ。彼は帽子を掴んで顔背ける。エヴァはその仕草にいらだち一歩近づく。その瞬間彼女のスカートの中に手が入ってきた。
「……!」
ばっと後ろを振り向くエヴァ。すでにスカートの中には手はない。だがパンツが直に触られた。彼女は羞恥といらだちであたりの人々を睨みつける。男たちは一言もない。そう誰もしゃべらない。目も合わせない。エヴァはやっとこの空間のおかしさに気が付いた。
「ぐっふふうふ」
クマ吉が人ごみの中から現れた。エヴァがそちらを向くと、素早くクマ吉は彼女の前に体操座りをして手を伸ばす。太ももを揉むクマ吉。エヴァは彼を蹴り上げた。
「ぐっふう」
「貴様、一度ならず二度も! 覚悟しろリク・ラク・ラ……」
とクマ吉に気がとられている間に、彼女のスカートの中に手がいっぱい入ってくる。この列車クーラー効きすぎで寒いから暖を取っているだけである。
「なんだっきさまら!? はなれろ!」
魔法の言葉を中断しつつ、エヴァは体を振る。だがその時には「手」はいない。彼女の暖かさを知ってから去って行った。エヴァは列車の乗員を睨むが、だれもこちらを見ない。
「これがわしの奥義だっ。平成になってから考えた」
「な、に?」
クマ吉が口を開く。いやしゃべっているのは彼ではないだろう。エヴァは彼に鋭い眼光を向ける。クマ吉は彼女に紅い涙を流しながら見る。
「この列車は男たちの夢の結晶。『ちかん』の夢に破れた、兵どもが夢の後よ……」
つーとクマ吉の目からさらに血の涙があふれ出てきた。
「セクハラの何が悪いんだ。それだけで捕まえるんなんて警察の横暴じゃないか。男だから、お尻揉みたいだろう。そうだろうみんな!」
「な、なにを言っているんだ……?」
エヴァは引いていた。良くわからないが別にわかりたくもない。だがクマ吉は続けた。
「この列車にはチカンしか乗っていない。古今東西の『英雄』たちを集めた列車だ! チカンをするだけで迫害された男達の救済の場所だ」
後ろですすり泣く声が聞こえた。エヴァが振り向くと何人かの頬に涙が伝っている。
「なんで、泣いている……?」
理解できない。エヴァは口を開けて呆然とした。空間を作り出す高度な魔法を、こんなことに使う人間が居たとは。どちらにとっても人間ではないが。
「ま、まあいい。どうせ貴様は私自ら引導を渡しやるのだからな」
エヴァがはんと鼻を鳴らしてからクマ吉に言う。その小さなお尻がスカートの上から多くの手に撫でられる。
「……くっく。今のうちに、謝れば手加減しやらんこともないぞ……あっ……。い、いい加減にしろ、貴様ら」
かっこつけて喋っている時に尻を触られ、エヴァが赤くなって手を振り払う。その隙にクマ吉が後ろにまわった。この人ごみの中でも彼の動きは自由自在。無人の中を行くようなものだった。
エヴァの後ろから手を回してお腹と胸の間を揉んだ。胸ではない。しかしお腹でもない。クマ吉の手に柔らかな感触と同時に、骨の固さが伝わる。甘い香りが鼻を衝いて、クマ吉はほふうと息を吐く。
「なにをする、はなっ?」
とエヴァが体を捻って離れようとするが周りの人ゴミが邪魔で思うように動けない。これが経験の差だった。もぞもぞと抵抗する。クマ吉はその動きに合わせて幼いエヴァの体を手でまさぐる。
スカートの上から彼女の股に手を入れた。撫でる。エヴァはくっと声を出して顔を背ける。
クマ吉だけではない周りの男達も彼女の太ももや腰に手を伸ばして触る。ただし誰も声を上げず、かといって触る以上のことはしない。それでもエヴァにとっては気味の悪いものだ。
「さあ、ここを見せてもらうよ。ぐふふふ」
「なっなにをするつもり……やめ……えっ?」
クマ吉は彼女のポケットに手を入れた。中から赤のハンカチが出てきて、それをクマ吉は吸う。ついでに舐める。エヴァは何かしらの性的行いをされるかと身構えていたのだが、されたのがそれなのでぽかんとしてしまう。持っているハンカチを取られるのは嫌だが、意味は分からない。
「…………」
エヴァはわけがわからずに無言になってしまう。クマ吉はハンカチを懐に仕舞ってから。もう一度エヴァのポケットに手を入れた。今度は彼女もあまり抵抗をしない。何をしているのかわからないから困惑しているのだ。
だがポケットはスカートについている。その下は、なんだろう。
「あっ、き、きさま」
「ち、ちがうよ。別にいやらしい気持ちなんてないよ」
クマ吉はポケットの中から彼女の下半身をまさぐった。エヴァが離れようとしてスカートが揺れる。ただしクマ吉は離れない。
「がっ?」
エヴァが今度こそはと手足に力を入れた瞬間にそれは入ってきた。彼女の口に「カルピース」のペットボトルが入ってきたのだ。白い液体がなみなみと入ったそれはエヴァの唇を開き流こんでいく。
「うぐっうぐ」
何か言いながら白い液体を飲まされる少女。唯のジュースだが。これを飲んでいる間は術の詠唱ができない。その上体中を揉まれている。男たちは無言でペットボトルを彼女の口に押し付ける。
クマ吉がはあはあ言いながら、エヴァの胸を揉み始めた。手のひらを大きく開いてからゆっくりと揉む。その間にもエヴァの下半身をポケットの中からまさぐるクマ吉。
エヴァの口から白い液体がこぼれて、口元を伝って行く。その頬がだんだんと赤くなっていくことをクマ吉は見逃さなかった。
「いいよっ。その調子」
激励の声をかけながらクマ吉はしっかりとエヴァの体を抱き寄せた。それからスカートの中をまさぐり続ける。いつの間にか、エヴァの太ももに何人もの手が伝い、すうと撫でる。滑らかな肌を男たちの欲望が伝う。
「ぎ、ごヴ、きさ」
抗おうとするエヴァのスカートがぱっと、たくし上げられた。それで彼女は電車の中でパンツを丸出しになってしまう。たくし上げているのが、クマ吉なのかほかのチカンなのかわからないのは流石に古今の精鋭たちといえよう。
エヴァは体中をまさぐられる。胸を揉まれ、太ももを楽しまれる。だが、チカンたちにも礼節があるのか服を直に脱がすような蛮行はしない。
「はっやめろ」
エヴァの剥き出しになっているパンツを両側から引っ張ってくる誰かがいる。それで彼女の「筋」がパンツに浮き上がり、誰かの指がその線をなぞる。彼女は身もだえして逃れようとした。周りは私語なく、はあはあと息が聞こえる。
エヴァの両手が誰かに引かれた。彼女は何かを言いながら中腰になる。パンツを剥き出しのまま中腰になれば、スカートの隙間から見えるブラウスとパンツの間に肌色がクマ吉には見えた。それで後ろにいたクマ吉はすっと膝を折って、パンツに目線を合わせる。
「ふむう」
なんかいいながらクマ吉は手を顎にあて、目の前のパンツを観察する。引いてはエヴァの小さなお尻を観察していることになるのだが、彼はクマがこんな餌に釣られるわけがない感じのポーズをとっている。
「ええけつや」
ニッと笑って、両手でエヴァのお尻を揉み始めるクマ吉。パンツの布が萎れて、伸びてお尻の柔らかい感触が彼の肉球を刺激する。
「ふ、ふざふざけ、もが」
エヴァは何かを抗弁しようとしたが二本目のカルピスをチカンの誰かに口へ突っ込まれて、行動をキャンセルされてしまった。だから、お尻を揉まれることを甘んじて受けることになってしまったのだ。
クマ吉は、いやセクハラの神は恍惚の笑みを浮かべて念願のケツを揉み、寄せる。筋を少しパンツに浮かび上がらせるという荒業を行ったりと、その技術を如何なく発揮する。
その間にもエヴァは他のチカンに手を引っ張られた状態で胸を揉まれたり、体中を触られたりした。しかし、口にはペットボトルが入っていて、どうしようもない。敵意に満ちた上目遣いで目の前のチカンを見るが、目の前の者は背中を見せている徹底ぶりだ。チカンの時に眼を合わせるバカはおらず、チカンには阿保しかいない。
しかし、セクハラの神は満足だった。そろそろ解放してあげようと思ったのだ。だが、彼がそんなことを思った瞬間にそれは起こった。
天井に付いたスプリンクラーがばしゅと音を立てて雨が車内に振り始めた。クマ吉ことセクハラの神は何事かと眼を丸くする。ここは自分の空間なのだから、すべてが自らの手のひらの上であるはずなのだ。エヴァがうまく魔法を構築できないのも、邪魔されるだけではなくこの空間にいるからでもあった。
その空間がセクハラの神の知らない動きをし始めた。そして、それは神の体にも起こった。
エヴァのパンツをクマ吉は一気に脱がした。それでエヴァの小さなお尻と割れ目があらわになってしまう。
「ヴぁあ」
カルピスを吐きだしながら振り払い、エヴァは真っ赤になって後ろ向く。流石に恥部を見られては屈辱よりも恥ずかしいことが勝つ。しかし、クマ吉は容赦なく彼女の両太ももをつかんで開かせる。中腰で股を開かされたエヴァはまた何かを叫んだ。
「な、なんだ、体が勝手に」
クマ吉(セクハラの神) は驚愕した。ここまですればチカンではない。それでは自らのアイデンティテーの危機だ。彼は慌ててエヴァにパンツを履かせなおそうして、彼女の足首に引っかかっている布に手をかけた。
つかんだパンツを無視して、クマ吉はエヴァの恥部をなめ始める。
「き、きさまま、やめろお」
「ち、ちがうぺろぺろ、わざとじゃ、ぺろろ」
口で擬音を出しながらクマ吉はエヴァのお尻から恥部をなめる。少女のそれはほのかにあたたかい。彼は舌を縦横無尽に動かして、彼女の女性器をなめる。たまに吸う。わざとじゃない。
「はっ」
そこでクマ吉は気が付いた。エヴァのお尻をなめて気が付いたのだ。あたりはスプリンクラーからの雨が降りやまない。エヴァの玉の肌に水滴がついては流れていく。周りのチカンたちは何が起こっているのかわからずにエヴァの胸を揉んで落ち着こうとした。
「こ、これはわしの体を、奴が」
奴。それはセクハラの神の体の元々の持ち主であったものだ。彼が今体の中で反乱を起こしたのだった。エヴァのお尻に呼び覚まされたのかもしれない。
――ぐふふふふ
脳内に響く下賤な声にクマ吉は反応した。間違いなくクマ吉の下卑た声である。それにクマ吉はエヴァのお尻をなめながら、クマ吉に語り掛ける。セクハラの神がクマ吉になっているので、頭の中でクマ吉の声がしてもう訳がわからない。セクハラの神も「わしの体」などと言っている。
「悪霊め、ぺろぺろ立ち去れ!」
――い、いや僕の体何を返してよっ。
「図々しい奴めっ」
――ええっ?
セクハラの神とクマ吉は精神世界で不毛な言い争いをする。どっちが勝ったところでエヴァにはいいことなど一つもない。しかし、これは千載一遇の機会だった。彼女は反撃にでる。
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック」
下を向いたままエヴァはそう言い、にやりと笑う。瞬間に彼女の体から冷気がほとばしり、クマ吉や周りのチカンたちを吹き飛ばした。冷気は空中の水滴を凍らせて、雪にする。これこそが彼女の得意とする氷の魔法だった。
エヴァはパンツを履きなおして、ぱさあっとその金髪をかき上げる。周りには雪がゆっくりと降りていく。美しい美少女と雪が、幻想の中にいるような錯覚を生み出す。
「くくく、よくもやってくれたな、貴様ら」
穏やかな雪の中で、少女は殺気に満ちた笑みを浮かべる。チカン達はそれでも声を出すことなく、冷気に身を震わせる。クマ吉も体中に凍り付いた霜を張り付けて、立ち上がった。
「こりゃあ、喧嘩しとる場合じゃないな」
――ふう。仕方ないね。
クマ吉は自らの左手で右手を持つ。それは一人でできる握手の方法だった。彼の中で二人が和解したのだ。別名、打算による妥協ともいう。
エヴァはそんなことに頓着はせずに、生み出した冷気を強くする。ぱりぱりと電車の壁が音を立てるのはその芯まで凍っていくということだ。エヴァはこの変態達ごとすべてを凍らせるつもりだった。
クマ吉はそんな中で着ているものをすべて脱ぐ。そして冷気をすべて受け止めるように両手を広げる。がたがた震えながらも、彼は一歩もひかない。もはや彼はセクハラの神でもクマ吉でもない、真のクマ吉だった。
「!? なっ。なんのつもりだっ」
エヴァは驚愕の声を上げた。それはまるでクマ吉が自殺をしているかのようにすら見えるからだ。だが彼はそんな気持ちは微塵もなかった。
「心頭滅却すれば火も股が涼しい」
クマ吉はなんか言う。訳が分からないように見えるがチカン達は彼の勇気に振り立った。彼らも全部脱ぐ。男達はみんな絶対零度の中で素っ裸になった。これを見ているものがいればどう表現すればいいのか迷うだろう。
「ば、バカか? 貴様ら!?」
エヴァは言う。しかし、クマ吉やチカン達は本気だった。彼らはぱぱぱんと自らかのお腹を手で鳴らし、クラウチングスタートのポーズをとった。
「お、おい」
エヴァはそのクラウチングスタートの円の中心にいる。つまり、それは彼女がゴールということだ。エヴァはさあと青くなり、あたりを見回す。裸のおっさんの群れが見える。
「な、なんだ、これ」
エヴァは当たり前の疑問を口に出したとき。チカン達は彼女に襲いかかった。
「や、くくるぶええ」
エヴァは体中におっさん達とクマ吉の手で触られた。それどころか、服を引っ張られて、スカートを手早く脱がされる。脱がされたものはおっさんの暖炉になる。スカートであったまるのだ。
「君も裸になるんだ!」
クマ吉はいう。エヴァは何かをわめきながら冷気を強めるが今更そんなものには何の意味もない。それどころか彼女は墓穴を掘った。
「つめたいぃ」
エヴァのパンツの中に無数の手が入り込んで。しきりに愛撫する。しかもその手はすさまじいほどに冷たい。これはエヴァの自業自得と言っていいだろう。しかも、今回はブラウスの中にも手が入り込んできて胸を揉まれる。
エヴァは男たちに押されて倒れこんだ。パンツをその拍子にするりと脱がされる。彼女は股を手でかくして、真っ赤になる。「わあああ」と何かを言っているが、この状況を作りだしたのは彼女である。人を凍らせるとか、法律に違反していると思う。だからこそ、彼女は今四つん這いになって罪を償わなければいけないのだ。
だからこそ、お仕置きが必要だった。エヴァはブラウスの胸元を開けられて、中のキャミソールをたくし上げられる。ぷると小さくゆれて、わずかなふくらみが顔をだす。
その乳首が寒さからか、ちょっとだけ反っている。そこにクマ吉は持ってきた氷を当てた。
「ぅぅ」
乳首を氷で冷やされてエヴァは唸る。なんでこんな状況になっているのか本気でわからないが、クマ吉は真剣だった。彼はさらに冷え切った手で彼女の胸を揉む。あったかい。
「や、やめろ」
クマ吉はチカン達と共にエヴァの体をまさぐった。エヴァはそのたびに自分が冷やした者たちの冷たさと苦しみを味わうことになる。そんな中で彼女は両またを広げられた。
クマ吉はその前に冷え切った男根を出す。キンキンに冷えている。だがそそり立ったそれを我慢はよくないとクマ吉は思った。だからとりあえず挿入した。
「あっ」
エヴァは上を向いて口を開ける。そこに別のチカンの男根が入る。それも冷えている。エヴァはモガもがとうめいて、上下から突き上げられた。魔法を使ってもこの体たらくである。
(つ、めたい。はなせ)
エヴァは何かをつかもうとして、逆に誰かに乳首をつままれた。彼女は驚いたが、下からクマ吉に膣を揺らされて思考が四散する。
「!」
エヴァは口の中で男根があたたかくなっていくのを感じた。自分の舌が男性器を温めているのだ。それは彼女の幼い割れ目も変わらない。彼女が冷やしたのだから、これは彼女が償わなければいけないのだ。
「はぉ」
クマ吉が奇声を上げて、エヴァを突き上げる。それは前からも変わらない。
じんわりと下腹部に熱いものがひろがり、口の中にもそれが満ちていく。
(あ、あたかかい)
エヴァはそう思った。
まだチカン達は何人もいる。エヴァはそれらすべての男性器を温めることになった。
時には騎乗位で、あるいは手でこすって。お尻で、胸で。温め続けた。ていうかこの魔法空間がどうやっても逃げられないのでそうするしかなくなったのだ。
「ま、ますたー」
同じようにこの空間に閉じこめられていた茶々丸も男の一人、その男根をその豊満な胸で挟んで温める。その横でエヴァが他の者のそれを、その平らな胸でこすっている。二人で全員を温めることになっていた
その様子をクマ吉は賢者のような顔で見ていた。しかし、彼の頭の中に声が響く。いや、彼の前にあのくたびれたおっさんの姿でセクハラの神が現れた。
――世話になったなクマ吉。わしはもう、帰る。
「ええっ? 帰るだって!」
セクハラの神にクマ吉は驚て声を上げる。はたから見れば一人ごとであり、気味が悪い。
――ああ、わしが帰ればこの空間は消える。そんな時はお前らも元の世界に……おっ迎えが来たようだ。
クマ吉はハッと上を向いた。電車の中なのに空からライトが当てられたように、クマ吉の周りだけ明るくなる。そして、天井をすり抜けて、三人のやさしげな顔をした赤ん坊の天使が現れた。なぜか一人はぱっつんぱっつんのパンツで背中に矢を持っている。
――ふふ、天使が迎えに来るとは……じゃあなクマ吉、元気でやるんだぞ
「そ、そんなぼくはまだ」
そう言いながらクマ吉は消えていくセクハラの神に手を伸ばした。そしてその間に天使が割り込んでクマ吉の手に手錠をはめる。
クマ吉は両手を手錠をはめられて、えっと驚いたあと、ふうと息を吐いた。
「まいったね」
見るとセクハラの神にも手錠がはめられていて、クマ吉と彼は宙に浮いた。天使に皮をできる限りつねられる形でもたれて浮かび上がったのだ。そのまま空へ登っていく。
――まさか天界に逮捕されるなんてね。でも忘れないんでほしいんだ。僕たちは、かわいいお尻に惹かれただけの犠牲者だってことをね。
うーん、鈴乃さんの話のプロトタイプでもあったか。と読み直して考えたり。