クマ吉君の野望【2次創作短編集】 作:堀 吉之助
キリトは姿見の前に立った。透けるような白い肌の女の子が恥ずかしげに立っている。もじもじする姿は少女らしく、男心をくすぐるものだろう。それが自分でなければの話だけれど。
キリトは胸元を隠している。自分の体なのに、それを見るのは罪悪感がある。腿をすこし曲げて、腰をくねらせて自分の下腹部が鏡に映らないように彼女はしている。
「……ほんとうに……」
赤い顔を俯かせてキリトは歯切れ悪く言った。彼女はつい数日前まで間違いなく男だったのだ。それがこのようなことになってしまい、さすがにショックを隠し切れない。
彼女の前にある姿見。その近くには綺麗に折りたたまれた服が置いてあった。黒のシャツにそれと同じ色のロングコート。そこまではキリトがMMOをするときに愛用する服装と大して変わらない。
キリトは体を隠しながら膝を曲げて、体を下げる。腕を伸ばしておかれたシャツをめくってみる。彼女が腕を胸から離したが、膝に押し付けるようにその双丘を押し付けているため見えない。
「……」
服の下から青いパンツが出てきた。男用のものではない、女性。それもおそらく中学生程度がつける飾り付けの少ないもの。キリトは唇を噛んでそれつまみ上げる。
心臓がばくばくと音を鳴らす。なぜこんなところに女性用の下着があるのかなど考えなくてもわかる。必要な人など一人しかいない。そうキリトという女の子以外にこれを必要とするものなどいない。
キリトは一度パンツを床におろして、目の入らないところに置く。そんなものを着なければいけないのは何故かわからないが罪悪感がある。ただの布と言われればそうだろうが男だった身では辛かった。
ごそごそとキリトはシャツをまさぐる。どうやらブラジャーのようなものはない。ほっとするキリトだが、それは直に服を着なければならないことだと後から気が付いた。
キリトは気が付く。ズボンもない。必死になって探してみたがどうやら本当にない。キリトの背中に冷たい汗が流れる。パンツをはくかどうかは決めてなかった。ズボンがあればそれだけでもよかった。
まあ、桜が用意するとすればスカートだろうが――。
キリトは気が付く。シャツの裾がかなり長い。これを着れば少なくとも膝上までは隠れるだろう。つまりは、そういうことだとキリトは理解した。最初から下半身を隠すものこのシャツとパンツしかない。
それでも着なければならない。キリトはとりあえずシャツを手に取って、中に片手を入れてから袖に腕を通す。その時、何となく姿見を見てしまった。
胸が見えた。横から。
「きゃあっ!……い、いやちがう」
女の子のような悲鳴。いや、キリトは性別に「相応」する声を上げた。自分の体を自分で見て、勝手に恥ずかしがっている。その上心の中で言い訳をしていた。
(み、みたくて、見たんじゃない。いや? でも自分の体だし……ちがう、俺の体じゃない。これは、その……)
キリトは顔を振ってから急いでシャツを着た。かなり風通しが良くてひんやりしている。その布がキリトの体を滑る、彼女は目をつぶって口を引き結んだ。男の時は考えたことのない感触。ただ服を着ただけなのに、それが――。
キリトは再度頭を振った。確実に違う。絶対に違うと自分の心に言い訳をする。何度目だろうか。少なきもここまで超常の現象が起こったことで彼女は混乱している。
そして好奇心が、湧いてくる。
キリトの脳裏に自分の裸体が浮かんだ。それはさっき彼女が言ったとおり「自分の体」としてはまだ脳が良く認識していないもの。そしてさきほどしっかりとその胸を見た。白いふくらみが、とキリトは考える。
キリトはあたりを見回した。誰もいないことを確かめる。それでも誰もいないはずなのに誰かに監視されているような気になってしまう。だがそれ以上にキリトは湧き上がるものを感じた。
今彼はシャツを着ていて太もも以外は見えない。キリトはその隠れた下腹部に視線をやった。シャツに隠れた場所で腿が動くたびに。小さな波が布を走る。
その下。みたい。
キリトは自分の体だと思う。だからそれを見て「悦ぶ」にはおかしい。だけれど自分の体だから「いい」ではないか。誰にも迷惑をかけることはない。自分の体をみて、それがなんだというのだ。
じんわりとキリトの心が溶けていく。男として固めてた心がどろどろと溶けて、それが彼女の体にまとわりつきながらキリトから離れていく。だがまだ失い切っていない。だから手が動く。
シャツの中に手を入れてみた。めくったりはしない。それが最低限の譲歩だったのだろう。キリトは中で指をゆっくりと動かす。見えないから心臓の音が増す。見えないから想像が膨らむ。もともと男性器があったところに何もなく。何も感じない。
そっと触る。
「ひゃう」
キリトは腰を折った。なんだ今のは。少し触っただけなのに体を突き抜けるような衝撃を感じた。彼女は頬を赤に染めて薄く口を開ける。小さく震える赤い唇。その肩が動く。布の音がする。
キリトはごくりと唾を飲んだ。今の感覚がなんなのかわからない。しかし「たしかめなければならない」と思う。それは仕方ないことだと、そう正当化しながら。彼女はもぞもぞとシャツの中をまさぐる。
指の先に柔らかい感触。彼女の滑らかな肌とは違う。触るだけで身を折りそうになるほどの快感が走る場所。彼女はゆっくりとそこを指でなぞる。穴みたいなものが開いていることだけは分かる。さっきから心臓がうるさい。
「……ぅ……」
キリトは声を押し殺す。今度はさっきのようなかわいらしい悲鳴は上げなかった。だがさっきとは違い彼女の体は火照り始めている。昨日今日で女の子になった彼女はとても「敏感」なのだろう。
指が濡れる。なぜそうなるのかわからない。すぐに抜くべきだろうが、湿るほどに得も知れぬ快感があった。キリトは指を抜くことが、できない。
「ぁっ…………ぁ」
声が漏れる。押し殺したはずのそれが外に出て行く。頭がぼやける、思考が鈍くなっていく。やめなければいけないという考えが薄まっていく。もっと奥へ、もっと奥へ。指が無遠慮にキリトへ入っていく。
「たっのしそう、ですねー」
「ぅう!!」
いきなりの声にキリトは後ろを振り向いた。反射的に指を抜いた。
桜がニコニコ笑ってそこにいた。キリトは自分の痴態を見られたことで言葉が出ない。桜は「彼」を教育した時から着替えていた。胸の大きなリボンのついた黒のドレス、短めのスカートにはフリルが付いていて元々の桜の容姿と相まって、まるで人形のようだった。
「おねえさん、楽しんでくれているようで。嬉しいです」
「そ、そんなわけないだろっ」
「そうですか―?」
桜はキリトの下半身を見る。わざとらしく首を動かしたのでキリトにもどこを見ているのかよくわかった。キリトはばっと身を下げる。恥ずかしげに横を向いた。
「んー?」
桜はそう言いながらキリトの顔を覗き込んだ。妖艶な笑みたたえた彼女の顔をキリトは見ない。恥ずかしいからだ。桜は満足げにふんふんと言いながらキリトに言葉をかけた。
「男に、戻りたいですか?」
「当たり前だろ! き、急にこんなことになってだれが喜ぶんだ!」
「喜ぶ? 私そんな言葉使いましたっけ? もしかして」
桜はいったん言葉をきって、顔をキリトの横に付ける。耳元でささやく。
「喜んで、いました?」
その声は静かで、粘性を持つ。キリトは顔を振って否定した。
「そ、んなわけないだろうが」
「そうですか。キリトさんが倫理的に女性になったことを嘆いているのは分かります。でもですね――」
桜はキリトの目を見る。紫の瞳が彼女を捕まえる。目で、捕まえるとは不思議だがキリトは動けない。くすりと桜は笑って、
「欲望の限りを尽くせる体が手に入れられて、キリトお姉さんは喜んでいますよ」
桜は言う。断定の口調でキリトに。キリトは桜の目の魔力に射すくめられて何も言えず。何も思えない。否定も肯定も言葉ではしない。しかし黙認はあくまで肯――。
「ちがう! お、おれはそんな」
「いいえ……お姉さんは喜んでいますよ。こう思いませんでしたか? 自分の体だから『好きにしてもいい』って」
「うぐ」
「ほらね。思ったでしょう。だからスカート、いやシャツの中に手を入れて『気持ちのいいところをまさぐっていたのでしょう』?」
「そ、それは」
「うるさい、お姉さんですね」
にっこりと笑って桜はキリトのシャツに手を入れる。そして股の間に手を入れて、擦る。
「あぁ……?」
「そうそう、ここが気持ちよかったんですよね? いやらしい考えで、とっても気持ち良くなりたかったんですよね?」
「ち、違うぅ」
「はっきりと言ったらどうですか? 女の子になって嬉しくてたまらない。もっと、もっと体を弄りたい。そう願っているんでしょう? その手で体中を味わいたいって思っているのでしょう?」
桜は容赦しない。キリトは否定できない。それは多分に真実を混ぜてあるから。
もちろん桜の言っていることが全てキリトの願いではない。だが桜の言葉はキリトの過去をえぐるような魔力をまとい彼女の胸に刺さってくる。言えない。反論できない。だから真実と一緒に混ざった「妖言」がキリトの脳内に入ってくる。
一種の洗脳とってもいい。心を堕とすことを目的とした。
「はなせっ」
キリトは桜を突き飛ばそうとして、すいと桜に避けられる。そのまま前につんのめり、キリトはお尻を突き出す形で床に倒れた。彼女の下半身はシャツで隠されているだけだ。それゆえこのような格好をするとすぐに見える。
キリトは真っ赤になって起き上ろうとした。そこを桜が腰を抑えて床に押し付ける。これでは身を起こすことはできない。むき出しになったお尻を振ってキリトは離れようとする。無理だった。
「ここが気持ちよかったんですよね?ねっ?」
「はうぅ」
桜はぺロリと唇を舐めてからキリトの股に後ろから指を入れる。くちゅと音を出して、キリトがそれを受け入れた。勿論下半身の、奥に。
指が動く。
「やっうあ、やめ」
指が動く。
「ひゃう」
キリトは桜の指が彼女をまさぐるたびに望まぬ声を出した。たかだか10歳程度の女の子に抵抗することもできない。桜はくちゅくちょと楽しそうにキリトを弄ぶ。
「はいっお尻を振ってください」
「だ、だれがそんなことを」
「へえ?」
指でキリトの「穴」が大きく開かれた、股の間からねっとりした液体が零れ落ちていく。
「ここを『マッサージされる』のとどっちがいいですか? 選ばせてあげますよ」
「…………」
「じゃあまっさーじ」
「ま、まて、わ、わかった」
ゆっくりとキリトはおしりを振る。自分から。そう桜に仕向けられたとはいえ情けない姿だった。小ぶりのお尻はいったりきたりして、動く。その間桜は何もしない。だって何もしなければ何も感じないだろう、しっかりとキリトに「自分でお尻を振っている」というわけのわからない敗北感を植え付けれる。
「もう……いいだろぉ……」
弱々しい声でキリトは言う。まるで懇願しているようにも聞こえた。桜は頷いてからキリトの女性器に指を入れた。
「はっう?!?!? な、なんで」
キリトはたまらず身を反らす。なにも心構えをしていなかったから防御できない。目元に溜まった涙が飛ぶ。桜は確かにキリトへ選択肢を与えた。だが彼女は言っていない、それを行うのは「どちらか」などとは一言も。
「ふんーふーん」
桜は何かしらの鼻歌を歌いながらキリトの下半身でぐちゅぐちゅと遊ぶ。歌に歌詞はいらなかった。
「やめて。ひいぃ。やめへお、おれ。おとこ」
キリトが歌う係りだから。
「私は女の子になって嬉しいです、っていえば許して差し上げますよ」
「い、いうわけないだろ」
「そうですか―。じゃあ、私はここがとっても気持ち良くて触ってしまいました。って言ってくれたら。やめますよ? 約束します」
「……」
桜は指でキリトをかきまぜる。ねっとりとした愛液が指につく。キリトはたまらずに声を上げてよがった。
「ここがかゆいんですよねー」
「あうぅ」
「どうしますか?」
キリトは考えた。さっきと一緒で下半身をまさぐられると意識が朦朧としてしまう。早く決めないと心が折れる。それに「最初の要求」よりも「後の要求」の方が認めても害はない。そう桜が並べたのだから当たり前だが。
「お、おれ気持ち良くて」
「違いますよ、そーれ」
「……ぃいい?」
「『私はここがとっても気持ち良くて触ってしまいました』です。勘違いしないでください」
「わわかった」
「じゃあ早くお願いしますね」
「わ、わたひはっ、やめへいうから」
キリトが話すときも桜は指を緩めない。さらに奥に入れ込む。くちゅくちゅと音を立てながら桜はキリトを苛める。桜はがっしりとキリトの下半身をつかんでいるので体勢的に有利だ。
キリトは顔を床に付けて、ぐりぐりと頭を地面になすりつける。その口から垂れた涎が小さなシミを作っていた。
「嫌ですよ。おねえさん? 頑張って言ってください」
桜はやめない。キリトは歯を食いしばって涙目で彼女を見る。桜はそのかわいらしい童顔を笑顔で染めて、楽しそうにしていた。キリトは「ひどぃ」と小さな悲鳴を上げたが効果はない。
「わ、私はここがとっても気持ち良くて触ってしまいましたぁ」
あれから数分しか過ぎていない。だがキリトは桜に許しを乞うために何度も何度も言い直し、やっと言えた。桜はぱっとお尻を離した。キリトはそれで解放されたようにぐったりと床に伏せる。お尻を隠す余裕などない。荒い息と熱い汗が彼女の状態を物語っていた。
「やっぱりキリトお姉さんは気持ちよかったんですよね。なんといっても自分で言ったんですから」
「…………」
わざと桜はキリトの耳元で言う。疲れ切ったキリトの脳が無抵抗に受け入れる。それに自分で言ったことも間違いない。悔しさがこみあげてくるけれど、反論の仕様がない。
桜は床に落ちていた青のパンツをとって、キリトの後ろにまわる。そうしてから彼女の両足首を掴んでするするとパンツを通す。桜の指で伸びたパンツが膝のあたりまで履される。それ以上はキリトが膝を立てているため桜にはどうしようもない。
「お姉さん」
にっこりと桜は言う。
「女の子のパンツ。はいてくださいね」
「……」
キリトは何も言わずに身を起こした。少々恨みのこもった眼を桜に向けつつも、反抗することもなく膝のあたりに引っかかった青い布に目をやった。唇をかむ。さっきのことで羞恥心と反抗心が鈍っているが、それでも彼女の中にはそれがまだある。
もう一度キリトは桜を見る。桜はにこにこしている。圧倒的な差はないはずだ。相手は少女、もしもキリトが本気でかかればなんとかできるのかもしれない。だがキリトは桜に微笑まれてひっと身を下げた。完全に精神が負けている。
時間をかけてじっくりと自分が下なのだと調教された黒髪の少女。それが今の彼女だった。
キリトは意を決して、パンツの両端を掴む。ゆっくりとその柔らかい布で下半身を包んでいく。男のトランクスとは全く違う感覚。
「…っ……」
声が出た。キリトはあわてて首を振る。行動で桜に言い訳する。今回はなにも桜は言わない。
言わないからこそ辛い。キリトは桜が心中で自分を馬鹿にしているのだろうと屈辱を感じる。重ねて言うが桜は何も言っていない。キリトは自分で考えて、自分で恥ずかしがっている。
キリトはパンツをはき終わった。これで完全に女のこの格好になってしまった。あとは頭にリボンでもつければ戻れないかもしれない。
「準備できましたねー。お姉さん。……とってもかわいいですよ、鏡見てください」
鏡を見て。ではなく見ろと柔らかく桜は言う。穏やかな命令。
キリトは鏡に目を向ける。そこにはワンピ―スのような黒い服に身を包んだ少女が居た。もじもじと太ももを動かしているのがキリトには良くわかる。その少女は鏡の中で横を向いた。目だけが鏡を見ている。流し目。恥ずかしくてしたそれが、妙に艶めかしい。
「かわいいでしょう? これがキリトお姉さんですよ」
「ちがう……」
力のない否定。キリトは涙を目に溜めながら小さく反論する。
「強情ですね」
桜は立ち上がった。顔にかかった髪を自然な動きで払いのける。その動作は自然で優雅だった。
「まあ、男に戻してあげてもいいですよ」
キリトはばっと桜を振り返った。その目を見開いて、縋るように桜を見る。こうなった犯人は桜なのだがキリトはそんなことを気にする余裕などないらしい。
「ほ、ほんとか」
「だって何回も言っているじゃないですか『男に戻りたいですか』って。男の娘を責めるのが好きな紳士さんたちもいるんですよ?」
「はっ?」
「ああ、こっちの話です」
くすくすと桜は笑う。キリトは意味が分からないがとにかく言った。
「……なにをすればいいんだ?」
「うーん、いろいろ考えたのですけど。まあキリトさんは『SAOの主人公』ですからね。あなたの土俵で勝負しましょう」
「SAOの主人公?」
「はい。この場合はタイトルのことです」
「???」
「まあいいです。簡単に言えばSAOみたいにモンスターと戦ってもらいます」
知らずにキリトは笑顔になった。モンスター云々に喜んだのではない、もしかしてここはゲームの中ではないだろうかと思ったのだ。それならばこんな状況は全てデータ上のことで目を覚ませば「自分に」戻れるはずだ。
「もしかしてここは――」
「はい。ここはゲームの中ではありませんよっ」
先読みをして桜はキリトの希望を摘む。キリトは言うべきことを先に言われてうぐっと詰まった。桜はその顔がなかなかに気に入ったらしく、口角を釣り上げた。
「チャンスは3回です。違うモンスターと戦って一度でも勝てればいいですよ」
「まっ、待ってくれ。ここが現実なら俺は、その運動は」
「大丈夫ですよ。痛くありませんから。負けたらエッチなお仕置きが待っているだけです」
「えっ!? な、なんだって」
「別にいいんですよ。男の子に戻りたくないならそれで。私はそっちの方が……やめます?」
「い、いや。やるに決まっているだろ。なんのことわからないけど」
「そうですか」
桜は心の中でほくそえんだ。キリトは体を作り変えられたが、まだ心は男だ。
それを全部、砕いて、ひねって、とかしてからキリト自身に捨てさせたい。桜はぞくぞくとした感覚とともに未来のキリトを想像している。楽しみでしょうがないのだ。
手始めにやることがあった。返すものがあったのだ。
「キリトお姉さん。これ、飲んでください」
桜はいきなりキリトの前にコップを持ってきた。中には白い液体が入っている。
「蜂蜜でたっぷりと甘くミルクです。ゲームを始める前に、栄養が必要ですしね」
「なんだ、それ」
「ミルクですよ」
いぶかしげにキリトは桜とコップを見比べる。コップの中の液体は冷えているのかほのかに冷気を感じる。桜は「さあ、さあ」とぐいぐい押しつけてくる。キリトは飲みたくないが、この少女の言うことを拒否すればろくなことがないのでしぶしぶコップを受け取った。
「……どく、じゃあないよな」
「そんなわけないですよ。さっぐーと」
桜は早く早くと進める。キリトは疑念を持ちながらもコップを口に持ってきた。おそるおそる中の液体を飲む。甘い。たしかに蜂蜜の味がする。だけどほのかに、
「苦い、ような」
「そうですか? いっぱい蜜をとかしたんですけど……」
「い、やまずくはないんだけど……。なんていうか。ねっとりしているような」
(そうですか)
今度は桜は何も言わなかった。心中で語る。
(それは、あなたから搾ったミルクですよ。おいしいらしいですね。なんといっても本人が言っているですから)
男から女になる時キリトは全てを搾り取られた。桜はそれを蜂蜜に付けて、返しただけだ。勿論それがなんなのかなど言わない。
キリトはコップを両手で持って飲む。女の子の飲みかたを無意識にしていた。
今、言えばおいしそうに飲んでいる彼女を邪魔することになる。いつ言っても爆発する爆弾を桜はキリトに飲ませたのと同じだった。
「のんだ」
キリトはコップを桜に返す。まずくはなかったからかあまりキリトはその液体へ何も言わない。
「じゃあ、いきましょうか」
桜は知っていて、キリトは知らない。
欲求不満w。でも次回はキリトさんは……