ドラゴンボール超H 作:ドラゴンボール超記念
フリーザ軍の宇宙船はあまりにも速く、地球のレーダーでは接近した一瞬しかとらえられない。気を感じられないサイヤ人の視界はさらに狭い。ただでさえレーダー以下なのに暗闇で敵宇宙船はほとんど見えない。ビームならば、チカッと光ってから飛んでくるので、なんとなくで対応できているが。
とかく、ブリッツで隙をつくというレベルでは無かった。アズラエルはハラベコ等が戻ってくるまで防御に徹することにした。ブリッツにミラージュコロイドを解かせPS装甲を展開させる。また方舟の前面を常に敵宇宙船に向けることで(ナタルやクルーゼのブリッツが動いた方向に船首を向けるという方法)、相手から見た的を狭める(直径30m)。その的をブリッツの巨体2つで覆い、隙間はサイヤ人に守ってもらう。
この方法で箱舟はなんとか持っていた。しかし、ビームに反応できないために常にブリッツに気を纏わせているナタル(ビームには気が無いため。クルーゼはパイロットの殺気を感じて瞬間的に気を纏わせることが出来ていた)の体力は、ほぼ限界だった。守るばかりの苛立ちから、レタツとキャベスの集中力も徐々に落ちてきていた。
「くそっ! ちょこまかと!」
「痛いよお。手の皮がズタズタだよお。骨が折れちゃうよお。ひいっ! もう撃つなよお! クッソいてええええ!」
キャベスはビームを弾いて即反撃に移る。しかし簡単に躱される。
レタツは痛みに文句を言うだけで何もしない。
「こちらからも攻撃しろ! やつらも回避している間は攻撃できない!」
珍しくクルーゼが叫んだ。レタツは一瞬呆けた後に慌てて気弾を撃ち始める。しかし撃った瞬間手のひらに痛みを感じてまた怯んでしまう。
クルーゼは感じていた。敵機は回避するたびに攻撃を止めるだけでなく、少しずつ動きを鈍くしていく。その原因が、乗組員のダメージにある。
化け物のような宇宙船には凄まじい加速がかかる。中にいる人間が機体に付いていけていないのだろう。
「そこだ!」
回避行動の先を予想して狙い撃つ。クルーゼは完全に当たったと思った。
しかし、敵機はビームが放たれた後から移動し、凄まじい加速で避けてしまう。
「なっ、あのタイミングで避けるだと!?」
クルーゼには知れないことだが、この時反応したのは敵操縦士ではなく機体の緊急回避プログラムだった。エネルギー源を感知してから避けるという手法で、後出し的にビームを避けることができたということ。むごい程の機体の性能差だった。もちろん、中の乗組員は加速によって相応のダメージを負ったが。
「はあ、はあ、はあ」
「おいナタル! どうした!」
ナタルのブリッツの動きが不意に止まった。
アズラエルが叫ぶが返答はない。
「おい! お前がいなくっちゃ誰が船を守るんだ! おい起きろ! 生娘! 処女のまま死ぬ気か! 恥ずかしい映像をバラ撒かれたいか!」
「無駄じゃあー! 完全に気を失っておる!」
その時、どこからか知らない男の声が響いた。間延びしたような低い声だった。
「だ、誰だ!」
「そんなことはどうでもいいじゃろう! 早くロボットのパイロットを入れ替えい! レイという少年がおるじゃろう!」
「な、何故貴様の命令など!」
アズラエルは立ち上がって周囲を伺う。しかし人影はない。気も感じない。
その間、作業ポッドのレイはブリッツに接触し、勝手にパイロットを入れ替えていた。
「おい! 何をやっている!」
モニターにしがみつくアズラエル。しかし質問に対する答えは無く、オペレーターが不意にアズラエルに尋ねる。
「あの、ハッチ開いていいですか?」
「うるさい! 後にしろ! っておい! なぜ開いた!」
アズラエルがオペレーターに詰め寄る。
「いや、あの、神を名乗る人の声が……」
「なんだって!? お前も聞こえたのか? いや、だとしても!?」
声のみの突然の乱入者。その正体は地球人には知れるはずもない貴き存在。界王だった。
界王はフリーザの手によってサイヤ人が滅ぼされるのを見るつもりだった。彼としても重要なほど大きな出来事だからだ。しかし不意に、惑星付近でちょろちょろしている存在に気付いた。ここに来れるはずのない惑星の住人たちだった。
事情はよく分からないが、サイヤ人とその惑星の住人が協力してフリーザ軍に立ち向かっていた。彼の立場ではどちらか一方に肩入れするのは好ましくないが、フリーザ程の悪相手ならその限りではない。遠い惑星の住人には善なるものもそこそこいたので、ピンチになった時に協力することにした。
界王はまずレイに声をかけ、ブリッツのパイロットと入れ替わるよう命じた。程なく方舟の中にいるフレイとサイにも声をかけ、レイを協力するよう命じる。そしてハッチを開けさせるためにアズラエルに話しかけるつもりだったが、反応がよくないのでオペレーターに命じた。オペレーターは小心だったので少し怒鳴ると動いてくれた。
そうしてブリッツには新たにレイ、フレイ、サイが乗り込んだ。3人一辺に乗ったのでギュウギュウ詰めだ。
「今じゃ! 気を込めよ!」
「込めろって言われたって!」
フレイは毒づきながら、なんとなくでブリッツに気を纏わせた。サイも同じ。レイは経験があるのですんなりできる。
「きゃあっ」
「ぐっ」
程なくビームの振動がやってくる。あちこちの計器が鳴って被害を知らせてくる。
「ねえ! 大丈夫なの!」
「左腕装甲を少し削られた程度だ。だがもう少し気を込めてくれ」
「そう言われたって、こんなのやったことないのよ!」
「じゃあ今やれ!」
「口げんかしておる暇はないぞ! 次が来た! 2発じゃ!」
「くっ」
「きゃあっ! い゛いっ!」
2度の衝撃。そして計器が先ほど以上に大きく悲鳴を上げる。
「だ、大丈夫なの!? ねえ本当に大丈夫なの!」
フレイの叫び声にレイは思わず舌打ちする。
しかし、3人の思考は不意に止んだ。すぐ近くに、とてつもない気が集まっていたからだ。
「これは、ラウッ」
「く、クルーゼさんなの!?」
「やめるんだラウ! 死者に引き込まれる!」
レイが焦ったように叫ぶ。フレイとサイはその意味を理解できなかった。
きっかけはサイハクの死だった。絶望の中の怒りと苦しみ。それがクルーゼの思念に馴染んだ。
「そうかサイハク。君は私の……」
サイハクは死んだ。しかし、恐ろしい生命エネルギーは宙に漂っていた。クルーゼはそれも感じることができた。
そして、理解した。これは生者が触れてはならないもの。死に引き込まれる、と。
「それが何だ!」
しかし、今のクルーゼにとっては魅力的だった。戦闘民族の生涯を肌で感じられ、且つその力の一端を借りられる。
クルーゼは迷わず死者のオーラへ飛びつき、自らへ引き寄せた。
「くううっ」
死者というだけでは無く、地球人には大き過ぎた。クルーゼの心身は悲鳴を上げる。
「くっ、ラウ・ル拳2倍だ……」
差し迫った死に脳がリミッターを解除する。今の今まで1倍が限界だった気を高める技を、2倍にまで引き上げることができた。体はなんとか原型を保ち、赤い気を帯びていく。
「はあああ!」
突如、クルーゼのブリッツが巨大なバリアーを展開する。バリアーは完全に方舟を覆い、ビームを何でもないように弾いていく。
「な、なんだ!?」
「うわわわっ! へ? 弾いてる?」
キャベスとレタスも驚いて周囲を伺う。
クルーゼのブリッツが、赤いオーラを纏っていた。
「ダメだラウ! それ以上力を使ったら!」
レイは目に涙を浮かべて叫んでいた。クルーゼの死が急速に近づいていくのを感じていた。
しかし、クルーゼの気はむしろ膨れ上がる。さらにとてつもなく、際限ないかのように膨れ上がる。
「これは、彗星? だが彗星はもっとパーッと動くからな。そうか戦士たちの恨み! ふははははは! やつらめ、自らの業によって滅んだか! 私は正しかった! これほど空しいとはな! 貴様は許さんぞ! フリイイイザアアアアア!」
「ラウ、ラウ。ラウが壊れてしまった」
その時、フレイが装甲越しに外を指差す。
「え! なにあれ!」
宇宙空間の一方向から、次々と死者のオーラがやってきて、クルーゼのブリッツに吸い込まれていた。あまりの濃度の濃さにレイどころかフレイやサイにも見えるほどだった。
そして、そのオーラがブリッツに吸収される度、クルーゼの力は増していく。もはや完全にハラベコどころか大猿化したサイハクすら超えていた。
「タマギーネが爆発した横をカカロットが通り過ぎたぞ! ふはははは! バーダックは刻を見たのか! ならば!」
クルーゼが不意にバリアーを解いた。そしてビームサーベルを取り出し、巨大なオーラを纏わせて先が見えぬほど伸ばす。
「私にも刻の涙が見える!」
クルーゼは巨大なビームサーベルを軽く振るう。視認できぬ程の先に超高速で動く宇宙船があり、呆気なく爆散した。
「フリイイイザアアアアアア!」
しかしクルーゼの気は収まらない。むしろさらに死者を取り込み、怒りと力を増していく。
「こ、こやつめ。わしが長年研究し、ついに完成させられなかった技をこの年齢で……。もう1つのさらに困難な技すら別の形で……。じゃが……」
界王は2つの意味で驚愕していた。クルーゼが纏うエネルギーの大きさと、神である自身を超える気のコントロール技術。しかしクルーゼの死期が近いことも分かっており、やるせなさが残った。
「ふははははは! ジーククルーゼ! お前の魂ごと連れていく! ファ、彗星がパーッと見えたんだ! 私、パトリック・ザラが粛清しようというのだよ! 私の妻だった女性だ! たかが石ころ1つ、俺達で押し返してやりましょうよ! バナージくんならやめろ! まだだ、まだ終わらんよ! マユの携帯が! Seedを持つ者がどこにもいない! キラ・ヤマトとラクス・クラインの贋作程度に!」
クルーゼは外宇宙の死者の力さえ取り込み始めた。ブリッツを纏うオーラが赤から黄金に変色する。大きすぎる力がブリッツの表面をボロボロ崩していく程だった。
「イデオン・ガン!」
クルーゼは不意に、その莫大なエネルギーをある方向へ射出した。巨大な波の奔流が一直線に伸びる。
フレイ等には分からぬことだが、その先にはフリーザがいた。
「なんだ!? 何か来る!」
フリーザは惑星ベジータを破壊した後、サイヤ人のオーラのようなものがある一方に飛んでいくのを視認していた。その不可思議な現象に嫌な予感を覚え、滅多に見せない最終形態まで変身する程身構えていた。
そして、予感は的中する。
遠くに白い点が見えたかと思うと、接近により瞬く間に巨大になり、直径100m程でフリーザに襲い掛かった。
「ぎ、ぎぎぎぎ!」
フリーザは両手に気を纏ってそれを押さえた。爆発こそしないが、反作用で体は押されていき、付近の部下や宇宙船が奔流にのまれて消えていく。
「こ、こんな。こんなもの」
フリーザは歯を食いしばって耐える。しかし僅かに力負けしており、徐々に腕が開いていく。
「こんなもの。こんなもの……っ」
フリーザは押されていることを自覚し、ついには焦りを見せる。
「こんな、こんな……」
程なく腕は耐え切れなくなり、力無く開く。フリーザは全身に巨大なエネルギーを受けることになった。
「ぎえええええええっ!」
全身をズタズタに撃たれ、皮膚を切り裂かれながら、エネルギー波と共に遥か彼方へ飛んでいく。フリーザの生命エネルギーが急激に下がって行く。
しかし、それよりもエネルギー波の勢いが落ちる方が早かった。フリーザの生命力を十分に削げぬまま、攻撃性のない濃度まで薄まり、ついには離散する。
「今のは痛かった! 痛かったぞおおおおお!」
フリーザは怒り、エネルギー波がやってきた方向へ全力で飛んだ。
そしてその頃、奇跡を起こして見せた張本人は人の体をしていなかった。全身真っ白な灰。どころか、彼の乗るブリッツさえ全身が化石のように石灰質と化し、ボロボロ崩れていく。
「なんだこれは、信じられん」
「ラウ、どうしてそんなにうれしそうなの?」
「あわわわっ。な、何が起こったの?」
「なぜあの雑魚にこれほどの力が?」
「ハラベコさんのお仲間の技術っておっかない」
「やつめ、ニュータイプとしてこれほどの才能を持っていたのか」
ハラベコ等は驚愕して宙に漂うブリッツであったものを見る。
「当たり前じゃ、人の身であれほどの死者の力を扱えばそうもなる」
界王は結末を見届けると、プイと状況から視線を逸らした。
しかし、その界王の耳にあるはずのない声が響く。レイにも聞こえていた。
「世界よ、出来損ないの私が宇宙の帝王さえ恐怖させたぞ。お前との戦い、どうやら私の勝ちらしいな」
その言葉を残し、クルーゼの魂はフッと現世から消え去った。灰となった顔の口元には、満足げな笑みが浮かんでいた。
「これほどの才の主が呆気なく逝ったか。悪人であるやつに肉体を与えるわけにもいかんしのお。生まれ変わったら稽古をつけてやりかったが」
界王は独り言をつぶやいた。誰かが聞いているなどとは思わなかった。
「ふ、フリーザだ! やつは生きているぞ! しかもこちらに近づいて来ている! 早く逃げるんだ!」
気付いたハラベコが叫んだ。
フレイ等はアレを受けて生きているはずがないと思い、呆気に取られた。が、そこを界王にも怒鳴られ、急いで方舟に戻った。