ドラゴンボール超H 作:ドラゴンボール超記念
ティーチはキャベスの巨大な気を感じてはいた。しかし幻覚作用のある悪魔の実の能力だと思っていた。自分が最強とまでは思っていないが、近い未来そうなる予定であり、それに近い実力は持っていると思っていたからだ。しかし、実際は自分の感覚こそ正しかった。自分には及びもつかない世界があり、それが目の前にある。
「ゼハハッ」
ティーチは自分でも不思議なことに笑っていた。しかしこの感覚には覚えがあった。
白ひげと初めて出会った時の、好奇心、憧れ、夢。あの頃が一番楽しかった。強者への挑戦。
ふと、謎の4人組が宙に浮く。地面にめり込むほど顔を殴られ、ダメージを負っている娘ですら、こともなげに。
「お、おい! 嬢ちゃんの名は!?」
ティーチはほとんど反射的に叫んでいた。こんな場面で別れるわけにはいかなかった。
しかし娘には言葉が通じないらしく、金魚の糞のような男がペラペラと通訳をする。
「何か用か?」
「俺の名はティーチ! お前の強さに惚れたんだ! 一緒に連れていってくれねえか!」
ティーチは言いながら再び自分の言葉に驚いた。白ひげを裏切る時に、自分こそが海賊王になるのだと決心していた。もはや誰の下に着くこともないはずで、夢への道を念入りに準備し、新しい仲間も得ていた。それが、感情のままに喋ってみたら、覆っていたのだ。しかも相手は、自分の年齢の半分以下に見える小娘。しかし、自分の感覚は間違っていないと思えた。何よりも娘のギラついた目が気に入った。人の物とは思えない、血に飢えた獣のような、純粋な野心が垣間見えた。
「お前のような雑魚はいらん、だそうだ」
「ざ、雑魚? ……ゼハハハハッ。そうかもしれねえな。だが俺には野心がある。こんななりだが、闘争心や向上心は衰えてねえつもりだ。きっと今より強くなって、いつかお前の役に立つようになる! 損はさせねえよ!」
そうまで言われたキャベスは、ティーチの少年のような憧れの目に、喜びを感じていた。また、忠実そうで、性格も彼女好みの野心家らしいので、この男に興味がわいてきた。いいぜと言おうとした。
「ぷふふっ。さすが芋娘ですわね。こんな芋男に目を付けられて」
しかし、そのオンオンの一言でプチンと来た。ティーチの現在の弱さと汚らわしい顔が情けないと思っていたので、自分と重ねられるのは心外で、それを見せつけるために断ろうかと思った。
しかし、オンオンの言葉で態度を変えるというのも気にくわなかった。
「ク、クソッ! おいハラベコ! お前が面倒見やがれ!」
「ええっ! 俺ェ!?」
「1カ月でいい! 1カ月でそこの尻軽の顔面をぶん殴れるようにさせろ! できなければ私が直々に殺してやる!」
「まあ! これはこれは無駄なことを! ずいぶん期待なさっているのですわね!」
「それ、訳すのか?」
「当たり前だろうがボケが!」
「尻軽と訳したら許しませんわよ!」
ティーチは言葉が理解できないので、3人のやり取りをハラハラしながら見守った。ちなみに普段の気の大きさはキャベス4000、レタツ2000、オンオン1000、ハラベコ200くらいなので、ティーチには弱いオンオンやハラベコが分不相応にも王であるキャベスに文句を言っているように見えていた。
「えーっと、どうやら俺がお前の面倒を見ることになるらしい。そんで1カ月後に、あそこのお嬢様っぽい髪の女を殴れるようになれってさ。できればキャベスの部下になれる。できなければ殺してやるんだとさ。言ってるだけでたぶん殺されないけどね」
「お、おいおいおい待ってくれよ! 1カ月でもいい! 殺されるのも構わない! 俺はお嬢ちゃんにそういう夢を見たんだ! だけどせめて、修行を付ける役はそっちのちっちゃいお嬢ちゃんにしてくれねえか! それとも兄ちゃんは教えるのが得意だったりするのか!?」
ハラベコはイライラしていた。女まみれで幸せ絶頂なところに汚らしい男が入ってくるだけでも嫌気がさすのに、その男は実力が計れないからハラベコを侮ったのである。
しかしハラベコが何かを言う前にキャベスが怒鳴った。
「ごちゃごちゃと長ったらしく喋ってんじゃねえ! 受け入れろ! でなければ今すぐ死ね!」
ハラベコはそれを訳した。
「わ、分かったぜ。よろしくな、兄ちゃん」
ハラベコは気が進まなかった。イライラしたので、わざと弱いふりをしてティーチを調子づかせ、最悪の場面で真の力を見せてやろうと思った。
ハラベコ達はティーチを連れて一旦アラバスタに戻った。ビビが1人で革命軍を説得に行くと言い始め、揉めていると聞いたからだ。
ハラベコ達はズカズカと王の間に入って行った。ちょうどビビと王が言い争っているところだった。アズラエル達も近くに集まっていた。
「コーザなら説得できる自信があるの!」
「ならん! 行くのなら兵を連れて行け!」
「だけどそれじゃあ向こうに余計な刺激を!」
「俺が護衛になろう」
ハラベコが割って入った。そのことに王の臣下達が眉を寄せるが、恩人なので口は出さなかった。
なお、ハラベコは護衛を買って出て、かっこいいところを見せて、惚れさせるというのが目的だった。
「おいてめえ! こいつを鍛えさせる話はどうなった?」
「どうせその娘と寝たいだけなのですわ。ちょっとコブラ王さん、忠告ですけどその男を娘と2人きりにしない方がよろしくてよ」
「君がいなくなったら誰が女サイヤ人達を止めるんだ!」
「異星の部外者が戦争に関わることは銀河パトロールとして認められないぞ。特にサイヤ人のような輩はな」
数々の非難を受け、ハラベコは折れた。代わりにキャッシュマンとナタルとアラバスタ最強の戦士であるペルが同行することになった。
アズラエルはアラバスタに恩を売るため、少しだけウォーターセブン行きを延期すると言った。ハラベコもビビとつながりを作りたいので了承した。ビビ等が革命軍を回っている間、アズラエルと技術者達はアラバスタの地質調査を行い、ハラベコ等サイヤ人は自身等とティーチとアラバスタ兵の訓練を行うことにした。
初めティーチの訓練は面倒でしかなかったが、少しすると、女達を1カ月大人しくさせるのに弟子の育成というのは都合がいいことに気付いた。実際キャベスはハラベコよりも積極的にティーチと戦い、教えていた。教えている内容も、気のコントロールを除けば、筋トレで強くなっただけのハラベコよりはまともだった。オンオンには劣るが。そのオンオンは、キャベスより自身のコーチング能力が優れていることを証明するため、ペルと並ぶ戦士とされるチャカを鍛え始めた。1カ月後に戦わせるらしい。チャカはティーチに比べ弱すぎるのだが、「だからこそ私の優秀さが証明されるというもの」と自信満々だった。
ところで、ニコ・ロビンが消えた騒動について、バロックワークスのオフィサーエージェントであるミス・メリークリスマスがモグラに変身できる能力者だったので、彼女が原因とされた。それもふまえてクロコダイルの警備は強化された。
なお、ティーチは海賊だったので、覆面をつけさせて『雑用T』と名乗らせた。
――その数日前、ゴーイングメリー号――
「うっ、くっ」
緑の刈り上げ、ゾロは久方ぶりに目覚めた。甲板の上だった。
「やっと起きやがったかマリモ野郎」
金髪のぐる眉、サンジはタバコを吸いながらメリー号のマストを背に立っていた。
「なんだ。ぐる眉か」
「ああ゛!?」
サンジが怒り、ゾロに突っかかっていく。しかし不意に拳骨を食らった。程なくゾロもだ。
「コラ! ケンカしている場合じゃないでしょ!」
ナミだった。彼女が怒ると男達はバツが悪そうに視線を逸らす。そして静かになった。
「一応何があったか説明するわ」
ナミは気絶していたゾロのために、戦闘とその後のいきさつを丁寧に説明し始める。サンジも詳しい話は聞いていなかったので、真剣に耳を傾ける。
船を襲ったのは同じ服を着た謎の4人組。女3対男1。2人の女はナミ等と同世代か少し上に見えたが、男ともう一人の女は13歳くらいに見えた。全員空を飛ぶことができ、とてつもない力を持っていた。ルフィ、ゾロ、サンジ、ウソップは女のうちの誰かにやられた。男はナミに降伏を迫ったが、攻撃はしてこなかった。しかしお尻と胸を触られた。
「チッ。そのクソガキめ。許せねえ……」
サンジが我を忘れる勢いで怒りに燃えていた。ナミの身体をまさぐったことと、女3対男1の構成が妬ましいからである。
「真面目な話に余計なチャチャ入れてんじゃねえよ!」
「なっ! 私の体は安くないのよ!」
「このクソマリモ! ナミさんの神秘の体はおめえ如きじゃ100年かかっても評価することすらできねえんだよ!」
「まあまあ、落ち着いて」
と、多少ごたついてから、説明を再開。
麦わらの一味が全員無力化してから、謎の男は、ルフィの懸賞金が目当てだからナミ等を残すと言った。その後、現在船にいるアホ面の王冠と一緒にいた水色の髪の女が、不意に謎の男に話しかけた。あなた達は何者なのかと。すると男は自分達が宇宙人だと言った。目的は強くなることと、強敵と戦うこと。謎の女がそれに続けた。
「弱過ぎてつまらないから強くなってからかかってこい。でもどうせ雑魚だからどれだけ頑張ったところで遊びにもならんがな」
「な、なんだとぉ!」
「お姉さんがそんなことを言うはずがない! クソ野郎が意図的に誤訳しやがったんだ!」
「誤訳しているのは、うちの航海士さんのような気が……」
「ウソップぅ? なんか文句あるのぉ?」
「い、いえ! 滅相もありません!」
ウソップを除く麦わらの一味は復讐に燃えていた。ルフィを助けたいという気持ちも強かった。
しかしウソップは不安を口にする。
「で、でもよう。あんなやつらに勝てるのか?」
「ああ゛? 何弱気になってんだてめぇ!」
サンジがウソップに近づき、胸ぐらをつかむ。
「くっ! だ、だけど! 一朝一夕に追いつける力の差じゃ無かっただろ! どうやって勝つつもりなんだ! 俺達だけで地道に修行して、いつの間にか抜けるとでも思ってるのかよ!」
「思ってるさ! それしかねえだろうがよ!」
「バ、バカ野郎! 死に急ぎたいだけなら勝手に死んでくれ!」
「てめえ! 黙って聞いてりゃ調子に乗りやがって!」
「ぐはっ」
サンジはとうとうウソップを蹴飛ばした。ウソップは腹を抱え、苦しそうな顔でサンジを睨む。サンジはウソップのその表情にさらに怒り、より強い攻撃を加えようとする。
「やめて!」
しかし、ナミが叫ぶ。サンジは片足を上げ、もう少しでウソップの顔を蹴飛ばすところで慌てて済ん止めした。
「チッ。済まねえナミさん、顔を洗ってくる」
サンジは再びバツが悪そうな顔で船の中へ入って行った。ガシャーン、と何かに当たり散らす音が聞こえた。甲板は静まり返り、嫌な空気に包まれた。
「俺はなウソップ。お前の言う通りこのままでは勝てないと思っている」
「えっ」
ふと、ゾロが口を開いた。こと肉体を鍛えることに関しては生真面目な男に賛成されるとは思わず、ウソップは驚き半分うれしさ半分のような顔をした。
「だがな、初めから勝てねえと決めてかかっているやつはこの船に必要ねえ。今すぐ降りるんだな」
「えっ」
「ど、どうしてよ! あんた何考えてんの! この大事な時に冗談は!」
「黙りやがれェ!」
「ひっ」
ゾロが猛獣のような鋭い目つきで怒鳴ったので、ナミは思わず息を飲んでしまった。目の端にはうっすら涙も浮かんだ。
「仲間のピンチに逃げ出す奴は信用できねえんだよ!」
「に、逃げるわけじゃねえさ! 俺は作戦を!」
ウソップが反論すると、ゾロはギロリとウソップを睨んだ。
「ひっ。……ち、違う! 俺だってルフィを助けるつもりなんだ! だ、だが、今回の戦いはルフィを助けることが目的であって、戦闘に勝つことは、ひ、必要ないだろう? 俺はだから、作戦を練って」
ウソップは怯みながらも自分の考えを言った。強敵から逃げるという考えはゾロの怒りを刺激したが、理解できることでもあった。納得はできないが。
「お、おいお前達! 黙って聞いていれば自分の言いたいことを言うだけか!? 仲間のために自分の小さな拘りを捨てられるってのが、本当の仲間なんじゃないか! す、少なくとも俺はそう思うぞ!」
そこで、なぜか王冠のアホ面が話に入ってきた。しかも割といいことを言った。
「お前は関係ねえだろ! すっこんでろ!」
「ひいっ」
ゾロに睨まれ、アホ面は慌てて逃げ、マストの裏に隠れる。
「あんなやつに賛成するようで癪だけど、私も今回は拘りを捨ててルフィを助けることだけに集中した方がいいと思うわ」
「おおっ」
「ナミさんの言う通りだな。俺もいくらか冷静になってきたぜ」
「チッ」
ゾロは舌打ちしつつその場に座った。これは彼の肯定を示していた。
「つってもよお。これからどうする? 捕えられたルフィはどこに連れてかれるんだ?」
「はあ、バカ共には1から10まで説明しないとならないようね。エニエス・ロビーという裁判所よ。罪人は皆そこで裁かれ、次に難攻不落の海底監獄インペルダウンに送られるの」
「なるほど。で、エニエス・ロビーってのはどこにあるんだ?」
「さあね」
「さあってお前!」
「反対側のレッドライン付近だ。ウォーターセブンという都市から海列車で行くことが出来る」
そこで再びアホ面が入ってきた。
「あんたそんな面で意外と物を知ってるのね」
「面は余計だ!」
「海列車つうのはなんだ?」
「ウォーターセブンにはどうやって行くんだ?」
「ええいっ、うるさい! 1つ1つ説明する!」
アホ面は言った。この世界にはエターナルポースという特定の島を差し続ける方位磁針がある。それを利用してウォーターセブンに行く。エターナルポースは珍しい物なので大きな国や海軍くらいしか持っていない。それを買うか奪うかすべきである。
「この近くにアラバスタという王国がある。そこならウォーターセブンへのエターナルポースもあるはずだ」
「アラバスタ? それって確か、あんたのコンビの子がお姫様だって言ってた」
「な、なんだと!? お姫様ぁ!?」
「あんたは黙ってなさい!」
「ふっ。分不相応だとは思っているが、これでもコンビを組んでいたんだ。相方の危機に駆け付けないわけにはいかないだろう?」
「ピ、ピンチ!? どういうことだ!?」
「実は我々のボスがかくかくじかじか」
「お、おいサンジ! 今はルフィのピンチなんだぞ!」
「うるせぇ! あんな男より麗しい姫の方が優先されるに決まってんだろうが!」
「て、てめえ! ナミ! 何か言ってやれよ!」
「そうね。お姫様ならお金を持っているかもしれない」
「おい!」
ウソップは1人であたふたするが、サンジとナミはその気になってしまった。ゾロはミスター・ナインの話が長すぎたので寝ていたのだった。
「決まったな。では我々でアラバスタに向かい、ミス・ウェンズデーを助けるということに」
「よっしゃあ! やってやるぜ! ついでにうちのアホを助けるのに必要ななんとかポースを手に入れてやる!」
「ついでかよ!」
「頑張りなさいよあんた達! 10億ベリーがかかってるのよ!」
「おめえは何もしないのかよ! 10億ってなんだよ!」
こうして一味はまんまとミスター・ナインの罠にかかったのだった。ナミとウソップは宿敵であるハラベコ達がビビ側についていることを知っているはずだったが、雰囲気に流されて頭から抜け落ちていたのだった。
彼等はまず、アラバスタを差すエターナルポースを求めてウィスキー・ピークという島に向かった。そこはミスター・ナインの本拠地でもあったので、彼は理由を話せば誰かがくれるかもしれないと楽観的なことを言った。
しかし当然のように戦闘となった。ゾロ、サンジが賞金稼ぎ達の50人斬りという微妙な数値を仲良く達成した。
「こんなんじゃ足りねえ。やつらに勝つには」
「もっと素早く。それでいて獰猛に。でなければ姫を悪しき男達から救いだすことはできない」
2人は未来の戦闘を想定し、戦いながらいろいろ試し、強くなろうとしていた。しかしまだきっかけはつかめなかった。
ミスター・ファイブ、ミス・バレンタインのペアがやってきた。目的はビビの抹殺だと言うが、態度の悪い海賊に力の違いを分からせると言ってゾロとサンジに挑みかかった。ミスター・ファイブはサンジが蹴り飛ばし、ミス・バレンタインはゾロが峰打ちで気絶させた。彼等がアラバスタへのエターナルポースを持っていたので、一味はアラバスタへ行けることになった。
「任務に失敗した我々は殺されてしまいます! どうかお情けを!」
「レディの頼みとあっちゃ断れねえな」
「おいてめえ!」
「俺からも頼む。味方は1人でも多い方がいい」
「おめえは俺達の仲間面をすんな!」
「船に乗るなら金を払いなさいよね」
「あ、ああ。命には代えられねえからな。ほらよ、受け取れ」
「よし。乗ってよし!」
「おい!」
一悶着あったが、ミスター・ファイブ、ミス・バレンタインもアラバスタについてくることになった。
その道程、アンラッキーズというラッコとハゲタカがやってきて、一味たちに衝撃的な事実を伝えた。
「ミスター・ゼロ、クロコダイルが捕まった!?」
ラッコは身振り手振りと文字で説明した。曰く、クロコダイルは謎の4人組に捕えられ、現在アラバスタ王宮の地下牢に幽閉されている。アンラッキーズはボスの救出に動くべきだと考え、強力な社員を集めている。現在ミスター・ツーとミスター・スリーとミスター・フォーのコンビが協力してくれると言っている。
「ちょっと待てよ。4人組ってもしかして、肩がピンと張った妙な服を着て無かったか? 全身タイツで」
ウソップが言うとラッコはうなずき、似顔絵を描いた。
「こいつらだ!」
それは麦わらの一味を襲った4人組だった。
「こいつら、七武海でさえあっさり倒しちまったのか。あの鷹の目と同格の男を」
「だけど一人一人が七武海より強いとは言い切れないわ。あいつら4人組だったもの。協力して戦ったのかもしれない」
ナミの言葉に、ゾロはそれはないと思ったが、彼等を直接見たわけではないので断言はできず、黙っていた。
「で、麗しのお姫様はどうなったんだ?」
サンジがタバコに火を点けながら言った。
「ふんふん。アラバスタでは革命の機運が高まっており、戦争を止めるために、謎の4人組の仲間と思われる妙な男達と共に革命軍の説得に行った。また男だとォ!?」
「怒るところそこかよ」
「ちょ、ちょっと! じゃあ私達の10億ベリーはどうなるのよ!」
「お前は金から離れろ!」
ウソップのツッコミは無視し、ラッコは話を続ける。
「革命の説得をしても無駄? どういうことだ? ふむふむ。革命軍と王国軍の両方にバロックワークスの社員がいて、和平を妨害することになっている? 本当かてめえ!」
ラッコはこくりとうなずいた。その後、サンジはアンラッキーズをボコボコニし、縄で縛った。
「止めに行くぞ、その戦争」
「そして10億ベリーをもらうのよ!」
一味の目的が少しだけ変わった。
――その頃、とある軍艦内――
「うーん。暇だなあ。ゾロ達助けに来ねえかなあ」
「俺はずっと前からハラハラしてるぜ。おやっさんがいつ助けに来てくれるのかってよ」
「暇なら話しねえか? とりあえず、おめえ何やって捕まったんだ?」
「いいぞ。しっかしおめえ猿みてえな顔だなー」
「なんだ? 俺はそんなにサルあがりか?」
「ああ、猿だ」
「照れるじゃねえかー。ウキー」
「ふん。バカ共が夢見やがって。助けなんざ来るわけねえだろうか! ここは軍艦の中だぞ! それも伝説と恐れられる中将の船!」
「うるせえ赤っ鼻! ゾロ達は来るんだ!」
「誰が赤っ鼻じゃあ!」
「そうだぜ! おやっさんをバカにするやつは許せねえ!」
「ムキー!」
ハラベコ達に捕えられた海賊たちだった。ルフィ、マシラ、ショウジョウ、バギー一味、アルビダ一味、ドリーとブロギー、ミスター・ワンのコンビ、それとルフィに倒されたモーガン元大佐がいた。
「ところで何の話だったか」
「そこの麦わらのチビが捕まった理由だ」
「そうか。なんでだ?」
「分からん。気付いた時にはこうなってた」
「おいおい。そりゃ間違って捕まえられたんじゃねえか?」
「いや、俺は海賊で船長だったんだ」
「そうだったのか。やっぱり目標は海賊王か?」
「おう!」
「まだ言ってんのかアホンだらァ! おめえみてえなカスが海賊王を軽々しく語ってんじゃねえよ!」
「うるせえなー。俺の勝手だろうが」
「ウキキキッ。おまえみてえなチビには無理だろうがよ、オラァおめえみてえなバカは嫌いじゃねえぜ」
「クソッ! この船にはバカしかいないのか!」
バギーがふてくされて黙ったので、再び話を再開する。
「ところでお前はどうして捕まったんだ? やっぱりバナナの食い過ぎか?」
ルフィはとても失礼なことを言ったが、マシラは猿そっくりで、何故か猿と言われると喜ぶので問題は無かった。
「ウキキッ。いくら俺がサルあがりでも盗んでまでバナナは食わねえよ。俺は別に海賊を名乗っていたわけじゃねえんだが、いつの間にか海賊ってことにされちまってな。懸賞金もついてたから賞金稼ぎにやられちまった」
「すげえサルあがりなやつらだったぜ。俺達が大猿兄弟っつーから見に来たらしくてな。全員おめえみてえねチビだったんだが、突然そのうち1人の女がデッカイ大猿になったんだ」
「あれはサルあがりだった。マシラが実際にそう言ったら、よほどうれしかったのか暴れ出してな。気付いた時には俺達もこうなっていた」
その時、彼等の上から笑い声が聞こえた。
「ゲギャギャギャギャ。俺もたぶんその猿見たぜ」
「いいっ! 巨人のおっさん! 作り物じゃなかったのか!?」
「バカ野郎! 巨人も知んねえで海賊王目指してたのか! 見た目の通り怪力の持ち主で、恐ろしくつええんだぞ!」
「それよりも、猿を見たって」
「ああ。俺とそこのドリーは毎日戦ってたんだがよ。突然チビ人間達が現れて戦いを止めやがったんだ。俺たちゃ怒ってそいつらに挑んだんだが、たった1人のチビ人間に返り討ちさ。それからあいつらが『大猿とどっちが大きいかなあ』とか言い始めて、気付いたら1人の女が俺達くれえ大きな猿になってた。ちょっとだけ向こうの方が大きかったみたいだがな」
「いいっ! 巨人のおっさんよりデカい猿がいんのか! おっもしろそうだなー! 仲間にしてぇーなー!」
「お、おいおい! そん時は俺にサインくれるよう頼んでくれねえか! 同じ牢に入れられたよしみでよ!」
「いいぞ」
「ウオーホオー! なんていいやつなんだ! こりゃあハラハラしてきたぜ!」
「おい、そん時は俺達にリベンジの機会を与えてくれよ。負けたままってのは性に合わねえ。なあドリー!」
「ガバババババ! その通りだぜ。今は敵わんかもしれんが、巨人の寿命は300年。何年も鍛えていつか追い抜いてやる!」
「げぎゃぎゃぎゃぎゃ! そん時は死んでるかもしんねえがな!」
「ガバババババ! 違いない!」
「うるっさいぞ貴様等!」
その時、牢へ続くドアが開き、海兵達が入ってきた。
「いいっ! やべえ! ガープの野郎だ!」
先頭はガープ中将、その後ろにコビーとヘルメッポという新兵が続いた。
ガープと交戦の経験があり、実力を知っているバギーは真っ先に怯え、顔を合わさぬよう下を向く。
「どうやら愛が足りんようじゃな」
ガープはバキバキと拳を鳴らす。このやり取りは今までにも何度かあり、初めは黙らなかったのでガープは牢の中に入って拳骨をお見舞いしていった。「ガープ中将! 捕虜への暴行は!」と止めに入ったコビーも「馬鹿もん! 愛のムチじゃ!」と殴られた。その時拳を受けた囚人たちは、バギーのように身を震わせた。
ガープは牢の向こう側、ルフィの手前で止まった。
「じ、じいちゃん」
「バカ孫が。ちっとは反省したか?」
「おう! 反省っつーのやったぞ! だから逃がしてくれ!」
「バカもんが! わしは海兵じゃぞ! いくら孫がかわいくても海賊は逃がせんわい!」
「ちっ。けちっ!」
「うるさい! けちでもわしを愛さんかい!」
「嫌だ!」
「ガ、ガープ中将、その辺で今回の話を」
コビーが止めに入ると、ガープはパッと真面目な表情になった。
「ふむ。まあいいだろう。実はなルフィよ。お前は、……裁判所だったっけ? に連れていかれるわけだが。そこでわしが、なんとかってのになってやることにしたのだ」
「弁護人です」
「そうだ。弁護人だ。分かったか?」
「全然分からん」
「馬鹿もんがあ!」
ガープは牢を無視してルフィに殴り掛かる。牢はひしゃげるが、拳の速度はほぼ変わらず、ルフィの脳天に直撃する。
「いてえ! なんでゴムなのに痛いんだぁ!?」
「ガープ中将! 牢を壊さないでください!」
コビーとヘルメッポがガープを後ろから抱きかかえて止める。
ガープはひしゃげた牢を手で捻じ曲げ、元の形に戻そうとする。そうしながらルフィに話しかける。
「お前も海に出たからには正義があるじゃろう。語ってみろ」
「正義なんてねえよ。俺は海賊だ」
「な、何ィ!? 正義がないじゃとォ!」
またガープの拳骨がルフィに入り、牢がねじ曲がる。
「それ驚くところかよ」
「相変わらずだな、あのおっさんも」
マシラ、バギー等が呆れる。
コビーが慌てたように割って入る。
「ル、ルフィさん。あなたはモーガン大佐の暴挙から町を救いましたよね。ああいうのが正義なのです」
「えっ! あんなのが正義だったのかぁ!?」
「はい。ルフィさんはたぶん、何が正しいかよく分かってらっしゃいます。これまでの冒険をお聞かせ願えませんか? おそらく知らず知らずのうちに数々の立派なことをなさっているはず」
「ええー。おれ正義とか嫌いなんだけどなあ」
「バカもん! 好きにならんかい!」
「いでえ! なんでゴムなのに!」
少しゴタついてから、ルフィはポツポツと今までの冒険を語っていく。
「確かメガネの羊っつーやつが海賊でよ。催眠術師はおもしろかったんだが、敵だったみたいだ。ウソップがやっつけてカヤを守ったそうだがな」
「なるほど。執事に化けていたキャプテン・クロが、カヤというお嬢様の財産を狙って仲間の海賊に街を襲わせた。それをルフィさんが退治したのですね」
「そうそう。そんな感じだ」
「すげえなお前! なんで分かるんだ!?」
「言葉はややこしいですけど、文脈というか、相手の気持ちを汲めば、なんとなく情景が浮かぶんです」
「へー。全然分からん」
ヘルメッポがコビーに感心する。コビーはメモ帳を手に、うれしそうにルフィの英雄伝を記していく。なお、ガープはルフィの話が長すぎて眠ってしまった。
「見聞色の覇気だな。ロジャー船長はそんなもんじゃなかったぜ」
バギーがふとつぶやいた。それにガープが目覚める。
「ロジャーじゃと?」
「赤鼻、おめえゴールド・ロジャーのこと知ってんのか?」
「誰か赤っ鼻じゃあ! 海賊王のことは、まあそりゃあ、噂はいくらでもあるからな」
バギーはしまったという顔で苦し紛れに言った。彼は海賊王の一味だったことを秘密にしたかった。
「噂も何も、お前見習いじゃったろうが」
と、ガープがつぶやいたのだが、そのタイミングで別の海兵がドアから入ってきたので注目はそちらに集まった。
「どうもお久しぶりですガープさん」
「なんじゃ。お前か」
「あ、青雉ィ!」
身長3mを超す縦に長い男、だらけきった正義をモットーとする海軍大将青雉ことクザンだった。彼の後ろからはタバコを咥えた銀髪の男が出てくる。
「あっ、煙のやつぅ!」
「麦わらァ。お前はこの俺の手で捕まえてやりたかったぜ。ガッカリさせやがって」
彼等はアラバスタへ向かっていた。この船はそこで捕まったクロコダイルを護送する任務も受けていた。クザンは休暇中だが、ニコ・ロビンの消息を知りたいので自転車でやってきたのだった。正式な任務ではないが、元帥であるセンゴクからハラベコ達について探ってくれとも言われていた。
――その頃、アラバスタの港町――
「よっ。エースだろ?」
シルクハットを被った紳士風の青年が上半身裸の青年の肩に手を掛けた。エースと呼ばれた青年は振り返り、驚愕する。
「お、お前は! まさかっ!」
「しいー。デカい声で言うな。目立ちたくないんだ」
「お前生きてたんだな。なんで教えてくれなかったんだ?」
「あの時記憶を失ってしまってな。つい最近思い出したんだ。今は革命軍にいる。自由に生きるのもいいが、今の政府をこのままにしておくことはできないって思ってな。お前こそなんで海賊王を目指さなくなったんだ?」
「まあ、いろいろあってな。今は親父を海賊王にしたいと思っている」
2人はこれまでのいきさつを話し合った。そして、今何をしているかも。
「黒ひげか。ジャヤの方にいたようだが、どっかに飛んでいっちまったそうだ」
「そうか。まあ地道に探すしかねえな」
「それよりよ。ルフィが捕まったって知ってたか?」
「ルフィが!? あいつ今は、グランドラインに入ったか入らないかじゃないのか!? あんなところでやられちまったのか!?」
「それがよ。どうもおかしな連中がいるらしいんだ。うちのリーダーが『絶対に戦うな』と言うくらいだからよっぽどやばいらしい。今回はそいつらの調査に来たのさ。アラバスタの革命の行く末を視察するのも兼ねてな」
「へえ、ドラゴンが恐れるようなやつか。寄り道してみんのも悪くねえかもしれねえな。ルフィの仇ってやつを見によ」
そうして2人はアルバーナへ向かう。