ドラゴンボール超H 作:ドラゴンボール超記念
ザーボンが消え、地球が元通りになった時、ルナマリアの乗るザクは新品同様の状態になっていた。しかし、中にパイロットはいなかった。シン、メイリンは周囲を警戒しつつルナマリアを探したが、見つからない。なぜか元通りになっていた地球軍の補給船も調べたが、やはりルナマリアはいなかった。
彼等はルナマリアはザーボンに捕えられたのだと考えた。ザーボンが消えたのはビルに戻ったため。戻った理由は、女性の脱走か何か不都合なことがあったため。ザクや補給船が元に戻った理由は不明。
そして、この場に居続けるのは危険と考え、シンとメイリンはミネルバに帰艦し、そっと基地に戻って行った。
世界中の建物が急に元に戻り、人のケガが直り、ザーボンの気配が消えた。
ありえない事実を、人々は目の当たりにした。ある者はただただ茫然とし、ある者は喜びに涙を流し、ある者は神に感謝した。しかし、死んだ人間は蘇らなかった。すっかり元通りになった街で、愛する者を失った人々は悲観にくれた。が、そう余裕があるわけではなかった。生き残っていた悪い人間が、人のいない家や町で好き放題略奪を始めたからだ。置きっぱなしの銃器、果てはモビルスーツが盗まれ、チンピラのような盗賊達でさえ、あっと言う間に軍隊でしか相手できない力を持つようになってしまった。
ザーボンのビルへは地球軍が突っ込んだ。彼等はプラントの女を人質や戦利品にしようとした。が、ザーボンの星の女がいたため、彼女等に銃もナイフも通じず、突入部隊は壊滅した。
青い肌の女に連れられるように、全ての女達が逃げ出した。彼女等は銃器やモビルスーツを奪い、迫り来る脅威を討ち払って行った。女達はザーボンのレッスンによって人間離れした身体能力を手に入れていた。
ナチュラルの女達も、途中までは彼女達についていった。しかしマリュー・ラミアスが彼女の信頼する上官を呼び、その部隊と合流した時に、ナチュラルの女のみ保護してもらった。
シン、メイリンはしばらく地球で戦った。ザーボンの女を奪還したニュースはすぐに耳に入り、共に歓喜した。が、2人が望む妹と姉の名は無かったので、一転して深い悲観に苛まれた。もしや、死んでしまったのではないかと思われた。
2人は互いにぽっかり空いた穴を塞ぐように、求め合った。激しく慰め合った。
そうしながら軍務は続けていた。しかしそれはプラント側の守りが主で、略奪を働く者が多く、被害の大きい地球側を守ることはなかった。むしろプラント側は、これをチャンスと見て地球軍の兵器を盗み、あるいは力をつけた盗賊に資金や情報を与え、地球軍を襲わせた。職業軍人のほとんどを失い、お粗末な新米で構成された地球軍は、さらにその数を減らしていったのだった。
しかし約1週間後、死んだ人間が一気に蘇った。ちょうど1年前、パトリック・ザラの2度目の宣戦布告あたりから死んだ人間のみで、その中でも全員が生き返るわけではなかった。ヤクザ、扇動者、宗教家、政治家、いじめっ子、など、一般に怪しかったり悪と言われる人間は、ほぼ死んだままだった。このことから、神を信じる人間が「ザーボンは神の使いだった。神は最後の審判を下されたのだ」などと言い始めた。
やがてプラント、地球軍、盗賊集団、による三つ巴の小競り合いが始まった。盗賊はジャンク屋連合に吸収され、ジャンク屋連合はオーブの援助を受けていたので、実態は国家規模の組織だった。その小競り合いに、神を信じる宗教家が横やりを入れるようになった。彼等は平和を謳い「選ばれた人間は争う必要がない。戦争は何も産みださない」と言いながらプラントと地球連合を容赦なく襲ったが、盗賊集団に関してはほぼ相手をしなかった。そもそも宗教家も盗みによって武器を手に入れていたし、やはりオーブと関係が深かった。彼等は、両勢力に紛れ込ませたスパイに後ろから味方を撃たせ、数の不利を補っていた。地球軍、ザフトの両勢力も、神の力とは断定できないが、常軌を逸する力を目の当たりにし、一時的に戦闘を弛めざるを得なかった。
そんな折、アズラエルが地球に戻ってきた。彼は電波をジャックし、全世界に向けて己の帰還をアピールした。そして、外宇宙の文明の存在、味方となったワンピ人、たった一度しか使えない神秘の力で地球を元通りにしたこと、等を紹介していった。「ダブルN部隊より遥かに強力な軍隊を持っている」とも言った。その発言で地球軍は勇気を取り戻し、逆にザフトは不安に駆られた。
アズラエルはザフトに降伏を迫ったが、ザフトに残る過激派はこれをよしとしなかった。臨時政権の議長であるアイリーン・カナーバも「せっかく手に入れた主権を手放すことはできない」と戦争の継続を決めた。しかし、アズラエル等の乗る方舟は、レーダーにも映らないような一瞬でプラント新政権の本拠地に移動した。その勢いで、ワンピ人等が議会を制圧し、降伏させた。
アズラエルは「世界のルールを戦前に近い形にする。しかしプラントはワンピ人の空軍が管理し、地球を新しいエリート部隊、NH(ニューヒューマン)部隊が請け負う」と言った。NH部隊は、ナタル、レイ、三馬鹿、ダブルN部隊の生き帰った人間、空軍の一部、に加え、ムウ等のエースパイロットが選ばれた。政治家のほとんどがザーボンに殺され、また蘇らなかったので、アズラエルの強行を止められる地球政府の有力者はいなかった。また、地球軍はザーボンとパトリック・ザラにこてんぱんにやられていたので、民衆もアズラエルのような強い指導者を求めていた。よってアズラエルは全面的に認められたのだった。さらにここでカードを切る。空軍の指導者、ドラゴンの挨拶の後に、ラクス・クラインにマイクを持たせた。
「皆さま。私達は平和を願っているのです。どうか武器をお納めください。それでも武器を取ると言うのであれば、私達と共に、平和を乱す者を討つために」
この演説だけで、ザフトの半分近くが急に非戦を決意したのだった。
もちろん、新政府を認めない人間もいた。彼等は各地で暴動を起こした。が、空軍とNH部隊、また各地の地球軍によって瞬く間に鎮圧されていった。しかし、空軍やNH部隊が被害を受けることもあった。ザーボンの女のほとんどはコーディネーターであり、プラント側の人間だった。彼女達が軍人、いやテロリストとなり、反抗し始めたためだった。
シン、メイリンもアズラエルに与することをよしとせず、プラント残党軍の一員となっていた。メイリンはハラベコ、アズラエルが全ての元凶と考えていたためであり(そもそもアズラエルはブルーコスモス盟主としてほぼ全てのコーディネーターに憎まれている)、シンはそんな彼女を捨て置けなかったからである。
彼等は「生き返った人間は死んだ場所で蘇っている」と聞いて、上層部にルナマリアとマユの捜索を願い出た。ルナマリアが戦力として使えることから上層部は受け入れ、シン等はミネルバで現地に向かった。
ルナマリアは撃墜された近くにいなかった。代わりに輸送船の乗組員が生き返っていて、途方に暮れていた。彼等を脅し、ルナマリアが近くの町へ向かったことを知った。その町で、盗賊がモビルスーツを奪って暴れていたので、シンは独自の判断で盗賊を撃墜した。シンは現地人に感謝された。よって危険はないと判断して、モビルスーツを降りた。ルナマリアについて尋ねるためだった。
しかしそこで、コーディネーターだとバレた。
「ザ、ザフト!」
「お前達! 人が宇宙の化け物に苦しんでいる時に攻撃してきやがって!」
「ザフトは悪魔!」
シンは物を投げつけられた。命の恩人だからと庇ってくれる人もいたが、その人も攻撃され始めたので、シンは悪いと思ってその場を離れた。そんなことをしている間に、ルナマリアが見つかったと連絡が入った。シンはルナマリアに合流し、喜んで抱き合った。
シンは「ルナマリアも残党軍に入るんだろ?」と気楽に誘った。ルナマリアは少し悩んだが、断った。
「ど、どうして!?」
「戦争なんてもうたくさんよ。せっかくザーボンの地獄から解放されたのに、なんで戦おうとするの?」
「そ、それは……」
「お姉ちゃんバカじゃないの! 相手はあのムルタ・アズラエル! ブルーコスモスの盟主なのよ! 全ての元凶よ!」
「全ての元凶はザーボン、いやたぶんフリーザってやつでしょ。アズラエルはむしろ、フリーザに敵対しているように見えるわ」
「だからって、ブルコス相手にっ! プラント、いやコーディネーターの未来はお終いよ!」
「パトリック・ザラはザーボンに苦しめられたナチュラルに手を差し伸べず、逆に好機と見て攻め込んだ。そんな人達にはもうついていけないのよ。だいたいあなた達はいつまで戦う気? ナチュラルに勝って、アズラエルを殺して、でもワンピ人とかいう宇宙人がいるのよ? 彼等も皆殺し? さらに、フリーザ軍とも戦うの? コーディネーターだけで? バカげてるわよ! 本当は戦争なんてしている場合じゃないの!」
その剣幕に、シンとメイリンは何も言えなくなった。論理的にも自分達が間違っている気がした。
実はルナマリアは、この町でコーディネーターだからと殺されそうになった。銃器を持った現地人に囲まれ、尋問を受けた。しかし「ザーボンと戦うためにザフトに入った」と言うと、一人の男が銃器を降ろし「捕虜にする」と言った。その男は、その日の夜にこっそりルナマリアを逃がしてくれた。
「俺の娘はザーボンに捕まったんだ。親の俺が何もせずこんなところにいて、娘より年下のお嬢ちゃんが娘を助けようとしている。それを邪魔することはできないと思ってな。もっとも、ザーボンは死んだようだが」
「えっ」
男はルナマリアに頼んだ。
「うちの娘を見つけたら、この町に連れ戻してくれないか?」
「あっ。……いや、はい。分かりました」
ルナマリアは請け負った。
ルナマリアは町から出た。しかし、ちょうどその頃盗賊が町を襲った。ルナマリアは見捨てるか助けるか悩み、ジッと様子を眺めた。そうしているうちに、自分を助けてくれた男のことが気にかかり、結局町に戻った。ザーボンに鍛えられた身体能力、コーディネーターのよく見える目を活かし、暗闇の中歩兵の1人に飛び掛かり、銃器を奪った。
その後、戦いながら男を探したが、ようやく見つけた男は既にこと切れていた。
ルナマリアは盗賊と戦う決心をした。しかし朝日が昇ると、自分の赤い髪が町の人々に見つかってしまう。ルナマリアは日中は隠れざるを得なかった。そうしているうちに、シン達が来て盗賊を倒してしまった。そこで、姿を現した。しかしその心は、もはやナチュラルだからと言って単純に恨むことはできなくなっていた。
シン、メイリンは結局ルナマリアに押される形で残党軍を抜けてしまった。その後ジャンク屋ギルドに入った。放置されているジャンクで金を得て、食料に変えた。身分も金で偽装してもらったりして、大西洋連邦へのパスポートを得た。早速大西洋連邦に行き、ザーボンのビル周辺を調べた。が、シンの妹であるマユは見つからなかった。代わりに地球軍に囲まれてしまった。
ルナマリア、メイリンはもちろん、シンも身体能力には自信があったが、簡単に捕まってしまった。実は彼等は地球軍でも精鋭中の精鋭、どころかSEEDの地球人最強の、ナタルとレイだった。
アズラエル一行はビルの視察に来ていた。そこそこ強い気を持つ人間がビル周辺でウロチョロしていたので、ナタルとレイが向かい、彼等を捕えた。
ナタルとレイが尋問を行った。シン達は「妹を助けに来ただけだ」と正直に言った。レイは、ウソかどうかくらいは心を読めるので、偽りはないと知った。彼等のうち2人の女がザーボンの女であり、1人が元ザフトだと分かったため、簡単に解放することはできなかったが。
しかしレイは彼等の気を探り、その真っ直ぐさに興味を覚えていた。近くにいるだけで心地よい感じがした。よってアズラエルに頼んでみた。
「彼等を僕に預けてくれませんか? NH部隊で活躍してくれると思います」
アズラエルは珍しいレイの申し出に面喰ってしまった。が、ナメック星人の試練を乗り越えたこの少年のことは信頼していた。ナタルを見張りにつける条件で、許可した。
レイがやけにイケメンだったので、ルナマリアとメイリンは簡単に籠絡された。シンも「妹を探すなら俺達以上の組織は無い」という言葉にやられ、請け負ったのだった。
頂上決戦、頂上茶番、革命の前座、と呼ばれる戦いから無事帰還できたルフィは、久しぶりに再会した仲間と共に宴会を楽しんだ。その後エース等と別れ、グランドラインを入ったところから再出発することにした。
仲間が強くなっており、どうやればいいか勝手も分かっていたので、ログポースに従ってすいすい進んでいった。ある時はドラム王国で青い鼻の喋れるトナカイを仲間にし、カバみたいな王様をぶっ飛ばした。またある時はアラバスタで食い逃げをし、空軍の幹部に捕まり、サボにこっそり逃がしてもらった。黒ひげが死んだと聞いて、ジャヤで項垂れているエースと再会もした。ウォーターセブンで船を造れる変態を仲間にして、ゴーイングメリー号を強化もした。シャボンディ諸島ではっちゃんと再会すると、ナミは謝罪され、代わりではないが、はっちゃんは海賊王の右腕レイリーに船のコーティングを頼んでくれた。
ナミ達はかつて黄猿から逃げる時にチラッと会ったことがあるが、それほどの有名人だとは思わなかった。ルフィはシャンクスの話を聞いて喜んでいた。
レイリーははしゃぐ若者達を見て楽しげにしていたが、不意に真剣な眼差しになった。
「これからの時代、海賊王という称号は少し物足りなくなるかもしれないな。知ってるだろう? 彼等が宇宙人だということを」
「レイリーさん、宇宙人だってことを信じているの?」
「実を言うと、月の近くに宇宙海賊がいることは知っていたんだ。銀河パトロールのこともな」
「そ、そうだったんですか」
「ロジャーがもう少し後に産まれていたら、宇宙の海賊王を目指していたからもしれないな」
「へー」
「無限の宇宙。相手は遥かに強大だ。しかしそれだけ楽しみも多いだろう。舌がとろけるようなおいしい食べ物もあるだろうし、目にしただけで心を奪われる絶世の美女もいるだろう」
ルフィとサンジが「うひょーっ」と喜ぶ。ゾロは強敵を想像し、笑みを浮かべる。
「ただ、どういう船を作ったらあんなに遠くの星に行けるのか。どうしてその星に人がいると思ったのか。さっぱり分からない」
今度は頭脳派のナミと船大工のフランキーが難しい顔になって思考を始める。
「もっとも、それは彼等が知っているようだが」
レイリーはそう言うと、上を指差した。
「キャベス一味……」
ナミは苦い顔でつぶやいた。ルフィ、ゾロ、サンジは手も足も出なかったことを思い出し、静かに怒る。ウソップは恐怖を思い出し、ゴクリと唾をのみ込む。
レイリーは急に歩きだし、机の引き出しを開けた。中からチケットのような物を取り出す。
「見てくるかい? この世界の頂点を」
マリージョア観光用のチケットだった。彼はかつてハンコックがマリージョアから逃げ出した時、九蛇海賊団がこの島にやってくるまで保護したことがある。その縁でハンコックにこのチケットをもらったのだった。
ルフィ達は、宇宙へ行く方法を知るために、マリージョアへ向かうことにした。ナミが「絶対にキャベス一味や空軍と戦っちゃダメ」と言ったが、「ああ」と答えるルフィ達はとても闘争心に溢れた顔をしていた。
一向は軽く変装し、チケットの示す場所へ集まった。そこにはガイドがいて、天竜人が使っていた雲と乗り物もあった。それを利用し、一行はレッドラインの頂上まで登った。ガイドが五老星の住居などを説明するが、ルフィ、ウソップ等は相手にしなかった。程なく、目に見える建物へ走って行った。しかしそこで、ガイドが笛を吹く。瞬く間に空軍の兵が集まってきた。
「ぶへええええ!」
ルフィは目にも見えぬ速さで突き飛ばされ、次の瞬間には海楼石の手錠で拘束された。
「ん? またお前かよ」
キャベス一味の1人、レタツだった。
その後ルフィとウソップは拘束され、尋問を受けたが、10分程で解放された。ただし、観光はさせてくれなかった。
「今のおれ達じゃ、あいつ等には敵わない」
ルフィは一旦冒険を休め、皆で修行をすることを提案した。レイリーはそれに賛成し、且つ師を買って出た。
麦わらの一味は無人島に連れられ、基礎訓練、サバイバル訓練を受けた。肉体を鍛えつつ、生命の危機の中で覇気の早期習得を目指したのだった。ルフィ、ゾロ、サンジが覇気を習得しかけた頃、赤髪海賊団が無人島にやってきた。
「げっ! 間抜けのルフィ!」
「うわっ! あの時に一番初めにやられたシャンクス!」
等の情けない罵り合いの後、レイリーは気楽な感じで言った。
「シャンクス。どうせ暇なんだろう? 彼等を鍛えてやってくれないか?」
「えっ。オレがっすか?」
「ロジャーを超える宇宙一の海賊になりたいようだからな。私だけでは力不足なのだよ」
「宇宙一!? ははっ。全くしょうがないやつだなあ」
シャンクスは呆れたような顔をしたが、請け負ったのだった。
キャベスの実力を肌で感じ取ったシャンクスは、とても厳しくルフィを鍛えた。彼の仲間達もそうだった。しかしルフィ達は挫けなかった。自らの目標の困難さを知っているし、だからこそのやりがいも感じていたからだ。シャンクス等の愛を感じたのもそうだった。
しばらく修行してから、フランキーはアイスバーグ、ナミはドラゴンの下へ向かった。宇宙船の作り方、天候の操り方を研究するためだった。さらにしばらくして、ミホークがゾロの修行をつけにやってきた。ミホーク自身もシャンクスと剣を交え、さらなる高みを目指した。
半年ほど鍛えると、無人島にサボ、エース、くいながやってきた。
「俺達はSEED人の星に向かうことにしたんだ。よければお前達もどうかと思ってよ」
エースが言った。サボと隣の女は仕事で行くのだが、エースも多少仕事をする代わりに、サボと同じ修行をつけてもらう約束をしていた。
ルフィは断った。結局仕事ということが受け入れられなかったからだ。
「海兵の素敵なメガネっ子ちゃんじゃないかー! 素顔もかわいいねえー!」
サンジは文字通り目をハートマークにして、くいなに近づいた。くいなは苦そうな顔で「誰?」と言って身を引いた。
何より驚いたのはゾロだった。顔こそ女海兵にそっくりだが、体の鍛え込み方、たたずまいが全く違う。力感の無い、無駄のない構え。極意に辿り着いた者だけが身に着けられる、静。心を見透かすような瞳。背も少し高い。
女海兵であるはずがない。しかし、自分の知っている女であるはずもない。ゾロは焦りを隠すように、その女を強く睨んだ。
しかし、女はゾロの心情を察したように、フッと笑った。
「久しぶりにやる? 道場破りのマリモ」
「愛想の良さは相変らずらしいな」
ゾロは口に出したい全ての言葉をのみ込んで、皮肉を言ったのだった。
ゾロは喜びに身を震わせながら、いつも以上に集中した。全身全霊、己の全てをもってくいなに打ち込んだ。
「お、おいマリモ!」
サンジが慌てて止めに入ろうとしたくらいだった。しかし遅く、ゾロの三本の刀がくいなを切り刻んだように見えた。
「そんな……」
「や、やり過ぎだよ!」
「てめえ! 許さねえ!」
ゾロは全く手ごたえが無いことを不思議に思った。すると、くいなの姿が残像のように掻き消え、ひたり、と首裏に冷たいものが当たった。
「残像拳よ。あの程度のスピードも見切れないなんてね」
くいなが後ろからゾロの首に刀を当てていたのだった。
「ク、クソッ! もう一回だ」
「ふっ。いいよ」
その後、ゾロは何度も何度も打ち込んでいった。しかし、くいなには一太刀も当たらず、一方的に弄られた。「足元がお留守よ」「いつまでもワンパターンの力任せね」「心が乱れてるわよ、情けない」「弱くなったんじゃない?」と容赦ない罵倒を浴びつつ、峰打ちや当身でボロボロにされた。
「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ」
ゾロは汗びっしょりでぶっ倒れた。くいなは軽く汗を拭うくらいで、息を乱してもいなかった。
あまりの実力差に、ルフィやサンジどころかシャンクスまで唖然としてしまったのだった。レイリーとミホークも、自身が女に全く敵わないことを悟り、苦い顔になってしまった。
「懐かしいな。昔のくいなはこんなやつだった」
「そうなのか?」
「ああ」
エースもくいなの人の変わりように驚いていた。普段はたしぎのように大人しいからだ。サボだけは納得していた。
サボ達がもう行くと言った時、ゾロが倒れたまま言った。
「くいな、俺はまだ最強を諦めちゃいねえぞ」
「ふんっ。当たり前じゃない」
ゾロは両腕で目を押さえたまま、しばらく起き上がらなかった。チョッパーが心配して近づくと「なんでもねえ! ほっとけ!」と怒られた。しかしチョッパーは見てしまった。ゾロがボロボロと涙を流しているところを。
チョッパーは、ゾロは負けたのがよほど悔しいのだろうと思った。しかし、実際はもちろん、くいなが生きていたことがうれしくて泣いていたのだった。くいなの方も昔を思い出して、実はけっこうな勢いで泣いていた。武空術で先頭を飛んでいたために、サボとエースには見えなかったが。