初デート
「ふー、はぁー。落ち着け。落ち着けよ」
今日何度目であろうか。赤い髪の少女は深呼吸をすると心を静める。
「大丈夫。服ははやてに見てもらったし、やるべきこともしっかりしてるんだ」
だが身だしなみは何度見ても気になるもの。ヴィータはオフィスビルの窓に映る自分の姿を見ると、思わず恥ずかしくなってしまう。
それは普段の自分からでは想像できない姿をしているからであろう。
ヴィータの格好は着慣れたバリアジャケットでもなければ教導官の着る白いスーツでもない。この日のためにと、はやてが選んでくれたよそ行きの服だ。
膝丈ほどあるノースリーブの白のワンピース。その上からは赤いジャケットを着ており、肩から腰にかけてバッグのヒモが延びている。
さらに普段の彼女と違うところがあるすれば、その髪型であろう。普段は三つ編みを二つ作っているが、今はそれを解きウェーブがかったストレートなものになっている。
「こ、これがあたしか。ちょっと、気合い入れすぎたんじゃないか……」
鏡の中の自分に話しかける。だがその問いに答えが返ってくるはずもなく、その代わりにけたたましくデバイスが鳴り出す。
「メール?あれ、はやてからだ」
何か忘れ物でもしただろうか。そう思い本文を見る。
【何度身だしなみをチェックしても変わらへんよー。ほら、もうすぐデートの時間なんやから、早くいってあげなー】
「……やっぱりはやてはあたしのことは何でもお見通しなんだよな」
上司であり、夜天の書の主であり、そして大切な家族である八神はやて。まるでどこからか自分を見ているかのような、的確なメールを受けると時計を見る。
「集合時間五分前。……よしっ、覚悟を決めるか!」
戦地に赴くように気合いを入れる。そして今までわざと到着しないように、辺りをぐるぐるしていた自身に決着をつける。
公園の中央に見えるのは、デートの待ち合わせとして有名な時計台。そんな場所で集合するヴィータもまた、周りのカップルと同じ理由でここに集まった。
「あっ、ヴィータさん。よかったー、人がすごくて見つからなかったらどうしようかと思いました」
白のTシャツに灰色のベスト。下には薄茶色のチノパンを穿いた黒髪の青年。カイズはヴィータの姿を発見すると、満面の笑みで彼女に近づく。
「お、おう。待たせたな」
「いえいえ、俺も今来たところですよ」
嘘付けと、心中でつぶやく。周りでうろうろしていたヴィータがこの場所に到着したのが三十分前。その前からいたことは確認しているので、下手をすれば一時間以上前からいたはずだ。
だが待たせたのはグズグズしている自分が百パーセント悪い。なので、特にカイズの言葉に突っ込むことはなかった。だが逆にカイズはヴィータのことをジッと見つめる。
「な、なに見てるんだよ」
「いえ、いつもそうですけど、今日のヴィータさんはいつも以上に綺麗だって思いまして」
「ぶっ!お、お前はどうして恥ずかしげもなくそんなことが言えるんだよ」
「恥ずかしいもなにも、正直な感想を言ってるだけですから。ヴィータさんってロングにすると、綺麗にウェーブがかかるんですね」
「…………お前はどっちの髪型がいいんだ」
服装や髪型をほめられ、満更でもない様子のヴィータ。カイズはそんな彼女を見ると、しばらく考える。
「うーん、どっちも好きですけど。でも普段は三つ編みでいて欲しいですかね」
「どうしてだ?」
「だって、こんな特別なヴィータさんをほかの人に見せたくないですからね」
おくびもなく放たれる言葉に、聞いている本人が恥ずかしくなる。
「お、お前ってその本当に私のこと。そ、その…………」
「どうしました?」
いったいどうしたのだろうと、カイズは頭を傾げる。そんな彼を見ると、ヴィータはコホンと一度咳払いをした。
「あ、あのな。わ、わ、わ、私はその、お前のことが」
「俺のことが?」
「そ、そのな。あの。…………優秀な生徒だと思ってるぞ。また最近成績も上がったし、魔導師ランクも一つあがったしな」
「ありがとうございます。これもそれもヴィータさんの教導のたまものですし、それに試験合格のご褒美のこのデート。俺、すごく楽しみにしてました」
「お、おう。それじゃあ遅くなる前に行こうぜ」
「はいっ!」
ヴィータが歩き出すと、その隣にぴったりとカイズがつく。何とか平静は装えた。だが肝心なことが口にできなかったと、ヴィータは心中で頭をかきむしっていた。
だああぁぁぁぁぁっ、いきなり言えるわけねーじゃねえか。それに『好き』なんてどのタイミングで言えばいいんだよ。
今日の目的を思い出すと、ヴィータの鼓動が世話しなくなっていった。