そこから先は時には子供をあやすように。また子供に合わせるようにし、カイズはヴィータとの時間。
一緒におやつを食べ、テレビを見て、本を読み聞かせて。そうして時間は優しく過ぎていった。
「はじめはどうなるかと思ったけど、これなら夜までもちそうだな」
カイズがそう思い余裕を見せたときだ。
ヴィータの体が小刻みに震えていることに、カイズはようやく気づくのだった。
「う、うう……」
「どうしたのヴィータちゃん?何だか震えてるみたいだけど」
ヴィータの体にカイズの指がチョンと触れる。すると彼女はビクリと体を震わせた。
「…………おしっこ」
「えっ?」
「ヴィータおしっこしたくなっちゃった」
「あ、ああ、なんだなんだ。それじゃあ早く行った方がいいよ」
何かの病気だったらどうしようかと慌てていた心が落ち着く。
だがヴィータが落ち着く様子はなかった。
「じゃあおにーちゃん一緒にきて」
「ああ、それはもちろ、んん」
「だってヴィータ一人じゃおしっこできないもん」
「ああ、なるほど。そういうことか。……はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
あまりにも自然に言ってくるので、思わず流しそうになってしまった。
「いやいやいやいや、それは無理だって。ヴィータちゃん、もう五歳なんだから一人でできるよね?」
「ううん。できないよ」
「え、あれ。一人でトイレって何歳くらいだったっけ。早くて三歳とかだった気が」
だがこの状況に置いて、初トイレの平均年齢は関係ない。今ヴィータが一人でいけるか、いけないか。それだけが問題なのだ。
「いやいやいや、さすがにほんと無理ですって!」
ヴィータの両足を持ち、おしっこをさせている。そんな姿を思い浮かべると、限りない犯罪臭がしてしまう。
「ねえ、おにーちゃん……」
「駄目!さすがにそれだけはできない!!」
「ひゃう!?」
思った以上に大きな声が出てしまい、ヴィータはびっくりして尻餅をつく。
そして――――。
「あ、あ、んん――――」
何かを我慢するように唇を噛みしめる。だがそれはすでに遅い行為だった。
――――ちょろ。ちょろろろ。
床にしたたる水の音。それはもちろん水漏れなどではない。ヴィータは必死になり両足をギュッとするが、流れるそれを止められずにいた。
つまり、カーペットのうえでお漏らしをしてしまったのだ。
「あ、ああ、み、みないでおにーちゃん」
「え、ああ…………」
――――ちょろちょろちょろ。
見ないでと言われても、年上の上司で恋人であるヴィータがお漏らしをしている姿から、カイズは目を離すことができなかった。
さらに本当にギリギリまで我慢していたのだろう。ヴィータの放尿は一向に止まる気配はなく、軽く一分以上彼女は放心した顔でお漏らしを続けるのだった。
そしてそれが終わると、カイズはようやく意識を取り戻し、放心しているヴィータに手を伸ばした。
「あ、あの、ヴィータさん」
「…………う、うう」
「え、あの」
「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁん」
ヴィータはカイズの手を払いのけると、隠すことなく大粒の涙をこぼす。ヴィータのその姿を見て、カイズは右往左往してしまう。
「うわあぁぁぁぁん、わあぁぁぁぁぁん!」
「ま、まさかそんなに驚くなんて。ご、ごめんヴィ――――」
「ごめんなさい。ごめんなさい。ヴィータ、ヴィータ」
「ヴィータちゃん?」
「もう五歳なのに、それなのにお漏らししちゃって。はやてにきっと怒られるよ。それにおにーちゃんにも嫌われちゃったよおぉぉぉぉ!」
スンスンと涙を流すヴィータ。だがそれは驚かせた自分への避難ではなく、ヴィータがはやてや自分から嫌われたという思いからであった。
涙を流すヴィータの姿を見て、カイズは頭を金槌で殴られたような感覚に襲われる。
そして胸を締め付けられる想いと共に、自らの愚かさを呪った。
「俺は、いったいなにしてるんだよ。……なに大切な人のこと泣かせてるんだよ」
だが過ぎ去ってしまった過ちは、今更どうにもできない。だからこそ、カイズはヴィータに近づくと彼女を強く、強く抱きしめた。
「おにーちゃん?だ、駄目だよ。おズボンがよごれちゃうよ」
「そんなことどうでもいいよ。それよりごめん。ヴィータちゃんは俺にしっか助けを求めてたのに。それなのに俺は変なことばっかり考えて、その助けに答えてあげられなくて」
「……おにーちゃん?ヴィータのこと怒ってないの?呆れたりしてないの?」
「悪いのは俺の方だよ。だからむしろ許してもらうのは俺のほうだ」
「で、でもでも。きっとはやてはメッて怒ると思うよ」
「そんなことないよ。はやてさんは優しい人だし。それにもし誰かがヴィータちゃんを怒ったとしても、俺が絶対に守るから。……だからもう泣きやんでくれないかな」
もうこれ以上、最愛の人の悲しんでいる姿は見たくない。
カイズはその想いを込めて、優しく、そして力強く彼女を抱きしめる。
そしてそのまま彼女に口づけをしていった。
「ふわ。お、おにーちゃん」
「だ、駄目だったかな?」
ヴィータはぱちぱちと瞬きする。そして瞳に貯まった涙を自らぬぐい去ると、満面の笑みを彼に見せた。
「ううん。だってヴィータとおにーちゃんは恋人同士だもんね。どっちかっていうとね。……ヴィータ嬉しかったよ」
「うん、それならよかった。……でもまあどうしたものかな」
お漏らしを吸い込んだカーペットは大掛かりだが洗えば済む。だがカイズの服もヴィータの服も彼女のおしっこで塗れてしまっていた。
さらに言えばヴィータのいまの不快感はカイズの比ではないだろう。
着替えさせるにしても、このままさせていいものだろうか?
そんな彼の思いが通じたのか。はたまた彼女もそう思っていたのか。
ヴィータはカイズの服の裾をちょんちょんと引っ張ると、小さく呟いた。
「ね、ねえおにーちゃん」
「ん、どうしたのヴィータちゃん?」
「あ、あのね。……ヴィータと一緒にお風呂入ろう」