「ん、んん…………」
「あっ、よかった気がついたんだ」
「あれ、ここは…………」
ヴィータはきょろきょろとあたりを見る。すると自分がリビングのソファーにいることにすぐに気づいた。
「よかったー。ヴィータちゃん急に倒れるからどうしたのかと思っちゃったよ」
「あん?何だよそのヴィータちゃんって??」
「えっ、だってヴィータちゃんはヴィータちゃんでしょう?…………ってあれ、もしかしてヴィータさん?」
「そうに決まってるだろ。ヴィータはヴィータさんであって、ヴィータちゃんじゃ…………」
ん、今なんて言った。どうして自分のことをあたしじゃなくて、ヴィータなんて言ったんだ。
その疑問を抱えたままヴィータはリビングを見つめる。そこにはおままごとセットや、開けられたお菓子の袋。そして何かをこぼしたような床のカーペット。
それを見た瞬間。
ヴィータは全てを思い出した。
「だああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!なああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ヴィ、ヴィータちゃん。じゃなかった、ヴィータさん落ち着いて!!」
「これが落ち着けるかあぁぁぁぁ!!死ぬ、死んでやるうぅぅぅぅぅ!!」
ヴィータはグラーフアイゼンを握り込むと、棘の部分を首元に向ける。
そしてその間にもこの一日の行為が走馬燈のように彼女の頭を駆け巡った。
「あ、あたしはなにしてたんだよ!みんなに迷惑かけて、ザフィーラの尻何度もアイゼンで殴りつけて、お菓子はこぼすは、暴れ出すわ。しまいにはお、おまえの前で、も、もらし」
「ヴィータさん、とにかく落ち着いて!ほんとそれは危ないですって!!」
「離せ、離せ!こんな生き恥さらして生きてられるかあぁぁぁぁぁ!!」
アイゼンを構えるヴィータと必死に押さえつけるカイズ。二人の力は拮抗し、一歩も譲らない。
だが言葉通り死ぬ気のヴィータは、彼の力をほんの少し上回った。
カイズはその場で尻餅をつくと、ヴィータは天井を見上げ乾いた笑い声を浮かべる。
「は、あはははは。でもあたしが死ぬだけじゃ駄目だな。あたしが死んでもあたしがした恥ずかしいことはお前の頭の中に残ってるんだもんな」
「ヴィ、ヴィータさん?え、なんでグラーフアイゼンをこちらに向けてるんでしょうか?」
「なに殺したりはしねえよ。ちょっと記憶がなくなるくらいボコボコにするだけだからよ」
「や、やばいですって。その尖ったほうで叩かれたら、記憶なくす程度じゃすまないですって!」
「安心しろ。もしカイズが死んだら、あたしもすぐ後を追ってやるからよ」
ま、まずい。目が本気だ。
アイゼンを構えゆらりゆらりと近づくヴィータ。そんな彼女を見て、カイズの愛機が電子音をあげる。
『状況を把握しました』
「お、おお。マイフェイバリットデバイス。この状況をどう回避したらいい!」
『…………回避不能。このまま殴られるしかありません』
「だああああ!さすが俺のデバイスだよ。教科書にないことにはめっぽう弱いなああぁぁぁぁ!!」
「カイズ~」
ヴィータはアイゼンを振りあげると、まっすぐカイズの頭部を見つめる。
「せめてひと思いにやってやるからよー」
「趣旨が変わってますって!って、ええぇぇぇぇっ!!」
――――ヒュン!ドスッ!!
アイゼンが振り降ろされる。
あっ、死んだな。そうカイズが確信した瞬間だ。
それよりも早く、彼女の手がヴィータの腹部を貫いた。
「がっ、なっ、シャ、シャマル」
「よ、よかった。間に合って……」
ヴィータの腹部から現れるシャマルの手。その攻撃は昔なのはを傷つけたリンカーコアを直接抉る彼女の攻撃方法であった。
「ぐっ、ちくしょう……」
実際ヴィータのリンカーコアは傷ついていない。だが一撃必殺を誇るそれは、確実にヴィータの意識を奪っていくのだった。
「ん、んん。――――はっ!!」
ヴィータは目が覚めると、タオルケットをどかしその場から起きあがる。
そんな彼女を見て、はやては優しい笑みを浮かべた。
「おっ、ヴィータ起きよったんやね。どうや、気分のほうは?」
「えっ、気分って。あ、あたしはいったい?」
「なにヴィータ覚えてへんの?昨日シャマルに作ってもらった薬を飲んで、今日一日ずっと寝込んどったんよ」
「あたしが。寝込んでた……?」
そう言われてみれば、そんな気がする。だがそうでもない気がするのはなぜだろうか。
「はやてさ。何だかあたし今日一日中ずっと変な夢みてたんだ。あたしが五歳児になって、それで」
「そんなわけあらへんやろ。五歳児になるって、それどんな状況やー」
「だ、だけど、お菓子を食べ漁ったり、洗濯物をちらかしたり。……あれ?」
ヴィータはあたりをキョロキョロと眺める。だがそこは見慣れた綺麗なリビングであり、汚した様子などいっさい見られなかった。
「ヴィータの記憶にあるリビングはこんなに綺麗やったか?」
「……ううん、違う。それじゃあやっぱり」
「全部夢だったんよ。ほら、もうすぐご飯ができるし、カイズ君もそろそろお見舞いに来てくれるはずよ」
「え、カイズの奴が来てくれるのか?」
「もっちろん。カイズ君が来たらみんなでご飯にしようなー」
はやてはそれだけいうと、キッチンに戻る。
ヴィータはそのあとほかの家族を見るが、いたっていつも通りの様子だった。そこまで見ると、ヴィータはほっと一息つく。
「なーんだ。全部夢だったのか。そりゃそうだなー」
自分が五歳児になり、あまつさえ彼氏の前でお漏らしをするなどありえるはずがない。
ヴィータは安心したとソファーに横になると、早くカイズがこないかと心待ちにするのだった。
『という感じになってるんや。よろしゅうなカイズ君』
「はい。というか、いろいろとギリギリでしたね。あっ、お菓子のゴミとか捨てたらすぐに向かいますね」
『ついでにデザートでも買ってきてくれるとありがたいかな』
「はい、了解しました」
カイズはそこで通信を切ると、生命に危機は去ったと一息つく。
そして大量のゴミと塗れたカーペットを分別して捨てると近くのコンビニへと足を運んでいくのだった。