※この作品はR-18です。

ヴィータちゃんは男友達が少ない(18禁版)   作:白翼

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ヴィータちゃんは男友達が少ない7 心乱れる初やきもち
大人の会話 子供の会話


 管理局の食堂での何気ない一言。そこからその話は始まった。

 

「ああ、そういえばあいつの怒ったところ見たことないですね」

 窓際の二人掛けの席。目の前のコバルトブルーの髪の女性は顎に手を添える。すると長い足を組み替えしばらく考え込んだ。

 

 だが首をひねると、もう一度同じ言葉を口にした。

 

「うーん、やっぱり覚えがないですね」

 

「言われてみれば。……確かに付き合ってからあいつが怒った記憶ってないような」

 

 コバルトブルーの女性とは髪の色も背格好も対照的な少女は、二つの紅いおさげを揺らす。だが年上である彼女に対してコバルトブルーの女性は敬語のまま考えを口にした。

 

「学生の時のカイズ君は、ま、まあ今と性格が全然違ってましたから」

 

「周りからよく聞くけど、そんなに今のカイズと前のカイズって違うのか?」

「…………ええ、かなり。まあ彼の性格はさておき、やっぱり昔付き合っていたときも怒ったことはありませんでしたね。私が無理難題言ったら、のらりくらりとうまくかわしますし。あの頃は女の子の気を使うくらいなら、多分別れてたと思いますし」

 

「なるほどなー。怒った顔、怒った顔。……やっぱりないな。遊園地行ったときも、部屋行ったときも。教導の試験で落ち込むことはあっても、八つ当たりだけはしてこなかったもんな」

 

「全ては謎。闇の中って感じですね」

 

 そこで一度会話を切ると、ヴィータとサクヤは同時にコーヒーを口に運ぶ。

 

 そのとき窓から差し込む光が反射したのだろう。サクヤの指輪がキラリと光と、ヴィータは恐る恐る声を上げた。

 

「そ、そういえば、あたしなんかが本当に結婚式に行っちまっていいのかな。あたしシンドウさんとほとんど面識なかったわけだし」

 

「そんなの関係ありませんよ。それに管理局の英雄に出席していただけましたら、私にも旦那にも箔がつきますしね。あ、も、もちろん迷惑でなかったらですけど」

 

「め、迷惑なんてことはねえよ。……偶にだけどこうやって話せるのは楽しいし。あいつのことで盛り上がれるしさ」

 

「ふふ、ごちそうさまです」

 

 サクヤは柔らかい笑みを浮かべると、コーヒーを机に戻す。そして肩の力を抜いたように、リラックスして話し出した。

 

「でも正直カイズ君のことは心配してたんですよ」

 

「心配って、管理局入ることか?」

 

「その前からです。――――やっぱり思い出せなくても心の底では事故の恐怖というか、誰を助けなくちゃっていう脅迫観念があったんだと思うんですよ。――――確かに私は学生時代カイズ君と付き合ってました。でも彼と同じ道に行こうと、違う道に行こうと、きっとこの人とはどこかで別れるんだろうなって。学生ながらにわかってたんですよね。で、この人は本当の意味で人を愛することができるのかなって。もし心の底から人を好きになれなかったら、この人の人生はどうなるのかなって割と真剣に考えてたんですよ」

 

「そ、そこまで酷くはないと思うけどな」

 

「いえいえ。私は真面目にそう思ってましたよ。……でもヴィータさんのおかげでそれも取り越し苦労だったんですけどね」

 

 そう言葉にするサクヤはどこまでも真剣で。そんな彼女を見れば見るほど、ヴィータは困惑した。

 

 あいつはそんな悲劇の主人公張るような役柄じゃないと思うけどな。

 

 ヴィータの知っているカイズは、どこまでも真っ直ぐで明るくて。愛してるだの好きだのと言う言葉を恥ずかしげもなくいって。それでちょっとエッチで。だけどどこまでも自分のことを気遣ってくれる。

 

 そんな彼が、人を愛せない人間だとはヴィータにはどうにも思えなかった。

 

「……うーん」

 

「でも昔のカイズ君のことを知らないヴィータさんには、ちょっと納得しづらいですよね。……逆に私は今のヴィータさんほど彼のことをよく知らない。とにかく今がうまくいってるんですから、それでいいと。そういうことにしておきましょう」

 

「まあそうだな。昔は昔、今は今だしな。というか、結婚式の話から随分とずれちまったな」

 

「あっ、結婚式といえば、今度の休日のことはカイズ君に聞いてますよね」

 

「今度の日曜日っていうと。えっと、確かシンドウさんの旦那さんの料理店で結婚式の打ち合わせをするって話だよな」

 

「はい、そうです。すみませんね、せっかく二人の休みが合う日なのに」

 

「別に気にしてねえよ。集まるのは夜からだし、むしろ旦那さんの料理をごちそうになるんじゃ、こっちのほうが申し訳ないくらいで」

 

「それは大丈夫ですよ。それにうちの旦那もヴィータさんに会えるの楽しみにしてるんですよ。……正直な話、私のことを振った男が、どんな彼女を連れてるか一目見たいって。まあ私以上の女なんていないけどなって、大笑いしてましたよ」

 

「あはは、それはまた豪快な旦那さんだな。でもそんなこといったら、カイズのやつだってあたしのこと自慢し始めるぞ」

 

「ふふ。全く男って見栄っ張りですよね。別に昔の男や女のことなんて、今が幸せだったら本当に些細なことだと私は思うんですけどね」

 

「それは違いないな。……まあ結局、今が幸せだーってノロケたいだけなのかもしれないけどな」

 

「違いないですね」

 

 二人は互いの想い人のことを頭に浮かべると、嬉しそうに頬を緩める。そして再びコーヒーカップを手に取ると、カンッと小さく乾杯していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 そんな二人のお喋りをその二人は少し離れた席で盗み聞きしていた。

 

 はやては頭を抱えると、机の上に額をつける。

 

「ううぅぅぅぅ、ヴィータが。ヴィータがどんどんと大人に。……これが俗に言う親の寂しさっていうもんなのか、なのはちゃん」

 

 目の前のサイドテールの女性は、デバイスに保存してあるヴィータの写真を表示させると、眩しそうに天井を見つめた。

 

「あの頃のヴィータちゃんは、私の名前がいえなくて。高町なにょはって。……そんな舌っ足らずなヴィータちゃんも今ではあんないかにも出来そうな女の人とガールズトークをしてるなんて。時が経つのって早いねはやてちゃん」

 

 なのはは落ち着いた表情のままコーヒーのカップを手に取る。だがその場だけ地震が起きているかのように、カップは16ビートを刻んでいた。

 

「な、なのはちゃん。大丈夫か」

 

「は、はやてちゃんこそ……」

 

「わ、私か。……私はちょっと駄目かもしれへんな」

 

「…………私もだよ!」

 

「なのはちゃん!」

 

「はやてちゃん!」

 

 テーブル越しに二人はがっしりと抱きしめ合う。

 

 そんな古いつきあいの二人を、あとからきた金髪の女性は困惑したような顔で見つめていた。

 

「ど、どうしたの二人とも。普通にいいことだと私は思うけど」

 

「違うん。違うんよフェイトちゃん。いいことはいいことやけど、こう、いつまでも子供だと思っとったヴィータが遠くにいったようで寂しいというか」

 

「ヴィータちゃんともっと遊びたいのに、純粋にその時間が減った寂しさというか。――――とにかく何とも言葉にしにくい想いなんだよね、はやてちゃん!」

 

「そうや! この気持ちはヴィーターランクが高くないと共感しにくいんや」

 

 もう途中から二人がなにを言っているのか、フェイトにはわからなかった。だがとりあえず一つだけ分かることがあると、フェイトは二人の肩を抱きしめた。

 

「……じゃあ今日はどっか飲みに行こうか。二人の話したくさん聞くからさ」

 

「い、いいんか。私のヴィータの可愛い話は108式まであるんよ」

 

「私の素直に慣れないヴィータちゃん話は109式まであるしね」

 

「なんの、なんの。私のヴィータの甘えんぼ話は110式まであるんよ!」

 

「私のヴィータちゃんうっかり照れ顔話は、111式まであるけどね!」

 

「わかった、わかった。二人の話は朝まで聞くから、ね」

 

 フェイトは二人の肩をぽんぽんと叩く。二人は目を潤ませると、フェイトの胸に飛び込んだ。

 

「ありがとなフェイトちゃん! 私フェイトちゃんのことも大好きやでえぇぇぇぇ!」

 

「私もフェイトちゃんのこと大好きだよおぉぉぉっ!」

 

「あ、あははは……」

 

 今夜は長くなりそうだ。二人の大きな子供をあやしながら、フェイトは心の中で苦笑いを浮かべるのだった。

 

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