時刻は夜十時。今日の営業時間を終えた店内に入ると、カイズは目の前の一回りほど年上の男の前に立つ。
目の前の男はエプロンを外すと、カイズの隣の女の子をちらりと見た。
カイズは彼の視線を感じると、ふんと鼻を鳴らし大きく胸を張って見せた。そんなカイズの姿を見て、彼に負けず劣らずエプロンの男性も胸を張りふんぞり返って見せた。
「今日は『銀河一』綺麗な俺の嫁のために、よくお越しいただきました」
「いえいえ。こちらこそ『時空一』可愛い俺の彼女も呼んでいただき、どうもありがとうございます」
「くっくっくっくっっくっくっくっくっ」
「はっはっはっはっっはっはっはっはっ」
二人の男は熱い握手を交わす。その握力が尋常ではないのは、きっと見間違えではないだろう。
そんな馬鹿丸だしのパートナーを見ると、二人の女性は笑みをこぼした。
「ほんと、男って」
「馬鹿だよな」
だがそんなにも自分を愛してくれていることが嬉しくもあった。そして男二人にならい、ヴィータとサクヤは互いに優しく握手を交わした。
「ヴィータさん、今日は私のためにありがとうございますね。旦那には全力で腕を振るわせたんで、料理楽しみにしててくださいね」
「ありがとうな、シンドウさん」
「いいえ。……あれ、ヴィータさん。何だか随分とご機嫌みたいですけど、デート中なにかあったんですか」
「えっ、あっ、その」
「まあ根ほり葉ほり聞くのは失礼ですね。でもうまくいってるようでよかったです」
「あ、ありがとうな」
ヴィータはサクヤの気遣いをありがたく受け取る。
どっちにしても今日のことはおいそれと話せることではない。それは公園でエッチなことをしたことではない。
サクヤも知らない、怒っているカイズの姿を見たことは、心の中に大事に仕舞っておきたかったのだ。
「(確かにあたしは学生時代のカイズを知らない。きっと過ごした時間だけなら、シンドウさんのほうがずっと長いはずだ)」
それでも自分は、誰も知らないカイズの姿を知っている。そしてそれはこの先もずっと続くはずだ。
きっと知らないカイズに出会う度に、自分は戸惑ってしまうかもしれない。
だけどそんなことすら楽しみに思うと、自然と頬がゆるんでしまったのかもしれない。
だがゆるんだ頬を元に戻すつもりはなかった。
「それじゃあ、馬鹿な男たちを止めにいくか」
「ええ、そうしましょうか」
ヴィータとサクヤは幸せだなと笑みを浮かべると、愛する人の元へ駆け寄っていくのだった。