ことの発端は数日前に遡る。ヴィータとデートができれば試験を頑張れると言ったカイズが、見事に一発合格。そのデートのために、はやて一家で買い物に行ったときのことだ。
「ほんならヴィータ。カイズ君に自分の口から好きって言ったことないんか!?」
「そ、そういえば言ったことなかった」
「あかんわー。それはあかんよヴィータ。男の子っていうのは、繊細やからかな。ちゃんと口で言わないと、安心してくれきいひんよ」
「そ、そういうもんなのかな」
「そういうもんなんよ。ほんとーに、一度も言ってないんか?」
「ん、んー」
今までのカイズとの出来事を思い出す。自分のことを好きだ好きだというカイズ。シャワー室では彼のほうから告白させ、教導終了後は別れるのが寂しいとは言ったが、確かに好きだとは口にしてなかった。
自信なさげなヴィータの顔を見ると、わざとらしくため息をつくはやて。彼女はヴィータの両肩に手を置く。
「よっし、それじゃあ次のデートの目標はカイズ君に好きだって伝えることや」
「でも言わなくても私の気持ちくらい――――」
「それでも言って欲しい言葉ってのはあるんよ!よーし、そうと決まったら最高の勝負服を選ばなな。行くで、シャマル!シグナム!リイン!アギト!」
「はーい、はやてちゃん」
「及ばずながら手伝わせていただきます」
「ヴィータちゃんのために頑張るですー」
「任せときなヴィータの姉御!」
当の本人を置き去りに、意気込む女性陣。
こうして八神一家プロデュース、ヴィータに好きだと言わせるプロジェクトが開始されたのだ。
「おおぉぉぉぉっ、それにしてもでかいなー」
「さすがミッドランドですね。名前にこの次元の名前を入れているだけありますね」
目の前に広がるのは、まさに夢の世界。入り口の手前から現実を忘れさせる個性豊かな装飾。着ぐるみや耳の生えた帽子を被っているスタッフ。そしてなにより、視界では収まり切らないほどの、アトラクションの多さにヴィータは圧倒される。
「ほら、やべえぞ。ミックンが入り口のすぐ手前にいるぞ!」
「それじゃあさっさとチケットを買っちゃいましょうか」
カイズは券売機の前に立つと、手慣れたようにチケットを二つ買う。
「お、おい。あたしの分は自分で出すって」
「いえいえ。こういう時は率先して男が出すものなんですよ」
「でもあたしはお前の三倍は稼いでるぞ?」
「そ、そう言われると辛いところがありますけど。でもまあ彼氏を立てると思って、受け取ってください」
スッと差し出されるチケットをヴィータは受け取る。
「あ、ありがとうな」
「いえ、どういたしまして。あっ、ほら。急がないとミックンが移動しちゃいますよ」
「えっ、あっ――――」
遊園地のマスコットキャラを追いかけるために、自然に捕まれる手。久しぶりに触れたカイズの体温を感じると、ヴィータは恥ずかしさのあまり俯いていった。
そんな二人から離れること五十メートル。開園同時に入場し、二時間ほどアトラクションを満喫した彼女たちは、初々しい二人を見ると頬をゆるませる。
「ほぉー、あれを自然にやってのけるとは。カイズ君、こりゃなかなかいい子やでー」
「そうですね、はやてちゃん。やっぱりヴィータちゃんはいい子を選んだようで安心しました」
はやてとシャマルはサングラス越しに、にやにやと笑みを浮かべる。シグナムはそんな二人の襟を掴む。
「これ以上の接近は危険です主。……しかしここまでついていくのは些かやりすぎでは」
「やりすぎなことなんてあらへん。これは家族の幸せを思うが故の行動や。それにあのヴィータに彼氏ができたんよ。やっぱり近くで見てみたいやろ」
「ま、まあそれはそうですが」
何分仕事ばかりで恋愛云々とは無縁のメンバーだ。他人の恋路が楽しくてしょうがないのだ。
今一納得のいかないシグナム。そんな彼女を人型サイズのアギトとリインが両脇からなだめる。
「まあここまできちまったんだから、今更気にしてもしょうがないって姉御。ほら、もう割り切って楽しんじまおうぜ」
「そうですよシグナム。はぁー、それにしても何も言わずに颯爽とチケットを買う姿。やっぱり男の人はあれくらいスマートでないと行けませんね」
その言葉と共に、女性陣が一斉に一人の男を見る。視線を向けられたのは筋骨隆々の男。元から生えている狼の耳の上にさらにマスコットの耳を重ねられ、手には風船が四つ。六袋ほどおみあげを持たされたザフィーラがそこにいた。
「…………失礼ですが主たち。ここの支払いは全て俺がしたと思いましたが」
「いいかいザフィーラ。それをスマートにやるのが男の子言うっちゅうもんや」
「ザフィーラにはそういう人を気遣う配慮が足らないのよね」
「全く同じヴォルケンリッターとして情けないな」
「旦那、男ってのは女を立てるもんだぜ」
「あっ、はやてちゃん。二人が移動しますよ。行きましょう」
リインの指示で走り出す女性陣。そしてザフィーラは一人置き去りにされていく。
「………………」
入場料を払わされ。まだ早いと言ったにも関わらずおみあげを買わされ、持たされ。そして今まさに言われもない罵倒を浴びせられたザフィーラ。
彼は体を震えさせると、空に向かい叫び声をあげる。
「テエオォォォォォッ!!」
だがあまりの悔しさと、普段の自然な生活、そして彼自身の性格のために気づいていないのだろう。
男一人に対し、様々な年代の女性に囲まれている彼が、この遊園地内において一番嫉妬と羨望の視線を浴びせられていることに。
「………………俺も行きます」
だがそれが彼にとって本当に幸せであるかということは、また別の話である。