残りの話は今日の10時に更新予定です。更新後、この前書きは消去します。
よそよそしい二人
「う、うおおおお」
管理局の食堂。ヴィータはお昼ご飯を目の前にしながらも、頭を抱えうなだれていた。
理由はただ一つ。前回の朝のことに未だ罪悪感を持っているからだ。
いや、正確に言えばあの事件はどちらも悪くないはずだ。むしろヴィータを強く抱きしめていたカイズに比があるといっても過言ではない。
しかしあの事件以来、カイズはどこかよそよそしかった。
一緒に寝ているが距離があるというか。この前の事件以降、全くと言っていいほどエッチな空気にならないように気をつけている。
それもこれも寝ているヴィータに射精してしまった罪悪感からだろう。だがそれはカイズの勘違いなのだ。本当はヴィータが何度かフェラチオをしたために、射精してしまったわけなのだから。
だがヴィータは未だにそのことを弁明する機会を得ていなかったのだ。
「あー、うー、でもどうしたらいいんだよー」
「随分目に見えてお悩みですねヴィータさん」
「あっ、シンドウさん。今日はこっちで仕事だったんだな」
「ええ。結婚式もそろそろなので、その前に大きな仕事を全部片づけようと思いまして。前、いいですか」
「あっ、大丈夫だぞー」
ヴィータはトレイを自分の元に引き寄せると、サクヤはコバルトブルーの髪を揺らしながら前の席に座る。
サクヤはパンとスープを乗せたトレイを置くと、頬杖をつき柔らかい笑みを浮かべた。
「またカイズ君がらみで何か考えてるんですか」
「えっ、ど、どうしてそう思うんだ」
「ヴィータさんが悩んでるっていったら、だいたいそれくらいですからね。あっ、そういえば同棲始めたんですってね。いろいろあってみたいですけど、とりあえずおめでとうございます」
「あ、ありがとうな」
「それで彼の何か嫌なところでも見つかりましたか。エッチな本が多いとか、やたら性欲が盛んだとか」
「ぶっ!!」
お昼のひとときにふさわしくない単語がでると、ヴィータは思わず吹き出してしまう。
何も口に含んでいなかったのが幸いだ。ヴィータはフキンで軽く口元を拭く。
「べ、別にそういうんじゃなくてな。そ、それにエッチなことだって同棲してからほとんどしてないし……」
「だったら何を悩んでるんですか?」
「そ、それはよー」
事情を話そうにも、それこそお昼時に話すネタではない。いや、きっと相談すればサクヤは自分の求める回答をくれるであろう。
だがこれはあくまでヴィータ自身の問題だと、羞恥半分で言葉を飲み込む。
「べ、別にカイズのやつに嫌なところなんてねえけどよ。んっ、嫌なところ。…………そ、そういえばあいつって何か好きなものってあるかな」
「好きなものって。一番好きなのはヴィータさんだと思いますよ」
「ぶっ! ごほ、ごほ、だ、だからそういうんじゃなくてよ。えっと、好きな食べ物とか、好きな場所とか、そういうのあるかなーって」
考えてみれば、カイズは自分のことを好き好きいうが、食べ物や遊び場などは常にヴィータを優先している。
一緒に暮らしていても、食事はバランスがよいものであり、特定の好みというものも見えてこない。(ヴィータの作ったものは、全ておいしいと笑顔で食べてくれる)
サクヤはヴィータの顔を見て思うところがあるのだろう。だがあえて深くは追求せず、ヴィータの質問に答えた。
「カイズ君の好きなものですかー。うーん、高等部の時は、特にこれといってなかったといいますか、勉強と女二筋だったといいますか。――――あっ、そういえば」
サクヤはポンと両手を合わせると、なぜか少し意地の悪い笑みを浮かべる。
「カイズ君、随分とお酒が好きになってましたね」
「お酒が好き? でもあたしの前じゃ全く飲まねえぞ」
「えっと、好きと得意は違うといいますか。お酒はものすごい好きなんですけど、これでもかってくらいアルコールに弱いんですよね。そのせいで、ヴィータさんにはいらぬ心配もかけましたし」
「それって仮教導試験の時の話か?」
「そうですね。あの時は主人がお酒を勧めたせいで、カイズ君随分酔っぱらっちゃって。それでヴィータさんの連絡に返信できなかったんですよね」
「あー、そういえばそうだったな」
初めてサクヤと出会ったあのころ。カイズの元彼女だったサクヤの登場と、音信不通で随分と思い悩んだ記憶がある。そのサクヤが今では一番の相談役なのだから、人生とはわからないものだ。
ヴィータは顎に手を添えると、「そうかー」と声を上げる。
「あんまりイメージがないけど。やっぱり飲むの無理してるのかな?」
「いえいえ。お酒なんかよりも、ヴィータさんが傍にいることがなによりも嬉しいんだと思いますよ。……まあここ最近気づいたのは、それくらいですかね」
「そうか、酒かー。……って、それはいいんだけど、どうしてシンドウさんはそんなにいい笑顔してるんだ?」
「えっ、私そんなに笑ってました」
「……それはもう満面だぞ」
何がそんなに楽しいのだろうか。先ほどからやたら笑顔のサクヤが不安感を煽る。
怪訝そうなヴィータの目を見ると、サクヤは「ん、んん」と咳払いして大人の顔に戻る。
「とにかくお酒が好きなのは本当なので。もし心配だったら、飲む前にカイズ君に聞いてもらってもかまいませんし」
「いや、別に疑ってるわけじゃないんだけどよ。……でもアルコールに弱いのに、飲んで楽しいのか?」
「…………それはもう、楽しいことになると思いますよ」
「んん?」
サクヤの物言いがいまいち頭に引っかかる。だがどちらにしても相談したのは自分の方だ。
今日は帰りにお酒を買い込んでいこうと思うと、冷め始めた昼食を取り始めていくのだった。