カイズのアパートで待つこと三十分。先に帰ったヴィータはある程度の準備を終えており、彼の帰りを待っていた。
すると遅刻するといった時間ぴったりに、鍵がカチリと開いた。
「遅くなりましたヴィータさん。あと今日は何も買ってこなくていいって言ってましたけど。ん、テーブルのそれどうしたんですか。というか、アルコールがそこらかしこに見えるんですけど」
「今日はちょっと飲もうと思ってよ。カイズもアルコールは好きだってシンドウさんが言ってたし」
「あのお喋りが。で、でも一番好きなのはヴィータさんですからね!」
「…………それもシンドウさんが言ってたぞ」
どうしてこの二人はこっちが恥ずかしくなることを、ばんばんと言ってくるのだろうか。まあ今はそれを問いつめる時ではない。ヴィータはテーブル越しの座布団をぱんぱんと叩くと、カイズをそこに誘導した。
「とりあえずまずは座れよ。ピザもオードブルも十分前にきたばっかりだから、温かいうちに食べようぜ」
「あっ、それなら代金を」
「そういうのは後でいいって。ほら、早く上着掛けちまえよな」
「はい、それじゃあとりあえずそういうことで」
カイズは鞄をおろすと、ハンガーに上着をかける。
彼は普段着に着替えるかどうか一瞬悩むが、ヴィータの温かいうちにという言葉を思い出すと、とりあえずネクタイを外す。
第二ボタンまで外されたワイシャツから覗く鎖骨を見ると、ヴィータは思わず頬を赤く染めてしまった。
「あれ、どうしたんですかヴィータさん? もしかしてもう飲み始めちゃってました?」
「そ、そんなわけねえだろ。ほら、早く食べようぜ」
「あっ、はい。それじゃあ。――――いただきます」
「いただきます」
二人して両手の平を合わせると、ヴィータがすぐに三本のボトルをテーブルの上に置いた。
「何か好きなお酒ってあるか? 一応一通り揃えたつもりなんだけど」
「ワインよりも、ビールとかのほうがいいですかね。どうもあの喉ごしが苦手で」
「じゃあ、こっちの奴でいいかな。ほら、コップだせよ。ついでやるから」
「ども、ありがとうございます」
カイズがコップを出すと、その中にビールを注ぐ。それが終わると、カイズは次はとヴィータのコップにビールを注いだ。
「それじゃあ乾杯でもしますか? あっ、でもどうして急にこんなことに??」
「……ま、まあいいじゃねえか。ほら、かんぱーい」
「あっ、乾杯」
カンッとグラスがぶつかり合う音が聞こえると、ヴィータはコップに口を付ける。あまり好んでアルコールを取ることはなかったが、カイズの好きなものだと思うと自然といつもよりおいしく感じられた。
「さて、まず何を食べるかな。――――って、おい。何で瓶持ってるんだよ」
「えっ、だって最初の一口で飲みきったんで。それじゃあ次はこっちのもらいますね」
ヴィータの返事を聞くことなく、カイズは新しい瓶の蓋を開ける。そしてグラスに並々と注ぐと、それを煽っていった。
「あー、やっぱり偶に飲むからこそアルコールってうまいですね」
「お、おぅ」
「あっ、飲みきる前に違う瓶の蓋を開けるのはマナー違反ですよね。で、でもちゃんと飲みきるんで心配しないでくださいねヴィータさん」
それだけ言うと、カイズは再びグラスを煽り出す。見る見るうちになくなるその中身を見て、ヴィータはしばしポカンと口を開けてしまった。
お酒が好きだって言ってたけど、本当に好きなんだな。……でもこれのどこがアルコールに弱いんだ?
ヴィータはピザを噛みながら、カイズの様子を見る。
初めこそは、二、三杯飲んだあたりですぐに酔っぱらってしまうと思っていた。
だが一杯、また一杯と飲み続ける彼を見て、ヴィータもさすがに心配になってきた。
「そ、そんなペースで飲んで大丈夫かよ」
「全然大丈夫ですよ。まあ最悪二日酔いになっても、明日は休みですし。あっ、でも俺二日酔いになったことなかったっけ」
「もしかしなくても、カイズってアルコールに強いのか?」
「特に意識したことはないですけど。どうしてですか?」
「い、いや、特に深い意味はないんだけどよ。でもしっかり食事も取れよな」
「はい、ありがとうございますヴィータさん!」
ヴィータからピザを受け取ると、バクバクバクと一気に口に含んでいく。そしてまるでそれを流し込むように、再びお酒を飲み始めた。
「ま、まあ楽しければいいんだけどよ」
「はい、すっごく楽しいです!」
少年のような無垢な笑顔でそう答えるカイズ。まあ悪酔いしたら無理矢理にでも止めればいい。
その時点でヴィータはそう思っていた。
……だからこそ気づくはずがなかったのだ。
――――ガンッ!
テーブルにグラスを叩きつける音が、室内に響く。ヴィータは体をビクリとさせると、カイズは突然両手を地面につけた。
「ヴィータさんごめんなさい!」
「へっ、はぁ?」
「決してわざとじゃなかったんです。だ、だけど俺、ヴィータさんに、その、酷いことしちゃって」
「何のことだよ。酔っぱらってるのか?」
「そうじゃないんです。――――三日前の朝のことです。俺が起きたら、なぜヴィータさんが俺のチンコを握ってて、それで必死に外そうとしたんです。だ、だけどその際にヴィータさんの手の中でぶちまけちゃって。すみません、本当にそんなことをするつもりはなかったんです!」
きっとヴィータと同じで、カイズもあの件についていつ切り出すか考えていたのだろう。
カイズは床に額を擦りつけると、何度も何度も土下座をした。
「ごめんなさいヴィータさん。俺が悪夢を見るから傍にいてくれたはずなのに。それなのに、そんな真摯な想いのヴィータさんに欲情して、あまつさえぶっかけちゃうなんて!!」
「ちょ、ちょっとストップ、ストップ! そんな大声で言うなよ。隣に聞こえちまうだろ!!」
「でも小声で誠意なんて伝わりませんよ! ヴィータさんにムラムラして、すみませんでした。そしてたった一コキで射精するような早漏野郎でほんと申し訳ありません!!」
「だぁー、そうじゃないって。その件はな、こっちも結構関与してるんだよ」
「えっ、関与してるって?」
「…………今日の件はそのお詫びでもあったんだよ。でも先に謝られちまったから。だけど、カイズが悪いわけじゃなくて。あ、あたしも十二分に悪くて」
ヴィータは申し訳なさそうに目を伏せると、ことの顛末をカイズに話し出す。
朝起きたらカイズが自分を抱きしめて離さなかったこと。
それから抜け出そうとして、ズボンが盛大にズレたこと。
そしてフェラチオをしたあげく、握りしめてしまったことなど。
全てを話し終えると、今度はヴィータが床に両手をつけた。
「ごめんカイズ。でもなかなか言い出せなくて。本当にごめん!」
ヴィータはそのまま額を床に押し当てようとする。だがそれよりも一瞬早く、カイズが彼女の頭を押さえ込んだ。
「そんなことしないでください! それにその話だとヴィータさんを抱きしめてた俺が悪いわけで」
「だけどその後のことは全部あたしが悪いわけだし」
「そうであってもヴィータさんは悪くありません。それにヴィータさんが落ち込んでる姿なんて俺見たくないですよ!」
「そんなのあたしだって一緒だ!」
自分だってカイズが落ち込んでいる姿など見たくはない。互いが互いに自分の本音をぶつける。するとどちらからでもなく、頬が緩みだした。
「はっ、はっはっは、確かにそうですよね」
「そうだよな。……ごめん、初めからちゃんと話しとくべきだったよな」
「それはそうですけど。でももういいじゃないですか。お互い相手には傷ついてほしくないんですし」
「おう、ありがとうなカイズ」
「こっちもありがとうございます、ヴィータさん」
互いに顔を見合わせると、小さく笑い出す。終わってみれば何も心配する必要などなかったのだ。
正直に話せば相手はわかってくれる。そして許してくれると、初めからわかっていたはずなのに。
だからヴィータは安心した。こんなお酒で取り繕うようなことをしなくてもよかったのだと。
だからこそこの後思い知ることになるのだ。どうしてお酒で取り繕うようなことをしてしまったのだと。
ヴィータはよかったよかったと再びグラスに口を付ける。するとカイズは「あぁああー」と勢いよくベッドに背を預けた。
「あー、でも本当によかったー」
「何がよかったんだ?」
「だって結構ショックだったんですよ。いくら禁欲生活が続いてるからって、たった一回でイッたんだーって思ったら。……もう男としてのプライドがズタボロだったんで」
「そ、そういうもんなのか」
「そりゃそうですよー。あんまり遅漏すぎるのも嫌ですけど、早漏すぎるのはもっと嫌ですからね」
「ち、ちろう? そうろう?」
ヴィータは聞きなれない単語に、『?』マークを浮かべる。きっと言葉からして、射精するまでが早いか遅いかを表したことなのだろう。
本当に安心したと天井を見つめるカイズを見ると、ヴィータは彼の隣にちょこんと座った。
「ご、ごめんなカイズ。あたしのせいで変な誤解させちゃって」
「いえいえ。あー、でも実際俺は、どうなんだろうなー。そうだヴィータさん。ちょっと協力してもらっていいですか」
「今回のこともあるし、あたしに何かできるなら協力するけど」
だけど何をするんだ。そう言葉を続けようとしたが、カイズの言葉にそれは阻まれた。
「それじゃあよろしくお願いしますねー」
「よろしくお願いしますって。……えっ?」
「よ、よよっと」
何の脈絡もなしに、カイズは突然ベルトを外し出す。そしてホックとチャックを降ろすと。
――――下着ごと、それを一気に降ろしていった。
「へっ、ひゃっ! な、何でいきなり脱いでるんだよ!!」
「だって協力してくれるって言ったじゃないですかー。でも自分でするのと、人にされるのって全然違うので。よろしくお願いしますヴィータさん」
「よろしくって、ふ、ふわっ!?」
右手を掴まれる。するとカイズは彼女の手をそのまま自身の股間に導いていった。
カイズはヴィータの指を自身のそれに絡ませると、ヴィータはその感触に、ボッと顔が赤くなった。
「な、な、な、な、何してるんだよ!」
「何かしてもらうのこれからですよー。ヴィータさんの手コキにどれだけ耐えられるか。その結果が俺の男心の回復に繋がるんですよ」
「だ、だからってこんないきなり」
「協力してくれるっていったのはヴィータさんですよー。ほらほら、まずは俺のを勃たせてくださーい」
カイズが手を動かすたびに、ヴィータの手のひらにはふにゃふにゃとした柔らかい感触が伝わる。
そんな強引なカイズを見れば、もう答えなど一つしかなかった。
「…………カイズ、完全に酔ってるだろ」
「ははは、そんな全然酔ってませんよー」
見た目があまりにも素面なので、全く気づかなかった。だがあれだけの瓶を開けて、酔わないはずがないのだ。
いやむしろあれだけお酒を飲んでいた時点で、彼は初めの一杯ですでに酔っぱらっていたのかもしれない。
酔っぱらいに、酔っぱらいだと自覚させることはきっと至難の業だろう。
だがそうであったとしても、自分がカイズの心を傷つけてしまったことは確かだ。
ヴィータはごくんと唾を飲み込むと、ゆっくりとカイズのほうに振り返った。
「う、うわぁ。普段のここって、なんかふにゃふにゃして、柔らかいんだな」
「普段のここってどこですか」
「えっ、それは今握ってこれのことで」
「これって何のことですか? ちゃんと名前で言ってくれないと全然わからないですよー」
「え、えっと……」
普段は特に何も考えずに口にしているその単語。だが改めて言えと言われると、羞恥心が沸き上がってくる。
「そ、その、えっと。…………お、おちんちんが」
「えっ? 何ですかヴィータさん??」
「だ、だからカイズの、カイズのおちんちんがいつもと違って柔らかいなって! ……うぅー」
何を言わすのだと、ジト目でカイズを見つめる。だがそんな視線に気づくことなく、カイズはその場でいきなり立ち上がる。
フリーになったカイズの股間がだらんとヴィータの前でお辞儀をする。あまりにも距離が近すぎる。ヴィータは驚きのままその場から離れようとするが、カイズがそれをさせてくれなかった。
「ヴィータさんの言うとおりなんです。男のチンコは普段はこうやって萎えてるんですよ。まあそうじゃないと、いつも立ってて、ズボンのなかで辛いことになりますからね。ほら見てください。こんなふうに動くんですよ」
「ひゃ、ひゃあ」
カイズが腰を動かすと、イチモツが右へ左へと動く。ヴィータは思わず可愛い声をあげてしまうと、視線を逸らしてしまう。
「むっ、見てくださいヴィータさん。協力してくれるって言ってくれましたよね」
「言った、言ったけど。……ううぅ」
酔っぱらったカイズは、異常なほどに押しが強い。ヴィータは視線を元に戻すと、カイズのイチモツと再び対面した。
「ちなみに、この状態から興奮をすると勃起した状態になります。ヴィータさんがよく見ているのは、そっちのほうですよね」
「お、おぅ」
「その場合は手でしてもらったり、口でしてもらったりなどいろいろありますが。――――ですが、今回はさらに一工夫してほしいと思います」
「ひ、一工夫って?」
「それはですね」
カイズの提案を聞くと、ヴィータは「無理だ無理だ」と首を横に振る。だがカイズに深く拝まれると、結局断ることができなかった。