行為が終わり、二人は裸のままベッドで身を寄せ合っていた。ヴィータはカイズの腕に抱きしめられながら、涙声で先ほどから同じことを口にしている。
「…………痛い。まだ股に入ってる気がする」
「本当にお疲れさまです」
「…………痛いからもっと頭撫でて」
「仰せのままに」
行為が終わるとヴィータはひたすらカイズに頭を撫でさせていた。そうすると、少しずつだが痛みが引いていく気がした。
こうやって裸で抱き合ってるだけなら、気持ちいいんだけどなー。……こういうのって本当に慣れてくるのかな。
トラウマとは言わないが、きっとこの痛みは当分忘れることはできないだろう。
だがカイズにずっと頭をなでなでしてもらったおかげか、涙も痛みもある程度引いてきていた。
ヴィータが「もう大丈夫だぞ」というと、カイズは抱きしめていた手を解いた。
「ん? どっか行くのか??」
「いえいえ。ちょとした準備と言いますか、何分初めてのことなんで緊張しているといいますか」
「んん? 何だ初めてのことって??」
初体験といえば、ついさっきすんだはずだ。いや、それはヴィータにとっては初めてのことであり、カイズにとっては初めてではなかったはずだ。
それなのに今更なにが初めての体験なのだろうか。
カイズは腰にバスタオルを巻くとタンスの引き出しを開ける。ヴィータは毛布で胸元を隠しながら、そんな彼を不思議そうに見ていた。
「すーはー、すーはー。――――よし」
カイズは何度も何度も深呼吸をすると、ヴィータの元に戻ってくる。そしてそのまま膝立ちになると、ごくりと唾を飲み込んだ。
「え、えっと、ヴィータさん!」
「は、はい!」
カイズの面もちに思わずこちらも緊張してしまう。
カイズは背中で手を組んだまま、言葉を続けた。
「本当は海の見えるホテルで言おうと思ってました。というか、海の見えるホテルもあったからこそ、こんなに時間がかかってしまいました」
「時間がかかったって、どういうことだ?」
「俺はヴィータさんより給料がかなり低いです。でも可能な限り節約してましたし、海の見えるホテルに行くだけならもっと早く行ける予定でした」
「……うん、確かにそうかもしれねえな」
思えばカイズと付き合い初めてからは毎日がイベントだった。付き合い初めてどれだけ経ったかも忘れるほど、長い月日を過ごして気もする。
始めはカイズが相当高いホテルを予約しているのでは。そう思っていたが、どうやらそれは違っていたようだ。
そう思うヴィータの顔を見て、カイズも理解してくれたとわかったのだろう。ヴィータを真っ直ぐに見つめると、話を続ける。
「……正直、俺はまだまだ半人前です。教導官にはまだなれていませんし、貯金だってそんなにありません。でも必ずヴィータさんに見合う男になります」
そこで言葉を切ると、カイズは背中に隠していたものを取り出す。その高級感がある正方形の箱は、何かで見たことがあるきがした。
カイズはその箱を開くと、想いを続ける。
「でも言えるうちに言わないときっと後悔すると思うんです。だからもし俺が一人前になったその時は、俺と、俺と」
開かれた箱からは月夜で輝く小さなリングがあった。重厚感のある金色のそれを見て、ヴィータは目を大きく見開いた。
「――――俺と結婚してください。必ず、必ずヴィータさんのことを幸せにしますから」
カイズは目を閉じると、ズイッと指輪を前に出す。
ヴィータは目をパチパチさせると、今ある現実をまだ飲み込めないでいた。
そんな彼女を見て、カイズは慌てたように声を上げる。
「も、もちろん今すぐってわけじゃないですよ。あくまで俺が一人前になったらってことで、その日がいつくるかわからないですし、くるかもわかりませんし。ヴィータさんも突然こんなこと言われても困りますよね。でもこの前の事件があって、言えるうちに言った方がいいかなって―――――」
「――――はい」
「えっ!?」
ヴィータの肯定の単語に、言い訳をしていた口が止まる。ヴィータはカイズの手から指輪を受け取ると、目に涙を浮かべながら、笑顔で答えた。
「幸せに。…………いっぱい幸せにしてください」
ヴィータは左手を差し出すと、カイズは震える手で指輪を受け取る。
だがガチガチに震えながらも、カイズはゆっくりとヴィータの薬指に指輪をはめていった。
ヴィータは金色の指輪を様々な角度からのぞき込む。そしてその嬉しさを表すように、彼を抱きしめていった。
「ありがとうカイズ。…………大好き」
「――――俺も。俺も大好きですヴィータさん」
淡色の月夜に照らされながら、二人は再び口づけを交わす。
今日という日を決して忘れないように。
これから先も貴方と共に過ごしていけるように。
「ん、ちゅ、んん、んー」
様々な願い込めた口づけを、二人は飽きることなく何度も、何度も重ねていくのだった。
◇◆◇◆
「あれ、何だかご機嫌だねヴィータちゃん」
「ん~、そうか~」
教導の仕事前。ロッカールームで着替えるなのはは、ヴィータに声をかける。
謹慎処分を受けて落ち込んでいるかと思ったが、どうやら心配には及ばなかったようだ。
二人とも教導官の服に着替え、ロッカールームから出ようとする。だがヴィータは何かを思い出したように、自分のロッカーに戻った。
「そうだ、そうだ。教導中はこれ外しておかねえとな」
「ん、これってなにー?」
あまり装飾っけのないヴィータが、何かお洒落でもし始めたのだろうか。やはり彼氏ができると違うなと、なのはは思う。だが薬指からはずされるそれを見てギョッとしてしまった。
「ヴィ、ヴィ、ヴィータちゃん。それってもしかして!」
「これでよしっと。ほら、早くいかねえと遅刻しちまうぞー」
「それどころじゃないよ! ヴィータちゃん、ヴィータちゃあああん!!」
「~~~~♪」
後ろから叫び声をあげるなのはのことなど気にすることなく。
ヴィータは鼻歌を鳴らしながらロッカールームを後にしていくのだった。