その時のことはヴィータもよく覚えている。
前に家族で海水浴に行ったときのことだ。仕事から解放されて遊び尽くそうと思っていた八神一家であったが、なんといっても美人揃いなのがいけなかった。
はやてやシャマル、シグナムを狙い多くのナンパが集まってしまい、その休日はそれどころではなくなってしまったのだ。
無論無手であっても、並の人間が束になってもかなわないメンツではある。しかし暴力を振るわれたならまだしも、群がるナンパを言いくるめるのは至難の業だ。
前回はそのたびにザフィーラに救援にきてもらい事なきを得たが、海に入るよりも人の海にもみくちゃにされたのは今でも苦い思い出として残っている。
そこで今回白羽の矢が立ったのがカイズなのだ。
ヴィータの恋人である彼には一緒にきてもらっても何の問題もない。
さらに誰かが買い物に向かう際に、待機組に男性が一人残れるのは非常にありがたい話しであった。
カイズも初めは一家団欒に水を差すのは悪いと思っていた。だがそれらの事情を聞くと、快く承諾してくれた。
「それはわかるんだけど。…………ちょっと恥ずかしいな」
波の音を近くで感じながら、更衣室でヴィータは水着に着替えていた。
普通に考えれば、お互いに裸を見て、見られた関係だ。
今更水着姿など恥ずかしいことなどないと思っていた。
だがヴィータが恥ずかしく思う理由はまさにその水着にあったのだ。
鏡に映るヴィータは全身ピンクの水着に身を包んでいた。腰の周りには短いスカートのようなヒラヒラがついており、いかにも可愛らしいそれに少し後悔しているのだ。
去年までは赤一色の、とにかく飾り気がないものをヴィータは好んで着ていた。
それは去年の今頃には、まさか彼氏ができて一緒に海に行くとは思っていなかったからだ。
カイズも海に行くと聞いて、ヴィータは飛び出すようにデパートに出かけた。そして慌てた思考のまま、『カイズに見せる水着なんだ!』とこの水着を選んでしまったのだ。
「こんな可愛いの似合わねえよな。……で、でもカイズなら喜んでくれるよな」
きっと自慢の彼氏は、自分のどんな姿でも誉めてくれるだろう。ヴィータは少し口元を緩めると、三つ編みの髪をほどいた。
今日は動きやすいようにと、くせっ毛のあるロングヘアーをポニーテールの形にする。最後に口にくわえていたピンクのヘアゴムで止めると出来上がりだ。
「それじゃあ先にいってるな~」
いち早く着替え終えたヴィータは、ビーチサンダルを履くと男性陣の待つ砂浜へと向かった。