大掃除とサンタクロース
ヴィータとカイズが結婚して数週間後のことだ。
結婚を機に八割型の同棲生活に区切りをつけ、ヴィータは私物などをカイズのマンションに移送した。
そして大掃除と荷物の仕訳をしている最中、カイズはビニールがかけられた服を見つけたのだ。
「あれ、これって何ですか? 何だか赤い服みたいですけど、ヴィータさんの私服……にしては鈴とか白のもこもこがついてて、変な感じですね」
「ん、あー、なんだろそれ。そんな服あたし持ってたかな。というか、カイズさー」
ヴィータも大掃除に少し飽きてきたのだろう。疲れたような顔すると、ふらふらとカイズの元に向かう。
そして自分の倍はあるであろう、背中にポスンと覆い被さっていった。
「結局結婚しても『さん』付けするのはやめねえんだなー」
「い、いやー。やっぱり長年の癖といいますか、自然と口が動いちゃうんですよね。でも真剣な時とか、ここぞというときはちゃんと呼びますんで」
「まあ無理じゃなくてもいいんだけどよー。んん~~」
ヴィータはカイズの肩に顎を乗せると、段ボールの中身を見る。そこにある服は確かにヴィータのパーソナルカラーである赤だった。だがどうにもその服に記憶がない。
ヴィータはその服を手に取ると、服の作りを眺める。カイズのいうとおり、首の真ん中の部分には鈴がついている。服のあちこちに白いもこもこがついており、よく見ると赤い生地も見るからに安そうな素材だ。
管理局で働きだしてから買った記憶がない。それより昔であっても、衣食住をしっかりしているはやてがこんな服を買うとは――――
「あぁー、思い出した。これクリスマスの時に着ようと思ってた服だ」
「クリスマスってヴィータさんたちが住んでた世界のイベントですよね。それとこの服が何か関係あるんですか?」
「えっと、ちょろっとだけどカイズにクリスマスの話はしたことあるよな。そのクリスマスの時にプレゼント配るって言われてる奴がいるんだよ」
「確かサンタクロースでしたっけ?」
「そうそう。――――あたし達がはやての元にきて、初めてのクリスマスにザフィーラがトナカイ、残りのみんなでサンタクロースをやってはやてを驚かそうと思ってたんだ。……だけどまあその年のクリスマスはいろいろあったし、さすがにその格好で病院にはいけなかったんだよなー」
少し苦笑いするヴィータを見て、カイズはデスイーターの時のことを思い出す。確かあのころは、はやての体調が急激に悪くなり、入院生活が始まっていたはずだ。
だがあえていまその話題に触れることはないだろう。カイズは疑問の矛先をその服に向ける。
「というと、これはサンタクロースの服なんですね。確かサンタクロースって、赤い帽子をかぶって、厚手の上着とズボンをはいたおじさんですよね。クリスマスっていっても何でそんな格好をしようと思ったんですか。はやてさんならもっとかわいい服を着た方が喜ぶと思いますけど」
確かに天使みたいなヴィータと、お美しいシグナムにシャマル。さらに迫力満点のザフィーラが揃えばそれだけで圧巻だろう。だが男がモチーフのキャラクターなら、ザフィーラのほうが適任ではないのだろうか。
カイズが不思議そうに首を傾げると、ヴィータはその疑問に答えた。
「まあ普通のサンタ服ならそうかもしれねえけどよ。でもあたしたち三人が買ったのはいわゆる女性用というか、まあパーティーグッズみたいなもんだったんだよ。多分ひっくり返すと、ほら、こんな感じだ」
ビニールをひっくり返すと、そこには厚紙に印刷された写真が入っていた。そこに映されている女性は赤い服を着ている。だがカイズの知っているそれとは明らかに布地の量が違っていた。
赤い帽子はそのままに、ノースリーブの上着にスカートは股下ギリギリの長さしかない。
カイズはカルチャーショックのあまり大きく目を見開く。
「た、確かにこの格好で外は歩けないですね」
「シグナムは最後まで駄々こねてたけどなー。でもはやてを喜ばせようってことで、最後には渋々了承してたな。まぁそんな感じで結局お流れになったってわけなんだよ」
「へ、へぇー、そうなんですか」
「まあこれはもう着ることもないだろうし、こっちのゴミ袋に――――」
――――ガシッ。
ヴィータがサンタ服をゴミ袋にいれよとすると、手首をがっしり握られる。自然と手が動いてしまったのだろう。カイズは押さえつけたあとに、ハッとした顔をする。
「…………そういえば俺、ヴィータさん達が前に住んでた世界の風習が気になってたんですよね」
「ん? それだったら今度みんなでクリスマスパーティーでもしてみるか?? あっちの世界でももうすぐそんな時期だろうし。でもその前に掃除を終わらせるぞ。次の休みはいつになるかわからないしよ」
カイズの手をパパッと振り払うと、再びサンタ服をゴミ袋に入れようとする。だが先ほどよりも強く手首を握られた。
カイズはまるで憑き物が落ちたような清々しい顔をすると、なぜか窓のほうを見つめる。
「いや、みんなでっていいますか。俺は二人きりの時がいいといいますか」
「あー、確かにクリスマスは恋人同士でってのも多いけど。でもそれだったクリスマスにこだわることないんじゃないのか。実際こっちにはそういう風習があるわけじゃないし、あたしたち夫婦なわけだし」
「…………いえ、そういうわけじゃありません」
カイズは窓に向けていた視線を再びこちらに戻す。その面もちからはなぜか緊張の色が見えるような気がした。
何が彼をここまで追いつめているのだろうか。ヴィータはビニールを胸に抱えたまま彼の顔を見る。
「……ヴィータさん。俺たち出会ってからいろいろな経験をしてきましたよね。笑いあり涙あり、様々なヴィータさんを見てきて、そのたびに幸せを感じました」
「お、おぅ」
「これから先も、ヴィータさんのいろんな姿をみたい。そんな俺のメモリーに新しいヴィータさんを保存したいんです。……俺が何を言いたいかわかりますか」
「いや、あんまりわからない」
何かと回りくどいのは互いにいつものことだ。だが今回に限っては、カイズが何を言いたいかが本当にわからなかった。
カイズは「ん、んんっ」と喉の調子をあわせる。そしてヴィータの肩に両手をがっしりおくと、一切の濁りない眼差しで彼女を見つめた。
「………………ミニスカサンタ姿のヴィータさんがみたいです」
「ミニスカサンタって。へっ、え、こ、これかっ!」
視線がカイズとサンタ服の間を何度も行き来する。そして先ほどの行動の意味もわかると、ヴィータはその服を天高く持ち上げた。
「ムリムリムリムリ、絶対ムリ。そりゃあの時は着ようと思ったけど、さすがに今ならシグナムの気持ちがわかる。いい歳して、着る服じゃないってこれは!!」
「ヴィータさんはいつまでたっても、天使のですって。大丈夫です。これで外にでるわけじゃないんですから!」
「そういう問題じゃないだろう。写真見ただろ。私の背だって余裕で膝上だぞこれ!」
「それがいいんじゃないですか。あー、みたいなー、ヴィータさんのサンタ姿みたいなー」
「い、いや、さすがにこれは……」
「――――ヴィータ。頼むよ」
「いま! いまなのか!? ここそんな真剣なところ! ここぞってところなのか!!」
呼び捨てまでしたカイズは、どうあっても引く気がないようだ。そしてたぶん、この次は全力で土下座をしてくるだろう。
長いつき合いだ。カイズの次の行動は見えていた。
ヴィータは「はあぁ」と大きなため息をつくと、仕方ないと両手を下ろした。
「…………別にそんな楽しいもんじゃないと思うぞ。これだって本当に安物だし、この写真みたいに胸があるわけじゃないし」
「ヴィータさんが着るからいいんですよ! ほかの人が着てたって俺は何も嬉しくありません!!」
「お、おぉ」
こういう時のカイズは異常なほどに押しが強い。ヴィータはサンタ服をギュッと胸で抱える。
そして顔を俯かせ口をとがらせると、少し不満そうに口を開いた。
「き、期待通りじゃなくてもガッカリするなよ」
「俺がヴィータさんを見てガッカリするはずありませんよ!」
「……はぁ」
ヴィータはその袋を抱えるとそのまま脱衣所に向かう。
そして袋からミニスカサンタを取り出していくのだった。
書き上がり次第すぐに後半をあげます。