パレードが終わりにむかい夜空を花火が彩り始めた頃。ヴィータを除いた八神家の面々は、ミッドランドから退場を始めていた。
「それにしてもよかったんですかはやてちゃん。二人とも何だか険悪な感じだったし、クラールビトンを使えば覗きくらい……」
「大丈夫やって。ヴィータには最大限のアドバイスをしたし、あの子はやるときはしっかりやる子や。それにな」
はやては今日ずっとかけていたサングラスを外すと、悟りを開いたような顔で、花火を見上げる。
「もし二人がうまくいってたら、なんや刺激が強すぎる光景を目の当たりにするきがしてな。…………ふぅ、ちぃと生娘には辛いは」
それは桃色の光景を見るのが辛いのか。それともヴィータに先を越されたのを確認するのが辛いのか。あえてそれを言及するものはここにはいなかった。
はやては外したサングラスを、目の前の人物につけると、清々しそうな顔をする。
「あー、羨ましいなーヴィータ。私は青春も真っ黒やったさかいな」
清々しく大きなため息をつくはやて。そんな彼女の肩にシグナムは優しく手を置く。
「そう悩む必要もないでしょう。主は十分に魅力的な女性です。私が保証します」
「女の子に保証されてもな。まっ、ありがとやシグナム」
「でもそんなこと言ってるシグナムの姉御も頑張らなくちゃいけないんじゃないか。これじゃヴォルケンリッターズの将としての立場がないと思うぜ」
「そうですよ、シグナム。はやてちゃんだけでなく、リイン達も頑張らないといけないです」
「い、いや、私はそのようなことは――――」
「そうやでシグナム。せっかく女に生まれたんやし、こーんな大層なもんつけてるんやから、使わな勿体ないでー」
「あ、主、胸をイジるのはやめてください!」
「あはははははっ。まあ今日はヴィータの初デート祝いに、パーッと飲むで!それじゃあ旅館まで競争や!」
五人が五人。ヴィータの無事を祈りながらも、心の中に闘志を宿し走り出していく。
そして二人の邪魔をしないようにと、一泊の予約をした旅館を目指すのだった。
「……………………」
そんな彼女たちの遙か後方。自前の耳とカチューシャの合計六セットの耳をつけ、手には十五袋ほどおみあげを持ち、食べきれないが捨てるのはもったいないとポップコーンを二つ持たされ、先ほどサングラスまで追加された男。ザフィーラは必要以上の置き去りをくらうと、花火の音に合わせ叫び声をあげる。
「テエオォォォォォォォォォォッ!!」
今日一番の叫びは誰の耳にも届くことはなく。彼のミッドランドでの休日は終わりを告げる。
ちなみに。今日の彼の頑張りもあり、このあとそれに見合うだけのご褒美が用意されているのだが。
それはまた別のお話である。
花火が終わり人がまばらになるなか、ヴィータとカイズは帰路についていた。
カイズはヴィータをおんぶしながら移動をし、彼女の頭には未だに彼のジャケットが被さっている。
「…………ふんっ」
「あっ、いたっ!す、すみません。定期的に頭を叩くのはできればやめてもらえると」
「何か言ったか?」
「……いえ、何も。あいてっ!」
先ほどから後頭部をぽかぽか叩き続けるヴィータ。彼女はジャケットの中で顔を真っ赤にし、頬を膨らまし続けていた。
「お前はあたしがどんなに恥ずかしい思いをしたかわかってるのか」
「……はい、重々承知の上です。ほんと、申し訳ありませんでした」
男で言う賢者タイムとでも言おうか。ヴィータは観覧車から降りて少し経つと、ただひたすらにカイズのことを攻め続けていた。
だがフェラチオをさせたあげく、あんなに盛大に顔射をしてしまったのだ。彼女が怒るのも無理はないと、カイズは頭を下げ続けていた。
「本当にすみませんでした。つい調子に乗りすぎてしまって」
「本当にそうだよ。なぁ、あんだけしないと満足できなかったのか?」
「えっと、その、はい…………」
「へぇ~。……まあいいけどよ」
ヴィータは構えていた拳を降ろすと、ポスンと顔をカイズの背中に預ける。
「でもよ。本当に恥ずかしかったんだぞ。その、お前のことを、す、好きっていい続けるの」
「はい、本当にすみません。…………えっ、今なんていいました?」
「だから好きだって連呼しなくても、お前ならあたしがどれだけお前のことが好きかわかるだろうって言ってるんだよ!」
ぽかぽかと背中を叩くヴィータ。そんなむずがゆい感触に、カイズは思わず声が裏返ってしまう。
「えっ、あの。もしかしてヴィータさんが恥ずかしがってたのって、好きだっていい続けたことだったんですか」
「当たり前だろ。その、お前のことは確かに好きだけどよ。どうしても、その、面と向かって好きだって言うのはなかなか慣れねえんだよ」
「というと、顔とか髪にかけちゃったことは、その」
「あっ?別に何とも思ってねないぞ。確かに顔中べたべたになったけど、あれはあたしがお前に気持ちよくなってもらうためにしたことだし。それにちゃんと気持ちよかったんだろ?」
「…………はい、とても」
「だったら、それであたしも嬉しいんだよ。って、そうやって話を変えようとするな。あたしが恥ずかしかったのは、好きだっていい続けさせたことなんだからな!」
プンプンと頬を膨らますヴィータ。そんな彼女の態度を見ていると、カイズはほっと安堵の息をもらす。
「あの、ヴィータさん」
「なんだよ。こればっかりは謝ってもそう簡単に――――」
「好きです」
「だからこれ以上は、ふぇっ!」
不意打ちの告白に、ヴィータは普段あげないような声をあげた。
「俺、ヴィータさんのことが本当に、本当に大好きです」
「や、やめろよ。誰かに聞かれたりしたら」
「別に誰に聞かれたっていいですよ。俺はヴィータさんのことが大好きなんですからあぁぁぁ!」
「だ、だから叫ぶなよ」
好きだと叫び続けるカイズと、恥ずかしさのあまりジャケットを深く被り直すヴィータ。
本当に恥ずかしさのあまり死んでしまいそうだ。だが同時に幸せだと心が温かくなると、ヴィータは呟くように声を出す。
「あたしも、カイズのことが大好きだよ」
「えっ、ヴィータさんいま――――」
「なんでもねえよ。ほら、さっさと歩け」
照れ隠しにカイズの頭を叩くと、ヴィータは再び彼の背中に顔を埋める。
そして、不安とドキドキだらけの初デートはとりあえず成功だろうと、そのまま瞳を閉じていくのだった。