「あの、料理のほうはどうでしょうか?……ヴィータさん?」
「え、ああ。もちろんうめえぞ。まあはやてのご飯に比べたらまだまだだけどな~」
「目標はまだ遙か先ですね。でもお口にあったならよかったです」
カイズはひとまず安心したと、自身が用意したパスタを口に運ぶ。
時刻は午後の八時。ヴィータは教導を、カイズは教導のための学科を終え、彼のマンションにいた。
一人部屋にしては少し大きく、八畳ほどの間取りの真ん中に置かれた机で、二人はいま食事を食べている。
だが今のヴィータには食事の味がほとんど入ってこない。これからのことに頭がいっぱいだからだ。
一歩踏み込むって言っても、いったいどうしたらいいんだ!
今回はカイズを教導していた時のように、一歩踏み込むことを恐れているわけではない。ヴィータにとって未知の領域すぎて、本当にどうしていいのかがわからないのだ。
意気込みと気合いはある。だがその想いをどうぶつけたらいいのかと、ヴィータはさらに頭を悩ませた。
「う~ん」
「…………」
言葉は少ないまま。ヴィータのごちそうさまでしたの声とともに、カイズは食器を持ち上げる。
「それじゃあ食器洗ってるんで、ヴィータさんは先にシャワー浴びてきていいですよ」
「お、おう……」
ま、まずい。何も思いつかなかった。どうしたらいいんだ。どうしたら……。
このままでは前回と同じことになってしまう。いったいどうしたらいいのかと、焦りが生まれる。
「えっと、えっと。――――んっ!!」
オーバーヒートで爆発寸前の頭が一つの閃きを生む。ヴィータは勢いよく立ち上がると、カイズの持っている食器を奪った。
「ど、どうしたんですかヴィータさん?」
「い、いやよ。ご飯作ってもらって、それで洗い物までしてもらうのはちょっとなって思って」
「そんなこと気にしなくていいですよ。それにヴィータさん疲れてるでしょうし」
「それはお前も変わらないだろ。毎日遅くまで教導の勉強してるんだからよ。ほら、シャワー浴びきていいぞ」
「でもそれじゃあヴィータさんが」
「あたしは洗い物が終わったら入るからよ。だから、な」
ヴィータにぐいぐいと背中を押されると、カイズは「うーん」とうなり声をあげる。だが好意を無碍にもできないと、軽く頭を下げる。
「それでしたら、よろしくお願いします」
「お、おう。……ゆっくりしてろよ」
「はい?」
ヴィータが何を言いたかったのかいまいち理解できない。だが彼女はすぐに洗い場に向かってしまったので、カイズもまたシャワー室に向かった。
――――シャー。
「ふう。やっぱり自分の家のシャワーのほうが落ち着くな」
髪の毛を洗い終えると、バシャバシャと顔を洗う。
だが爽快感とは逆に、鏡に映った彼の顔はあまり優れなかった。
「ヴィータさん浮かない顔してたな。やっぱりうちでご飯じゃなくて、外食のほうがよかったかな」
『外食かー』と、カイズは頭の中の電卓を叩く。
「でもできればもうちょっと節約して。それでなー」
全てはあの計画のために。そうは思うが、カイズはどこかやりきれない気持ちになる。
「でも結局ヴィータさんが喜んでくれなくちゃ意味ないんだよな。だったら――――」
「喜んでないことなんてねえよ。あ、あたしはよ。カイズといられるだけで、その、う、嬉しいから……」
「えっ!」
カイズが背後に振り返ると、スモークの扉越しに小柄な影が見える。カイズはヴィータの存在に気づくと、あはははと頭を掻く。
「あ、あの、聞こえちゃいましたか」
「盗み聞きするつもりはなかったんだけどよ。その、ここにいたら聞こえちまって」
「そうですか。え、えっと、何かありましたか。あっ、洗いものが終わったっていう連絡ですか?」
「ああ、そうだな。……だからあたしも入るぞ」
「…………へっ?」
いきなりのカミングアウトに、思わず表情筋が固まる。
「いまなんて?」
「だってさっき言ったよな。洗い物が終わったら、あたしも入るって」
「た、確かにそうですけ。え、ちょ、ヴィータさん!?」
―――ガラガラ。カイズの声など気にすることなく。ヴィータは扉を開くと、彼の前に立つ。
髪をほどき、体にタオルを巻き付けたヴィータの姿が視界に映る。カイズは体が熱くなるのを感じると、そのまま回れ右した。
「い、いったいどうしたんですかヴィータさん!」
「い、いつもカイズにはいろいろ世話になってるからよ。そ、その、背中ぐらい流そうかなって思って」
「そ、そんな気を使わなくていいですよ」
「気なんてつかってねえよ。あたしがやりたいからやるだけだ!ほ、ほら、ごちゃごちゃいってないで少し座ってろ」
ヴィータはカイズをバスチェアーに座らせると、彼のタオルと石鹸を奪い取る。
「す、すぐにやるから。ちょ、ちょっと、ま、待ってろよ」
「は、はひぃ!」
ゴシゴシゴシ。無音のバスルームに石鹸を泡立てる音が響く。これ以上ないほど石鹸を泡立てると、ヴィータは心臓が爆発しそうなほど高鳴らせながら、ゆっくりとカイズの背中に触れた。
「よ、洋服越しじゃわかりにくいけど。け、結構筋肉がついてきたんだな」
「は、はい!これもヴィータ教導官様の指導のたまものだと思われます!!」
「な、なにガチガチになってるんだよ。聞いてるこっちが恥ずかしいじゃねえか」
「す、すみません」
「………………」
「………………」
「~~~~~~~~!!」
会話がなくなってしまうと、互いに恥ずかしさが際だってしまう。ヴィータはカイズの背中を見つめると、再び洗い始めた。
や、やばい。心臓がドクンドクンって。もしかして聞こえちゃってるんじゃねえか。
緊張に包まれながら、ヴィータは背中を洗い続ける。だがそれも次第に終わりが見え始めてきた。すると徐々に高鳴っていた鼓動が弱くなるのを感じた。
何だよ。やっぱりあたしが来たってなんにもしてこねえじゃねえか。
ずっと後ろを向いたまま何のアクションも見せないカイズを見て、やがてヴィータは心の中でため息をつく。
まあ別にいいんだけどな。こいつがあたしに興奮しなくても、でかいおっぱい好きだったとしても。お互いに好き合ってればそれで――――
そう諦めかけたとき、あの一言が頭に響く。
『そうだよ。何もカイズ君にリードしてもらうだけじゃなくてさ。目の前に堅い壁があるなら、真正面から打ち崩していく。だからカイズ君とのことも、ヴィータが思うように気持ちを伝えたほうがいいと思うよ』
フェイトの言葉を思い出すと、折れかけていた心がなんとか踏みとどまる。ヴィータは両手を握りしめると、自身の体を包み込んでいるタオルに手をかける。
はらりと落ちるタオル。ヴィータの体が生まれたままの姿になると、鏡越しにそれをみたカイズは驚きの声を上げる。
「ヴィ、ヴィータさん!いったいなにを!?」
「う、うるさい。黙ってあっち向いてろ」
無理矢理カイズを前に向かせる。それを確認すると、彼の体で隠すように身をかがませ、全身に泡立てた洗剤をしみこませ。そしてそのままカイズの背中に抱きついていった。
「ヴィ、ヴィ、ヴィ、ヴィータ、さ、さ、さん~~~」
真っ赤になりながらカイズは口をパクパクさせる。だがそんな彼に対して、ヴィータの顔は浮かないものだった。
「すまなかったな、カイズ」
「えっ、ヴィータさん?何を謝ってるんですか?」
「だってよ。あたしの体は見ての通りお子様体型だし、もちろんこれ以上成長する予定もねえ。カイズだってこんな体じゃ興奮しねえよな」
「え、ええ!!いったい何を言ってるんですかヴィータさん!?」
「だってこの前あたしがタオル一枚であがってきても平気な顔してたし。……それにお前は胸のでかい女のほうが好きなんだろ」
「い、いやいやいやいやいやいやいや。どうしてそんな結論に至ったか知りませんが。え、えっと、ヴィータさんの体興奮してないなんて、ありえませんから!!」
「で、でもよ……」
「い、いや、だったら。……これ見てくださいよ」
カイズは椅子から立ち上がると、先ほどからずっと立ち上がっていた下半身をヴィータの目の前に突き出す。
勃起したそれを、ヴィータは目を丸くして見つめる。
「お、おっきくなってる」
「これでわかってくれますよね。今だってこんなことになってますし、あの時だって今みたいなのを隠すためにすぐにシャワー室に逃げたんです」
「でもよ。それはあたしのことが好きだから大きくなってるんだろ」
「へっ?ええ、まあ確かにそうですけど」
「ってことは、やっぱりあたしの体に興奮してるわけじゃないってことだろ。……おちんちんはあたしのことが好きで大きくなってるんだから」
悲しそうにヴィータは俯く。だが何かがかみ合わないと、カイズは疑問を投げかける。
「えっと、その。何だかヴィータさんの言ってることがよくわからないんですけど」
「言ってることがわからないって。だって観覧車の時にカイズが言ったんじゃない。おちんちんが大きくなるのは、あたしのことが好きだからだって!」
ヴィータの叫びを聞き、あの時の会話を改めて思い出す。