※この作品はR-18です。

パラダイス・ロスト Birth of UNKNOWN   作:さみに

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泡沫

二人の少女が町中を歩いている。

男が絶えたこの世界にも、娯楽はある。

ウィンドウショッピングやレジャー、枚挙に暇が無いほどに、乙女の欲望は尽きない。

 

 

「そういえばさ、ほんと若菜先輩の今日の泳ぎ凄かったよねー」

「またその話ー?いや、凄いけど…今までの自己ベスト大幅更新したっていうのはさ」

「おかしくない?普通縮んだって言ってもさー、十秒とか一気に縮まるものじゃないでしょ!」

 

 

陸上競技やレーシング、タイムアタックの世界に於いて、一秒を縮める事の重さを知るには、同じ世界に立って実感する他ない。

無論、同じ水泳部員たる彼女らは身を以て知っている。

体脂肪率の低減、泳法の研究、飛び込みやターンのタイミング・角度、多くの要素によって形作られる以上、コンディションによる差が出るのは当然と言えるし、それによりタイムが一定の範囲で揺れ動くことはある。

だが、そんなものは大きくてプラスマイナス一秒半ば、安定するものでもない。

 

そのような認識を持つのが当然の世界にあって、戸田若菜は本日の計測において今までのベストタイムを十秒も更新してみせた。

それを目の前で見た彼女らの驚きも、真っ当なものといえる。

 

 

「いや、おかしいって言ってもさ、あの人優秀選手じゃん?将来有望、学業免除とか部活専念の許可まで出てるくらいだし」

「おまけにスタイルが良い」

「そっちは関係ないでしょ。……いや、ほんとあのスタイルでどうやってあんなに早く泳いでるのか解らないけど」

「もしかしてさ、さっき言ったみたいに、人間じゃない…とか?」

「はぁ?冗談にしては失礼でしょ、先輩よ先輩。運動部なんだからその辺ちゃんとする!」

「本人も見てないところでまで気にする必要無いでしょー、岬の真面目ちゃんめー」

「これが普通なんですー、真帆が適当過ぎるのよ」

 

 

二人の少女の何気ない雑談が続く。

時刻は午後六時を過ぎた頃。まだまだ遊び盛りの女子高生には物足りない時間である。

夕日は沈みかけ、既に橙と紫と青の混じりつつある空を見上げながら、二人は裏路地に続く道を曲がる。

 

 

 

 

      「―――ねぇ」

 

 

 

ふと、後ろから声がした。

振り返れば、そこには先程話題に上がった若菜の姿があった。

 

 

「や、やばっ…さっきの聞かれて…」

「あ、バカっそういうこと漏らすと余計にダメになるでしょ」

 

「…ねぇ。さっきの話…何?」

 

「いや、違うんです若菜先輩。別に若菜先輩のおっぱいが私達常人とは違っておっきいなーとかそういうことを考えてただけでですね」

「正直にしても変過ぎるでしょ真帆!いや、えっと、その…先輩?真帆もですね、悪気があって言ってるんじゃなくて、単純に嫉妬というか、そういうのをですね」

 

「……人間じゃ、ない…私が………?」

 

「…えと、先輩、なんか変じゃないですか?」

「直球すぎる物言いは岬もなんじゃ…いや、でも本当に様子が変っていうか…どうしたんですか?」

 

「………解らない、ずっと…さっきから声がして…貴方達の声も聞こえてたんだけど…。

 それだけじゃない、頭の中で…ずーっと、声がして……安らぐの…。

 泳いでる時と、同じで…水の中に居るような……どうしたら、もっと、この気持ちを味わえるんだろうって…。」

 

「せ、先輩?」

「病院に連絡した方がいいかしら…えと、携帯…」

 

 

 

 

「――だから、多分。これで、合ってる。試させて、ほしい、な♪」

 

 

ぱりん。

近くにあった街灯が割れた。

 

それと同時に、若菜の瞳に真鍮色の輝きが灯る。

灰色の模様が顔に浮かび、更に全身に向かって広がっていく。

手足の先まで行き届いた瞬間、子宮の真上にあたる位置に奇妙なエンブレムが浮かび上がる。服の下から、生地をすり抜けるように。

更にエンブレムの左側面から腰を一周するようにして帯が飛び出し、右側面に接続される。

自慢のポニーテールを手で払いのけると、同時。

若菜の身体の周囲、その空間が泡立つように揺らめき、異形のシルエットが応現する。

短い制服のスカートとそこから伸びるハイソックスに包まれた脚は、灰色のドレスに彩られた、ヒレを持った魚人のようなそれに変化。学園のブレザーの布地を押し上げていた胸部は更に大きく実り、ビキニタイプの鎧に包まれる。首からはマントを提げ、両腕にも脚と同じようにヒレが生え、右腕には棍棒とも杖とも思える何かを携えていた。

淫靡な笑みを浮かべていた頭部さえも揺らめきの中に消え、現れたのは長く上に伸びた烏賊を模した帽子を目深に被り、薄く笑う口元だけが見える異形の顔だった。

帽子の隙間からは、十本の髪のような触手が揺らめいている。

 

眼前で姿を変えた、自分達にとって身近な人間に、二人の少女は完全に呆気に取られていた。

その隙を、怪物――若菜は逃さない。

手にした得物を振るい、岬と呼ばれた少女に向けて一閃。

反応する暇も無い彼女の顔に、黒く粘性の高い液体がへばりつく。

衝撃で後ろに倒れ、もがき苦しむ内に、口内へ、そして食道を下り、突き破って心臓へと流れ込んでいく。

引き剥がそうと足掻いていた彼女の手足が、大人しくなるのにそう時間はかからなかった。心臓と思しき場所から、蒼い炎が上がり始めた。

 

「み、みさっ――」

「貴女は直接ね」

 

真帆と呼ばれた少女が、友人の死に気付くよりも早く。

眼前に迫った彼女の唇を、怪物が奪った。

体躯でいえば、二メートル近い。易々と少女を抱き上げると、口の中から直接先程の液体を流し込んでいく。

今度はそれだけではない。少女が口内に侵入した別の管状の異物に気付いた時には、既に伸ばされた触手が心臓を穿ち、何かを注入し始めていた。

少女を抱く怪物の腕が震え、背筋が震えている。

怪物の影の中に青白く映し出された、一糸纏わぬ若菜が、発情しきった表情で己の身体を抱き締めていた。

 

 

蒼い炎を噴き上げ始めた真帆の身体を、静かに右手の得物で小突く。

すると、身体全体を黒い液体が覆い尽し、怪物の体内に沈み始めていく。

岬の死体にも同じようにして、体内へと吸収し終えた後…怪物は漸く光を放ちながら若菜の姿へと戻る。

 

「――あは、はは…。上手く、でき、た…よ………ママ……。」

 

息を乱し、頬を紅潮させた若菜は、それだけ呟いて。

静かにその場で崩れ落ちて、意識を手放した。




お久し振りです、実は生きてました。
本家のリメイクおめでとうございます。
楽しく毎話「使用」させていただいております(正直)
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