パラダイス・ロスト Birth of UNKNOWN 作:さみに
マンネリ?
好きなんです。好きなんだからしようがないのです。
どういうことなのかは本編をどうぞ。
月曜日。
普段通りに登校した詩乃は、普段通りに休み時間を謳歌していた。普段通りで無かったのは、周囲のクラスメイトだ。咲元奏が行方不明になったという話は詩乃のクラスで最も取り上げられている。彼女が在籍していたクラスが此処なのだから当然そうだろう。
問題は何かと言えば、土曜日に同伴したクラスメイトが疑いの視線を向けているということだ。
昼食を挟み、七限目を終える頃には詩乃の席に何人かの女子が集まってくるようになった。
「浦澤さん、ちょっといい?」
「…はい。どうしましたか?」
「奏と最後に居たの、多分浦澤さんでしょ、何かあったか知ってる?」
「いえ…確かに最後に居たのは私ですが、普通に別れて帰宅するまでは…。」
「……そう。」
何度目かのこのやり取りを終えて、詩乃は嘆息する。実際の所、詩乃も疑問ではあった。
奏はどこに行ったのだろうか。
何故昨日の帰り道の記憶が少し曖昧になっているのか。
答えは自分だけしか知らない。なのに、その欠片すらも見つけられない。
記憶のどこを掘り返しても、ほんの二十四時間前の出来事が思い出せない。一日前の夕食を思い出せないような感覚ではなく、記憶がごっそりと抜け落ちている。
数人の質問に答えるうちに、記憶が不意に甦るかもしれないと期待したのだが、全くの無駄だった。
クラスメイトの質問に答え、恙無くホームルームが終わり、放課後になれば席を立つ。
自分の鞄を手に、詩乃は部室に向かうため、教室を出た。
文芸部の部室は、文化系の部全般と共に別校舎を使って一纏めにされている。
詩乃の居る教室からは少し遠く、そして敷地内の隅の方にあった。
一階まで下りれば、すぐ近くにはグラウンドが見える。運動部の生徒が額に汗かきながら活動中なのが確認できた。
自分とは無縁のものだ、と詩乃はいつも心中で呟きながらそれを眺める。
昨日はほんの気分転換で、たまの休日にああいう風にするのが自分相応。
奏が居なければ、こういう考えにも至らなかったと考えると、自分の見識の狭さを恥じてしまう。
彼女がもし今も居るのであれば、今度はこちらから誘ってみても、それはそれで良かったのかもしれない。
その時は、自分が誘われた分のお礼も兼ねて、何かできただろうに。
無事で居るのだろうか。行方不明といっても、昨日の今日。この小さな町の中の出来事なのだから、どこかの誰かが見かけてはいるはずなのだが…。
そんなことを考えているうちに、文芸部の部室に辿り着いた。
文芸部には詩乃を含めて八名が在籍している。その内の数人はほとんど顔を見せない、言うなれば幽霊部員である。
というのも、部の存続の為に一定人数が必要な為、他の部から名前を借りるという水増し行為が使われているからだ。
部内の誰かが入部する際に保険として数人分の名前を控えておくのがルール、というのが入部した際に言われたことだった。
それを聞いて酷い伝統もあったものだ、と詩乃は呆れたが、魅力的な蔵書や過去の会誌に惹かれて、入部を決めた。
室内には誰も居ないらしい、気配や声が聞こえてこない。
ドアノブに手をかけて開こうとした、正にその瞬間、真横から声がかかった。
「あ、あ、あの。浦澤、先輩っ…」
顔を向ける。そこに居たのは文芸部の後輩だ。
確か…名前はなんと言っただろう。名札の色やリボンの色を見れば一年生だということは解るが…。
「…ええと、何でしょう?」
「そ、そ、その。えっと…あの、いま、お時間、ちょっとだけ…よ、よ、よろしい、ですか。」
「…?部室内で出来ない話ですか?中に入ってからでも…」
「い、い、いえ、誰か来ると、ちょっと、困る、ので。」
「…………はぁ。良いですよ、どこか別の場所で聞いた方が良いですね?」
「は、はい…そうして、いただけるとぉ…嬉しい、で、です。」
…これは、相談相手を間違えているのではないだろうか。
恋愛ばかりを考えているような思春期のつもりは自分には無いが、予想するとなればそれ以外は簡単には思いつかない。しかし、男の居なくなった世界で恋愛なんて考えにくい。
となれば、同性愛に目覚めた子というのが最も単純な推察になる。
にしても何故自分なのだろう。自分の幼馴染のことを知ったのだろうか?話したことは無いが、兄弟姉妹や友人などから聞いた可能性は零とは言えない…。
しかし…人気の無い別校舎で人目を気にするのだから、余程知られたくない話題なのだろう。
色々な考えが脳内をぐるぐると巡り巡ってしまうが、一先ずは後輩を連れて別館の裏に回る。
最早そこは校舎と敷地外の森に挟まれた、自然にできた疑似密閉空間。
一目につかない場所、と言われたら自分の中では此処くらいしか思いつかない…と考えるくらいには、人影を見たことすらない。
詩乃は後ろを歩く後輩に振り向き、問いかけた。
「ここなら大丈夫でしょう、それで、用件というのは何でしょうか?」
「はい、その…えっと…えっと…。」
「…大丈夫ですよ、落ち着いて。口外はしませんから、安心して話してください。」
「あ、はい…。じゃあ、じゃあ……先輩っ…」
思い出した。
確か、この後輩の名前は
何故今このタイミングで思い出したのだろう、良く解らない。
変な時に変に思い出すこともあるものだ…。
「死んで、くれますか?」
側頭部を殴られたような、はたまた鳩が豆鉄砲を食ったような。
どちらとも言えないような、現実味が無いようで、しかし物騒に過ぎるキャラクター性に合わない言葉に詩乃は固まった。
しかし、相手はそうではない。
あどけない、丸くて幼く、小動物のような瞳に濁った真鍮色の輝きが灯る。
可愛く整った、愛らしい人形のような顔に、黒い紋様が浮かび上がってくる。
水音のような音と共に、彼方の身体が灰色に膨張していく。
詩乃の百四十センチよりも小さかった身体は二メートルに届くほど伸び、齢十三というには無理がある程に女の肉付きを備えている。
身に纏うようにして形成されるのは、ゆったりとしたローブのような甲殻だ。シルエットを覆い隠すようでいて、胸元ははっきりと布地の下から押し上げられて存在感を主張している。
装甲は腰元で左右に分かたれ、そこから覗く太腿は挟まれるとさぞ柔らかいことだろう。爪先から膝辺りまではブーツのような甲殻で覆われていく。
手には錫杖のようなものが一振り、虚空から生成されてしっかりと柄を握られていた。
元の人間の顔とは似つかない顔面部には淫靡な唇がはっきりと見え、目元はフード上の甲殻で隠されているが、側頭部からは大仰な角が一対生え揃っている。
一見して、空想世界に居る魔法使い。そのような外見の怪物に、目の前に居た後輩部員は成り果てていた。
夕日に向けて傾きだした太陽の光、それによって伸びる怪物の影に、彼方の裸体が投影される。
恍惚の表情を浮かべる彼女は、実に満足そうだ。
「はぁ…はぁ…ッ♪」
怪物が錫杖を掲げる。先端から鞭のようにしなる何かが飛び出してきた。
咄嗟に身体を無理にでも捻ることができたのは詩乃にとって幸福だっただろう。
先程まで自分が居た場所を、何かが通り過ぎていく。制服の生地が一部掠って削り取られていった。鈍い痛みが走る。
手を当てれば、血が僅かに指先に付着する。直撃していれば、どうなっていたのだろう。
「駄目ですよ、ダメダメ、だめでしょう、先輩。し、し、死んで、くれないと…♪」
死ぬ?
死ねと言ったらしい。聞き間違いではなかったのだ。
この後輩は自分を殺すつもりで、それは変わらない事実だと。
意味が解らない、何が起きて……何が起きている…?
……この、感覚に、覚えがあった。
何か、そう…最近、こんな、ことがあったような…気がする…。
いつ、だ?いつだった…?
「ほら、ちゃんと死んで、し、死んで、くださいぃ…♪」
怪物となった彼方が再び錫杖を掲げる。
鞭のようにしなる触手が、詩乃に向けて迫った。
しかし、避けるまでもなく、直前で詩乃の手が触手を掴み取って捩じりあげる。
心音が響く。空間が鳴動する。
既に詩乃の意識は無い。触手を掴む右手以外は身体も脱力してしまっている。
前髪に隠れた瞳が、真鍮色の輝きを強く発し始めていた。
灰色の膜を幾重にも自身の身体に巻き付けるように詩乃の身体が覆われていき、彼方と似た怪物へと変化する。
「せ、せ、先輩、も…そう、だったん、ですか…っ?」
――違うよ、違う…浦澤さんは、そういうんじゃないの。――
「……!? だ、誰…ど、どこ?」
――うふふ、私は此処。浦澤さんの、ナ・カ…♪――
ド クン
詩乃の変化した怪物、その胸部が震えだす。甲殻に覆われていない右胸の素肌の部分に、腹部に刻まれているものと同じ紋章が浮かび上がってくる。
どうやら、鼓動はその内側から響いてくるようだった。そして、更に内側からは光が灯っているようでもある。
―――先程の声も、同様にして。
はい、という訳で詩乃編の第二話です。次で終わりくらいの気持ちで居ます。
予定の無いオルフェノク追加です。筆が乗るといけません。
何で追加したかと言えば、詩乃がピンチになるとか心がマイナスに振れる描写入れないと、詩乃が変化できないんですよね。説得力というか展開というか設定上というか。
なのでメタ的な必要性に駆られて登場です。あんまりこういうのは良くないのですが。
では彼方ちゃんのプロフィールを即興で。
◆島村彼方(しまむら かなた→「し」まむら 「か」なた→しか)
身長:129cm 体重:32kg 年齢:12歳 3サイズ:測定記録無し
私立栄開高等学校附属中学校に通う中学一年生。文芸部所属、清掃委員。
少女というより外見は幼女一歩後ろ程度に幼い、何せ去年まで小学生である。
可愛らしい見た目だが、自分に自信が無くておどおどしており、どもり気味に喋る。
文芸部の活動に関しては、書く方ではなくて描く方に重点を置いている漫画方面担当。会誌では頼まれた挿絵を寄稿したり、自分の絵を掲載している。
この年にしては画力もそれなりで、実は商業誌のアンソロジーコミックに何度か参加している程の、一応半プロの漫画家。
彼女がオルフェノクとして覚醒した理由は、ファンレターに見せかけた青い薔薇への接触。因みに詩乃が二人目で、一人目は一緒に部に入った友達。
◆ムースオルフェノク
身長:194cm 体重:100kg
ヘラジカの特質を備えたオルフェノク。
魔法使いのような見た目に違わず魔法のような能力を持つ。
手にした錫杖から炎や雷、氷などを射出することができる。また、空中浮遊などもある程度は可能。また、本編のように錫杖からは触手も生成可能で、これによって使徒再生を行う。
頭から生えた角や、口から出した触手でも使徒再生を行う事ができる。
彼女がこのような姿になったのは、「ファンタジー世界への憧れがあったため」。
漫画が好きな彼女は、現状の世界からへの逃避も僅かながらに含みつつ、様々な物語へ没頭していた。自分も魔法を使ってみたい、そんな幼稚な夢の延長戦。
まだまだ現実よりも夢の世界に浸っていたい十二歳の少女の想いが結実したのがこの姿である。グラマラスな体型なのは、凡そそういうもの、という意識が自然と身についていたのだろう、悪い意味で二次元に毒された結果である。