パラダイス・ロスト Birth of UNKNOWN 作:さみに
素晴らしい感想をいただきましたが、事前に言った通り票を入れた人はちゃんと感想を書いてくださいね。
どぷっ…ごぷっ、びゅく……びゅるん…♪
「はぁ…はぁ……んっ、あはっ…♪」
粘液を吐き出し終えた肉棒を体内に収納し、フォックスオルフェノクは後ろ手に倒れ込んだ。
その背を受け止めたのは娘のフラワーオルフェノクだ。
二体の目の前には灰色の粘液の山、その表面にはうっすらと黒い紋章が浮かび始めている。
静かに鼓動を伝えるそれらは緩やかに硬化して、時折内部を灰色の光で照らした。
それによって、僅かにヒトのシルエットが見て取れる。この中に、粘液によって閉じ込められてしまったのだろう。
「まま、まま…。」
「あは、ありがとぉ……ねこ、つかれちゃったから、やすませてね…まま…♪」
「う。まま、おやすみ。」
心地良い疲労感に包まれながら、少女は影に映した青白い裸体を元の黒色に隠した。
それと同時に、フォックスオルフェノクの身体が灰色に光りシルエットを崩していき、九歳の少女…木更津祢子の姿へと戻っていく。
柔らかな胸元に少女を埋めると、フラワーオルフェノクの身体に咲く花が花弁を開閉する。
それに伴って、周囲には甘く優しい香りが漂い始める。自分の母親に安らかな眠りを提供するための、娘の気遣いだった。
「…ふみゅ…まま………。」
夢の暗闇に落ちていく最中、祢子は母親の温かさと共に昔を思い出していた…。
某日、某山奥にて。
木更津祢子は施設の行事による遠足に参加していた。
数人規模の、お出かけ程度のもの。遠足と言うにはあまりにささやかなそれ。
引率する職員も僅かに二人、事故など起こるはずも無い。そう思われていた。
しかし、予想外のことは起きるもの。
ふと目を離した隙に、山道の中で足を踏み外した祢子は急な坂を転がり落ちていった。
「祢子ちゃーん!祢子ちゃーん!」
職員の一人、倉木智菜は呼びかけながら慎重に坂を下っていく。
相当な距離を転がっていったのだろう、祢子の姿は見えなかった。
暫し周囲を見渡しながら、目立つ茶色の長髪を必死に探して歩き回る。
半時ほど探した頃、嫌な予感が現実になっている予感を振り払いながら歩いていたところだった。
遂に、視界に祢子の姿を認めた。よく目立つ、茶色の髪を二つ結びにした少女の姿を。
けれど、その姿は予想より少し違っていた。滑落していたのだから、骨折なり大量出血なりしているのだろうと思っていた。
それがどうだ。今目の前に見える少女の姿は、先程までと変わらない普段通りのまま。
外傷も無く、見た目で言えば何も起こったようには思えない。
……そんな彼女が、目の前に立っていた。
「祢子ちゃん!良かった、無事だったのね…あんな高いところから落ちて…怪我無くて良かったね、運が良かったんだね。」
優しく抱きしめながら、頭を撫でて落ち着かせるように語り掛ける。
きっと怖かったろうに、自分が目を離していたせいで不要な感情を抱かせた。
智菜はその責任を深く感じていた――のだが。
「………こわ、かった。」
「え?あ、そうだね。怖かったね…」
「こわかった、こわかったよぉ……う、うう…」
搾るような声、当たり前の反応だったのはそれまでだ。
「うう、う、うわああああああああああああああ!!!!!!!!!」
泣き出した少女の顔に、黒々とした紋様がはっきりと刻まれていく。
瞳には爛々とした真鍮色の輝きが灯り、空間ごと震わせるように威圧感が智菜の身体を襲った。
そのまま腕の中の少女の身体が、ぐんと膨れて収まりきらないほどに成長していく。
自身の身体よりも豊かに、健やかに、淫らに、頑強に。
現れたのはどこか狐に似た空想の中にのみ存在を許されそうな獣人…に見える怪人。
三本の毛並みも美しい尻尾が、ゆらりゆらりと自身の身体を方位するかの如く揺らめいていた。
「ぁ、あ……ね、こちゃん…」
目の前でよく知った子供が得体の知れない怪物に変わったというのに、寧ろ疑わず同一の存在と認めた智菜は良い職員と言えるかもしれない。
だが、この時に限れば命の危機を察して逃げるべきだった。それができなかったのは危機管理能力に乏しいと言わざるを得ない。
怪人は淫蕩な唇を開くと、その奥から触手を勢いよく伸ばして智菜の口に無理やり突き込んだ。
間髪入れず襲来したそれらを拒むことなど全くできず、易々と体内に侵入を許してしまうと、心臓に到達した触手がその先端を深々と突き刺す。
流れてくる異物、ナニカ。自身の心臓を侵さんと溢れてくるエネルギー。
それらを感じていると同時に、残った僅かな理性で目の前の怪人を見据える。
太陽によって出来たその影の中には、狂気的に笑いながら涙を流す少女の姿があった。
孤児になり、懸命に生きる少女に過酷な想いをさせてしまった罰か。
最期に自戒の念を浮かべて、智菜はその生を終えた――
触手を体内に戻して、尻尾に力なく倒れこむ女の遺体を眺めながら、怪人は股座に刻まれた紋章を輝かせる。
紋章の下部にある一筋の割れ目。そこからずるりと灰色の肉槍が現れた。
びくん、どくんと跳ねるそれを女の遺体に向けると、怪人の唇が醜悪に歪んだ。
自身の底から溢れ出てくる力と本能のままに、力を込めて背を弓なりに反らすと、肉槍の先端から勢いよくナニカが飛び出る感覚があった。
顔を前に向けると、遺体の顔には、灰色の粘液が飛び散っている。視点を更に下げれば、肉槍の先から同じものが零れ落ちていた。自分がやったものらしい。
怪人にとっては、灰色の粘液が遺体を汚していることがとても気持ち良かった。
もっとしたい。
めちゃくちゃにしたい。
願った時の行動は素早かった。
再び、力を込めて身を反らせば先程よりも大量の液体が噴出した。女の胴体を粘液が覆うほどに。
それらが衣服に染み込み、肌の上から吸い込まれるように消えていくと、胸の上に奇妙な灰色のエンブレムが出現した。
そのエンブレムには怪人の股座にあるものと同じ紋章が刻まれ、同じ青白い光を発し始めると、虚空から怪人の吐き出したそれと同じ灰色の粘液が女の身体を全て包んでしまう。
やがてそれらが塊となり、直立した人体の形へと変化していくと、そこにあったのは生前と変わらぬ倉木智菜の姿だ。
眼には光が無い。凡そ意思というものを感じられない様子だった。
獣のような唸り声を怪人が漏らせば、智菜は頷きを返す。
その様子に満足がいったのか、怪人は笑みを深くすると灰色の光を放ちながら幼い少女の姿に戻っていく。
再びこの世に現れた木更津祢子は、先程までの事態を、どこか冷静に飲み込んでいた。
自分の両手を眺め、開いて、閉じて、開いて、閉じて。
そうした時に、自分の手にはっきりと、先程までの怪人の手が重なり、透けて見えた。
自分の力だ。
疑う余地も無い、自分の力。
本能で理解できる。自分の脳内に、響く声がある。
”まま”を作れ。誰かを襲え。
そうか。自分に母親が居ないのならば作ればいい。
その為の力が手に入った。その為の人間ならいくらでもいる。
気に入った人間を、自分の母親にすればいい。
最初の実験は目の前の人間だ。
上手くいっていればそれでいい。失敗したなら次でいい。
無邪気な笑みを浮かべながら、自身の初めての殺人行為など気にも留めず、その”成果”である女の手を取って祢子は歩き出した。
「いこ、”まま”♪」
純粋無垢な狂気が、実態を伴って動き始めた。
倉木智菜が、真に生を終えたのは、その三週間後だった――
◆倉木 智菜(くらき ちな)
身長:158cm 体重:59kg 年齢:31 B-W-H:91-64-94
孤児院兼児童施設の職員。八歳の娘が一人居る。
特筆して何かしら秀でたものがあるわけでもない、ただの善良な一市民。
施設で働いている様子は第三者から見ても普通で特に変わりない。
子供からは遊び相手に丁度良いらしく、それなりに人気であるらしい。
若い感性があるため、子供の好きなテレビなどにも理解があるのが一番の理由だとか。
今回の遠足に参加したのも子供からのたっての希望だが、まさか最大級の不運が待っているとは思えなかった。当然ではあるが。
祢子によって使徒再生を施され、ヒトの姿を保って再活動しているが………?
◆?????
(データ開示待機中)