※この作品はR-18です。

比企谷兄妹の甘い日常   作:暁英琉

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俺は彼女達を愛している

 生物というものは変質と普遍を両立するものである。成長しても乳離れをした肉食動物は肉を食うし草食動物は草をはむ。互いの関係が逆転することはあり得ないし、どんなに身体が大きくなっても草食動物は本能的に肉食動物を恐れる。視覚的に変質を遂げてもどこかに必ず普遍が存在するものである。周りから比企谷君なんか変わったね、なんて言われても俺は俺なわけで特に俺が変わったわけではない。自分から話しかけることはないし、数学の時間は寝る。姿勢は相変わらず猫背だし、趣味は読書と人間観察だ。強いて言うなら俺が変わったと言うよりもまわりが前より話しかけるようになったと言う方が正しい。周りの環境が変わったことで今まで見えていなかった俺の普遍部分の一部が露見しただけなのだ。

 で、俺自身なにも変わっていないのだから――。

「比企谷、このレポートはなんだね……」

 三年になった今でも度々平塚先生に呼び出されている。

 というか、明確な答えのない感想レポートなんてある程度体裁が整っていれば問題はないと思うんだが、ちょっと他と違うと嫌な顔をするのは日本人の悪い癖だ。

「君は文系の成績はいいんだが、こういうレポートで確実に損をしているぞ。個性的と言えば聞こえはいいが、学校というのも一つの組織なのでな、あまりに個性的すぎると害とみなされてしまう。おかげで私も君の評価を少し落として記さざるを得なくなっているのだ」

 まあ、俺からすれば高校なんて卒業できればいいわけで、成績なんて留年しなければどうということはないのだが、たしかに平塚先生に迷惑をかけているのは事実なんだよな。こんな捻くれた生徒に見離さずに接してくれる教師はなかなかいない。もう聖人の域である。だから誰か早く貰ってあげて!

「ここ最近の君はいい方向に変化をしていると思うのだがな。相変わらずこういうところは変わらない」

「まあ、人間そうそう変われませんからね」

 肩をすくめてみせると先生は一瞬ポカンとして、クツクツと笑いだした。

「……なんですか」

「いや、最近はだいぶ変わったと思うんだがね。君たち兄妹はもはやうちの名物のようになっているし」

 勝手に家族を学校の名物にされても困るのだが。というか、仲良くしていただけで名物になるとかどうなの? そんなにこの学校の生徒兄妹と仲悪いの? あ、雪ノ下は悪いな。

「別に変わってなんかないですよ。家じゃあんなもんですし、むしろ抑えられてるまであります」

「あれで抑えられてるのか、さすがに仲良すぎじゃないか……?」

 ドン引きされた。千葉の兄妹の仲がいいのは当然ではないか。この人ほんとに千葉県民?

「まあいい。とりあえずレポートは再提出だ。もう行っていいぞ」

「うっす」

 新しいレポート用紙を受け取って職員室を出る。別に書こうと思えばそれっぽい無難な内容は書けるんだけどな。書いているうちについ楽しくなってしまうのだ。

 俺が妹であるいろはと小町と恋人関係になってから一月ちょっとが経った。知り合いは特に留年することなく進級して、小町も総武高に入学してきた。小町の制服姿がかわいくてかわいくて仕方がない。初お披露目の時に親父が一眼レフで激写してドン引きされて凹んでた。ちなみに俺はその陰で一枚スマホで撮ってお気に入りにしている。超かわいい。

 現在俺達の関係を知っているのは雪ノ下と由比ヶ浜だけである。由比ヶ浜が何かの拍子に漏らすことがなければ大丈夫だろう。なので、俺達三人は「相当仲のいい兄妹」としてそこそこ視線を集めている……らしい。由比ヶ浜が言っていたし事実なんだろうな。

 まあ、いろはは新二年のトップカースト筆頭兼生徒会長だし、小町もかわいいので一年の中では結構高いカーストに付けているようだ。そんな二人がこんな冴えない兄貴にべったりなのだからそりゃあ注目も浴びる。

 で、そんな冴えない兄貴に周囲も興味を持ったのか俺が話しかけられる機会も増えた。まあうち数割は俺を経由して二人とお近づきになろうとか考えてそうな奴らだけど。妹たちは誰にも渡さん。

 だから、変わったとすれば俺自身ではなく俺を取り巻く環境である。

 時計を見ると昼休みが半分ほど過ぎていた。いくら注意のためとはいえ昼休みに呼び出すのはやめてほしい。昼食の時間がなくなってしまう。放課後だったら合法的に奉仕部に遅刻する理由になるのに……。サボるという選択肢がない分、俺の社畜度が上がっている。

「あ、お兄ちゃんおっそーい!」

 教室に入ると40ノット以上の速度を出しそうな声が響いてきた。自分の席に目を向けると俺のクラスでの唯一の領土がいろはと小町によって占領されていた。

「お兄ちゃんまた平塚先生に呼び出されたの? まったくゴミいちゃんは……」

「それは事実だから否定しねえけど、俺がいないのに教室に居座るのやめてくれない?」

 自由奔放な妹たちを見られるとお兄ちゃん恥ずかしいんですよ。

「え~、でも葉山先輩がお兄ちゃんの席で待ってるといいって言ってくれましたし~」

 葉山てめえ……。葉山ににらみを利かせるとさわやか笑顔で応戦してきた。なんでお前「俺、ちょっといいことしちゃった」みたいな顔してんだよ、その笑顔叩きつぶしてやろうか。あ、隣のあーしさんの眼光が怖いんでそんなことしませんよ、はい。

 ちなみに、三年生になって文理選択&クラス替えが行われたわけだが、葉山グループに戸塚、川内など2-Fメンバーの一部がごっそり同じクラスに引き継がれた。トップグループである葉山グループがそのまま上がってきたからクラスの雰囲気も去年とあんまり変わらない。あーしさんは相変わらず女王だし、戸部は相変わらずやかましいし、童貞風見鶏は童貞だ。海老名さんはしょっちゅう擬態を解いて……ん? なんか他の女子とニヤニヤしながら会話してるんだけど、まさか海老名さん以外にも腐女子がいるのか? なにそれ怖い!

「もうお昼休み少ないですし、今日はここで食べましょうよ」

 そう言っていろはが俺に椅子を明け渡す。全員が教室で飯を食うわけではないのでところどころ席は空いている。近くから椅子を持ってくればいいだろうと思って自分の席に座ると――

「…………」

「およ?」

「お兄ちゃんどうしました?」

 二人の妹が楽しそうに笑いかけてくる、天使。天使なのだがここはあえて一言言わせていただきたい。

「……なんで椅子に座んねえの?」

 にひっと笑う妹たちの顔が近い、超近い。なぜなら二人とも俺の膝に座っているからである。いや確かに家では結構こういう状況になるけど学校ではさすがにこんなことしたことないんですが?

「どこに座ろうと私たちの勝手じゃないですか~」

「お兄ちゃんはなにも気にせずご飯を食べればいいんだよ」

「なに、俺っていつからお前らの椅子になったの? お兄ちゃんTPOわきまえない子に育てた覚えないよ?」

 さすがに人前でこんなことやられると恥ずかしさで死にそう。なんか男どもがちらちら見てくるし。見んなよ見せもんじゃねえぞ。

「小町、お兄ちゃんに育てられたつもりはないんだけど……」

「むしろ私たちがお兄ちゃんを育てているまであります……」

「うぐ……」

 いやまあ確かに? ほぼ毎食二人に作ってもらってるし? そういう意味では育ててもらっている感は否めないのだが……。

「……だって、お前らの飯うまいし……」

 小町はいままでも食事を作ることが多かったからうまいし、お菓子作りが趣味と言っていたいろはは料理もうまく、打ち解けて以来二人で台所に立つことも増えた。俺? 俺はそんなかわいい二人をリビングから眺めてにやにやしてるんだよ。

 俺としては胃袋を掌握されている事実を言っただけなのだが、両膝の二人は顔を真っ赤にしてあわあわ言い出した。なにこいつらかわいすぎるだろ、今すぐ彼女にしたい。あ、彼女だったわ。

「じゃ、じゃあ小町の作ったこのチーズオムレツ食べさせてあげる!」

「しかたないですから、私の作った生姜焼きを食べさせてあげます!」

 二人とも自分の弁当からおかずを取って俺に近づけてくる。というか「作った」をやけに強調するのやめて。

「お断りします」

「「なんで!?」」

 だって恥ずかしいし。

 猛抗議してくる妹たちをしり目に、自分の弁当に箸をつけるのであった。

 

 

     ***

 

 

 放課後、俺はいつも通り奉仕部に……ではなく生徒会室に向かっていた。五時間目の休み時間にいろはから放課後に生徒会室に来るようにメールが来たからだ。由比ヶ浜にその旨を伝えるとなんかすごい不機嫌な顔をされた。ただ、俺としても実はあまり最近の奉仕部には長居したくない。

 別に奉仕部の雰囲気が去年の修学旅行後みたく悪くなっているとかではないのだ。むしろ仲が良すぎてあれというか。三年生になってようやく自分の成績での大学進学に不安を感じてきたのか、依頼のない日は雪ノ下にマンツーマン家庭教師をしてもらっているのだが、なぜか最終的にゆるゆりな空気になるのである。いやたぶん雪ノ下の教え方が下手なのが原因の一つなのだろうけど、由比ヶ浜がすぐに勉強を諦めて雪ノ下とイチャイチャしだすのだ。そんな空間にいくら空気とはいえ男がいるとね? 花の名前の付いた月刊誌を購読しているお兄様方からリンチにあいそうないたたまれない気持ちになるんですね? だから、奉仕部は好きだけど理由があるなら逃げたいわけですよ。好きだけど逃げたい、なんというジレンマ。

「うっす」

「あ、お兄ちゃんいらっしゃ~い!」

 生徒会室に入ると不思議なことにいろはしかいない。あれれー? おかしいぞー? 俺はてっきり生徒会の手伝いだと思ってきたんだけどなー。仕事前提で考えてしまうこの社畜脳悲しい。

「生徒会の仕事じゃないのか?」

「ぁ、えっと……今日は生徒会お休みなんですけど……その……」

 どうにもいろはの歯切れが悪い。もじもじしながらちらちらと見てくる。なんか小動物みたいでかわいい、あとかわいい。

「お昼はお兄ちゃんの教室だったので、あまり甘えられなかったというか……いろは的お兄ちゃん分が足りないというか……」

 え、あれで足りなかったの? お兄ちゃんすっごいドキドキさせられたんだけど。やだこの子貪欲!

「ぁの……ダメ……ですか……?」

「っ……」

 あぁ、もう……ほんとダメ。

 ダメだろこんなの……。

 こんな表情されたら俺だって我慢できなくなる。

 そっといろはの頬に触れ、優しく唇を奪った。

「んんっ、ちゅっ、ぁむっ……」

 唇をついばみ、優しくなぞる。柔らかい唇の感触は心地よくて、何度も何度も味わってしまう。時々彼女の口から漏れ出るかわいらしい声に脳髄が焼かれ、酸欠でもないのに頭がくらくらしてくる。

「んぁっ、んちゅ……ぷはっ……お兄ちゃん……」

 唇を離して真正面にあるいろはの顔はかすかに上気していて、とろんとした目元はまるで物足りないと言っているようだった。そんな顔をされたら、俺だって物足りなくなる……。

 もう一度、お互いの唇が重な――

「あーやっぱり! 二人だけずるい!」

 ガラッと勢いよく扉が開く音に思わず二人とも動きが止まる。声だけで誰が来たのかは分かる。声の主、小町はとててと近づいてくると、俺の背中にギュッと抱きついてきた。

「こ、小町ちゃん! どうしてここに……」

「奉仕部に行ったらお兄ちゃんが生徒会の手伝いしてるって聞いたんですー。けど、昨日でやること大体終わったのにおかしいなと思ったら案の定二人でイチャイチャして、いろはさん抜け駆けはずるいよー」

 頬を膨らませていろはに抗議する小町。ところで怒りながら俺の胸元さわさわするのやめてくれません? きもち……くすぐったいから、ね?

「ぁの……えっと……ごめんなさい」

「まあ、お昼はあんまりイチャイチャできなかったもんね。というわけでお兄ちゃん、小町もいろはさんと同じことしてね!」

 俺の横に移動してんー、と唇を突き出してくる。たこ焼き屋の看板のタコみたいでちょっとシュール。けど、こういうちょっと間抜けな表情もかわいくて魅力的だと思えてしまうから不思議だ。

 実際堂々と二股をかけているわけだから、俺には二人と平等に接する義務があった。どちらか片方を贔屓してはいけない。それで二人がいがみ合うことがあればそれは俺の責任だし、俺も悲しくなる。

 だから、いろはの頭を軽く撫でて宥めてから、小町の方に向き直り、少し膝を落として口付けを始めた。

「ん……ちゅ、ちゅむ……お兄ちゃぁん……んっ」

 みずみずしくてぷるんとした果実はほんのり冷たい。いろはの唇があんまんのような熱と柔らかさだとすれば、小町のそれは水ようかんのような芯を含んだ感触だった。いろはとキスした直後だから比べちゃうのは不可抗力だからね。八幡悪くない。

「んぁっ、まむ、にゅぅ……」

 下唇を咥えてむにむにすると程よい反発を感じて気持ちいい。後なんか甘い。唇が甘いとか女の子の唇は実は本当にあんまんや水ようかんでできているのでは、などと馬鹿なことを考えて誤魔化さないともう理性が擦り切れてパンク寸前なんだもの。

 名残惜しさに後ろ髪を引かれる思いだが、なんとか唇を離す。

「ぷはぁ……お兄ちゃんもっと……」

 う……そんな表情されてもお兄ちゃんには通用……するけど、我慢する。八幡超我慢する。

「だめだ、学校でこんなことして、誰かに見られたら問題なんだから」

 実際兄妹で、しかも二股状態で付き合っているなんて周りに知られたら、俺はともかくきっとこいつらが苦しくなる。だから、あまり目立った“逸脱した兄妹”の姿は見せたくない。

「ふふーん、お兄ちゃん小町達の心配してくれてるんだ。それは小町的にポイント高いよ」

「でもですね、私たちはお兄ちゃんのことが大好きだし、いつでもお兄ちゃんと一緒にいたくてしょうがないんですよ? だから、お兄ちゃんと一緒にいられるなら他人の眼なんて気になりません」

 優しい笑みでそんなことを言われてはなにも言えなくなる。本当に、俺の予想をはるかに超えてこの二人はずぶとい。それが悪いことだとは思わないけど……ってなんで二人とも悪そうな顔してるのかな? お兄ちゃんちょっと怖いんだけど。

「でもお兄ちゃん、学校はダメだけど、家ならいいんだよね?」

「今日もお父さんとお母さんは帰り遅いですもんね」

 …………やばい。

 これは帰ってからやばい。むしろすでにピンチまである。

「きょ、今日はちょっと遅くまでファミレスで勉強して帰ろうかなー……」

「「お兄ちゃん?」」

 怖い! 怖いからその目が笑ってない笑顔やめて! マジ怖い! 後怖い! ほんと怖い!

 愛されてるなーと思いつつ、ふと考える。俺がこいつらのために何をしてやれるのか。こんな冴えない捻くれ者が兄貴というだけでも問題なのに、さらに恋人なのだから申し訳なさでいっぱいになる。

 きっと俺はなにも変わっていない。捻くれて、協調性がなくて、臆病で。

 そんな俺になにかこいつらのためにできることはないのだろうか、と。つい考えてしまうのだ。

 




どうも

前作はシリアス多めであまりいちゃいちゃさせられなかったので
こっちではおもいっきりいちゃいちゃさせたい所存

R-18なのも書けるといいですね(私の精神力が持てば
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