※この作品はR-18です。

比企谷兄妹の甘い日常   作:暁英琉

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そして、俺達の祭は幕を開ける

 一番の懸念材料であったお袋たちが割とあっさり俺の今後の計画を受け入れてくれたので夏休みは楽しく過ごすことができた。まあ、勉強して予備校行って妹たちに勉強教えて読書して運動して時々妹たちと出かけていたわけだ。あれ? なんかやけに健康的な生活してない?

 ところで勉強というものは基本的に嫌なものである。特に学生にとってはだ。なぜかと言えば勉強することを“強制されている”からである。たとえばポケモン大好き少年がネット対戦のためのダメージ計算は嬉々としてやるように、面白い海外ゲームをやるために必死にwikiを和訳しようとするように、人は勉強をすることそのものは嫌いではない。しかし、学校という環境は興味のないものまで強制的に勉強させられるのだ。しかもその成績でお小言をもらうこともある。そんなの好きになる人間はマゾヒストか変人であることは確定的に明らか。

 そして、小町やいろはも典型的な「勉強が嫌い」な学生であった。新学期が始まってから二人が勉強をしている姿はほとんど見なかったし、期末テストの勉強の時もだいぶいやいややっていたからな。

 しかし、夏休みの二人は非常に勉強に積極的だった。まだ一年生と二年生である。夏休みにやる勉強など宿題以外はしないのが普通のはずだが、二人ともやけに気合を入れて勉学に取り組んでいた。なにか彼女たちの中で意識改革が起こったのかもしれないが、下手なことを聞くとせっかくのやる気をそいでしまうかもしれないので特に何も言わずに静観することにした。

 そんな夏休みも終わり、二学期である。九月と言ってもまだまだ暑い中を毎日通うのは億劫ではある。しかもこんな暑い中でも二人が両腕に抱きついてくるのだから余計に暑いし熱いし柔らかいしいい匂いで朝から俺の八幡を抑えるので必死である。少し前まではくっつかれたとしてもなんだこの柔らかいの!? ぐらいの反応で済んでいたが、今ではその手触りまで知ってしまっているのだ。ふとした拍子にその感触が想起されて俺の煩悩を刺激してくる。理性の化物って言われていても、結局俺も男の子だなぁ。俺が「男の子」とか言うとマジでキモい。

 どうでもいいことを考えながら煩悩を追い払い、二人と別れて教室に入るとリア充どもが久しぶりの再会を楽しんでいてわいわい騒がしい。というかお前らなんでそんなにうれしそうなんだ? ひょっとして学校以外では会っていないのだろうか。学校だけの関係とかちょっとエロ……なんでもない。

 自分を多少磨こうとしたり、周りからの見方が変わったとしても俺の口下手が治るわけもない。いつもと変わらず誰にも話しかけずにステルスヒッキーで席について、MP3プレイヤーを取り出してイヤホンを付けて机に突っ伏す――前に。

「おはよ、八幡!」

「おはよう、戸塚」

 天使がやってきたのでプレイヤーを音速で鞄に突っ込んだ。この速度が出せるなら俺の左は世界を狙えるかも知れんな。ところで最近俺の中で天使が戸塚と小町といろはで三人になってしまっている。もう一人増えたら八幡四大天使ができてしまうな。四人目なんてきっと現れないだろうけど。

「そういえば、そろそろ文化祭の準備始まるけど、八幡は今年はどうするの?」

「文化祭か、余ったところに突っ込んでもらえればそれでいいな。……葉山とのカップリングじゃなければ……」

 あれ? 前半のセリフにデジャヴを感じたぞ? 嫌な予感がビンビンするぞ? これはタイムリープして選択肢をやり直さなければならないのではないだろうか、俺タイムリープできないけど。

 

 

「比企谷、お前は今年も文化祭実行委員だからな」

 そして俺の予感は見事に的中した。現国の授業の後平塚先生がさらっと指名してきた。余ったところでもなく最初からのご使命である。なんて嬉しくないご使命だろうか。しかも断れば鉄拳制裁で結局引き受けざるを得ないとかマジ無理ゲー。

 しかし、ここで何も言わなかったらその後もいろいろと押しつけられるものだ。そもそも、去年の悪行が消えたわけでもないのに俺が今年も文実をやったら空気が悪くなりかねないではないか。ここできっぱりと断ることも重要である。ノーと言える日本人!

「あの――」

「ああ、今年は一色……いや、お前の上の妹が実行委員長に乗り気のようだぞ?」

「喜んで務めさせていただきます!」

 酷いや酷いや! 俺の妹への愛を利用するなんてまるで悪魔の所業だよ。鬼! 悪魔! アラサ……なんでもないですから睨まないでください。

 というわけで、俺は今年も強制的に文実にさせられてしまった。あーあ、また女子の方が長引くのか、めんどくせー……。

 去年の実行委員決めの長期戦を思い出すと気が重かった。

 しかし、そんな俺をよそに実際決める段階になるとほぼ即決だった。

「じゃあ、文実女子は私がやるねー」

 颯爽と手を上げたのはまさかまさかの海老名さん。なんで? と思ったが、本人曰く「去年は私の好きなようにクラスの方やらせてもらったし、今年は全体の裏方に徹そうと思って」らしい。確かに去年はやりたい放題でしたもんね。あれ以来「星の王子さま」を読むと薔薇が視界をちらつくようになってしまった。

 文実もサクッと決まり、クラスの出し物もお化け屋敷に決まった。まあ、無難どころだし、なんだかんだこういうお祭り事に強いメンツが揃っている。ほっといてもいい出し物になるだろう。

 あー、しかし文実やりたくねえなー。いや、むしろお化け屋敷の担当になったらノーメイクノーコスチュームでゾンビ役やらされそう。やったー! 文実最高! ……ぐすっ。

 そして文実の最初のミーティング。会議室に入ると見知った顔が見えた。

「今年も文実なんだな」

「ええ、あなたもなのね」

 雪ノ下は言葉少なめに返したきた。去年は全てを一人でこなそうとして体調を崩したこともあるこいつだが、もう一度やるということは去年の文化祭はこいつにとって楽しいものだったのだろうか。俺が引っかき回したあの文化祭を楽しいと思ってくれていたのなら、それは俺の数少ない救いになるのかもしれない。

「おにーちゃん!」

 物思いにふけりながら適当な席に腰を下ろすと後ろから抱きつかれた。あすなろ抱きをされると同時にふわっと漂う柑橘系の香り。毎日同じシャンプーを使っているはずなのに微妙に違う匂いが後ろの相手を教えてくれる。まあ、声とか感触とかで丸わかりではあるけど。

「お前も文実に入ったのか、小町」

「うん! だってお兄ちゃんもいろはさんも文実やるって平塚先生が言ってたから!」

 ああ、兄姉思いの末妹まで同じ手法で脅すなんて酷すぎる。いや、逆に考えるとくそめんどくさい文実の間いろはと小町とずっと一緒? これは神展開なのでは? グッジョブ平塚先生! 俺は先生が生徒思いの素晴らしい先生だと信じてましたよ!

「んんっ、そろそろ始めるから静かに」

 実行委員が揃ったようで件の素晴らしい先生が声を上げる。すぐに生徒が静かになるあたりやっぱり人望あるんだよな。本当になんで結婚できないんだろう。

「まずは実行委員長を決めるわけだが、事前に比企谷……三人もいて分かりづらいな。比企谷生徒会長が実行委員長に志願している。他に立候補者はないか?」

 先生の言葉に少し室内がざわめく。生徒会長と実行委員長の兼任は恐らく例がないだろう。両立できるのかなどの不安要素もある。しかし、特に上級生は一年生にして生徒会長になったいろはの手腕を見込んでいる。劇的ではないが、少しずつ学校をよくしていこうとしていることは皆が理解していた。だから反対意見は出ない。単に実行委員長をやってくれるならいいかって考えもあるかもしれないけど。

 先生に促されていろはが前に出てくる。少し瞑目するとすっと部屋全体を見渡した。

「生徒会長の比企谷いろはです。文化祭実行委員は初めてなので不慣れなところもあるかもしれませんが、今までで最高の文化祭だったって皆が思えるような文化祭にしたいです! そのために、皆さんの力を貸してください!」

 いろはの挨拶が終わるとところどころから拍手が沸く。まばらだった拍手はだんだんとその数を増し、部屋全体を包み込んだ。

 生徒会長としての責務をこなしてきた数カ月が自信に繋がっているのか、人の前に立つ時のいろはは堂々としている。確かに生徒会選挙の時から人前に立つことには慣れているようではあったが、あの頃はあざとさを前面に出していた。庇護欲をそそらせることで、失敗した時の予防線にしようとしていたのかもしれない。

「なんかいろはちゃん変わったね」

 横でぽしょりと呟いた海老名さんが言うように、きっといろはは変わったのだろう。そして俺は、その変化を好ましく思っていた。

 委員長が決まると次は各部署決めである。挙手制でいろはがてきぱきと部署を振り分けていく。数カ月とはいえ上級生に紛れて生徒会の会議を取り持ってきたおかげか会議進行の手際はかなりのものだった。相模と城廻先輩が二人で振り分けた去年よりも早く感じるのは俺の贔屓目のせいだろうか。

 知り合いは海老名さんが有志統制、小町と雪ノ下が記録雑務になり、俺は……副委員長になっていた、なんで?

「やっぱり文実は初めてなんで、去年の経験者にサポートしてもらった方が運営もやりやすいじゃないですか~」

「言いたいことは分かるが、それなら雪ノ下が適任だろ。去年の副委員長だぞ」

 いやあの、あくまで適任って話をしているだけなんで面倒くさそうにこっちを睨んでくるのやめてもらえませんかね雪ノ下さん。

「そ、それはそうなんですけど。雪乃先輩に頼むと本気になりすぎそうで怖いと言いますか、……ほらっ、去年一人で頑張りすぎて体調崩したって聞きましたし」

 まあ確かに奉仕部の依頼じゃなかったらまた全力でやりそうだな。なんか納得。

「……もう……お兄ちゃんの鈍感」

 いろはがぽしょりと何か言ったような気がしたが、他の部署の交流の声にかき消されたのかよく聞こえなかった。

「ま、やる以上はきっちりやるか。よろしくな、委員長」

「……なんで他人行儀なんですか……」

「大事な会議中に下の名前とかお兄ちゃんなんて呼んだら会議全体がゆるくなるだろうが」

「むぅ……こちらこそよろしくお願いします、……せんぱい」

 むくれながらも律儀に合わせてくれるいろはがかわいい。それに半年以上呼ばれていなかった呼び名が懐かしくて緩みそうになる頬をなんとか保つ。

 さて、少し頑張るとしましょうか。

 




文化祭ネタを使おうか悩んだけど、学校と言えば文化祭は外せないよねっ


ところで、ちょっと2週間ほど忙しくなるので、次の投稿は遅れます
できる限り早めの投稿を目指したいですが、たぶん2週間後くらいになるかと
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