皆さんはろはろー、海老名姫菜です。文化祭実行委員になってから忙しくも充実した日々を送っています。隼人君から去年の文実の状況を聞いた時は結構身構えたものだけど、実際やってみると末端組は指示通りやっていれば何の問題もないようで、順調に作業は進んでいます。いろはちゃんもこの一年でこういう運営事に慣れているみたいだし、それをサポートするヒキタニ君も去年の経験があるからなのかいろはちゃんの手伝いで生徒会の手伝いをしているからかなのか、すごい様になっていてかっこいい。
そもそも今回私が文実に立候補した本当の理由は最近のヒキタニ君が気になってしまっていたからだ。たぶん結衣を除く他のクラス女子の中で一番。
きっと去年の修学旅行のせいだ。ヒキタニ君はあの時、私たちのグループの関係を壊さないために私にわざと振られた。振った相手のことはたとえ全く知らない人でも多少は気になるものだ。ヒキタニ君は知らない男子じゃない。その上、今まで会ったことのないタイプの男の子だった。考え方も価値観も理解できない彼に私は多少以上の興味を引かれていたのだ。そして、知れば知るほど比企谷八幡という男の子は不思議な魅力を秘めていた。
そんなヒキタニ君が最近妙に目立ち始めた。悪目立ち……も多少はあるけれど、基本的にはいい方向で。一年以上彼を見てきて、それは初めて見るもので、私はその原因が知りたくなったのだ。
ひょっとしたら彼に恋人ができたのかもしれない。それは私の腐女子にあるまじき淡い恋心の終焉になるかも知れないし、そう考えると、怖い。けれど、それでいいのだと思う。あんなことをさせてしまった彼にこんな感情を抱いている私が間違っているのだから。
だから、もっとポジティブに考えるのだ。ひょっとしたら今後のはやはち妄想のいい材料になるかも知れないからね!
…………うん。
文実のお仕事はすこぶる順調です。いや、順調……なのかな?
仕事の進み具合で言えば問題はなにも起きていない。けど、私たち文実委員のメンタルは日に日に削れている気がしてならない。しかも原因が委員長、副委員長としてこの順調な文化祭実行委員をまとめている比企谷兄妹にあるのだから始末に負えない。
「委員長、美術部から入場門のデザイン案が届きました」
「あ、ありがとうございます~」
デザイン案の紙にいろはちゃんが目を通す。パラパラと紙をめくっていく中で「あっ」と小さく声を漏らした。
「おに……せんぱい、これとかよくないですか?」
一枚の紙をヒキタニ君に見せると露骨に眉を寄せる。どうやらあまりお気に召さないご様子。
「いやいろ……委員長、これはないんじゃないのか?」
ヒキタニ君が持っている紙を黒板に張り付ける。ピンクを基調にしたかわいいデザインでポップな明るい印象を受けた。うーん、そんなに悪いかな? いろはちゃんもそんなヒキタニ君に不満なようで頬を膨らませている。
「え~、なんでですか~?」
「……じゃあ聞くけど、二日目の一般参加者で一番多い層は誰だ?」
「そんなの、ここを受験しようって考えてる中学生ですよ~」
去年のデータを出しながら得意気に突き出す。結構しっかり確認してるんだよね、この子。
「そうだ。で、このデザインだと確かに女子受けはいいだろうな。しかしだ、“かっこいい自分”に憧れている男子中学生がこの門をくぐるのは相当ハードル高いぞ? 普通の男子中学生なら門の前に立った途端に女子高に来たんじゃないかと緊張するレベル」
ヒキタニ君の言葉に一部の男子が小さく首肯している。どうやら男子の中はヒキタニ君の意見を支持する人間が一定数いるみたい。
「一番好印象を与えたい中学生、受験生をターゲットにするならもっと中世的なデザインにした方がいい。こういうのとかな」
「え~、おに……せんぱいそれはシンプルすぎません?」
「いや、一例で挙げただけな上に、これ美術部が考えたデザインだからね? それにいろ……委員長、いいだろシンプル。シンプルイズベストという名台詞を知らないのかよ」
状況はヒキタニ君有利。こういう論戦だとやっぱりヒキタニ君強いよね。ところで二人とも毎回相手呼ぶ度に言い直すくらいなら普通に呼べばいいんじゃないのかな?
「む~、おに……せんぱいはいつもそうやって屁理屈言ってきて卑怯です……」
…………ん?
「この間も一緒に見てたドラマでよくわからないこと言ってましたし」
「なっ、それは今関係ないだろ?」
……なんか論点がずれてませんかね?
「私的には結構面白かったのに、あれで興が削がれちゃいましたよ……」
「だってしょうがないだろ。有名脚本家が脚本したって割に展開に無理がありすぎたし」
「あれはフィクションですよ? ご都合主義でいいじゃないですか~」
「ご都合主義と展開の甘さは別物だろ? あんな簡単にボロ出す天才犯罪者なんて全然天才じゃないじゃん」
あー、どうやら二人は土曜の夜にやっているドラマの話をしているみたい。確かに私もちょっと展開が適当だなって思わなくもなかったけど、楽しんで見てる子にそう言う話をするのはどうなのかな……。
「でも……でも……ぐすん」
あぁ、いろはちゃんが泣き始めた。妹を泣かせちゃうなんてお兄ちゃんは最低だなぁ。あ、これで論理的劣勢を逆転させようって魂胆なのか。さすがいろはすあざとい。
「お、おい」
「お兄ちゃん……私と一緒にテレビ見たくないんだ……」
「そ、そんなことあるわけないだろ、いろは?」
あれ? それは泣きまねじゃないの? 二人とももう普通に呼び合ってるし。あれ? なんかいろはちゃんほんとに涙浮かべてない? マジ泣き? マジ泣きなの? お兄ちゃんと一緒にテレビ見れなくなるのそんなに嫌なの? ヒキタニ君も慌てすぎじゃない?
「だって私と見たらお兄ちゃん楽しくないだろうし……」
「あのなあ……」
「ふえっ……?」
ヒキタニ君がぽんぽんといろはちゃんの頭を撫でる。わさわさ動いてるもう片方の手が気になるけど、ヒキタニ君ってやけに撫でるの似合うよね。
「その……あれだ。いろはと見るテレビは、いつも以上に面白いから……好き、だぞ?」
「……ほんと?」
「あぁ、本当だ」
……うわあ……。
さっきまであんなに悲しそうだったいろはちゃんの表情がぱあっと明るくなる。
なにその表情、ちょっとかわいすぎるんじゃないですかね? ……ハッ! いけないわ姫菜! はやはちの扉とは正反対にあるその扉は開いちゃだめよ!
「えへへ……」
いや、マジでかわいすぎでしょ。じっとヒキタニ君に熱視線送ってるし、ヒキタニ君もほんのり顔赤くしてるし。
あれ? ひょっとしてこの兄妹二人ともめちゃくちゃかわいいのでは?
「……………」
なでなで。
「えへへぇ……」
なでなで。
「…………」
なでなで。
「おにいちゃぁん……」
なでなで。
「いろは……」
「あ、これとか小町的に好きだなー!」
「「!!??」」
いつまでも撫で撫でられの固有結界を展開していた二人に颯爽と割り込む影が! 小町ちゃんはケラケラと無邪気に笑いながらデザイン案の一枚を手に取っていた。そういえば、入場門のデザイン案の話してましたね。けど、なんか小町ちゃん……楽しそうに笑ってるけどちょっと目が笑っていないような気がするのは……気のせい、かな?
小町ちゃんが手に取ったのは中世彫刻のようなちょっと凝ったデザイン。ていうかうちの美術部結構レベル高いな。デザインの幅も広いし。
「あ、ああ。こういうのもいいな」
「でしょ?」
「けど、門だけこういうのだと入口だけ浮いちゃいそうですね」
「それなら似たようなデザインのオブジェを校内にちりばめるとかどうだ? そうすれば雰囲気の統一性も取れそうだ」
「けど、美術部だけで準備できるかな?」
「手の空いてそうな有志を募ってみましょう。副会長、そういう方向で進めてください」
…………。
うん、ちょっとついていけませんね。さっきまでシスコンブラコン空間だったのに気がついたら仕事が一つ進んでた。空間の中心だった委員長、副委員長は何もともなかったかのように……あれ? 小町ちゃんといろはちゃんがヒキタニ君にぽしょぽしょ耳元でなにか囁いて……。
「……っ!」
え、なんかヒキタニ君首まで真っ赤になったんだけど。二人ともなにやったの? あんなに恥ずかしがるヒキタニ君、私のはやはち妄想の中でも見たことないんだけど。
「小町ちゃんすごいね。あの二人のストッパーになれるなんて」
「そんなことないですよ姫菜さん」
自分の席に戻ろうとする小町ちゃんに声をかけるとカラカラと笑いかけてくる。
「いや、すごいでしょ。記録雑務って準備の間仕事少ないし、書記とか担当すればいいんじゃない?」
なんとなしに言ってみると小町ちゃんは「いやぁ……」と頬をぽりぽり掻いて曖昧な笑みを浮かべる。こういう仕草を見ると、ヒキタニ君の妹なんだなって納得できるな。
「小町は記録雑務にいた方がいいんですよ。たぶんあっち側にいたら小町もあの中に入っちゃうでしょうし」
「へ……?」
「外から見てないと普通に小町も便乗しちゃいますからねー」
たははと照れる小町ちゃん。
いや……。
いやいや……え?
なにこの兄妹、お互いのこと好きすぎやしませんかね? あれ? 兄妹ってこんなもんだっけ?
「ではでは、小町も仕事に戻りますので!」
「う、うん」
とててーと自分の席に帰っていく小町ちゃんを見送る。
三人ともてきぱきと仕事をこなしていっている。けれど、よくよく観察してみると時々お互いを目線で追っていて。
ああ、これは敵わないな。そう思った。
兄妹だとかそういうことを度外視してしまうほど、三人の中に存在する絆は離れがたいもので、きっと何者にもそこに割り込むことはできないのだろう。私はおろか、私よりもずっと近い結衣や雪ノ下さんだってきっと……。
諦めてしまった。諦めるしかなかった。けれど、そこに嫌な感情はなくて。
それはきっと、ヒキタニ君がどこか幸せそうだからかもしれない。
けどさ、もうちょっと抑えてもらわないと鼻血どころか吐血しそうなんですけど……。
***
「「…………」」
家に帰って早々、いろはともども正座させられています。目の前には仁王立ちの末妹小町。
「なんで正座させられてるかわかってるよね、二人とも?」
「「……はい」」
「別に言い争いをするなとは言わないよ。それで文化祭がよくなるならいいことだし。けどさ、そこに家の話を持ち込むのはいけないんじゃないかなって小町思うな。ね、いろはさん」
「まったくを持ってその通りです……」
正座で妹に敬語を話す姉がいるらしい。妹つおい。
「お兄ちゃんもいろはさんいじめすぎだよ。口論じゃお兄ちゃんが圧倒的に有利なんだからもうちょっと手加減してあげないと」
「お、おう……そうだな」
俺的にはそこまで本気で言い合ってたつもりはないし、そもそもいろはがいじけるとは思っていなかったんだが。ひょっとして俺の言動ってきついのだろうか……。
「こ、小町ちゃん、お兄ちゃんの言い分は尤もだったし、私が勝手に家のことを引き合いに出しちゃっただけだから……」
「いろはさんが言うならそれでいいけど……」
いろはに止められて小町が俺への矛を収める。しかし、すぐに「でも!」と第二の矛をつきつけてきた。
「人前でいろはさんだけなでなでなんてずるくない? ずるいよね?」
あ、これあれですね。怒ってる一番の理由こっちですね。ただでさえ委員長副委員長で距離が近いというのに自分をないがしろにしていちゃいちゃしていたのが気にいらないのだ。まあ、俺としてがいちゃいちゃとかではなくすねてしまったいろはを宥めるために仕方なく撫でただけなのだが。べ、別に途中から趣旨が変わってたとかそんなことないんだからね!
「というわけで!」
「うぉっ!?」
いきなり小町が抱きついてきたので体勢を崩してしまった。小町に押し倒される形になっている。普通逆ではないのかな? 妹を押し倒すのはお兄ちゃんの役目だぞ?
まあ、にししと楽しそうに笑う小町を見ると抗う気にもなれないのだが。こいつが何を求めているのかも検討がついているしな。
「というわけでお兄ちゃん! 小町もなでなでしてほしいのです!」
「はいはい」
断る理由などあるわけがない。二人とも同じだけ愛するのが俺の義務であり権利だ。俺自身も楽しいしね!
「…………」
なでなで。
「んー……」
いろはもそうだけど、女の子の髪ってどうしてこうもさらさらふわふわなんだろうか。俺のごわついた髪とは大違いだな。撫でているだけで幸せになってくる。全人類が女の子の頭を撫でるようにすれば戦争は起きないのではないだろうか。
なでなで。
「ふへへぇ……」
しかしなんとも無防備な顔してんな。そんな表情をされているとちょっと悪戯心が沸いちゃうぞ? 変化技の優先度プラス1してやろうか。
「ふにゅ……ふぁっ!?」
撫でる位置を少し横にずらして耳を優しく撫でると少し驚いた声を漏らす。しかし、そこに拒否の色はなく、さわっさわっと撫で続けると……。
「ふぃ……ん……んぁ……」
だんだんと声に熱が混じりだす。頭を撫でるといういつも何気なくやっている行為が、健全なはずの行為がとてもいやらしいものに感じてしまう。
「……ぁっ……おに、ちゃ……」
潤んだ瞳、赤く染まった頬。艶やかなその姿に自然と吸い寄せられる。
「小町……」
そっと。
二人の唇が重なった。触れ合うだけのソフトキスでお互いの熱を伝えあう。
お互いを積極的に求めあうキスも好きだが、どちらかというとこのキスの方が俺は好きだった。
「む~……」
唇が離れると恨めしそうな目で俺達を見つめているいろはが目に入った。昼間のことがあるせいか不満そうにしつつも何もアクションを起こさないあたり律儀と言うかなんというか。ついつい苦笑が漏れてしまう。
「いろは、おいで」
「ぁ……」
いろはを引き寄せてこちらの唇も奪う。さっきも言っただろ? 平等に愛するって。
そっと唇を離すと二人の手が背中に回される。それだけならよかったのだが。
「あ、こら……」
さわさわと二人の柔らかい指が首筋や鎖骨、胸を這いだした。ここ最近のうちにすっかり快感に素直になってしまった身体が早くも甘い刺激を自覚する。
「お兄ちゃん、さっき言ったじゃん」
二人の妹は悪戯っぽく笑う。それは委員会の時の一コマ。二人に囁かれた一言。それを再現するかのように二人の唇が耳に近づく。
「おうちに帰ったら……」
「今日もいっぱい……」
「「愛してね? って」」
むしろ俺が愛されてる気がするんだけどな……。
そう思いつつ、二人の妹に手を伸ばすのだった。
お久しぶりです
忙しい時期がようやくすぎたので久々に更新しました
ただ、今後はちょっとPCに触れる時間が短くなるので、毎日更新は無理だと思います
できるだけ早い更新を心掛けたいですが、ご了承ください