「あー、あー、テステス」
『インカム、良好です』
『こちらも』
開会五分前の最終確認。インカムの調子も良好だ。ていうか、去年も思ったけど公立高校なのにこういう設備無駄にしっかりしてるよな総武高って。これもどこぞの魔王の影響かも知れんな。誰か魔王討伐して!
「委員長は大丈夫か?」
『大丈夫ですよ~』
もうすぐ自分の番だというのにいつもの調子。さすがに慣れてるな。
「例年と違って生徒会長と委員長が一緒だから開会の挨拶と委員長の挨拶は一気にやるからな」
『分かってますよ~。まっかせてください!』
頼もしい限りである。うちの妹少しお馬鹿だけどやっぱ高スペックだからな。どこに出しても問題ないいい子だ。どこにも出さないし誰にも渡さないけどな!
『それじゃあ、今日は最高に盛り上がっていきましょう!』
『『『おー!』』』
そして、開会。
「皆~! 元気は有り余ってますか~!」
「「「おおーー!!」」」
「今日はお祭り!」
「「「楽しい祭り!」」」
「皆で作る~」
「「「三ツ星文化祭!!!」」」
去年も思ったけど、うちの高校ってノリいいよな。俺こういうの無理だわ。そう考えるとこのノリを回避できる文化祭実行委員って天職なのでは……サンキュー平塚先生!
「というわけで、今年の実行委員長の比企谷いろはです! 皆よろしく~!」
「「「よろしく~!」」」
もはや壇上に立っている姿はアイドルそのものである。ていうか、会場の返事が超野太い。ちょっと怖い。
まあ、滑り出しは良好なようだ。多少張ってしまっていた緊張をほぐす。
壇上では明るく、元気に、いろはが会場を盛り上げていた。
さて、二日ある総武高校文化祭の初日は生徒だけの祭である。
文化祭実行委員の初日の仕事はそこまで多くない。ローテーションで何人かの生徒が見回りをすればそれでこと足りるのでそれ以外は実質自由時間になる。実行委員やってるとクラスにはほとんど関われないからな。初日は見る以外ほとんどやることはない。
「よう」
「あ、ヒッキーおつかれー。文実の仕事終わり?」
「あぁ、あとは自由時間だ」
最初に配置しておいた自分の仕事を済ませてクラスの方に向かうと呼び込み役らしい由比ヶ浜が声をかけてきた。お化け屋敷はなかなか好評なようで人の入りも良好。まあ、葉山のクラスってだけでネームバリューあるもんな。去年の演劇も好評だったし。
しかし、そこそこ中から悲鳴が聞こえるのだが、気のせいか時々黄色い悲鳴が聞こえる気がする。なんか出てくる女子もにやにやしてる奴いるし。……ここ、お化け屋敷だったよな?
「じゃあ、ヒッキーもこっち手伝ってよ」
「ふむ……」
クラスを手伝う。去年同様全くクラスの活動に参加していない俺ができる手伝いといえば、やっぱり受付だろうか。いや待て、去年の劇とは違い今年はお化け屋敷。つまり、長期の練習を必要としない内容だ。つまりは……。
「俺にノーメイクでゾンビ役をやらせるつもりだな?」
「なんか卑屈なこと考えてた!?」
あれ? 違うのか。千葉村での肝試しでも普通に歩いているだけで怖がられてたし、てっきりこれだと思ったんだが。
「……今のヒッキーじゃそんなことできないし……」
ぼそっと言われた驚愕の真実。どうやらあれは小学生相手だったから怖がられていたもので、高校生には通用しないらしい。くっ、せっかくこのアイデンティティを活かせると思ったのに! 活用法がマイナス方向すぎるアイデンティティに泣きそう。
八幡の固有スキルが使えないとなると、やっぱり受付か。まあ、こんなことでしかクラスに貢献できないからな。
「あ、おにーちゃーん!」
受付の椅子に座ろうとしていると後ろから声をかけられた。この声を聞き間違えるわけがない。脊髄反射で振り向くとマイプリティシスター小町が駆け寄ってきていた。隣にはいろはもいる。
「二人とも担当終わったのか?」
「はい、とりあえずざっと各クラス見てみましたけど特に問題はなさそうです」
まあ、普通にやってればトラブルも起こりづらいだろうし、今年の実行委員は真面目なのが多かったから自分たちのクラスの整理とかも各自でそこそこ対応できているのだろう。
しかし、せっかく二人と会えたのにクラスの手伝いがあるから一緒に回れないな。いや、仕方ないよな。これくらいの手伝いはしておくべきだろうし。けど、ちょっとテンション下がるなぁ……。
「……ん?」
くいくいと袖をひっぱられたので視線を向けると由比ヶ浜がにっこり微笑んでいた。いったいどうしたのん?
「一緒に回ってきなよヒッキー」
「いいのか?」
いやしかし、準備も手伝わなかったのに本番も手伝わないのはさすがにどうなのだろうか。
「そのかわり、まずはうちのお化け屋敷に三人で入って、感想教えてよ!」
「なるほど……」
確かに第三者の意見を早い段階で取り入れるのはありだろうな。そういうことなら俺的には大賛成。後は二人が賛成してくれるかだが。
「二人はそれでいいのか?」
「私はいいですよ~」
「小町もいいよ!」
ほむ、二人とも大丈夫みたいだ。八幡的にテンション三割増し!
「じゃあ、入って入って! 面白い出来になってる自身あるから!」
「面白いお化け屋敷ってどうなの……?」
まあ、そうと決まればさっそく入ってみますか。
暗幕をくぐって三人はお化け屋敷の中に入った。
「おぉ、結構雰囲気あるな」
入ってみるとこれはドライアイスだろうか? 足元には薄い靄が沈んでいて、どことなくひんやりとしている。廊下側から窓に暗幕がされていたが、中から見ると窓にヒビのような筋が描かれていて、あたかも割れているようだ。ゾンビとか出てきそう。遺書に灰!
「け、結構怖そうですね……」
「そ、そうだね……」
二人とも少し身を固くしながら抱きついてくる。いいぞもっとやれ、ではなく! なんかいろいろ柔らかいのが当たってお化け屋敷どころじゃないんですけど。
「お、お兄ちゃんは怖くないんですか?」
「ん? まあ、この世で一番怖いのは人間だからな」
「さすがお兄ちゃん……捻くれてるけど頼りになるね……」
何を言っているんだこいつは。
「つまり……人間が作ったお化け屋敷は怖い」
「全然頼りにならないやつだそれ!」
まあ、半分位二人をからかうための冗談なんだけど。いやあの……からかった俺が言うのも何だけど、さっき以上に抱きついて来てるんですけど? 柔らかいあれが四個ほど当たってるんですけど?
「ヒキタニ君いちゃつきすぎだろ」
「八幡嬉しそう……」
「お化け屋敷で鼻の下伸ばすとかヒキオ超あり得なくない?」
おいお前ら! 陰口叩く暇があったら脅かし役しっかりやれよ!
そう思いながらもせっかく雰囲気はあるので口には出さない。八幡マジお客の鏡。しかし、最初の直線では何も起こらない。ここは雰囲気を出すためだけの通路なのか?
そう思って通路を曲がると……。
「ヴァッ!」
「「ひゃっ!?」」
「っ!!」
一瞬だけ飛び出してきたお面に思わず二人とも声を上げる。よくよく見ればダイ○ーに売ってそうなパーティ用のお面だが、この雰囲気のある暗がりでは十分ホラーだろう。
かく言う俺も突然の奇襲に思わずびくりと体が跳ねた。どうやらこのお化け屋敷はアメリカンテイストなびっくりホラー系のようだ。怖い怖くない以前に突然驚かされたらびっくりするのはしかたないではないか。しかし、声は出していないし、両脇の二人の方が大きく跳ねたので二人にはばれていないはず!
「お、お兄ちゃん……」
「こここ、これは怖いですよぉ……」
むむっ、うちのかわいい妹たちを怖がらせるとは許さん! 企画者出てこい!
という冗談は置いておいて、二人を安心させるためにそれぞれに腰に腕を回す。
「大丈夫だぞ、お兄ちゃんがついてるからな」
「「お兄ちゃん……」」
「「「だからいちゃついてんじゃねえよ! さっさと進め!」」」
うるせえ! お前らはさっさと驚かせにこいや!
しかし、このお化け屋敷、なかなかどうしてよくできている。なんというか、脅かし方が妙に上手いのだ。これ考えたの誰だよ、商業のお化け屋敷作らせたらマジで人気アトラクションになりそう。……そういえば、戸塚ってホラー系好きとか言ってたよな? ということは企画が戸塚の可能性が出てきた! さすが戸塚! 天使なだけじゃなかったんや!
「……うぅ……」
「……ふぇっ……」
的確なびっくりポイントの連続に両脇の二人は涙目でしがみついてくるばかり。ていうか、二人とも泣き顔かわいすぎない? やばい、お兄ちゃん変な性癖に目覚めそう。
「ん?」
最後の直線だと思われる通路にやけに存在感のあるステージ。いままでの脅かせ方とは明らかに違う。ここにきて和製ホラー特有のじわじわくる恐怖で来るのだろうか?
恐る恐る三人でステージに近づく。ぼわっとライトアップされるステージ。
「「「……ごくり」」」
固唾を飲む俺たちの前に現れたのは……葉山と戸部だった。
「隼人君……月が、綺麗だね」
「俺にはもっと綺麗なものが見えるよ」
「っべー、それってなに?」
「それは……お前だよ、戸部」
「は、隼人君……!」
「「「…………」」」
誰だ!? 最後にこんなものぶっ込んできたの!? 海老名さん……はずっと文実の方をやっていたからこっちに関わっていないはずだし……。やっぱりキマシタワーが増築されてるの? 増えるホモなの? やめて、増えないで!
「…………」
いや、葉山よ。そのさっさと行けみたいな視線やめて。いつもの葉山隼人でいてくれ。いや、気持ちは痛いほどわかるけど。ごめん二年連続でホモにされた気持ちは分かんないわ。
「……行くか」
「……うん」
「……そうですね」
どうすんだよこの空気。三人ともものの見事に白けちゃったよ。そのまま葉山達に目を合わせることなく、俺たちはお化け屋敷から足早に脱出した。
「お疲れ様ー。どうだった?」
出口を出ると由比ヶ浜が無邪気に感想を聞いてきた。この子はひょっとしてこのアトラクションの詳細を知らないんじゃないだろうか。大丈夫、ガハマさん? クラスではぶられてない?
「いや、まあ全体的に結構完成度高かったけど……」
しかし、クラスの皆は準備期間の間懸命に頑張ったはずだ。それを否定するのはどうなのだろうか。続く言葉に窮していると、両脇から服をひっぱられた。見ると妹たちが「私達にまかせて」と目で訴えかけてきていた。
「もう怖くて仕方なかったですよ~。途中から声も出ませんでしたから~」
「そう? やっぱり彩ちゃんの考えたからかな? すごい怖くできてるよね!」
「戸塚さんってすごいんですね! ただ……」
「ただ?」
「最後のステージの演出はカップルとか男子にはあまり受けがよくないかもしれません」
「そうですね、女子だけの時にだけやるのがいいと思いますよ」
さすが我が妹たちである。最初にしっかり褒めてから欠点を提示、さらに改定案の提示も行うフォローっぷりにお兄ちゃん脱帽です。
「ふむふむ、なるほどね。じゃあ、最後の担当の人たちにそれ伝えておくね!」
由比ヶ浜から伝えれば雰囲気が悪くなることもないだろう。
「じゃあ、他のところ見て回るか」
「うん!」
「はい!」
俺たちは早足にクラスを離れた。正直、中の内容を知ってしまった今、あまり長居はしたくなかったです。ホモ怖い。これから葉山と話すときは尻を抑えた方がいいな。
ごめん葉山……マジごめん……。
実は増えていた腐女子はこのシーンへの伏線だったのだ!
ΩΩΩ<ナ、ナンダッテー
文化祭はまだまだ続くよ!