その後も色んなクラスの出し物を見て回った。なんか二年生のクラスの半分がBL劇だった気がするんだけど、去年の葉山に影響されたの? もはや葉山=ホモの権化なの?
というか、個性を出そうとしているのかイロモノが多すぎませんかね。回転寿司カフェとかなんなの? 落ち着かなくない? ちなみにいろはのクラスは謎解き迷路だった。謎解きというか意地の悪い迷路だったけど。最後にスタッフ専用の暗幕くぐる必要があるとか思い至る人間がどれくらいいるんですかね。
上級生がホモだったりイロモノだったりする中で比較的落ち着いているのが一年フロアだ。入学から半年ほど経ったとはいえまだ多少の遠慮があるのだろう。展示系の出し物が多く、人通りも比較的少なかった。
「あ、小町じゃん!」
小町のクラスの前でクラスメイトらしい女子生徒に声をかけられた。下の名前で呼ばれる友達がちゃんといると分かって、お兄ちゃん嬉しい。これが男だったら血の海が形成されていたかもしれない。死なずにすんだな川崎大志よ。
「あ、生徒会長と小町のお兄さん……ほほお、なるほどなるほど」
小町の隣にいる俺達二人に気付くとその生徒はなにやら思案顔になった。少し考えた後ににやりと小さく笑う。なんなのん? 何か企んでるのん?
「小町ちょっとこっち! あ、会長さんも!」
「え?」
「ふぇ?」
「あ、比企谷先輩はここで待ってて下さい!」
「お、おう……」
目の前で扉が閉められました。ハブられてしまった。いじめかな?
扉の奥から小町やいろはのか細い悲鳴とか布ずれの音とかいろいろ聞こえてくるんだけど。一体何が行われているというんだ。ごめん二人とも、お兄ちゃん助けに行けないよ。
「比企谷先輩、入ってきていいですよー」
不審者と思われないように入口の近くでぼーっとしていると、さっきの生徒がひょこっと顔を出してきた。
「失礼しま……す?」
恐る恐る中に入ると、目に入るひらひら。カラフルで超ひらひら。
「お、お兄ちゃん……」
「あ、あんまり見ないで下さいよ……恥ずかしいです……」
かわいらしいウェイトレス姿に身を包んだ小町といろはが恥ずかしそうにスカートの裾を掴んでいた。そういえば小町のクラスは喫茶店だったか。白いおそろいのブラウスに小町はオレンジ、いろははブルーのスカートだ。
ていうか、この制服って……。
去年、材木座から読ませてきた小説で文章だと服のデザインが分からなかったので一度聞いたことがあった。その時見せられた元祖萌え系制服のアンナミラーズの制服がこんなデザインではなかっただろうか? 胸を強調するデザインに思わず息を飲む。実は結構出るところが出ているいろははもちろんのこと、小町のものも控えめではあるがふくらみが強調されていて……けしからん。
「比企谷先輩、二人ともどうですか?」
にっこにっこにーしながら聞かれても困ります。いやマジで。ていうか、二人ともそんな心配そうな顔でこっち見ないで! かわいいから! 超かわいいから!
「いや、その……似合っててかわいいな……うん」
「ほんと!」
「ほんとですか!」
いや、うん。本当にかわいいからそんな太陽みたいな笑顔向けないで! かわいくて眩しくてヒッキーの理性がじわじわ溶けちゃうから!
「ああ、かわいいぞ。さすが俺のか……妹たちだな」
あぶねえ! 危うく「彼女」って言いそうになった。それ以前に公衆の面前で思いっきり抱きしめそうになったわ。なんて恐ろしい兵器が存在するんだ文化祭。
理性を総動員させて二人の頭をポンポンと撫でる。
「へへぇ……」
「ま、まあ、お兄ちゃんにかわいいって思われるならこういうのも着てみるものですねぇ」
うーん、かわいい。小町はふにゃんとふやけ顔になっているし、いろははなんだかんだ言いつつ俺の手に頭を擦りつけてくる。このまま今日一日撫でてても飽きないくらいかわいいな。むしろ撫で続けていいかな? だめ?
あれ? なんで周りの子たち数人倒れてるの? 集団食中毒だったら実行委員的にやばいんだけど。
「ごふっ……そ、そうだ! 小町、その格好のままいろんなとこ歩いて宣伝してきてよ!」
「え……マジで?」
小町困惑。たしかにこういう服って喫茶店っていう特殊な空間だから着れるんだろうな。ある意味外と隔絶された異空間だからでき、そのまま外に出るというのは非常に勇気のいることだろう。
「お願いだよ小町ぃ……あ、じゃあ会長さんも一緒にどうですか?」
「わ、私!?」
「ほら、二人なら恥ずかしくないみたいな? それに着替えてたら見て回る時間短くなっちゃいますし!」
蚊帳の外だと思っていたのにいきなり引きずり込まれて困惑気味のいろは。二人だからと言って恥ずかしくない訳はないと思うのだが……。むしろ現在進行形で恥ずかしがっているまである。
「お兄ちゃん、どうしましょう……?」
「いや、俺に振られても……」
ふむ、少し考えてみよう。小町がこの制服を着て外で宣伝をすれば、小町は俺と一緒に見て回りながらクラスに参加もできる。いろはも一緒なら宣伝効果マシマシで小町のクラス大勝利。女子生徒の言うとおり、いろはが着替えなければその分長く一緒に見て回れる。まさにwin-win。
一つ問題があるとすれば……。
「この二人の姿が見られる前に廊下の男子生徒の眼球をいかに抉り出すかだな」
「「や、それはない」」
え!? お兄ちゃんからすればめちゃくちゃ重要なんだよこれ!? 妹達のこんなかわいい姿を不特定多数の下卑た視線にさらすなんてそんなこと出来るわけないじゃない! けどそれってクラスの宣伝にならなくない? あれれー? おかしいぞー?
「いやまあ、それは冗談として(冗談じゃないけど)。お前らがやりたいならやってもいいと思うぞ?」
「うーん、クラスに関われるし、小町的にはやりたいとは思うんだけど……」
「やっぱりちょっと恥ずかしいんですよね……」
やはりここは男どもの眼球を機能停止させるしか……いや、だから冗談じゃないけど冗談だから白い目で見るのやめてね?
「じゃあほら、恥ずかしかったら俺の後ろにでも隠れればいいし、なんかあったらちゃんと守ってやるぞ?」
ぱっと顔を上げる二人。俺の言葉の意味を正しく理解すると、ふたたび太陽のように明るい笑顔になる。うーん天使。
「ちゃんとお兄ちゃんが守ってくれる?」
「ああ、むしろずっと守ってやるぞ」
「えへへぇ、じゃあやるぅ……」
「「「ごはっ」」」
なんかまた数人倒れたけど、この喫茶店本当に大丈夫? 営業停止する?
「ぐぷっ……じゃ、じゃあお願いします」
「お、おう……」
女子生徒も倒れる寸前みたいなんだけど。なんか必死に大丈夫アピールしてるしそっとしておくか。
「じゃあ行こ、お兄ちゃん!」
「早く行きましょうよ!」
「はいはい」
さっきとは一転してノリノリですね、この子たち。まあ、楽しそうだからいいんだけどさ。
その後も小町の喫茶店の宣伝をしながらぶらついていたのだが、行く先々で卒倒者が続出していた。俺たちは“いつもどおり”にしていただけなんだが、何かあったのだろうか。
***
「ふあぁ……すごい……」
小町が静かに呟く。その隣にいる俺やいろはも息を飲んでいた。
文化祭二日目。外部の人間も来るこの日が文化祭実行委員が最も忙しくなる日だ。俺たちは主にステージ関係の仕事に追われていたのだが、作業の手すら止まって思わず見入ってしまっていた。
暴力的なまでの管弦の音の放流。本当にアマチュアかと思うほど洗練された音響に聴覚は完全に支配される。
去年同様有志団体として参加した雪ノ下さんのオーケストラはすごかった。どこがどうすごかったとか、理屈がどうとかそんなことは関係ない。ただただ、すごいとしか言いようがなかったのだ。
演奏が終わると一拍を置いて割れんばかりの拍手が会場を埋めつくす。堂々とした振る舞いを見せる彼女はいつもの、誰もが憧れる雪ノ下陽乃だった。
「やっぱり凄いですね、はるさん先輩は」
「いろは……?」
いつもとは違ういろはの声の思わず振り向く。未だ声援にこたえる雪ノ下さんを見つめるその目は眩しいものを見るようで、それでいて諦めているようで。
この目を俺は知っている。去年まで、雪ノ下が向けていた目だ。思えば、雪ノ下陽乃という人間に一番近い性質を持っているは雪ノ下ではなく、いろはなのかもしれない。性質は違えど仮面を被り、人に好かれようとする。明らかな上位互換のその仮面に、いろはは憧れたのかもしれない。仮面を被りつつも万人から好かれるその姿に、嫉妬していたのかもしれない。
有志団体の申し込みに雪ノ下さんが来た時、いろはは一瞬逡巡した。きっとあれは、雪ノ下さんを自分の上位互換と認識して、近づかれることを忌避したのかもしれない。何かを指摘されることを恐れたのかもしれなかった。
「私は……ああはなれないんですね……」
「いろはさん……」
「…………」
思い出されるのは俺たちが家族になってすぐの学校。学校では今までと変わらないように仮面をかぶり続けていたいろは。もし、いろはが雪ノ下さんのような完璧な仮面を持っていたら、こいつはあんなに悩まなかったのだろうか。きっと悩まなかったのだろう。けれど、その仮面はきっと、俺たちの前でも決して外されることはなかった。俺たちが入りこむこともできなかった。
それは……いやだ……。
「別に、なれなくていいだろ?」
「え?」
だから反論する。誰のためでもなく、俺自身のために。
「いろははいろはだ、雪ノ下さんじゃない。いろはにはいろはの、小町には小町のいいところがある。どんなに似ている人間だって、他人だ。絶対に違うところがある」
同じ人間なんていない。人は千差万別だ。それぞれに長所があり、短所がある。誰からも嫌われない人間はいないし、誰からも好かれない人間もいない。それぞれの生き方が正しく、輝かしいのだ。
「それに、その、俺は誰でもないお前たちが好き、だから……」
「……ふふ、ありがとうございます、お兄ちゃん」
「別に。お前のためじゃないし……」
これはただ自分のための発言だ。俺が好きなのは今のいろはや小町なのだ。だからこれは、変わってほしくないというただの我が儘に過ぎない。
そっぽを向くと二つのぬくもりがくっついてきた。二人に優しく抱きつかれる。
「もう、お兄ちゃんはほんと捻デレだよ」
「そこがお兄ちゃんらしいですけどねえ」
「……うっせ」
顔が熱くなるのを自覚しながら、それぞれの腰に回した腕に力を込めた。
「比企谷くーん。どうだっゴパッ!?」
舞台袖には入ってきた雪ノ下さんが普段聞かない音を発したんだけど大丈夫だろうか?
「ほらいろは、エンディングの挨拶が残ってるぞ。お前がお前なりに盛り上げた文化祭。しっかり締めくくってこいよ」
「はい!」
エンディングの準備が整おうと、いろははパタパタと駆けていく。兄として、恋人として、少しは妹の役に立てただろうか。立てているといいな。
「比企谷君……無視はひどくないかな?」
「あれ? 雪ノ下さんまだいたんですか? 俺、妹の晴れ舞台をしっかり脳に焼き付けておかないといけないんですけど」
「…………」
ん? なんか空気が割れたように錯覚したぞ? 変な錯覚もあったもんだ。あれ? 小町ちゃん、なんで「やっちまったな」みたいな顔してんの? なんで雪ノ下さんは満面の笑みで青筋立ててんの?
「ひ・き・が・や・く・ん?」
「は、はいっ!」
この後エンディング中ずっと説教されました。戻ってきたいろはにもしょうがないものを見るような目で見られました。泣きたい。
ウェイトレス姿の妹たちを妄想しただけー( ゚д゚)
はるのんの妨害とか試練的なのも書いてみたいけど私の発想力だとむつかしくてかけまーせん!
だから、ギャグ要因になってもらった
すまんなはるのん