※この作品はR-18です。

比企谷兄妹の甘い日常   作:暁英琉

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葉山隼人はライバルである

 妹たちの献身的な介護もあって、あれだけひどかった風邪も二日で回復した。一応断っておくが献身的介護に性的な意味は少ししか含まれていない。

 で、しばらくは平穏無事の平常運転で学校生活を過ごしていたある日、その日は、その日の体育は少し勝手が違った。今の時期の選択はサッカーとテニスで俺はいつも通りテニスを選択していて、今日も今日とて壁打ちするか! 壁打ち超楽しい! ……と思っていたのだが。

「や、比企谷君。一緒に打たないか?」

「…………は?」

 今年も学年、いや学校の帝王葉山隼人からなぜかペアのご使命を受けた。お前戸部はどうしたんだよハヤトベで組んどけって、海老名さん喜ぶから。

「たまには壁じゃなくて人を相手にするのも悪くないだろ?」

「いや悪い」

 いや実際壁のほうがいい。しゃべらないし、素直に返してくるし。人相手とか面倒くさいことこの上ない。

「つうか、なんか最近俺に関わること多くね? なんなの? 俺のこと好きなの?」

「んー、興味はあるかな?」

 自分でふっといてあれだけど、そういう言い方やめて! なんか体育館の方から愚腐腐腐腐……とか聞こえてきそうだから。

 実際、最近の俺と葉山は割とよく話す。と言っても、たいていは葉山が一方的に話しかけてくるのだが。俺は「なるほど」「すごいな」「悪いのは君じゃない」しか返さない、嘘です「ああ」とか「そうか」ぐらいでしか返しません。こいつは何がしたいのだろうか? お互い嫌い宣言をした俺たちが会話を交えたところでマジで海老名さんくらいしか喜ばないと思う。

「妹分のお兄さんに興味持つことは普通だろう?」

 ああ、なるほど。

 要は自分のことを慕ってくれていたいろはが溺愛する兄である俺を、こいつはもう一度見定めたいのだ。まあ、実際いろははクリスマスの時に葉山に告白しているし、そんないろはが教室でもどこでも俺にべったりなので気になってしまうのだ。葉山にとっては部活の後輩でもあるからな。あの告白の後のモノレールでいろは自身が言った「布石」がある意味結実していた。

 まあ、それだけいろはが愛されていると思えば悪い気はしない。しかし……。

「お前にお兄さんって言われると虫唾が走るわ。人の妹を妹分とか言わないでもらえませんかね」

 全体的にいい気はしない。お兄さんなんて言われると川崎大志を思い出してイライラするし、“分”とはいえ兄の前で兄貴然とされるとビッキビキに青筋が立つ。

「じゃあ、テニスで勝負しようじゃないか。俺が勝ったらいろはを妹分と思っていてもいい。比企谷君が勝ったら俺はいろはをもう妹分なんて言わないし思わないよ」

 さあどうする、と葉山は最近見せる意地の悪い笑みを浮かべる。まったくもって安い挑発である。しかし、残念なことにこの安い挑発を無視することはできない。無視すればいろはが葉山の妹分であるということを暗に公認することになり、そんなことはお兄ちゃんとして許してはおけないのだ。

「はあ、いいぜ。受けて立つさ」

「ああ、よろしくな」

 そんなこんなでなし崩し的に俺対葉山のテニス対決が開始された。自分の都合で三面しかないテニスコートの一面を使わせてもらうなんて葉山マジ帝王。当然俺はアウェー感マシマシだが、もともと俺のホームなんて家くらいしかないから関係なかった。あれ、おかしいな。なんか視界がぼやけてきたぞ? まさか葉山、俺の五感を奪う気じゃないだろうか?

 三セット先取のテニス対決は葉山のサーブから始まる。まあ、こいつがいくら万能超人だからと言っても本業はサッカー部だ。去年やったテニス対決でも確かにうまかったがあくまで素人としては程度で――。

 

 ――――ッ!!

 

 バシュッと、俺のすぐ横を風が凪いだ。振り返るとポン、ポン、とバウンドを繰り返すボールが一つ。

 見えなかったわけではない。しかし、去年の情報を参考にして構えていたため予想以上の球速に反応できなかったのだ。こいつ……まさか……。

「去年は本気だしてなかったな、てめえ……」

「さあ、それはどうだろ?」

 相変わらず意地の悪い笑みは崩れない。雪ノ下もそうだが、こいつもこいつで相当な負けず嫌いだ。本当に、厄介な奴らに絡まれてしまった。超人的スペックで負けず嫌いとか凡人に対するあてつけでしょうか?

 しかし、そこでおとなしく負けてやるほど俺も諦めがいいわけではない。むしろ諦めは悪いのだ、大切なものを話したくないときは特に。

 再び葉山がサーブを放つ。確かに球速は速いが、一度見て構えておけば反応できない速度ではないのだ。去年戸塚の練習に付き合ったときを思い出し、フォームを崩さずに打ち返す。そこからはお互い散らしつつラリーが続いた。

 あくまで素人の俺は奇をてらう必要はない。あくまで基本に忠実に打ち返す。ジャンプのテニヌじゃなくてサンデーの見上げてごらん派でよかったと思った。あれも最終的にアホみたいなスペックがバンバン登場したけどまだ現実的だったし。

「あっ……くそっ!」

 左に体が寄ったタイミングを見計らって葉山が右の手前に落としてきた。こいつ本当にサッカー部かよと思うほど的確な攻めだ。

 葉山は明らかにポイントを確信していた。あいつの目はすでに次のポイントを見ているようだった。しかし、俺はまったく諦めていない。全力で最短距離を走り込み、ボールに飛びつく。かろうじてラケットに当たったボールはやり返すように葉山コートの手前に落ちた。

「なっ……」

「おおお!! この試合すごいっしょ! テニス部同士でやってるみたいじゃん!」

 驚愕の表情を上げる葉山。戸部を含めギャラリーのテンションも上がっている。まあ、戸部は言いすぎだけどな。テニス部ならもっと打ち分けるだろうし、あくまで素人に少し毛が生えた程度の試合だ。

「君も去年は手を抜いてたんじゃないか」

 さすがの葉山も表情を引きつらせる。こいつのこんな表情はなかなか拝めないのでニヒルに笑って応戦してやる。

「別に、去年は去年で全力だったさ」

こうして対人戦をしてわかったことがある。ここ二か月近くほぼ毎日走るようになって、明らかに持久力と瞬発力が上がっている。去年よりも数歩遠くまでカバーできるし、息切れもそこまでひどくならない。テニス部部長の戸塚が認めたフォームの良さに体力とダッシュ力がつけば、おのずと守備範囲が広がって攻撃の機会も増える。

 いつの間にかアウェー感はなくなっていた。一進一退の攻防にギャラリーも息を飲む。ところでみんなテニスしなくていいんですかね。先生何も言わないしいいか。

 デュースを挟んで二対二。タイブレークは採用していないのでこのセットを取った方が勝ちになる。さすが葉山というべきか、これだけ地力を上げても追いすがるのが精いっぱいだ。しかし、葉山の顔にも試合開始時のような余裕は見られない。

 サーブ権を持つ葉山がボールを高々と放って――。

 

 ――キーンコーンカーンコーン。

 

「「あ……」」

 ボールはそのまま地面に落ちる。授業終了のチャイム、つまり試合のタイムアップだ。

「引き分けか……」

「そうだな」

 二人して息をつく。こんなに全力になった体育は初めてかもしれない。着替えるために教室に戻ろうとして……周りを囲まれた。

 なに? なんなの? 葉山と引き分けたからリンチにあうの? なにこの学校怖い! てか、それなら葉山に勝ってもどのみちリンチにあって俺デメリットあるじゃん! なんて不公平な勝負だ! さすが葉山汚い。

 と内心悪態をついていたのだが。

「いやー、ヒキタニ君マジすごいっしょ。隼人君とあんなにやりあえるなんて、なんでいつも壁打ちしてるんだよー! 隠すなんて水臭いっしょ!」

「え……?」

 戸部に肩を叩かれる。思いっきり叩かれたので痛いがリンチではない模様。戸部に続いて大和や大……大……童貞風見鶏、名前もよく覚えていないクラスメイトも声をかけてくる。あのすみません、ほんとにあなた誰でしたっけ? わからないから「お、おう……」とかしか返せないんですよ。しかし、戸塚に「八幡すごいよ! 僕、八幡のこと尊敬しちゃう!」と言われた時にはちゃんと紳士的に誠実に対応できた。俺えらい!

「大人気だな、比企谷君」

「誰のせいだと思ってやがる……」

 まだ多少息は上がっているがいつものさわやかスマイルに戻った葉山が話しかけてきた。ほんとこいつのせいで余計な体力を使ってしまった。

「いや、俺も本当は勝つ気満々だったんだけどな。まさか比企谷君があそこまでやるとは予想外だったよ。やっぱりいろはが慕うだけのことはある」

 葉山の言葉は本音だろう。きっと去年の俺ならボロボロに負けていた。これが、あいつらのために努力している結果なのだと思うと、少しうれしい。その結果が実感につながり、俺の自信の一つになる。自信は俺のやり方は間違っていないという自負に繋がり、もっと上に行きたいという向上心をかきたてた。

「今回は引き分けだったけど、次は勝たせてもらうよ。やっぱり君には負けたくない」

 こいつのことだ、最近の俺の変化に気づいて、しかしそれを表に出そうとしない俺を煽りたてるために今回の勝負を持ちかけたのかもしれない。そもそも葉山グループの三人がいるのに俺と組んで、あまつさえ試合までするというのはおかしい。深読みのしすぎかもしれないが、こいつならありえないことではなかった。

 まあ、負けたくないという言葉に嘘はないんだろうけど。もし俺が負けてたらメンタル潰れてた可能性もあったと思うんですが、ひょっとして俺のメンタルは強いだろっていう信頼かな? そんな信頼いらないわ、やっぱ世の中って苦い。MAXコーヒー飲みたい。

 けど、負けなかった。勝ちもしなかったけど、きっと負けていたあいつに負けなかった。だから……。

「ああ、俺もだ」

 だから俺も、こいつには負けたくない。

 俺はその日、葉山隼人を明確な目標、ライバルと定めたのだ。

 




妹がいない!?

以降の布石として葉山と絡ませる(健全な意味で)必要があったので一年ぶりにテニスをしてもらいました

ちなみに私のテニス知識はテニプリと見上げてごらんではぐくまれています
テニプリだけだったら修造とかは波動球連発してるものだと思っちゃうね

テニスをしたことは1回だけありますが、球を打つとへろへろな上に打ちたいコースから45度ほど外れて飛んでいって全然面白くありませんでした。やテ糞(テニスに対する熱い風評被害


そういえば、ある日妹が増えましてシリーズが韓国語翻訳されて韓国サイトにアップされてるらしいよ(了承済み)
他国の人にも読んでもらえるとは思っていなかったので震えが止まりません
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