※この作品はR-18です。

東方被嗜虐   作:Apfelbaum

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こういう展開からのイチャラブがあってもいいと思う


人形師の嫉妬 その3

「……これにて物語は終わり。めでたしめでたし」

 

 終幕を告げる声で、人形劇師アリス・マーガトロイドによる演目「桃太郎」は誰もが知っているエンディングを迎えた。登場した人形たちが一斉に舞台に現れると、見ていた子どもたちがわっと湧き上がる。主人公の桃太郎、お供の犬に雉、そして猿。おじいさんにおばあさん、敵役の鬼までずらりと並び、まるで本物の俳優のようにそれぞれがお辞儀をした。

 人形たちが舞台袖へと消えて行くと、子どもたちは我先にとアリスの元に駆け寄っていく。アリスは人形劇を終えると、彼らの人形や玩具を修理してあげていた。そして今日もいつも通り、綿の飛び出てしまったクマのぬいぐるみや、動かなくなってしまった玩具を手早く直していく。彼女の手に掛かればまるで糸も針も踊るようで、子どもたちの中では密かに人気の瞬間だった。 

 

「凄いよなぁ…」

 

 少し離れていたところから見ていた数人はぼそりと呟く。アリスは上白沢慧音に招待されて、週一で寺子屋で劇を演じている。数人は今日で彼女の人形劇を8回見たことになるが、何度見ても彼女の凄さをひしひしと感じさせられていた。

 アリスは職人気質だ。子どもたちの前で演目を行う時、彼女は必ず守っていることがある。それは「魔法」を感じさせないことだ。人形たちを操る時、アリスは必ず手板を通して操作する。割られた桃から赤子が飛び上がるシーンも、鬼ヶ島で鬼たちと戦うシーンも、エンディングを迎えて全ての人形たちが舞台に上がるその瞬間まで、彼女は魔法を一切使わずに桃太郎を演じてみせた。子どもたちに楽しんでもらうのは人形劇であって、魔法ではないという彼女のなりの考えからだった。

 

「ここをこう上げて、で、ここを緩ませると……」

 

 数人はアリスから貰った手板をもぞもぞと動かす。すると糸に吊られた上海人形が恐る恐る右手を上げ、左手を垂らした。

 

「んで、こっちの手板を揺らすと……?」

 

 数人としては元気よく右手を振る様を演じさせたかったが、どちらかというとそれは右手を固定されて身体を揺らされる、まるで吊革を握った人のような動きに近かった。

 上海人形から糸を外し、胸ポケットに優しくしまい込む。そろそろ修理が終わる頃だ。

 視線をアリスの方に戻すと、彼女は既に帰る準備を済ませていた。この後はいつも通り慧音先生に挨拶をして、そして人里の方で買い物をする予定になっている。

 

「今日もお疲れ様、アリス」

「ええ、ありがとう。どう?、少しは上手くなった?」

「うん?、まぁ、まぁ、そこそこ」

「ウフフ、そう。それなら良かったわ」

「…今日はさ、八百屋のおっちゃんが野菜を安くしてくれるそうだよ。見た目が悪いからって」

「白菜とかあれば、お鍋にするのも良いわね」

「最近冷えてきたからねぇ…。鍋良いなぁ」

「でしょう?」

「うん」

 

 数人が幻想郷に来て、早くも2ヶ月が経っていた。数人の視界に映る遠くの山、ちょうど魔法の森の奥にある山は早くも色づき始めている。幻想郷の紅葉狩りはさぞかし綺麗だろう。数人は心を躍らせた。

 

「栗拾いとか楽しいわよ」

「良いね栗拾い。松茸とかも採れるの?」

「もちろん採れるわよ。七輪で焼くと美味しいわ」

「良いなぁ…」

 

 取り留めのない話に花が咲く。あの時と比べて、数人はアリスと気兼ねなく喋れるようになっていた。

 幻想郷に迷い込んでしまった人間は保護された場合、ほとんどが人里で時間を過ごし、そして管理人である八雲紫によって外界に戻されている。しかし数人は未だアリスの下で生活をしていた。ベッドこそ別々だが、食事は2人で取り、基本的にアリスの予定に数人は付き添う形で付いて回っている。彼氏彼女という訳でもない不思議な関係は、あの時、数人が全てをアリスに告白した時から始まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全てを告白し切る頃には、数人は大粒の涙を溢れさせていた。

 あまりにも情けなくて、恥ずかしくて、悲しくて、止まらない嗚咽に腹が立つ。もっと謝りたいのに、口は麻痺したように上手く動かない。アリスはどんな顔をしているだろう。自分のことをどう思っただろう。助けた人間が屑だと知って、どんな顔をしているだろう。

 コトリと目の前で音が鳴る。視界がぼやけて見えないが、机に何かが置かれた音だ。

 

「そんなに泣かないの。これ飲んで落ち着きなさい」

「…はぃ」

 

 右手にタオルの感触が突然現れる。それで両目を乱暴に拭うと、湯気立つカップを手に取った。

 

「んく、ずず」

「砂糖を多めに入れておいたの。どうかしら」

 

 熱い紅茶を冷ましながらゆっくり口の中に含んでいくと、芳しい茶葉の香りが心を落ち着かせる。大量に零れ落ちた涙が体温を下げていたようで、喉奥へと紅茶が流れていくとその感覚が温度で感じられた。

 甘くて美味しい紅茶だ。数人は無言でカップを傾け続ける。

 

「おいし、かった、です」

「まだおかわりはあるから、ゆっくり飲みなさい」

「はい」

 

 アリスの周りに上海人形も蓬莱人形もいない。彼女はただ1人で数人と向き合っている。

 机を照らす蝋燭が、ゆらゆらと揺れている。

 

「…それで」

「はぃ。その、お世話になり、ました」

「そうじゃないでしょう。聞きたいことがあるの」

「き、聞きたいこと、ですか」

 

 思わず吃ってしまう数人にアリスは優しく微笑む。彼女の言う聞きたいこととは、当然自分が話したアレやソレだろう。説明したところで理解を得られる自信がない。

 

「別に数人がどうやってここに来ただとか、どうして私の名前を知っているのだとか、そういうのはどうでも良いのよ。…まぁそれも知りたいと言えば知りたいけれど、それじゃないの」

「はぁ…」

「どうやって私を犯すつもりだったの?」

「は、え?」

「数人は私以外に、例えばパチュリーや魔理沙を犯すつもりでここに来たんでしょう?、……具体的にどうするつもりだったのよ」

「え、ぁ、いや、その」

 

 予想外の質問に数人は面食らう。彼女の顔色を伺うが、特に怒っている様子は無い。彼女はただ本当に興味本位で質問したらしい。

 

(ど、どう、答えよう…。同人誌的な、そういうアレ、かな…?)

 

 東方の陵辱系同人誌に限った話では無いが、大概そういう展開に至るにはそういう便利アイテムか、お決まりの方法が描かれる。便利アイテムで言えば霊夢謹製魔封じの札や永琳印の強力媚薬などがあり、方法で言えば人質を取るとか、催眠術を使うとかがある。ちょっと違う展開で言えば、そもそも性知識が無いだとか、そういうのもある。

 数人はそうして思い付くまま口を開いた。

 

「た、例えば、ですけど…」

「ええ」

 

 アリスは楽しげだ。

 

「八意永琳ているじゃないですか」

「彼女のことも知ってるのね。……もしかして、彼女にそういう薬を作ってもらうとか、かしら」

「そう、ですかね」

 

 アリスは期待外れと言った顔をした後、大きな溜息を吐き出した。

 

「そもそもよ。永琳がそんな媚薬みたいなの作ると思うかしら。よしんば作ったとしても、そんな危険な薬をアナタに渡す訳がないでしょう。そして何らかの形で手に入れたとして、どうやって私に飲ませるのよ」

「そ、いや、はい。…その、紅茶を、作る時、とかですか」

「他には方法無いの?」

「…ほ、他、は、その…霊夢に御札を書いて、もらう、とか」

「だから、どうやってよ」

 

 何故自分は叱られているのだろう。まさかその部分で怒られるとは全く思っていなかった。

 気を紛らわせようとカップを口に近付けると、紅茶は既に冷めてしまっていた。

 

「幻想郷の住人を舐めすぎでしょう。…それにね」

 

 彼女の右手がゆっくりと開かれ、掌を数人に見せ付ける。そしてわざとらしく人差し指を折り立てると、数人の身体は勝手に立ち上がってしまった。

 

「ぇ、ぁ」

「七色の人形遣いたる私が、ただの人間に負けるはずが無いの」

 

 糸で吊られた人形と違い、身体の動きに自由はない。指先の先までが石になってしまったかのようだ。

 

「仮にあの森で他の妖怪に会ったりでもしたらどうするつもりだったの。しかもあそこは風見幽香のテリトリーに近い場所でもあったのよ」

 

 小指もゆっくりと折り曲げられていく。すると数人の足は勝手に動き出し、机に沿って歩き出す。

 

「ご、ごめんなさ、ぃ」

 

 アリスの視線は目の前のポットに向いている。つまり、数人1人操ることなど造作も無いというアピールなのだ。

 数人の背中に冷や汗が流れ始める。自分は危機感が無さ過ぎた。彼女の言う通り、幻想郷を舐めていたのだ。

 彼女の真横にまで来てしまうと、数人の顔は真っ青になった。ついさっきまで優しくしてくれていた彼女が余りにも恐ろしい。

 

「…本来ならね、人里に行ってもらうつもりだったけれど。貴方みたいな危険人物を放逐する訳にはいかなくなったわ。どうなるか、分かるかしら」

「わ、分からない、です」

 

 先程まで単純な動きをしていた右手が、ゆっくりとしかし複雑に動き出す。妖しさすら感じさせるその動きで、数人の身体はより細かく操られる。

 

「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!」

「どう謝られようが私の考えは変わらないわ」

「すみませんでしたっ、許し、ゆる……、あれ」

 

 数人の右手はポットを持っていた。そしてアリスのティーカップにやたら優雅な手つきで紅茶を注いでいく。シュガーポットから角砂糖を1つ掴むと、トポンと入れて、スプーンで混ぜた。

 

「男の子に紅茶を淹れてもらうのも悪くないわね」

「えぁ、あれ。ん?」

 

 ニコリと彼女は笑い、カップを口に付ける。

 

「ここにいなさい」

「はい?」

「私が拾ったんだもの。最後まで責任を取らないとね」

 

(拾ったって犬じゃないんだから)

 

「何かしら?」

「何でもないです」

「…まぁ、言い方を変えると、数人を監視するということよ」

「だからここにいなさい、ということですか」

「そうよ。そして明日から私の仕事を手伝ってもらうから、今日はもう早く寝なさいな」

 

 いつの間にか身体の拘束が解かれている。操られている時のあの異様な重い感覚はもう無くなっていた。

 数人はとりあえず椅子に座り直すと、すっかり冷えた紅茶を飲み干した。そして深くアリスに向けて頭を下げる。

 

「すいません。これからよろしくお願いします」

「こちらこそ」

「そしておやすみなさい。アリス」

「ええ、おやすみ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう思う?」

「羨ましいぜ。私も小間使いが欲しいとこだったんだ。ちょっと貸してくれよ」

「駄目に決まってるでしょ」

「最近材料も切らしてるんだ。1日でいいからさ」

「尚更駄目よ」

「じゃぁ何でそんな話を私達にしたんだ。自慢か」

「自慢よ」

「流石魔女だぜ。なぁパチュリー」

「小悪魔は貸さないわよ」

「みんなケチだ。ケチな魔女しかここにはいないな」

 

 霧雨魔理沙はテーブルの山積みになったスコーンを乱暴に掴み、むしゃむしゃと頬張る。

 アリス・マーガトロイドと霧雨魔理沙、そしてパチュリー・ノーレッジの定例お茶会は偶然にも数人が全てを告白したその直後に開催の予定が立っていた。

 

「へぇ~アリスさん人間の男の子を拾ったんですねぇ。…良いなぁ」

「小悪魔。こないだ人里で遊んできたんじゃないの」

「嫌ですねぇパチュリー様。数人さんはそういうつもりで幻想郷に来たそうじゃないですか。であればそれに応えて差し上げたいなと思うのですよ」

「だってよアリス。小悪魔は数人の童貞を狙ってるぞ」

「来たら殺すわよ」

「怖いですねぇ。冗談ですよぉ」

 

 パチュリーの隣に立つ小悪魔はそう言ってフフフと笑う。冗談じゃないのは誰が見ても一目瞭然だった。

 

「今数人は寝てるのか」

「だと思うわよ。部屋も用意したし」

「良いですねぇ可愛い男の子と同棲。ああぁ羨ましいですねぇ…」

「ねぇパチュリー。小悪魔どうかしちゃったの?」

「これが小悪魔の本性よ。知らなかったの?」

 

 ナニを妄想しているのか、妖艶にくねくねと腰をゆらす小悪魔。それを魔理沙とアリスは呆れた表情で見ていた。

 

「その内連れては来るわよ。顔見せ程度にはね」

「曲がりなりにも私達を陵辱したくてここに来た奴なんだ。会ってみたくない訳がないな」

「そうね。彼にも計画らしいものはあったんでしょう?、是非聞いてみたいものだわ」

「うふふ、うふふふっ。そう、その計画ね。とっても面白いわよ」

 

 数人の余りに杜撰な計画を思い出して、アリスは肩を震わせた。あの計画で私達に勝てると本気で思って幻想郷に来た。それがとても馬鹿らしくて、一周回って愛おしい。木っ端妖怪が歯向かってくるのとは違う。小動物が牙を剥くような、そういう可愛さがあるのだ。

 だからだろう。アリスの顔は思わず緩んでしまっていた。

 

「…初めて見たぜ。アリスのそんな顔」

「珍しいものが見れたわ」

 

 刺激の少ない幻想郷において、外来人は貴重だ。幻想郷に迷い込んだ人間は大概外に戻りたがる。人非ずに出会うだけで怯え、恐怖し、人里に篭ってしまう。そうした存在が多い中、どういう理由であれ妖魔に興味を持ち、近付いてくる数人のような人間は大変好まれる。人食い妖怪達の中でさえ、そういうのはしばらく喰わないこと、という暗黙のルールがあるほどには好まれる。

 

「良いですねぇ…。私もそういうのしてみたいです。パチュリー様」

「じゃぁ何か召喚してみるかしら」

「お前こないだ変な子鬼呼んでたろ」

「…あれは材料にしかならなかったわねぇ」

「そうですねぇ。大して長持ちもしませんでしたし、面白くありませんでした」

「ここは恐ろしい館だぜホント」

 

 アリスは人形の瞳と自分の瞳をリンクさせる魔法を使い、数人の部屋の様子を探る。ベッドの上に黒い塊が見えて、多分ソレは彼の後頭部だろうと推測した。聴覚もリンクさせると規則正しい寝息も聞こえる。アレだけ泣いたのだから、どっと疲れてしまったのかもしれない。

 

(我ながら幸運ね。こんな素敵な拾い物が出来るなんて思いもしなかったわ)

 

 普段よりも森が騒がしい気がして、気配のする方に行ったのは大正解だった。今更人里に送るなど考えられないし、勿論誰かに貸すなど有り得ない。明日から始まる彼との生活は刺激的なものになるに決っている。

 目の前で5つ目のスコーンを頬張る魔理沙を見る。遠くから仕入れたらしい魔法書を気怠そうに読むパチュリーを見る。

 

(私だけが楽しみを手に入れた)

 

 明日から何をしよう。何を数人とやろう。

 再び笑みを浮かべるアリスを魔法使いと魔女は恨めしそうに見るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アリスは実は球体関節人形だ、とかそういう説があったりなかったり
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