※この作品はR-18です。

東方被嗜虐   作:Apfelbaum

79 / 92
第71話です

いつもの2分け構成の投稿という
申し訳ないです

-あらすじ-
布都は数人との間に出来てしまった溝をキスで埋めた
溝が無くなっても尚、2人はずっとキスを続けていた


初めての、殴り合い その1

 諏訪大戦と呼ばれた神同士の戦いは、その戦場となった草原に大きな爪痕を残した。

 諏訪子が最後に放った大技であるマグマ噴火は圧倒的な熱量でもって辺りの草木を燃やし尽くし、神奈子がトドメに放った超局所的竜巻は驚異的な暴風で地面すらも捲り削った。

 戦場は諏訪大社の東にある山、数人と諏訪子が出会ったあの山の隣だったのだが、そこだけまるで10円ハゲのように、黒く焼き固められたグラウンドになってしまっていた。空から見下ろせば青々とした草原の中に、そこだけが黒い丸を描いていて、300年以上経った今でも尚、雑草の1本も生えていない。

 神力が未だ強く土地にこびり付いていて、それがまだ1人の力であったら良かったものの、2人の力が混じり合ってしまっているものだから、当の神たちですら改善に苦心していた。

 そんな黒き土地に、2人の人影が対峙している。

 片方は赫き鬼、紅赫。大陸から海を渡って来た鬼である。

 そしてもう片方は月人、蓬莱山輝夜。姫という位置でも第一に当たる、最も貴き姫君である。

 

「輝夜の実力ねぇ…」

「まぁ頑丈なのは知っているがなぁ」

 

 相対する2人を横から見ているのは諏訪子と神奈子だ。

 まさかこの土地、村からは聖域と呼ばれているここを再び戦いの場にするとは思っていなかった。

 神力以外に妖力などが混じってしまえば一層元に戻すのは困難になるだろう。最早戻すのは諦めて、誰もが立ち入らないように結界を張った方が手っ取り早いのではないか。

 神奈子は確かめるように硬くなった地面を踏み締めて、諏訪子は地面にしゃがみ込んで地表を触った。

 神たちの意識はどちらかと言うと、目の前の2人よりもこの土地の戻し方に向いている。

 

「赤鬼、死んだら遺骨は砕いて海に巻いてやるぞ。安心して散るが良い」

「月人の実力…、大変興味深いですわ。赤、応援しているわね」

 

 そして神たちのいる場所とは反対側に、八雲紫と天嵐がいた。

 紫は紫色の日除け傘を差してお淑やかに立っている。一方、天嵐は空気を圧縮させた見えない椅子に腰掛けていた。

 漂う神力に一切の影響を見せないのは、2人が妖怪の中でも最大級に強い証である。

 

「応援されてるわね」

「まぁ紫も貴方の力が見たいだけでしょう。……あの馬鹿は後で殴りますが」

「随分短気な鬼さんねぇ…」

 

 輝夜はくすくすと笑った。

 

(名は体を表すとは良く言ったものね。面白いわ)

 

 目の前の鬼の名前には赤という字が2つ、そして赤という意味をなす字が使われており、名の通り着ている服も頭髪も額の小さな一本角も真っ赤だ。彼女の肌だけは雪のように白いのだが、彼女は天嵐の言葉を受けて怒ったのだろう。ほんのり赤みを帯び始めている。

 

(赫という字の如くこの鬼は怒りっぽいのね)

 

 赫怒という言葉がある。意味は激怒であり、憤激である。

 ふと輝夜は永琳が怒った時のことを思い出した。あれは怖かった。ほんの悪戯心で永琳の研究室に忍び込み、適当な薬品を混ぜ合わせて遊んだのだ。あの時は人生の中でも、特に退屈を感じて荒んでしまっていた時期だったから、薬品に対する危機感なぞ有りはしなかった。兎に角面白ければ何でもいい、と考えていた自分に対して、あらゆる言い訳を封じて尚、「どうしてこんな事をしたんですか?」と無表情で迫ってくる彼女を思い出すと今でも身震いがする。

 永琳ラブな依姫でも仮に怒られたら泣き出してしまうのではないだろうか。

 

「何他のことを考えているんですか。私を指名したのは貴方でしょう」

 

 紅赫が輝夜をギッと睨み付けた。

 肌の赤らみが少し濃くなった。

 怒りの矛先は輝夜にも向いている。

 

「貴方は背が小さい私を舐めているのでしょうが、元いた大陸では私が最も強かったのです」

「あらそう。じゃぁ2番目に強いのはネズミかしら」

「…貴方も殴ることにしました。私の畏れを叩き込んであげます」

 

 鬼の身体から白みが無くなった。

 全てが赤となった彼女の身体から、まるで陽炎のような闘気が揺らいでいる。

 輝夜は内心笑いだしたくなるほど、今の状況を楽しんでいた。永琳以外に、自分に説教をくれた存在は数人しかいない。そして3人目は自分を殴るとまで言ってきている。この状況、楽しくない訳がない。

 相手からヒシヒシと殺意の圧力を感じる。月で最も高貴である自分を殴ろうと、赤鬼が息巻いている。

 ほんの少し。ほんの少しだけ輝夜の口元が歪んだ。

 当然ながら、紅赫はそれを目敏く見つけた。姫という存在に付き物な非常識さが、この女は一層強いと理解した上で益々怒りを漲らせた。

 

「私は強いから、頑張ってね」

「頑張るも何も、私の拳で殴殺するだけの話。簡単なことです」

「殴殺ですって。初めて言われたわ」

 

 どこまでも相手を舐めるような態度に紅赫は心の中で溜息を吐いた。

 

(この女は一度私の拳で教育をしてあげねばなりません。ですが、私の実力を計れない程愚かではないでしょう。それなりの実力を持っているからこそ、このような態度を取っているはず。…であるならば私も激怒(ほんき)で行くしかありません)

 

 紅赫は仁王立ちの姿勢を取った。

 身長が鈴瑚よりも小さいというのに、本人とは比較にならない程の怒気と闘気を発している。並々ならないそれは、正しくオーラとなって彼女越しの背景を歪ませた。

 対する輝夜も同じポーズを構えた。

 紅赫とは違ってオーラなどは一切醸し出していないが、逆にそれが輝夜の異様さを暗に示していた。

 地面の方に興味を示していた神たちも、紅赫を煽るように踏ん反り返っていた天嵐も気付けば2人に集中している。

 張り詰めた空気の中、八雲紫が声を響かせた。

 

「これより紅赫対蓬莱山輝夜の試合を始めます。見届人は洩矢神、八坂神、天嵐、そして八雲紫。両者共に悔いの無いよう存分に打ち合いなさい。……それでは、始めっ!」

 

 紫の号令と同時に、紅赫が右足を後ろに引き、腰を深く落とした。右腕を限界まで引き絞り、真紅の右拳に力を込める。

 しかしそれは輝夜も同じだった。まるで真似をするように、同じく腰を落とし、右腕に力を込めたのだ。

 

「…舐めた真似を」

「私やってみたかったのよ、これ」

 

 輝夜が思い描くのはクロスカウンター。

 試合の決着としてよく演出されるこの技を、輝夜は最初に決めにいった。

 

「その首吹き飛ばしてあげます」

 

 紅赫の右拳が赤色の一文字を描いて輝夜に殴り掛かる。

 

「せめて依姫の拳ぐらいの威力は出してね」

 

 輝夜の右拳が空気を切り裂き、振り袖を乱暴にはためかせながら、紅赫の頬に伸びていく。

 そして。

 

 バキィィィッ!!!

 

 戦場に強烈な打撃音を炸裂させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2人のクロスカウンターから丁度3時間前。

 輝夜は豊姫の能力によって久し振りに諏訪子の元へと訪れていた。これから起こるであろう諏訪子の反応に期待を寄せながら大社へと輝夜は歩みを進めていく。

 

「…というわけなんだよ。協力してもらえる?」

「随分と変わった神ですね。私たち妖かしにそのような話をするとは」

「私は反対なんだがな。諏訪子が決めてしまった以上は何も言えん」

「ほほほ。軍神八坂がそのような判断を下すとはな。余程その数人とやらに絆されたようじゃの」

「ふん言っていろ。どうせお前もこうなる」

「余の甘美なる肉体に触れて良いのは余のみ。たかだか人間風情に触らせてやるほど安くないわ」

「……豚のように膨らんだ身体の何処が甘美か」

「…何か言ったかの。痩せた餓鬼が」

「赤、天。今は大事な話の途中でしょ。喧嘩は止めて」

 

 本堂に近づくと輝夜の耳に彼女たちの話の一部が聞こえてきた。

 話の内容など推測するまでもないだろう。

 

(ごめんね諏訪子。私がその企みにちょっと手を加えさせて貰ったから)

 

 あの出来事について話したら諏訪子はどんな顔をするだろう。神奈子やハクはどんな反応をするだろう。

 これは数人に手を付けるのが早かった3人への意趣返しである。

 誰よりも早く数人に触れ合うという美味しい思いをした上で、周りに種をばら撒かせるような真似をするのは大罪と言っても良い。

 欲の種を撒くだけ撒いて、出来上がったものは自分たちだけで楽しもうというのはいくら何でも許されない。その考えはてゐも同じく思っているから、あの作戦に乗ってくれたのだ。

 より足を進めると、流石に気配で気付いたのか、神奈子が広間から出てきた。

 

「おお輝夜じゃないか。どうしたんだ?」

「ほら、数人を迎えに行くのは明日のはずでしょう」

「ああ」

「話したいことがあるの」

「ん…?」

 

 輝夜は真剣な表情を取り繕った。

 ここから演技は始まっている。そこにはいつもの飄々とした彼女はいない。

 輝夜は神奈子に連れられて広間に上がった。

 突然の訪問者に妖怪たちは少なからず驚いていて、それは諏訪子やハクも同じだった。

 

「あれ、輝夜じゃん。どした?」

「久し振り諏訪子。お腹の子はどう?」

「どうも何も…。ただまぁそろそろかなぁって」

「…そう」

 

 輝夜は諏訪子のお腹を見た。

 彼女の言う通りほんの少し膨らんでいる。あの膨らみの中に生命の奇跡があると思うと、羨ましくもあり、嬉しくもある。

 だが今その想いに浸る必要はない。

 今しなければならないのは演技だ。およそ永琳にも見せたことのない真剣な表情を作り、声のトーンを落として喋る。

 

「諏訪子。この人は何方(どなた)かしら」

 

 声を発したのは八雲紫だ。

 妖怪側からすれば話の途中でいきなり現れて、話の腰を折られてしまったのだから、気分は良くなかった。

 天嵐も紅赫も怪訝そうな視線を輝夜に向けている。

 そんな3人に輝夜は申し訳ないという気持ちを大いに込めて、頭を下げた。

 それに驚いたのは諏訪子含めた神たちと、それを上から見ている永琳たちだった。

 

(おいおい輝夜の奴どうしたっていうのさ)

(知らんぞ。いきなり現れたしな。どういった用事なのかも未だ聞かされていない)

(姫様…。そういうお姿をもっと他の場所で見せてくれれば良いのに…)

 

 輝夜の様子がおかしいことに気付いた諏訪子は、妖怪たちと輝夜の間をとりなすつもりで口を挟む。

 

「私の友人の蓬莱山輝夜だよ。月の姫様なんだよ?」

「月の?、…そうなのね」

「どういうことじゃ紫。まさか貴様の話は本当だったと?」

「そうみたいですよ天。彼女の気は今まで感じたことの無いものです」

 

 月という言葉に紫は強く興味を示し、それを追うように2人も反応した。どうやら妖怪たちの中で月に対して何か考えていることがあったらしい。

 そしてそれを裏付ける存在が目の前に訪れたことによって、紫の推測は確信へと変わったようだ。

 輝夜は頭を上げると、両者が向かい合う机の左端、諏訪子と紫の隣に座った。

 

「それで」

 

 神奈子が言う。

 

「輝夜、どうかしたのか?」

 

 それはその場にいる全員が気にしていたことだった。

 諏訪子側からしてみればまるで図ったようなタイミングでの登場に疑問を持たざるを得ず。

 紫側からしてみればどうして月の姫がわざわざ来ているのかが分からない。

 両者の疑問は鋭い視線となって、輝夜の表情に注がれる。

 

「あのね、数人のことについて話したいことがあってきたの。それは…」

 

 話の核に触れようと輝夜が口を開きかけた時だった。

 視線の中に異様に鋭い、正に刺し殺さんとするものを輝夜は感じ取った。それは思わず輝夜ですら一瞬怯ませる程の鋭利な視線だ。

 目だけでその元を探す。

 諏訪子や神奈子、ハクではない。ともすればこれは妖怪の視線だ。そう考えて妖怪側に瞳を向けて、目が合った。

 

(この鬼…、嘘に反応しているの?)

 

 そう気付いた途端、輝夜の頭の中から作戦のことなど吹っ飛んでいった。

 面白い。

 この鬼は嘘の気配に誰よりも早く気付いている。そしてそれを一切許容しないという絶対の矜持でもって自分を射抜いている。

 ならば、こうしよう。

 てゐたちには悪いけれど、筋書きを変える。それにこれなら彼女たちには火の粉は掛からない。

 輝夜は身体から力を抜いた。表情も強張りすら見せていたのを解くと、いつもの輝夜に戻して、言った。

 

「ごめんね諏訪子。数人ね、私が攫っちゃった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




平均5000字をキープしながら、投稿間隔を詰めようと思いまして、
また前編後編に分けて投稿しました

読ませる文章力があれば良いんですが、自分の文が2万字3万字も長々と続いてしまうと、どうしたってダレてしまいます

メリハリのある文章って何なんでしょう…
人数が多い会議とかの描写はどうしても文字が増えるんですが、それを気持ちよく読ませるのがとても難しいです
読者様の中で、そういう描写が上手な小説を知っている方が居ましたら是非教えて下さい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。