逆転世界『るかりり』 作:毛皮
フェイトさんとイチャラブしたかったから仕方ないね。
匿名だから妄想を吐露しても恥ずかしくない、って偉大なる先達が言ってました。匿名だから本人の評価は下がらない、イイネ?
もしも生まれ変わったら。なんて妄想をした事は無いだろうか?
僕もその例に漏れず、若かりし頃は幾度も妄想し、そしてその夢が夢である事を理解した。
正義の味方に憧れてみたり、誰かを守り抜く騎士を描いてみたり、誰もが羨む王子であったり。全ては夢で、そして妄想だった。
話を唐突に変えるのだけれど、僕は生まれ変わった。
何を言っているんだ、と思うかも知れない。けれど、僕は生まれ変わったのだ。いや、違う。決して変わってなどいない。僕は変わらず僕であるし、容姿も年齢も性別も変わっていない。
変わったのは、世界だ。
勘違いをしてもらっては困るのだけれど、剣と魔法のファンタジーな世界に変化した訳ではない。精神年齢的にオッサンである僕にはその幻想が眩しく……こう、心の奥底に密封したノートが捲られるというか、恥ずかしいというか、悪い意味で心がドキドキする。
実に平凡な世界だ。魔法も無ければ、剣も見ない。学校もあるし、空を見れば竜が飛んでる訳も無い。誰かを見ればエルフのように耳が尖っていもいないし、モンスター娘もそこらには居ない。
「おはようございます。父さん、母さん」
「ああ、おはよう」
「なんだ、今日は一人で起きれたのね」
クスクスと笑って僕を揶揄する母はスーツ姿。珈琲を飲みながら新聞を広げている。
そんな母に対して苦笑をしている父はエプロンを着用してフライパンとフライ返しを握っている。
テレビで流れているニュースでは『お天気お兄さん』とやらが今日の天気を予言し。母の持つ新聞の見出しには『トップアイドルグループの××が主演!』と書かれ、その近くの写真には、こう……控えめに言って「おいおい、幻想の国からオークが出てきてNASAにでも捕まったニュースか? それとも腐ったガンモドキの擬人化に成功したのか?」と言いたくなるような顔が映っている。ちなみに恐らく女。
テレビの場面が変化して「養豚場の映像かな?」と見間違うような人気トップ女性アイドルのニュースが流れている。
そのニュースに対してコメンテーターであるお笑い芸人が面白可笑しくコメントをしている。お笑い芸人の美しい女性が豚に「いやぁ、本当に綺麗ですねー」と言っているのは決して煽りではない。
頭痛を感じる。どうにか頭を抑えるのを耐えて、回りの情報を遮断して朝食にありつく。
「お前も高校生なんだからそろそろ料理の一つや二つ覚えたらどうだ?」
「考えておきます」
「まあまあ、父さん。花の男子高校生なんだからいいじゃない」
「そんな事言って……いざ婿に出す時に泣いても知らないぞ」
「ハッハッ、婿になんてやる訳ないわよ」
やっぱり頭痛がしてきた。
十七年もこの世界で生きているというのに、どうしても慣れない……。
母の役割が父に。父の役割が母に。お天気お姉さんがお兄さんに。
美しいが醜いに。醜いが美しいに。
嫁が婿に。婿が嫁に。
世界は変化してしまった。
学校に行くまでにある幾つかのコンビニ。飲み物を購入しようと適当に入ってペットボトルを手に取る。
18禁の本、所謂エロ本を横目で見れば男が水着姿で映っている。媚た様な笑顔を浮かべ、カメラ目線で……これ以上見るのはやめよう。
購入したペットボトルにタオルを巻いてカバンの中へと押し込む。
僕が学校に行くまでには満員電車に乗らなくてはいけない。
どの世界に置いても満員電車の辛さはそれほど変わらないけれど、僕にとっては楽しみだ。
男性専用車両と書かれた車両ではなく、一般車両に乗り込んで、扉の近くに陣取る。陣取る、と言っても最後に入ったから自然と扉の近くになったのだけれど。
視線を車内へと向ける。そこにいるのは女性ばかりだ。これから出勤だろうという事でどこか目に光が灯っていない気がするけれど気のせいであってほしい。
ぼんやりとそんな事を考えていると臀部に何かがぶつかる感触。ソレはぶつかった後にスグに引いて、そして少ししてからもう一度ぶつかる。
電車の揺れとは別のタイミングでぶつかるという事は故意なのだろうか。
ぶつかってきた何かがゆっくりとズボン越しに僕の臀部を撫でる。この時点で何か、というのが手である事が分かる。
痴漢……この世界に置いては痴女と言うべきだろう。細くしなやかな指が恐る恐る臀部を撫でている。
荒い息が鼓膜を揺らす。集中しないと聞こえない程度だけれど、しっかりと聞こえる。
ガタン、と大きく電車が揺れて体勢が少し崩れて後ろに一歩動いてしまう。息は更に大きく聞こえ、柔らかく熱い何かが背中に当たっている。
手がゆっくりと太股を這い、股間を擦る。触れられた瞬間に思わず背筋を伸ばしてしまった。
シュ、シュとズボンの上から性器が擦られる。口を手で抑えて声を出さない様にする。
更に呼吸音が荒くなり、手の動きも激しくなっていく。
ジッパーを下ろされて、間から手が差し込まれる。パンツの上から握られて更に強い刺激が僕を襲う。
身を震わせて刺激を享受して高みへと昇っていく。もう少し、もう少しで……
「おいッ! アンタ、何をしてるんだ!」
という所で刺激が止まり、怒鳴り声が聞こえた。
思わず振り向くと、いや、振り向きたくは無かった。この世界に置いての美声が僕の鼓膜を揺らしたからだ。視界に捉えたこの世界に置いての美少…女?が スーツを着用している細い腕を掴んでいた。
腕を辿れば金色の髪が見えた。次にスーツを押し上げる醜い脂肪の塊とそれとは不釣合いな細い腰。赤い目はパッチリと開き、ニキビもクレーターも無い肌。ハッキリとブサイクだとわかるその顔は青く染まっていた。
「な、何の事!?」
鈴を転がした様に小さく耳に残る声。
「とぼけるなよ! アンタがこの男子を痴女してた瞬間をアタシは見たんだ」
その残った声を吹き飛ばさんばかりの怒鳴り声。掴む力が強くなったのか、痴女さんの細い眉が寄る。
見ていられなかった。
「あの、すいませんでした!」
「え?」
僕の謝罪の声で美少女が驚きの声を上げる。僕は痴女さんに抱きついてみせて言葉を出す。
「この人、僕の彼女なんです!」
「え?」
「えぇ!?」
痴女さん、アナタが驚いちゃ僕が嘘を吐いた意味が無いでしょうよ。
「えっと、だから、その……アレはプレイの一環というか……その」
「えぇ!?」
痴女さん。少し黙ってようか。
「え? え? 君が、このブサイクと?」
「ハイ。えっと……」
チラリと痴女さんを見てみる。青かった顔は幾分か戻っているけれど次は目を白黒とさせている。
溜め息をどうにか飲み込んで、タイミングよく開いた扉に向かう。当然、痴女さんの腕を掴みながら。
後ろから何かの鳴き声が聞こえた様な気がしたけれど、残念な事に日本語以外は分からない僕にはさっぱり理解できなかった。
確認した豚を一頭乗せながら、電車の扉が閉まり、出発した。頭の中で出荷よー、と呟いて、腕を掴んでいる痴女さんを見る。
「さて、痴女さん」
「申し訳ございませんでした!! 出来心だったんです!」
頭を下げられた。いや、気持ちよかったから別にええんやで、とは口が裂けても言えないし、言う気もない。
「もうしませんから、会社への連絡とか、裁判とか」
「うん、しませんよ」
「えっと、じゃあ」
「あー、今日はお仕事ですか?」
「え? あ、ハイ」
「携帯電話持ってます?」
涙目で、恐る恐る出してきた携帯電話を操作して僕のアドレスを打ち込み自分にメールを送る。これで良し。
「返します」
「あ、うん」
「登録ついでに聞くんですけど、名前は?」
「あ、え、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです」
「……はい。じゃあ、今日の夕飯でも奢って下さい」
「は?」
「それでは。遅刻しそうなんで、後で連絡します」
痴女さん改めてフェイト・テスタロッサ・ハラオウンさんを残して駅のホームから立ち去る。
やっぱり満員電車は良い所だ。この世界の基準できっと最底辺であろうブサイクに会うだなんて。
この世界は素敵かも知れない。