快楽主義者《ヘドニスト》の輪舞曲《ロンド》 作:ポップマン
小説というのは、5W1Hから始まる。
特に大事なのはWho、Where、Whenだ。
Whoはもちろん分かるだろう。主人公がいなくては始まらない。
Whereはなくてもいいかと思われるかもしれないが、場所があるのとないのとでは読者がその小説をイメージできるかどうかが全然異なる。
Whenは逆に無いなら無いでよい。特にしばりがなければ現代だと思ってくれるし、聞いたこともない時代設定では読者は想像なんぞできない。
ということなので、テンプレから入ろう。
俺の名前は、香川太郎。自分でもひねりは利いてないと思う。別に香川太が苗字だったりするドッキリではない。
場所は学校へと続く緩く長い坂道。都心からある程度離れた閑静な住宅街だからか、車はたまにしか通らず、通行人は俺と同じ学校へと通う同級生ばかりだ。
時間は朝の7時半。これまたテンプレだが、今日が入学式だ。そして時代設定だけども…これの説明が難しい。
西暦2020年代に卵子の冷凍保存法の革命的な進歩が成された。ある薬剤が発明され、卵子の更なる長期的保存、出産成功率の飛躍的増大、リスクの減少、コスト削減と夢のような事態になった。
少子高齢化、女性の社会進出、晩婚化もろもろの要因とあいまって卵子を冷凍保存する女性は爆発的に増加。それをするのが当然という風潮すら生まれた。
もちろん、それによって生まれた多数の人々にも異常は見つからなかった。
その当時は。
問題はその薬剤を使った卵子の保存法によって生まれた人々ではなく、彼らの次の世代、彼らが冷凍保存した卵子からつくられた受精卵から生まれた人々だった。
といっても命に関わるわけではない。
ただ、X染色体がY染色体を(手短かに言うと)
つまり本来"男性"として生まれる筈だった人は"女性"となる。
当然大きな社会問題が発生した。大規模な賠償を求める裁判。その薬剤をつくっていた会社の倒産。
しかし、それによって生まれた女性が男性になるわけではない。輪をかけて、一度
ほとんどの人々が将来のために卵子を保存していた日本社会は、こうして一旦崩壊した。
ここまでが俺の生まれる前の話。
一旦パニックに陥った社会も、一夜明ければ元通り。考えてみれば、今まで男性がやっていた仕事を女性がやればいいだけだ。男性の数は激減し、今現在ですら全人口の15分の1ほど、約6.66%にしかならない。もちろん年々増えてはいる。
じゃあ、さぞかしいい人生をおくっただろうって?
マジで言ってんの?(ガチレス)
過去に遅々として進まなかった女性の社会進出は図らずしも、一瞬で成し遂げられた。それによって女性の意識改革も進み、男性がやるものだと思われていた全てを女性が握った。
男に残ったのは残りカスばかり。
優れた女性は男になんて目をやらない。
男なんて寄ってくるものと思っている。
生活力に乏しい男は、稼ぎのいい女性のヒモにならなければ生きていけなくなったから。
男は部屋の奥へと押し込まれ、"奥さん"は既に男を指す言葉となった。
数で負ける男が怒濤のように進出してくる女性に太刀打ちできる筈もなく。
男性は衰退しました。
教室の片隅でボッチ化する男達。
群れ集うこともできず、女子のグループに紛れて生きていくしかない男達。
これはそんな悲しい漢の物語。
オッと。一つ忘れてた。
そうして生まれた多数の女性、そして例外的に薬剤の耐性を持ち"不幸にも"男性に留まって
これを
その名の由来は、何だかHな能力が多かったからだ。俺も頭悪い名前だと思う。
能力は多様を極め、分類、精査、研究は遅々として進まない。
そこで国は未成年の
その1つが俺の今向かっている
…名前からして嫌な予感しかしねーよ!
大体何だよ祖土夢って!校長の名前らしいけど、無理しすぎだろ!
…少々興奮してしまった。俺らしくもない。
この学院は今年設立したばかりで、俺が一期生だ。全寮制のわりに学費がとんでもなく安いのと、教師が一流どころで集められているという謳い文句を真に受けて進学を決めた。
ほんとは検査で、俺が能力者だって分かってからは半強制だったわけだが。
家に黒スーツ(の女)も来たっけな。
まあそんじょそこらの高校より、男が多そうだったってのが本当の理由だけど。
男友達なんて、生まれてこのかた片手で数えるほどしかできてないわ!
…また興奮してしまった。ビークール、ビークール。
ん?
俺の能力?
ヒ・ミ・ツ☆
なんて言ってる内に学院はすぐそこだ。
学生服(そう、逆転した古典的価値観により、生ける化石と化していた学生服にも新たな命が与えられたのだ)の胸ポケットから生徒手帳を出す。何度見たか分からない最初のページを開く。
[国立祖土夢学院校則]
第一条:男性、女性は互いに他者に危害を加えてはならない。
また、その危険を看過することによって互いに危害を及ぼしてはならない。
第二条:男性は女性にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が第一条に反する場合は、この限りではない。
第三条:男性は、前掲第一条および第二条に反するおそれのない限り、自己をまもらなければならない。
……ロボット三原則かよ!
まあそれはいいとして、突っ込みどころが多すぎて何から突っ込んでいいのかわかんねえ。大体第三条とかいるのか、これ?
しかし、その必要性を俺はもうすぐ知ることとなる。
学院に入り、自分のクラスへ向かう。クラスは1-1。全部で10クラスあり、女子151名、男子49名の計200名だそうだ。
男子が女子の3分の1とはよく集めた方だろう。俺以外でうちのクラスには4人か…
友達になれるといいな…
教室に入り、黒板の座席表を見て席に座る。入学式までの時間はギリギリだ。焦って荷物を置こうとすると…
「そこ、あたしの席」
顔をあげると1人の女子が前に立っている。髪をツインテールに結んでいる。
「え…」
悲しいかな。まだ言ってなかったが、俺はコミュ障だ。みんなも周囲に女子しかいない状況で15年ほど過ごせば分かる。
女子は同じことは二度言わなかった。
そういう信条の持ち主なんだろう。フィクションにはよくいるタイプだ。
口を使う代わりに、少女は平手で俺に自分の言い分を伝えた。
バチンッ。
見事なビンタが炸裂し、教室中の視線が集まる。頬っぺたが熱い。きっと見事な紅葉ができているだろう。
そして俺は相手の言い分を即座に理解し行動に移した。荷物を持ち席を立つ。
女子はツンとして、席に荷物を置くと、体育館用の上履きを持って出ていった。
俺は頬を抑え、ポカンとした顔で女子を目で追う。
俺がそんなことをしたのは、いいか、断じて一目惚れなどではない。言って信じてくれるかは分からないが、教えてやろう。…やっぱやめようかな。
いや、勇気を出して言うぞ。
俺が彼女を目で追ったのは―信じてくれなくてもいいが―彼女の…ビンタが…実は…気持ちよかったからなんです。
たまには違う感じのも書くと楽しいですね。