「私、トウキョウ租界を出るのって初めてなんですよっ!」
走る列車の中で、楽しげな声が響いていた。
「ルルーシュも来られれば良かったのにねぇ」
本当は彼の恋人であるミレイこそ、彼と一緒に来たかったのだが、秘密の関係なので言えなかった。ミレイの胸を罪悪感がよぎる。
列車がトンネルの中に入り、車内が暗闇に包まれると、帽子を被った少女が両手をギュッと握って怯え始めた。
「だーいじょうぶよ。河口湖はブリタニア人の観光客も多いらしいから治安は良いって。ゲットーみたいに怖くないよ」
「でも」
「置いてけぼりになんてしない。傍にいてあげるから」
――その日、アッシュフォード学園生徒会は、エリア11の河口湖に旅行に来ていた。
§
「あっ」
どやどやと、複数の男達が声を上げた。
「どうした? 早く入れ。今からここが私達のアジトだ」
黒の仮面を被ったルルーシュ――つまりゼロとしての俺だ――が声をかけ、男達はやっと車内に入ってきた。そう大型の車だ。
「それは、以前言っていた軍を起こすってことか?」
男達のリーダー・扇要が発言する。
「ああ、私達は仲間だ」
仲間……か。言われている彼らも半信半疑……いや二信八疑くらいだろうが、俺だって彼らを仲間として見ているのは半信半疑だった。俺の想定する「その時」がくれば彼らが本当に俺の仲間になってくれるかどうか審判が下されるだろう。
「こんなもの一体どうやって?」
「頼んだら譲ってくれたよ。放蕩者の貴族が」
嘘は言っていない。んが、普通は信じられないわな。
「頼んだって、そんな……」
「大丈夫だ。足は付かない」
絶対催眠で記憶を消去(忘却ではなく完全な消去だ)したのだ。提供者から当局の手が伸びることは絶対にない。
「TVもついてる」
ピ、と音を立ててTVがつく。入るのはためらったのにくつろぐのは早いんだな。電源を入れられたTVが映像を吐き出す。すると、LIVEの四文字が入った中継が俺達の目に飛び込んできた。
「現場はどうなっているんですか!?」
「はい。こちら、河口湖のコンベンションセンターホテル前です。ホテルジャック犯は日本解放戦線を名乗っており、ジェームス議長を中心とするサクラダイト配分会議のメンバーと居合わせた観光客及び数人の従業員を人質にとっています。これが、犯人から送られてきた映像です」
その声とともにFottage Taken by the Perpetraeor と画面下に表示された映像が流れた。多数の人間が両手を頭の後ろに組んで座っている姿と、それを取り巻き、銃器を構える数名の男達が映し出された。
河口湖の事件が起きたか。生徒会メンバーが旅行に行く時とわかっていたから、準備はしておいた。こいつら、扇グループと仲間になるのもその一つだ。
「ジェームス議長の他、学生の姿も見受けられます」
人質になっているメンバーの中にはミレイ、シャーリー、ニーナの姿がある。絶対催眠と原作知識をもっている俺ならこの事態もさけようと思えば避けられた。しかしニーナとユフィの関わりを無くしてしまうとユフィとスザクの関係にも変化が訪れ、三者の行動、特にユフィの行動が読めなくなってしまう恐れがあるのでそのままにすることを選んだ。すまないミレイ、必ず助け出すからな。
「え、生徒会の」
カレンが信じられないように呟く。
「犯行グループのリーダーは草壁中佐と名乗る旧日本軍人です」
サクラダイトか……日本がシェアNo.1の資源だからな。
「大きく動きを見せたな」
「日本最大の反ブリタニア勢力だからな、矜持があるんだろう」
「俺達への対抗意識かな?」
「かもな」
「喜ぶべきか悲しむべきか……あれじゃ玉砕しかねぇだろぉ」
携帯電話に着信が入る。リヴァルか。すまないが今出てやることはできない。三人は俺が必ず助け出すから待っていてくれ。
ブリタニア軍は地下通路からのナイトメア侵入によって解決を図るだろうが、雷光と呼ばれるリニアカノンによる定点攻撃によって退けられるはずだ。
スザク、つうかランスロットも現場にいるはずだが、コーネリアはナンバーズをかっちり区別する人間だ。登場の機会は最後の最後まで訪れないだろうな。
「……まだ学生なのに、それをテロリストは無差別に。許せない。娘は、シャーリーは無事なのでしょうか!? 何も悪いことはしていないのに!」
シャーリーの父親がマスコミのマイクに向かって叫ぶ。
「シャーリーが! 娘が! 娘が! シャーリーが!」
お父さん興奮しすぎ、血管切れるぞ。
ブリタニアと戦う為に組織は必要だ。その為に扇グループとはシンジュクの時から親しく付き合ってきた。組織を立ち上げる準備はそれ以前から行っていたが。
「ゼロ……人質、どうなるかな」
カレンが心細そうな声を上げる。
「いずれにせよ、民間人は犠牲にするべきではない」
「……! そう、そうだよね」
民間人を犠牲にしない。それは俺が発足させる軍にとって重要なキーワードだ。
「おーぅいゼロ、渡されたこいつだけど、皆に配っていいのか? これさぁ、カッコイイとは思うんだけど、俺達レジスタンスだし」
扇が騎士団の制服を持ってやってきた。
「違うな、間違っているぞ扇! 私達はレジスタンスではない! 私達が目指すもの、それは――」
§
ホテルの屋上から、一人のブリタニア人が両腕をしばられたまま突き落とされた。ブリタニアの民間人を殺したか。決定だな。少なくともあのホテルにいる奴らは俺の敵だ。
「我々の要望に対し、何らかの返答がない限り、三十分ごとに一人ずつ殺す。人質の為にも誠意ある対応を期待する」
ユーフェミアを人質にとられたコーネリアではここが限界。後は俺が動く! 俺はTV局の車を絶対催眠で借り受けると、コーネリアの前に姿を現した。ゆっくりとホテルに向かっていく車の前にコーネリアと親衛隊のナイトメア・フレーム、グロースターが立ちふさがった。
「ようやく会えたなゼロ。お前は日本解放戦線のメンバーだったのか? それとも協力でもするつもりか。しかし、今はこちらの都合を優先する。義弟クロヴィスの仇、ここで討たせてもらう」
こっちこそようやくの再会だよ。待ちわびたぞ姉上よ。
「ユーフェミア・リ・ブリタニア……貴女の妹君だそうですね」
相変わらずだなコーネリア。貴方は昔からユーフェミアを溺愛していた。こっちが心配するほどにな。だから動けない。情の尻尾が邪魔をする。
「妹君を救い出す。私が」
「ゼロ、何を言っているのかわからないな」
とぼけんなって、映像でもユフィの姿は確認済みだっつーの。
「救ってみせる! 私なら!」
日本解放戦線がゼロを味方と見るか敵と見るか、いずれにせよゼロに会いたいという誘惑にはかなうまい。コーネリアの横を通り過ぎ、ホテル前まで進むと、門が開いた。草壁中佐は俺達を迎え入れてくれたのだ。だが急がなくてはな。日本解放戦線とゼロをまとめて叩くつもりのコーネリアが、ランスロットを出撃させるまでもうまもなくだ。奴が来るとせっかくの救出劇が滅茶苦茶になる恐れがある。スザク、早まるなよ。お前が人を救おうとするとろくなことが起きないんだから。
「私と手を組むつもりはないか?」
こう言っているが、民間人を人質にとって殺すような組織も人間も、黒の騎士団にはお断りである。あ、今はホテルの中で草壁中佐とお話中です。
「ならば仮面を取れ! 無礼であろう!」
「わかった……死ね」
俺はルルーシュと違って余計な問答などをするつもりはないのだよ。声が届いた部屋の人間は全員自決した。
派手な銃声に表に立っていた見張りがドアを開けた。
「落ち着け。中佐達は自決した。行動の無意味さを悟ったのだ」
「……ゼロ!」
来たのか、ユフィ。となるとスザクもすぐに……早く行動せねばな。ユフィとも話をするつもりはない。ここで余計な会話をするとゼロの中身がルルーシュだってバレるからな。
……!! ビルが崩れる。ええい、ランスロットめ!
§
ビルの破壊跡には白と黄金の機体――ランスロットが立っているだけだった。今頃スザクは一人絶望していることだろう。スザクを救うのは趣味じゃないが……。
俺は放送機器を使って自分の姿をTV局のニュースに映し出した。
「ブリタニア人よ、慌てなくていい。ホテルに捕らわれていた民間人、人質は全員救出した。あなた方の元へお返ししよう」
カメラを向けた先には無事な姿のミレイやシャーリーが映し出されていた。これでスザクもリヴァルもシャーリーの父親も安心してくれるだろう。
カカカカッ!
俺の周りにスポットライトが複数点灯した。そこには黒の騎士団の制服とバイザーを身につけた扇グループの姿があった。
「人々よ。我らを恐れ、求めるがいい。我らの名は黒の騎士団! 我々黒の騎士団は、武器を持たない全ての者の味方である!
そうして演説する。日本人だろうと、ブリタニア人であろうと民間人を殺すことは良くない! とぶち上げた。日本解放戦線もクロヴィスも同じだ。武器を持たない民間人を殺した。
「このような残虐行為を見逃すわけにはいかない。故に制裁を加えたのだ。私は戦いを否定しない。しかし、強い者が弱い者を一方的に殺すことは、断じて許さない! 撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ!」
劇場型の犯罪者、ゼロを懸命に演じる。
「力ある者よ我を恐れよ! 力無き者よ我を求めよ! 世界は、黒の騎士団が、裁く!」
な、なげぇ。どんだけ長い台詞だよ。これ全部思い出すのも練習するのも今言うのも相当恥ずかしかったぞ。でもこの世界には届く! だったら演じてやるよ。正義の味方だろうがなんだろうがさ!
おおかた原作通りになっちゃいました。すみません。でも、後半を描くためには必要な回だったので。
次話はエロです。エロ100%です。