――ブリタニア人居住地 トウキョウ租界
「それにしても楽勝だったな、ルルーシュ」
道路をサイドカーで走っていると、運転していた親友のリヴァルがそう声をかけてきた。
「そうだな、代打ちでこれだけの収入が得られたのに相手はお粗末だったな」
俺達は先程まで賭けチェスの代打ちをしていた。そしてブリタニアの貴族様に楽々勝利を収め、こうして凱旋しているという訳だ。自分でいうのもなんだがチェスは得意な方だ。なんたってあのルルーシュの頭脳を持っているのだ。本やネットなどで定石を学び、そこから自らの頭脳を使って新しい戦法を生み出す。それほど難しいことではない。
「そういやさぁ、ルルーシュ、最初の手だけど、どうしてキングを動かしたんだ?」
「王様が動かないと、部下はついてこないだろ?」
「……ルルーシュって、社長にでもなるつもり?」
「ははは、そんなつもりはないよ。指導者としての一般論さ」
……実際にはこのエリア11という名前に変わった日本を取り戻す為に武装集団を組織して率いることになるんだけどな。
(しかし、あの貴族の顔、チェスの後に街頭TVで見た総督クロヴィスの演説、そしてこの会話……やはり今日が原作開始のその日か)
原作の第1話、そこに出て来る貴族と今日チェスを打った相手の顔が同じだった。クロヴィスの演説も。であるならば今は原作の第1日目になるはずだ。
(大丈夫、全ての状況はシミュレートしてある。俺は必ずこれから始まる戦いに勝ってみせるさ。そして……敵や味方の女性達でスーパーエロエロタイムだっっっ!!)
ルルーシュのスーパー頭脳がなくても、七年という時間があれば全ての状況をシミュレートしてプランを練ることは簡単だった。それに俺には絶対催眠という特殊能力がある。必ず想定通りにいくさ。
ちなみに、「転生してから十六年も経つのに十六年以上前に見たアニメの内容全て覚えているの?」と疑問に思う方もいらっしゃるだろうが、そこは絶対催眠で解決した。この能力は頭の中で想定すれば自分にもかけることができるのだ。鏡で自分の目を覗き込み、前世で見たTVアニメ「コードギアス」の内容を全て思い出せ! と催眠をかければこれこのとおり、全ての内容をリアルに思い出すことが可能という訳だ。ちょっとした完全記憶能力だな。
そんなことを考えていると後ろから一台のトラックが接近してきた。接触しそうになりつつもそのトラックは左の道に急カーブして突っ込んで行った。サイドカーが止まる。トラックは道にあった砂を大量に巻き上げつつ、道の先で停止した。
「お、俺達のせい?」
「まさか」
前方の車両と後方の車両とでは無理に抜こうとした後方車輌の方が責任を問われるだろ。サイドカーから降りてトラックを見ると、荷台の上に何か粒子のようなものが集まるのが見えた。……あの女か。
「おいぃ。こっちこっち」
「うわー悲惨」
野次馬が集まってきやがった。クソが。誰か一人くらい救急や警察に連絡しろっての。どいつもこいつも。
「リヴァル、救急車を呼べ!」
俺は事故をおこしたトラックに駆け寄ると荷台の方から乗り込んで見せた。すると、トラックが急発進しだした。よし、想定通り。
――ミツケタ! ワタシノ
頭の中に声が響く。近付いたことでちょっとした精神感応がもう始まっているのか。
「警告する! 今ならば弁護人をつけることが可能である!」
空を飛んでいるヘリコプターから拡声器を使った声が響く。そう言いながらすぐさま銃撃が行われた音がした。トラックは蛇行してそれを躱しているようだ。
俺の方は荷台の中にある球形の物体に手を添えて待機していた。今の俺に出来ることは何もない。すると運転席の方から特徴的なハネッ毛にバンダナを巻いた少女が荷台に来た。
「カレン、ここでアレを使ってしまおう!」
「それじゃ虐殺よ」
……民間人を巻き込むテロ活動も同レベルだと思うがな。少女――紅月カレンは荷台にあったナイトメア・フレーム(ブリタニア軍のから横流しされた物を使っているのだろう)に乗って外に出た。スラッシュハーケンでヘリに攻撃する。
(本物だ! 本物の……テロリストだ!)
激しい戦闘の音や振動が伝わってくる。今外ではカレンとジェレミアが戦闘しているはずだ。
「携帯電話は圏外か。この暗さと路面状況、かつての地下鉄路線を走っているな。行き先はシンジュクゲットー……か」
ゲットー。敗戦した日本人が暮らす貧民街だ。これからそこを舞台に戦闘が始まる……おっと、通信機を取っておかないとな。扇グループの通信機がないと彼らとは連絡がとれないからな。
§
ナイトメア・フレームによる攻撃後、トラックが止まった。確か亀裂に入り込んでいるんだったか。運転席からうめき声が聞こえる。扇レジスタンスのメンバーだろう。すまないな。俺にはあんたを救うことはできない。破壊活動を行ったツケとして静かに眠ってくれ。
俺は地下に止まったトラックの荷台から降りると、距離をとった。確かこの後に……。
「止まれ! 両手を挙げて後ろを向け!」
よし来たスザクだ。俺は回転蹴りを食らわないように指示通りに両手を挙げて声の主に背中を向けると急いで叫んだ。
「俺は善意で事故を起こしたトラックに乗り込んだだけのただの学生です! 反抗するつもりはありません。身体検査もして下さって結構。このトラックの運転手である破壊活動の一員とはなんら関わりがありません。名前はルルーシュ・ランペルージ、アッシュフォード学園所属の学生です!」
「!? ルルー、シュ。だって?」
おお驚いてる驚いてる。
「はい、そう、ですが……」
俺は両手を挙げたまま振り返った。そこにいたのはブリタニアの軍服を身に纏った男……幼なじみの枢木スザクだ。
「……本当に、ルルーシュだ。……僕だよ、スザクだ」
ヘルメットを取り素顔を晒すスザク。
「!? スザク!? お前、ブリタニアの軍人になったのか?」
ルルーシュ・ランペルージとしては知らない情報なので驚いた演技をしてみる。
「そうだよ。名誉ブリタニア人だ。……っとそれよりその車輌に載っているのは軍部から奪取された毒ガスなんだ。早く離れた方がいい」
「毒ガス……だと」
その時、トラックの荷台に載せられた球形のもの――カプセルが、割られた果物のようにパカッと開いた。スザクが素早く俺を押し倒し、マスクを俺に被せる。
(毒ガスからなるべく離れるようにというとっさの気遣いなんだろうが、馬鹿力だから痛いな)
俺はそんなのんきなことを考えていた。だが、その開かれた中にあったのは毒ガスなどではなく……緑色の長い髪を伸ばしたをした一人の女だった。C.C.(シーツー)、ようやく会えたな。まあ原作ルルーシュと違ってこいつと出会うことはそこまで重要じゃないんだけど。
「これは……!!」
軍の上司から毒ガスと聞かされていたスザクは驚いている。俺は……そこまで驚かなくてもいいか。毒ガスって聞いたのさっきだし。事態についていけないような顔をしていよう。俺は現れた女を優しく抱きかかえた。……気絶している。この女不老不死なのに気絶するのか。まあ死んで復活するときも意識をなくして体が再生するのだし、過度の負荷がかかれば気絶くらいするか。
「答えろよスザク、この女が毒ガスか?」
「しかし、ブリーフィングでは確かに……」
「この猿が。名誉ブリタニア人にそこまでの許可は与えていない」
無遠慮な声が響く。ライトが当てられて、振り向くと十数人のブリタニア兵士がぞろっと立っていた。赤色の軍服、正規のブリタニア兵だ。声を出したのは一人前に出ている隊長だろう。
「しかしこれは……毒ガスと聞いていたのですが」
おーいスザク、そこは抗弁しちゃいけないところだろう。ただ黙って命令通りにしておけよ。
「抗弁の権利は無い! ……だが、その功績を評価し、慈悲を与えよう。枢木一等兵、これでテロリストを射殺しろ」
隊長が拳銃を片手にもちスザクへ差し出す。
「えぇっ? 彼は違います。ただの民間人で巻き込まれただけです」
「貴様ッ! 貴様はブリタニアに忠誠を誓ったんだろう!」
「それは……でも出来ません」
「何」
「自分はやりません。民間人を、彼を、撃つようなことは」
……やっぱ本質的にスザクは軍人に向かんよ。ここでのベターな回答は「急所をさけて撃つ」だ。その後救急車などを個人的に手配するべきだ。そうしなければ結局……。
「……では、死ね」
銃声が響く。と、こうなる訳だ。断ると結局スザクもルルーシュも死ぬのだ。より良い行動は撃つフリをすることだったんだよ、スザク。
んで、背中から撃たれたスザクだけどさ、……こいつはここで死んでいた方が楽だったかもな。この後、後々俺が起こす行動でスザクは地獄のどん底まで落とす予定なんだから。
「見たところブリタニアの学生だったようだが、不運だったな。女を捕獲したのち、学生を殺せ」
「「「イエス、マイロード」」」
後ろの兵士達が返答をした直後、トラックが爆発、自爆した。すまんな。名も知らぬテロリストのあんちゃん。あんたの命は俺が責任を持って日本復興の礎にするよ。
俺は女、C.C.を抱きかかえて退避した。
§
通路を逃げた先で、C.C.が目を覚ました。囚人用の拘束服を着ているのでちょっとドキドキ。
「大人しくしていろよ」
俺は階下にC.C.を置いて階段の上に這い出てみた。
ドドドドドドド
連続した銃声が響き、スーツ姿の男性が倒れた。いや、死んだ。くそぅ。クロヴィスが虐殺の命令を下したばっかりに。ジェレミアとかもこの行動に参加してるんだよな。そう思うとアニメの視聴者はジェレミアとヴィレッタにもうちょっと厳しくてもいいと思う。
「どうだ」
「ただのイレブンだけのようです」
そんな会話の合間にも泣き叫ぶ女児(十歳にも満たないだろう)が射殺された。クソが。
ピリリリリ
間抜けな携帯電話の着信音が鳴り響く。いやまあ、間抜けっつーか原作でこうなることを知っていたからわざと電源切ってなかったんだけどね。ちなみに今の電話は同級生シャーリーからのはずだ。
「テロリストの最期にふさわしいロケーションだな」
見つかって銃床で殴られた。超いてぇ。だがまだ我慢だ。
「民間人にしてはよく頑張った。さすがはブリタニアの臣民だ。だが運が悪かったな」
銃撃が来る! 頼む! C.C.!
「殺すなぁっ!!」
C.C.が叫びながら俺の前に立ちはだかった。額に銃弾が撃ち込まれる。
「おいっ!」
「ふん、できれば生かしておきたかったが……」
軍兵が何かを話しているが知ったこっちゃない。俺は傷口から湯水のように血を溢れさせるC.C.に駆け寄った。さて、ここからは自分も騙さないとな。俺は死ぬ。死ぬ。死ぬ。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい!!
絶対催眠を使えばこの程度の窮地どうってことないが、C.C.からギアスを貰うためだ。死ぬ気になって生きることを望まねば。そんな俺の心を見透かしたように、死んでいるはずのC.C.の手が俺を掴んだ。ショックイメージ。精神世界に入った!
「終わりたくないのだな、お前は。お前には生きる為の理由があるらしい。力があれば生きられるか? これは契約。力を上げる代わりに私の願いを一つだけ叶えてもらう。契約すれば、お前は人の世に生きながら人とは違う理で生きることになる。異なる摂理、異なる時間、異なる命。王の力はお前を孤独にする。その覚悟があるのなら」
C.C.がそう言う言葉が聞こえると、父親、シャルル・ジ・ブリタニアの後ろ姿が見えた。
「ラグナレクの接続。神話の、再びの始まりだ!」
(結びたくねぇなぁ)
俺は上位互換の能力を持ってるんだっつーの。でもここでギアスを得ないと話進まないからなぁ。しょうがないけど契約するか。はーぁ。
「いいだろう! 結ぶぞ! その契約!」
どこかで歯車がかみ合った音がした。
さて、そんじゃ無駄な会話とかなしに全滅させますかね。もちろん使うのはギアスではなく絶対催眠の方だ。えーっと、一応C.C.は範囲対象外にして……。
「死ね」
その俺の言葉で軍人達は一人残らず自決した。銃で頭を撃ち抜き、血がこちらまで飛んでくる。汚ったねぇなぁ。
――転生した日から俺はずっと嘘をついていた。名前も嘘、経歴も嘘。嘘ばっかりというか全部嘘だ。本当のことを探す方が難しい。だが俺は嘘に絶望などしない。力を手に入れたから。
「――だから」