さて、ニュースを見終わって解散した訳だが……クロヴィス殺害に使った銃は当然の如く俺が持っている。その状態でどうやってスザクに容疑がかかったのやら。ジェレミアの奴も大変だな。とりあえず準備を始めるか。まずは仮面からだな。絶対催眠を使って職人に作らせるか。
今の軍部は純血派が抑えている。純血派とは、軍はブリタニア人だけで構成すべきだという一派だ。それに対するのが名誉ブリタニア人だ。ナンバーズでありながらブリタニア帝国臣民として一定の権利を与えられた人々のことをこう指す。当然スザクはこれに当たる。スザクがスケープゴートにされたのは純血派のジェレミアが暫定のトップになったことに起因している。名誉ブリタニア人が総督殺害の犯人であれば、エリア11の名誉ブリタニア人制度を廃止できるかもしれないからだ。全く、派閥って奴は厄介だ。
「ルッルーシュ君、授業もなくなったことだし、前から頼まれてたこれ、行かないか?」
翌日の朝、リヴァルがチェスの駒を指すジェスチャーをして言ってくる。
「ダメよギャンブルは!」
それに反対するのはシャーリーだ。思われてるねぇ
「そうだな。もうやめるよ。もっと面白いのを見つけた」
今後は、学生生活は少なくなっていくだろうな。
§
「アッシュフォード学園からお越しのカレン・シュタットフェルト様、落とし物が届いております展望フロアサービスカウンターまでお越し下さい。繰り返しお伝えします……」
夕方16時、旧東京タワーでアナウンスが流れる。よしこれでカレンは通信機を受け取ったはずだ。後は……。
「環状5号線、外回りに乗れ。お友達も一緒だ」
「進行方向に向かって右側を見ろ。何が見える?」
列車の中で通信する。
「ブリタニア人の町だ。私達の犠牲の上になりたつ、強盗の町」
カレンの返答はよどみがない。よほどブリタニアを憎んでいるのだろう。
「では左を見ろ。何が見える」
「私達の町だ。ブリタニアに吸い上げられた町。絞りかすの町」
「いい答えだ。では先頭車両に来い」
先頭車両にはたった一人しかいなかった。俺だ。余計な乗客は絶対催眠を使って後ろの車輌に移動させてある。
「お前……なのか」
「罠じゃ……ないよな」
「なあ、シンジュクのアレは。停戦命令もお前なのか!?」
「何とか言ったらどうだ!」
カレンやメンバーから言葉が跳ぶ。それに対し振り返った。
そこに立っていたのはどう見ても珍妙としか言いようのない姿をした人物だった。顔も体も漆黒のマスクとマントで覆われている。……いや俺なんだけどね。実はこの衣装を作らせるに当たって少し悩んだ。作中では誰も指摘しなかったがこの姿は珍妙どころの騒ぎではない。奇怪奇天烈で滑稽だ。前世の現実世界のコスプレイヤーが一般人に見られたら即通報されるような変質者の格好だ。だが作中ではこの扮装は受け入れられていた。だったらやっぱりこの服装にするべきなんだよな。
「租界ツアーはどうだった? 感想は」
「ツアー?」
「おい、こんなふざけた奴だったのか」
うーん第一印象、悪し。
「正しい認識をしてもらいたかった。租界とゲットー!」
両手を広げる。
「確かに我々の間には差がある。絶望的な差だ。だからレジスタンスとして」
「違うな。テロでは、ブリタニアは倒せないぞ。……テロなんて子供っぽい嫌がらせにすぎない」
「何だと!?」
「俺達がガキだってのか!?」
更に印象が悪くなってゆく~ぅ。
「相手を間違えるな。敵はブリタニア人ではない。ブリタニアだ! ……やるなら戦争だ! 民間人を巻き込むな! 覚悟を決めろ。正義を行え!」
「ふっふざけるな」
カレンにも良い印象は持ってもらえてないようだ。
「口だけならなんとでも言える。顔も見せられないような奴のことが信じられるか!?」
「そうだ!」
「仮面を取れ!」
……ガヤうるせえなぁ。
「ああ。顔を見せてくれないか」
「わかった、見せよう。ただし、見せるのは顔ではない。力だ。不可能を可能にしてみせよう。少しは信じられるだろう」
今頃スザクは拘束服でも着せられて留置場か。待っていろ。すぐに助けてやる。
§
そうして公開処刑の日がやってきた。準備は万端。後は仕掛けをご覧じろってね。軍の護送車によってスザクはむき出しのまま運ばれている。沿道にはクロヴィスを慕っていたブリタニア人達が詰めかけている。TVカメラもたくさん入っているようだ。ディートハルトも今頃張り切っていることだろう。お前の好きなショーを見せてやるよ。
「人殺し!」
「恩知らず!」
酷い野次だな。スザクにはちゃんとアリバイもあるのになぁ。ナナリーが記憶を保持していたら今頃嘆いている頃だろうな。この世界では記憶を消して生活しているから今頃は平和に暮らしているだろう。
それにしても四機のサザーランドは厄介だな。沿道にも機体は等間隔で配置されているし。俺とカレンはクロヴィスの車を拝借して道を走っていた。カレンは運転もできるんだな。
はりぼても効果的に使えば有効となる。結局扇グループで手助けをしてくれたのはカレンと扇の二人だけだった。ここから世界を変える程の組織を作るんだから原作のルルーシュはすげぇよ。車は護送車の前で止まった。橋のある場所だ。予定通り。
「出てこい! 殿下のお車を汚す不届き者が!」
ジェレミアの声を聞いて仕掛けのスイッチを入れる。車の天井部分が燃え上がって俺の姿がさらされた。
「ん?」
「「「「「えっ!?」」」」」
ジェレミアも見物人も虚を突かれたような顔をする。
「私は ゼロ!」
スザクも不思議そうな顔だ。カレンはいつ攻撃されるかと気が気でないようだな。すまん緊張させて。終わったらちゃんと謝るから。
(スザク。一応借りは返すぞ)
「もういいだろうゼロ。君のショータイムはお終いだ!」
ジェレミアの合図と共に四機のサザーランドが車を囲んだ!
「さあ、まずはその仮面を外して貰おうか」
またその声を聞いて仕掛けのスイッチを入れると同時に、周りからもハッキリとわかるように右腕を上に上げて指を鳴らした! 俺の後ろにあった荷台の中身があらわになる。それはあのシンジュクゲットーでC.C.を包んでいたカプセル(のはりぼて)だ。
「何ィ」
「ジェレミア卿、あれは!」
そうだよジェレミア。中身を見ていないお前達にとっては、これは毒ガスのカプセル。
「違う! それは」
叫ぼうとしたスザクが電磁ショックで言葉を止められる。
「何だアレ?」
民衆からも不審の声が上がる。つまりこれで、俺は沿道に立つ民衆を人質にとった形になった。それも民衆自身にそれと知られずに。ジェレミアが顔をこわばらせて銃をこちらに向ける。
「撃ってみるか? わかるはずだ。お前なら」
「…………わかった。要求は?」
ここでそう言えるくらいにはジェレミアにも柔軟性はあるってことか。
「交換だ。こいつと枢木スザクを」
「笑止! この男はクロヴィス殿下を殺めた大罪人! 引き渡せる訳がない!」
「違うな、間違っているぞジェレミア。クロヴィスを殺したのはその男ではない。クロヴィスを殺したのは……この私だ!!」
沿道から一斉に困惑の声が上がる。
「証拠だ! 受け取れ!」
俺は懐から取り出した銃を、ロックをちゃんと掛けてジェレミアの方へぶん投げた。
「鑑識に線条痕の鑑定をさせろ! さすれば私の言っている事が真実かどうかわかるはずだ! ……イレヴン一匹で尊いブリタニア人が大勢救えるんだ。悪くない取引だと思うがな」
「こやつは狂っている。殿下のお車を愚弄した罪、あがなうがいい。」
「いいのか? 公表するぞ。『オレンジ』を!」
俺は靴を慣らして運転席のカレンに合図を送った。車がゆっくりと前に進みジェレミアの目が見える距離になる。
「私が死んだら公開されることになっている。そうされたくなければ」
「何のことだ。何を言っている!」
さあ、ギアスのお披露目だ! 事前にギアスは学園の生徒を使って試してある。失敗はしない。
「私達を全力で見逃せ! そっちの男もだ!」
「…………ふん、わかった。その男をくれてやれ!」
「!? どういうつもりだ! そんな計画は」
「キューエル卿、これは命令だ!」
かかってるかかってる。完璧にギアスにかかっていやがる。今回は記憶を無くす必要があったのでギアスを使った。
そうして待っているとスザクの拘束が解かれた。沿道からは非難の声が上がっている。……俺とカレンは車を降り、スザクに近付く。
「ゼロ。時間だ」
「では、話は後だ」
俺はまたスイッチを入れてカプセルから紫色のスモークを出させた。民間人は混乱のるつぼになり、大慌てで逃げる。
「くっ、卑怯なイレヴンめ!」
! サザーランドが動く!
「言ったはずだ。全力で見逃せと!」
ジェレミアが邪魔をしてくれた! 俺はスザクを抱えるとカレンと一緒に橋から飛び降りた。作業用ロボットからネットが張られる。扇は上手くやってくれたらしい。よし、逃げるぞ!
§
「まさか本当に助け出すなんて」
「なんなんだこいつは」
「馬鹿馬鹿しい。あんなはったりが何度も通用するかってーの」
「しかし認めざるをえない。彼以外の誰にこんなことができる。日本解放戦線だって無理だ。少なくとも僕には出来ない。みんなが無理だと思っていたブリタニアの戦争だって、やるかもしれない。彼なら」
今俺達はスザクと扇グループが全員揃った場にいる。原作ではスザクとルルーシュが一対一で話していたが、別に扇グループと一緒でもいいと思うんだ。もちろん扇グループには顔を隠して貰っている。後々立ち上げる黒の騎士団用のバイザーだ。そこでようやく俺は口を開いた。
「相当手荒な扱いを受けたようだな、枢木一等兵。奴らのやり口はわかっただろう。ブリタニアは腐っている。君がもし世界を変えたいなら、私の仲間になることを勧めるが?」
「君は、本当に君がクロヴィス殿下を殺したのか」
「これは戦争だ。敵将を討ち取るのに理由がいるか? それに彼は不都合な真実を隠す為に、それだけの為にシンジュクゲットーでの虐殺を行った。民間人を多数殺傷したあの所業は許されることではない」
そう言いつつも、俺も後でやるんだけどね。民間人虐殺。
「毒ガスは!? 民間人を人質にとって」
「交渉事にブラフはつきもの。結果的には誰も死んでいない」
自分で言っててなんだが、このキーワードはスザクを刺激するよなぁと思う。でも誘ってはいるが本当にここでスザクに仲間になられても困るけどね(笑)。
「結果、そうか。そういう考え方か。ふっ」
あ、こいつ鼻で笑いやがった。
「確かに今のブリタニアは
カレンが鼻白んだ顔をした。こいつせっかく助けてやったのに、とでも思っているのかもしれない。扇グループの面々は、静かに聞いている。
「無駄だよ枢木。その方法は私も考えた。しかし無駄だ。その方法では時間がかかりすぎる。仮に君が十年後にブリタニアの要職についたとして、その途中で今回のシンジュクのような虐殺が行われたらどうする? その殺された人達に、その人達の遺族に、君は言えるのか? 今のブリタニアは腐っているけど、僕が時間をかけて正すからと」
「ッ……! それは……」
そう、言える訳がないのだ。そんなこと。今の日本は死に体だ。誰かがすぐにでも救わなければならない。俺は右腕を高く上げると人差し指を立てた。
「……一年だ。枢木。扇。これから一年で私はこの日本の現状を変えて見せる。出来なかったら……そうだな、クロヴィス総督殺害の実行犯として自首してやろう」
「!?」
「一年!?」
自分でもやりすぎかなぁと思うくらいぶち上げているが、まあいいだろう。成功するにしても失敗するにしても、一年を目安に動く。
「さあどうする枢木?」
「…………」
この野郎。無視して歩き始めやがった。
「どこへ行く?」
「後一時間で、軍事法廷が始まる」
「なぁ!?」
「……ふっ。馬鹿かお前は。その法廷は、お前を犯人にするため仕組まれていたものなんだぞ。まあ私が証拠の拳銃をジェレミアに渡しているからお前の容疑は解かれるとは思うが……それでもブリタニアに戻ろうなんて正気の沙汰じゃない」
「それでも、それがルールだ。僕が行かないとイレヴンや名誉ブリタニア人に対して弾圧が始まる。……君を捕まえたいが、返り討ちだろうからここでは争わない。僕は行くよ。……それでも、ありがとう」
……馬鹿め。
俺は今までスザクを「いずれ不幸のどん底に落ちる奴」として見ていた。だがこうなってみると、それも本気ではなかったのかもしれない。あるいはこの時かもしれない、俺が本気でスザクを敵として認識したのは。ブリタニアに戻るから敵なのではない。結果よりも過程にこだわりすぎて思考に柔軟性がない奴で、内部から変えるだなんて時間のかかる方法を選んで俺の前に立ちはだかるから俺の敵なのだ。
……そもそもさぁ、別に常にどっちかに思考を寄せている必要はないだろう。その時々によって結果主義になったり過程主義になったりしたっていいじゃない。人は変節漢と言うかもしれないが、柔軟性のない思考をするよりはマシだと思うが。
「おい! 本当に行っちまうぞ! いいのか?」
「……一度は助けた。それで日本国首相の息子だった彼への義理は果たした。それに先程も言った通り、クロヴィスを殺した私の拳銃は向こうに渡っているから、強行に彼が犯人にされることはあるまい。例の『オレンジ』で、政庁の混乱もある、軽く取り調べを受けて解放されるだろう。新聞やニュースは数行の謝罪記事でも載せて、それで終わりになるはずだ」
身も蓋もないが、今回の事件はスザクを助ける為にやったわけじゃない。スザクを救出できることの証明と、俺が本当のクロヴィス殺害犯として名乗り出ること、ゼロのデビューできる事件として選んだにすぎない。だから、これでいいのだ。
「彼があくまでブリタニアに頭を垂れ、尻尾を振るというのならそれもいいだろう。私達は彼とは違うと覚えておけばいい。……それにしても、今回は迷惑をかけたな、扇、紅月。君達がいたから、不可能を可能にする証明ができた。感謝している」
「あ、いや、俺は、別に」
扇って、The・日本人って感じだよね。
「そのお詫びと、働きに対する感謝として、ナイトメアを送ろう。シンジュクの時に私が鹵獲したサザーランドだ」
「え?」
俺は懐にいれていた紙片を取り出して扇に手渡す。
「件のナイトメア、ランスロットによって君達が一時的に手に入れたナイトメアは全て破壊されてしまったのだろう? だが私はこのポイントに電源を切って置いてあるから、拾いに行くといい。コードは……」
原作と違い、今後も扇達とは継続的に連絡をとっていくつもりだ。ナイトメア一機は、どのみち俺達は仲間になるのだから送るも送らないもない。今は恩を売っておこう。
……はぁ。それにしても疲れたな。物理的なことじゃなく、この『ゼロ』という仮面を被るのは疲れる。今日は家に帰ってゆっくり休もう。
――俺はまだ気づいていなかった。この話をしている今にもC.C.が俺の家に勝手に上がり込んでいることを。